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食後は陽祐が皿洗いをした。美沙は赤い顔をしていたので、ソファで休ませた。
突然、携帯電話の着メロが聞こえて、陽祐は思わず皿を落としそうになった。
まさか──誰からの着信だ!?
振り返ると、ソファに寝転がった美沙が陽祐の携帯をいじっていた。
着メロの設定を操作していただけだ。
あきれ返って陽祐はたずねた。
「……おまえ、何してんの?」
「ん? あ、ちょっと借りてた」
美沙は悪びれた様子もなく笑ってみせる。
本当に酔っているようだ。普段と態度が違う。
陽祐は、ため息をついて、
「見られて困るよーなもんは、ねーけどな」
「そうなの? メールとかも?」
「正月に携帯、買い替えたし、大したものはねーよ」
「ふうん」
美沙はつまらなそうな顔で、ソファの上で寝返りを打って陽祐に背を向けたが、携帯は手放さない。
陽祐は肩をすくめ、皿洗いを再開した。
しばらくしてから、美沙が言った。
「……お兄ちゃん、アドレス帳は昔のまま?」
「データはそのまま移してもらったけど、なんで?」
「べつに……」
見られて困るものが本当になかったか、不安になってきた。
だが、登録名にはフルネームを入れているだけで、クラスメートも部活の女子も同じ扱いだ。
元カノ──麻生夏花の名前も、つき合っていた当時からフルネームで特別扱いはしていない。
高校でも先輩後輩という関係でなければ、別れた時点で登録を消してもよかったのだが……
夏花のことを頭から追いやるためと、携帯から美沙の気をそらすため、陽祐は言った。
「おまえ、きのう観てたアニメは、どんなやつ?」
「え? どんなって……何で?」
「……あん?」
陽祐が振り返ると、美沙は携帯をいじる手を止めて、じっとこちらを見ている。
きかれて困ることでもないだろうにと思いながら、陽祐は苦笑いで、
「いや……昔のアニメなのかなって、ちょっと画面を見た感じが」
「ああ、友達に借りたんだけど……」
美沙はアニメのタイトルと原作者名を挙げた。
そのタイトルは知らなかったけど、作者の名前は陽祐も知っていた。
少年漫画誌での連載作品がいくつもアニメ化されている大物漫画家だ。
美沙が観ていたアニメは、その作家が三十年ほど前まで連載していた漫画が原作だという。
「きのうのは劇場版で、漫研の子と文化祭の相談してるときに話題が出て。文化祭が舞台で面白いからって」
「漫研の……文化祭? おまえ、漫研入ってたの?」
妹のアニメや漫画好きは知っていたが、自分で漫画を描くとまでは思わなかった。
だが、美沙は首を振り、
「そうじゃないけど、漫研が文化祭に向けてドラマCDを自主制作するから声優やってほしいって誘われて」
「声優?」
陽祐が眼を丸くすると、美沙は口をとがらせた。
「もうっ、いいでしょ! 美沙の趣味なんだから!」
「悪いとは言ってねーだろ」
「どうせ美沙、アニヲタだもん……将来の夢は声優って小学校の卒業文集に書いたもん……」
ぶつぶつ言いながら背を向けてしまう美沙に、陽祐は苦笑いするほかない。本当に酒癖が悪いようだ。
皿洗いを終えた陽祐は、機嫌を直した美沙と一緒にレンタル屋から持ち帰ったCGアニメを観た。
あまり子供向けとはいえないブラックなジョークが利いていて、二人で大笑いした。
アニメが終わって、美沙はソファから立ち上がり、「うーん」と伸びをした。
「……美沙、そろそろシャワー浴びようかな」
「ああ、行ってこい」
デッキからDVDを取り出しながら陽祐が答えると、
「ねえ」
「……あん?」
振り向いた陽祐に、美沙が頬を赤らめて言った。
「お兄ちゃん、ついて来てくれない?」




