表と裏の入学式 その伍
どうも、上倉零次です。
さて、ここらで一つ説明しておくことがある。
それは別人格が俺の体を使っている時、俺の自我は一体どうなっているかという話だ。まぁ俺が外に出ている平常時は、他の連中は皆寝ているため、意識がない。
しかしだ。俺は主人格であり、何故かこういう特権が用意されている。
寝ている時を除き、別人格が体を使っている間も、俺は自我を失うことはない。
つまり別人格の奴らが好き勝手やってるのを、内側から見せつけられるわけだ。
ああ、今回だってちゃんと見てたよ。
たしかにカミクズをちゃんと駆除できたのは良かったな。
―――でもさ
「じょ、常識を…少し常識をだな…」
ステージの上で頭を抱え、俺は悶絶した。
そりゃそうである。
どこの世界に、入学式中に椅子の上をジャンプで移動して、壇上に登っちまうような馬鹿がいる?
普通に頭のおかしい奴だ。
しかもそのちょっと前には独り言のようにブツブツ呟いてるし、ステージの上ではついに呪文らしきものまで唱えだしてるのだ。
どう見てもまともじゃないよな。俺もそう思う。
みんなも多分そう思ってるはず。恥ずかしさが熱を伴いこみ上がってくる。
だいたいにして発言がいちいち恥ずかしすぎるのだ。
どう頑張ったらこんな台詞が出てくるんだよ。
ていうか言うなら俺と関係ないところで言ってくれ。俺の口を使うな。
『どうした? 喰らうまでもないぞ、そんな異形』
『ーーー補食補助作動。我が存在は魔、我が定義は牙。補食封印解除。魔界の牙、展開』
「~~~~~っ!!」
いててててて!
痛い、痛々しいよ!
思い出しただけでも悶絶モノだ。俺はこんな台詞を真顔で言わされてしまったのか。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。穴があったら入ってそのまま土葬されたい……死にてぇ……
漫画の影響を受けた小学生でもこんなことはしないはず。
そう考えたら余計になんか泣けてきた。
俺のせいじゃないのに……
「誰か俺を殺して……うぅぅ……」
堪えきれずにうずくまって泣いた。
これは高校の入学式だ。
知り合いも殆ど居ない場所だというのに、第一印象がこれで決まってしまったのだ。
終わった……俺の高校生活終わった……
バイバイ青春……
「ちっ……ちくしょう……理不尽だ……理不尽だぁぁ……」
泣いていると、肩をトントンと叩かれた。
「……?」
振り返るとそこには、笑顔のオッサンがいた。
いかにもいかつい体育会系の見た目で、白い歯が眩しい。でも目が笑ってない。怖い。超怖い。
「ま……まさか……」
式中に説明されたからわかる。教育指導の教師だ。
前情報によるとめちゃめちゃ厳しい人らしく、何人も何人も彼に更正されたらしい。
そんな人にこのタイミングで肩を叩かれた……てことは……
「嫌ぁぁぁぁぁ!」
首根っこを掴まれてズルズルと引きずられていく俺。
一体何処つれてくつもりだよ!?
あ、力強い痛い痛い痛い……見守る生徒の視線も痛い痛いイタイ……
やめろ、俺をそんな目で見るな!
「なんでっ……なんで俺が……理不尽だ! 理不尽だちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! なんでこんな目にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…!!!」
「五月蝿い黙れ、ここで更正されたいのか?」
「ゴメンナサイ……ううっ……」
まぁとにかく、こんな最悪の結末で高校生活最初のカミクズ退治は終了した。
しかし俺はこの時気づいていなかった。
大量の生徒の中で、ただ一人、凄惨な笑みを浮かべて俺を見ていたことに…
ちなみにこの後俺は俗に言う『説教部屋』という所に連れて行かれ、最早拷問に近い取り調べを受けてきた。
やれ薬やってるのかだの、やれ宗教に手を染めただの、色々な事を聞かれた。
でも真実は言えるわけがないので答えられない。
そんなこんなで長引き長引き、俺が解放されたのはすっかり夜中になっていたという。
……あのいい天気は何処へ。




