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神屑SWEEPER!

 その日は特にやる事もなかったので、部室に顔を出してみることにした。

 旧・音楽室。

 現・奇人観察部。

 そういえば我らが部長、夕凪は『昔変な化け物を見て、それが人間のコスプレだと思った』という理由で、この部を作ったらしい。

 そんな化け物のコスプレをする奴なんて、奇人以外有り得ないとのこと。たしかにそうだ。その正体が人間なら、の話だが。

 もしかしたらここもこの先、その化け物の正体……カミクズを探す部になるかもしれないな。

 部室のドアを開けると、中には夕凪しか居なかった。

 相変わらず、だだっ広い教室の中心に机と椅子を置き、そこで活動するというスペースの無駄遣いっぷりだ。

「よ。あの後結局、除村とはどうなったんだ?」

「仲直りしたよ」

「そっか」

 短い会話。

 しかしその一言には万感の思いが詰まってるような気がしたから、あまり深くは聞かないことにした。

「彼奴さ」

「ん?」

「カミクズを使って私と仲直りしたかったらしい」

「へぇ」

 意外だ。夕凪からこんなに話すなんて珍しいこともあったものだ。

「彼奴も薄々、私達の仲がだんだんこじれてくように感じていたみたいでさ」

「ほう」

「私がそういう変な化け物とかを好むと思ったらしく、契約をふっかけられた時に利用したらしい。これを見せれば夕凪は虜、これで上手く行くと思ったみたいだね」

「なるほどねぇ」

 お互い、考えることは一緒だったというわけか。どっちもやり方めちゃくちゃ歪んでたけどな。

 でも本当にそれだけだろうか、もう少し違う理由もあったように感じられたんだが……

「と、最初はそういう目的だったみたいだけど、最終的には違ったらしいね」

「ん? というと?」

「あのイフリートと話してるうちに、だんだん情が移った……というか仲良くなったらしいね。いつの間にか二人は気の合う友人になっていたとか」

「あー、なるほど……」

 なんとなく辻褄が合ったような気がする。

 だけど、だったら少し除村には悪いことをしたな。

「だから、時々でいいんだ。彼奴をイフリートに合わせてやってくれ。出せるんだろう?」

「ああ、もちろん! 何回だってやってやるさ」

 俺はある意味自分の都合でイフリートを倒した。

 だからその責任は自分にあり、これぐらいの償いは必要だ。

 むしろ安いぐらいだ。

「それにしても……キミのその力、不思議だねぇ。たしか自分の身体にも『設定』があるんだっけ? 良かったら聞かせてくれないか」

「断る!」

 もちろん断言する。

 何日か前のイフリート戦で散々語ったんだ。もういいだろ。

 それにこれ以上は恥ずかしくて絶対に言えんわ!

「ねぇ、上倉君」

「ん?」

「これ、何かわかる?」

 満面の笑みの夕凪が持っていたのはICレコーダーだった。

 まさか……

「『まさか……』って顔してるね。そのまさかだよ。イフリートと戦う時、キミが言った言葉は全て録音済みだよ」

「やられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ていうかあの状況でよく録音なんて出来たな!?

 逆にすげーよお前!

