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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第三章  美沙(二)
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3 - 9

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 美沙が夕食の支度をしている間、陽祐は居間で戦争アクション物のDVDを観ることにした。

 ほかの二本は一緒に観たいけど、これだけは興味がないと美沙が言ったからだ。

 映画の中の兵士たちは、ばたばたと容赦なく敵弾に撃ち倒されていた。

 同じような光景がフィクションではなく現実として、つい十数時間前まで世界中で見られたのだろう。

 世界中から人間が消えて、戦争もなくなった。

 考えたら空しくなって、陽祐はリモコンの停止ボタンを押してDVDをデッキから取り出した。

 

「どうしたの?」

 

 美沙がキッチンから声をかけてきた。

 

「つまんねー映画だった」

 

 陽祐は美沙のそばへ行き、

 

「俺も何か手伝うよ」

「え? いいよ。お兄ちゃん、きのうまで毎日、受験勉強だったでしょ? 少し休みなよ」

「そう言われりゃ、そうだけど」

「ね? ちょっと早いけど、夏休み」

 

 美沙は微笑む。

 陽祐は妹の言葉に甘えて、代わりにネットで超常現象について調べることにした。

 本当の夏休みが来たときは、陽祐は休む暇などなく夏期講習に通いつめる予定だったけど。

 夕食のメニューは豚肉の生姜焼きだった。

 食事の間、陽祐は超常現象について調べたところを美沙に披露した。

 人間が原因不明のまま忽然と消えた事件は、過去に世界中で起きている。

 一八七二年、大西洋上の帆船『マリー・セレスト号』事件、乗員乗客計十一名消失。

 第一次世界大戦中のトルコにおける『ノーフォーク連隊』事件、イギリス軍兵士三百四十一名消失。

 遡って十六世紀末、当時イギリス領だった北アメリカの『ロアノーク島』事件、入植者百十六名が消失。

 

「どうしても人が消えてそれっきりの事件が有名になるが、ちゃんと帰って来るケースもないわけじゃない」

 

 それは数ヵ月後であったり、数百キロ離れた場所で保護されたりであるのだが──

 

「でも、やっぱり帰って来ることもあるんだね」

 

 美沙が言って、陽祐はうなずき、

 

「ただしその場合、戻って来た人間は自分が消えていた間の記憶を失っていることが多い」

「何が起きたか覚えてないってこと?」

「だから、あしたの朝、みんなが戻って来たとすると、本当は金曜なのに木曜と思って生活することになる」

「でも時計は丸一日、進んでるよね? それはそれで謎の事件になりそうだけど……」

 

 美沙は眼を伏せて、ため息をついた。

 

「……お兄ちゃんも最初に言ってたけど、やっぱり消えたのは世界中の人間じゃなくて、美沙たちかも」

「おまえもコピーワールド説に転向か?」

 

 陽祐が笑うと、美沙は眼を伏せたまま、

 

「だって……そのほうが世界のみんなは普通に暮らしてるってことでしょ?」

「まあ、オヤジやオフクロには心配かけてるだろうけど。俺たち二人がいなくなって」

「そうだね……」

 

 美沙は首をかしげて考え込む様子を見せてから、ふと思いついたように陽祐に視線を向け、

 

「……お兄ちゃん、ビール飲む?」

「え? いいのかよ、委員長?」

 

 陽祐が眼を丸くすると、美沙は笑って、

 

「委員長はヤメてよ。次にそれ言ったら、もうお兄ちゃんにはごはん作ってあげないから」

 

 席を立って冷蔵庫から缶ビールと、食器棚からグラスを二つ出してきた。

 

「おまえも飲むのか?」

「ダメ?」

「許す。というか飲め、俺ひとりで飲んでもつまらん」

 

 お互いのグラスにビールを注いで、乾杯した。

 陽祐は一息にグラスを干した。旨かった。

 だが、美沙はほんの少し口をつけただけで、咳き込んだ。

 

「……けほっ! 何これ? よくお兄ちゃんやママたち、こんなの美味しそうに飲むね」

「この味がわかんねーんじゃ、まだまだ子供だな」

「子供だもん、どうせ。きのうも本屋で中学生と間違われたし」

 

 美沙はふくれ面で、もう一口、飲んでみせ、

 

「参考書の売り場を店員に聞いたら、中学生用のコーナーに案内されたし」

「おい、無理して飲むな。酒の味がわかんねー奴が飲んでも、もったいねーだろ」

「わかるようになるまで飲むの! ママやパパの子供だもん、美沙だってお酒に強いに決まってるもん!」

「むしろ酒癖の悪さを発揮しそうだけどな、おまえ……」

 陽祐は苦笑いするしかない。


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