 あの時……みんな殺すとか言っておきながら、死傷者はゼロだった。

 いや、正確には傷ついた奴はいたが。

 とにかく証拠隠滅するつもりでベラベラ喋ったのがいけなかった。油断した……

「さあ、話してもらうよ。いいかい?」

「お、おう……」

 やはり夕凪にはかなわない。

 こいつは出会った当初からこんなんだ。もう諦めよう。

「んで、俺自身の設定だっけ? まず俺は自らに『魔王』という設定をつけたんだ」

「それは聞いた通りだね、それで?」

「ああ。そんでさ、俺は魔王にとんでもない設定をつけてしまったんだ」

「ほう、それは?」

「魔界は魔王の体内にある世界、そういう設定をな」

「はい?」

「だから俺の体内には今、魔界があるんだよ」

「「……」」

 沈黙。そりゃそうか。

 我ながら最悪な設定だと思う。昔の自分のセンスを疑うわ。

「……その年で妊婦?」

「何故そーなる?」

 身ごもったなんて一言も言ってねぇ。

 だいたい性別考えろ性別。

「でもほら、想像し辛いじゃないか。身体の中が魔界なんて」

「実際は物理的に存在してるわけじゃなくて、俺の魔力的部分がそうなってるだとか……つってもわからんか。俺も昔の自分の考えはよくわからん」

「だろうね」

 納得されてしまった。

 事実、昔の俺は頭がおかしいので気にしない。

 い、今は……そんなおしくねーよ……

「そういえばこないだ言ってた『回収』というのは、どういう事なんだい?」

「まあ待て。ちょうどいい、今から話すとこだ」

「ベストタイミングじゃないか」

「そだな。でもその前に説明しなきゃならんのが『ポチ』という人格についてだ」

「たしかその子だけが、カミクズの力を『回収』出来るんだっけ?」

「そ。ポチっていうのは、そもそも俺の設定ミスが生んだものでな」

「ミス?」

「ああ。魔界と外界を隔てる『門』のような場所に、俺は人格を持たせてしまったんだ。面白そうでな」

「なんだ、面白いじゃないか。どこがミスだったんだい?」

 そうだな。

 確かにこれ単体の『設定』として見ればミスじゃない。

 だがな、これは紛れもなく『現実』で起きることなんだ。

「ミスなんだよ。俺は門に『時々自由を求めて逃げ出す』という設定つけちゃったんだよ……」

「あ、もしかして……」

「そう。案の定、俺の内側に眠っててくれた魔界の住人……カミクズ達が逃げ出したよ」

「門がなくなって、完全フリーパス状態だったわけね……」

「そゆこと。でも俺は気づかず日常を謳歌してたというわけ」

「うわぁ。最低だね」

「たしかにそうなんだけど、面と向かって言われると傷つくわ」

 ……そういえば。

 これはわざわざ言う必要ないから省くけど、設定ミスはもう一個あったんだよな。

 たしか魔王を二つ作っちゃったんだっけ……?

 まずさっき語った俺=魔王=魔界の方と、普通に魔界の中に居て全てを統べる魔王。

 あっちの方も外に出たはずだけど、今何してんだろうな~

「そんなこんなでカミクズが逃げ出して数日、俺はとある場所でポチを捕まえるんだ。そして設定の話を聞き、その後別の男から世界の秘密…『創造力』がどうこうの話を聞いたんだ」

「その男っていうのは?」

「わかんね。名乗んなかったし」

 そいやまた脱線するけど、最近作った覚えの無いカミクズ増えてきてんだよな。

 案外、この世界を作った神様までカミクズを作り出したんじゃねぇだろうな……?

 そして俺に世界の秘密を教えてくれた男、カミクズの話にやけに食いついてきたな……興味津々って感じで……

 あ、まさかあいつが神様……!?

 なーんて……案外有り得なくもないから困る。

「それで? 結局、何でそのポチだけが力を『回収』出来るの?」

「それはあいつが『門』だからさ」

「いやそんなドヤ顔で言われても……」

 何故わからない。

 んー説明不足なのかな、やっぱり。

 しゃあねぇな……

「あいつの役割は『門』、つまり出すことと入れることなんだ。だからカミクズを中に入れるための力を、たくさん持っているというわけ」

 俺が『捕食』と呼んでいる行為はつまり、カミクズを魔界内部に入れる行為なわけだ。

「ふむ、だいたい分かった。最後に一つ、多重人格とはなんなんだい?」

「あれ、説明してなかったっけ? 俺は魔界内にいるカミクズに身体を乗っ取らせることによって、人格変えれんだよ。だから多重人格者。ポチはカミクズ察知能力があるから、一番出やすい」

 このシステムはある意味『契約』に近い。

 カミクズに自分の身体を貸す代わりに、その力を使って貰うからな。

「なるほど、キミを悩ませるのがその『設定』ね。変えられないのかい?」

「俺も思った。でも設定書いた黒歴史ノートは恥ずかしくなって焼いちまったし、そもそも設定自体あまり覚えてないんだ。下手に変えてもっと大惨事になったら困るから、変えるに変えれねぇんだよ」

「クク……」

 笑いやがったこいつ。

 少しぐらい同情してくれてもいいのに……ムカつくな。

 ちょっとでも反撃してやるか……

「なんだよ、淡白な反応だなぁ、ひ・ら・り・んよぉ……」

「はいはい。馬鹿なこと言ってないで、話切り上げて部活を始めようじゃないか」

「え?」

 めちゃくちゃ普通に返された。

 ……あ、あれ? ついこないだまですっげー動揺してたのに…? ど、どういうことだ!?

「お、おい……殴らねえの?」

「おいおいキミはマゾなのかい?」

「いやそうじゃなくて名前、恥ずかしくねぇの?」

「あー、それ? なんか急に平気になった」

「何だよそれぇぇぇぇぇぇ……」

 唯一の反撃材料を無くしてしまった。

 俺は今後こいつのイビリに逆らうことなく生きていくしかないのか……

「なんかキミの話聞いてたらどうでも良くなってきてね。キミの方がもっと恥ずかしいし」

「ぐっ……」

「だから上倉君になら言われても全然平気。上倉君なら、いいよ?」

「…………」

 いや、おそらく挑発のつもりだろうが、何か言い回しのせいで別の意味に聞こえてしまう。そう考えると何だか今更ながら気恥しくなってくる。

 ……いかんいかん、こんな奴相手に顔赤くしてどーする。もっと頑張れ俺。

 よし、心機一転何か話題を探そう!

 心を入れ替え、周囲を見回す俺。

 すると、案の定話題は見つかった。夕凪が、いつの間にかノートを用意して、何かを書きこんでいるのだ。

 ……なんだろう?

 気になるので、話題ついでに聞いてみることにした。

「なあ、何書いてんだ……ってうぇぇぇぇ~~~~!!!?」

「ああ、これ? 再現版キミの黒歴史ノート!」

 ……すっげぇ。

 今俺が言った設定を、だいぶ上手くまとめて書いてらっしゃる。

 でもこちとら全然よくねぇ。

 せっかく燃やした黒歴史を蘇らせないで!

「嫌がってるみたいだけどね……上倉君。これが完成したら、キミの設定を書き換えられるかもしれないんだよ?」

「あっ」

 なるほど。ちゃんと設定の書いた本さえあれば、危機を避けつつ設定を変えれるじゃないか!

 その発想はなかった。

 ……これで上手い設定に変えたら、もうカミクズ集めは終わったも同然じゃん!

「それに脅しにも使えるしね」

「おい」

「冗談、一割だけど」

 ……マジじゃない部分の方が少ないじゃないっすか。

 

 そんなこんなで夕凪と俺の共同ノート作りが始まった。どうやら夕凪が言っていた今回の部活動は結局これになったらしい。

 その作業は、夕凪がやたら弄ってくるのもあって、結構長引いてしまった。

 そうして、終わった頃にはすっかり日も落ちていたので、俺達は帰る準備を始める。

 そんな時だった。夕凪がいきなりこんな話題を始め出した。

「思ったのだけれど、カミクズを狩るのはキミ一人のようで、実際そうじゃないだろう?」

 お互い、荷物をまとめながらの会話だった。 

 そんなタイミングで言う話だろうか、だなんて事も少しは考えた。が、案外的を射ていた発言でもあったため、俺もこの話題についてちょっとだけ真剣に考える。

 ……カミクズを狩っているのは、俺だけじゃない。ポチや他の人格、それに夕凪が協力してくれたらそれだって『カミクズを狩る者』の中に入るわけだ。たしかに一人じゃない。

「まあ……そうだな」

 適当に相槌を打つ。

 だが、俺はこの後の夕凪の発言のせいで、簡単に話題に乗っかってしまった自分の軽率さを恨むこととなる。

「だからね、カミクズを狩る者の『名』は上倉零次だけじゃ足りないと思うんだよ」

「へ……? 名前?」

 急に風向きが怪しくなりだした。嫌な予感がする。

 そういえば忘れていた。たしかにカミクズが見える眼に関しては誤解だったが、それを差し引いてもこの女、現役で中二病だったんだ……

 どんな奇天烈な発想が来てもおかしくないことをちゃんと理解しておくべきだったと、異様なまでの後悔が俺を襲う。だがもう遅い。

 ここまで来てしまえば完全に夕凪のペースだ。

「カミクズを狩る者達じゃ味気ないから、何か固有名詞が欲しいと思わないかい?」

「思わない思わない! 今のままでいい!」

「だよね、欲しいよね。わかるよ、私には」

「人の話を聞け! 難聴でもそこまで酷くねーぞ!」

「というわけでどんな名前にしようか?」

「どういうわけ!?」

 ……や、やばい。

 どれだけ反論しても無駄なようだ。これでダサいネーミングとかになったらどうしよう。

 そんなことになってしまったら、俺はもう恥ずかしくてカミクズを狩れないかもしれない。

 どうせ夕凪のことだ。ロクなネーミングでないのは確定事項のようなものだ。

 ……ならばせめて、俺の意見も取り入れて貰って、少しでもまともな方向に持っていこう。

「な、なあ夕凪、そのネーミングについてだけど……」

「ああ、一応そこに関しては私の中でだいたい決まっているのだけれど、キミも何か意見を出すかい?」

「え……?」

 これは、死刑宣告だ。

 何故ならこう言った時の夕凪は、大抵俺がなにを言っても、結局は自分の意見を通そうとするからだ。

 ここで流れを変えるのは、実に厳しいことだと言える。というかもう無理だ。

 ……なんか逆に諦めついた。もう、好きにしてくれよ……

「で、その候補は?」

「お、気になるかい? まずは第一候補だ。カミクズを次々と体内に取り込む君達の姿、見ていて私は連想したのさ。掃除機・掃除人という言葉を……」

「おい、まさか……」

 ……なんだか嫌な予感がした。さっきから何度目かわからないぐらいの背筋ヒヤリの感触。

「神屑掃除人、なんてどうだい? 紙屑じゃ様にならないしね。あ、複数形は別にいらないよね? なんかダサいし」

 ……これは、ちょっと……

 思っていたよりはまともだったが、それでも納得しかねるレベルだ。

 少なくとも俺の好きなネーミングではない。そんな必殺仕事人みたいな名前は、俺のような人間にはとても勿体ない。

 なんかもっと慎ましい感じでいいのだ。目立つのは好きじゃない。というかカミクズと戦う集まりをさす名前なのに、複数形にしないとはどういう事なのだとろうか。

 だからといって、ここで断っても、第二候補やらが飛んでくるだろう。それが今より酷くない保障はどこにもない。

 ……よかろう、ならば軌道修正だ。

「いや、なら横文字とか入ってた方が俺は好きかな。アルファベットとか」

 ……よし! これなら根本から名前変えなきゃ駄目だろ。これで軌道修正してやる!

 この時、俺は完全に勝ったつもりでいた。完全に迂闊だった。

 夕凪ひらりという人間を、完全に舐め切っていたのだ。

 だからだろうか、こんな形で天罰が下ってしまったのは……

「そっか! 掃除人じゃ味気ないもんね。じゃあ『掃除人』を横文字にしよう……そしたら掃除機の意味も含むし……完璧だ!」

 ……そうきたか。

 この答えは俺の予想を上回っていた。なんだかんだで俺もネーミングに協力してしまった。

 そう考えるとやるせない。実にやるせない。

 しかもこのままでは、結構酷いネーミングになりそうだ。

 ……ま、いいと思うことにしよう。どうせ反論しても無駄だ。

「今、名前が決定しました……!」

「んで、その名は?」

 一応、聞いておく。

 これがもし俺の想像した通りの名前なら最悪だ。

 しかしもしかしたら俺の勘違いで、最終的にすごく格好良くなるのかもしれない。

 わずかな可能性に縋りつつ、俺は夕凪の言葉を待った。

「そう、その名は……!」

 夕凪が自信満々で、自らがつけたネーミングを明かす。

 ……だが、その名はあまりに俺の予想通りで、上倉零次を更に落胆させるのであった。



「神屑SWEEPER!」

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