表と裏の正体 その終
それにしても思いの外事態は深刻だ。
これじゃ逃がして貰える雰囲気じゃないし、助けを呼ぶにも絶望的だ。
戦うための人格も、出そうと思えば出せるが、むしろこれ以上余計なダメージを受けるだけな感じがする。そしてその直感はだいたい当たる。
……これは想定していた『最悪の事態』というものじゃ無いだろうか?
「おいおい冗談だろ……」
「冗談なら良かったんだけどね。これからどうするんだい?」
「悪いけど、今の俺は戦力にカウントしない方がいい」
「そうかい」
どうしてか俺も夕凪も冷静だった。
これから腹をくくる必要があるというのに。
「夕凪、謝るなら今だよーーーー! 許さないけどね」
「「誰が」」
うん、我ながら冷静だ。夕凪と俺で綺麗にハモったよ。
許す気無い奴に謝る意味は無い。
「……そう。あったまきた! イフリート、ブッ殺しちゃって! ……もちろん『必殺技』でね?」
必殺技……?
まさかさっきのパワーアップ版火球と何か関係があるのか?
【合点承知!】
だが意外にも生み出された火の玉は通常サイズだ。
さっきまでと何も変わらない。一体どうやってパワーアップを……?
……って、さっきまでとは明らかにモーションが違うことに気がつく。
まさか、あれは……アンダースロー!?
なるほど、投げ方が違えば火球の威力も違うというわけか。
そして『必殺技』という呼び方からして、特別な場面以外で使う技では無さそうだ。
納得した。ようは普通の火球じゃ倒せそうに無い俺のため、この必殺技を使おうというわけか。
たしかにこれ喰らったら最悪死ぬわ。良くて骨折+火傷。
「じゃ、」
【終わりだな】
火球が放たれる。
物凄い豪速球が俺に向かってくる。
酷い球威だ。確実にこっちを殺しにきてる。
避ける余裕もない。
……はぁ。
……仕方、ないか……
手を前に掲げる。そんでボソッと一声。
「アルティミット・ヴァイスネス・イージスシルト……」
すると俺の手のひらの前に、小さな西洋風の盾が現れる。
前触れもなく突然、出現する。浮いてる盾を左手で掴む。
それに当たり、霧散する火球。
「……」
「……」
【……】
「……アルティ、えっ、なんて?」
俺含め、唖然とするみんな。
除村が聞き返してきてるが無視。
……やってしまった。
「あの…上倉君?」
夕凪が質問してくる。なにこの空気?なんか嫌。
「キミって、その状態でも戦えるの? 私、てっきり黒いの出てないと戦えないとばかり……」
夕凪には俺の別人格の持つ『力』が黒いオーラに見えるらしい。だからだろう。
今の何の力もない俺が、よくわからない力を使ったのが不思議で仕方ないのだろう。
【今のお前からは何の力も感じないぜ……? しかもこの盾、よく見たら本物の物質じゃん。お前、今までこんな力あったっけ?】
あまりに的確すぎて言い訳すら出来ない。ああ、ついに知られてしまったか……
俺は別に人格切り替えなくても戦えるという事実を……
「ていうかアルティ……何とかって? 早口過ぎて聞き取れなかったからも一回いいかな?」
除村、てめーは黙ってろ。
俺がこの力を使いたくない理由をあんまり堂々と言わないでくれよ。
【「「マジで何者?」」】
全員から同じタイミングで質問された。
何これ、答えなきゃならんの?
てかお前ら戦ってたんじゃなかったのかよ……
あー……もう!
「……除村、お前さっき戦ってる時言ってたよな?」
「ん、何を……?」
「『冥土の土産にどうのこうの』って。わかった。俺もそうするわ」
「え、えっ!?」
「こうなったら自棄だ! 全部話して全員殺してやるかんなーーーーーーーー!!!!!!!」
【「「えぇ~?」」】
不満の声が漏れるが、そんなのどうでもいい。
こうなったらもうどうでもいい!
なんだってやってやるよ畜生ッ!!!!
「ブレイヴブレイカー・ブレェェェェェェェェェェェェドッ!!!!!」
やたら恥ずかしい名前を叫ぶと、俺の目の前に光り輝く日本刀が出現した。
右手で掴む。ていうかブレイヴブレイクって……勇気壊してどうすんの? 悪役の武器じゃん明らかに……
てかこの名前で日本刀ってお前……
みんなはもう何も言えないらしい。はぁ、仕方ねぇ。語ってやるよ俺の物語をな!
「……俺はさ、神様で魔王で魔界そのもので多重人格者で元中二病なんだ。わかった?」
【「「わかるかぁっ!?」」】
全員から反論された。
ていうかまるで野次のように火球が飛んできた。
手に持った日本刀で軽く切り裂くが、そんなにわかりにくかっただろうか今の説明……
ゆっくりと除村の方へ向かって歩き出す。
そこでようやく本来の目的を思い出したのか、イフリートがかなりの勢いで火球を投げまくってくる。
それを左手の盾で防ぎながら話を続ける。
「俺はさ、どうやら神様だったみたいなんだよ」
盾でカバーしきれなくなった火球を、右手の日本刀でぶった切る。
「この世界はさ。実は誰かが作ったものらしい。そしてこの世界を作った誰かが住む世界も、また誰かに作られているそうな。そういう流れが無限に続いている、それが今の世界の形らしい」
【「「?」」】
攻撃の手が止む。急な話で混乱したようだ。
大丈夫、俺も初めて聞いた時わけがわからなかった。
「つまりそれを遡るとだ。最初の世界の住人が第二の世界を作り、その第二の世界の住人が第三の世界を作る。そしてまた第三の世界の住人が第四の……ってな具合に、世界は出来てるらしい」
「それとあなたの能力に何の関係が……?」
除村からの質問。
「なるほど。ようするに黒坂君は、この世界が仮に第八の世界だとしたら、次なる第九の世界を作る役割を持った住人…だから神様なのだね?」
ここまででだいたい理解してしまった夕凪。すげぇ。
「まあ、そゆこと。だから俺は無自覚ながら、次の世界を作る能力を持ってたわけ。教えてくれは奴は『創造の力』とか言ってた。だから……」
軽く目を閉じ静かに念じると、突然俺の足元にねこじゃらしが出現した。
「あらゆる物を生み出す力を持っているんだ俺は」
「てか何も言わず出せるなら、さっきの武器名は何で言ったの?」
質問したのはまたまた除村。まあもっともだ。
「イメージの問題だ。言葉にするとイメージが沸きやすいんだ……」
「じゃああなたにとって、アルティ何とかは一番盾をイメージしやすい名前なの……?」
「まあ、うん……」
痛いところを責めてくるが、地味に確信に近づいているから侮れない。
「んでだ、これだけなら問題なかったんだ。これの力は『出せる!』という確信めいた思いと、イメージ力が無ければ発動すら出来ないからな」
そう、普通なら問題なかったんだ……俺はこんな思いせずに済んだんだ……!
「けど、この力に無自覚な俺はある時、とある病気にかかった……今思えば、これが全ての始まりだったよ……」
【「「病気……?」」】
また声がハモる聞き手の皆さん。
何だかんだで仲良くねーかお前ら?
まあ、いいや。
これから全ての原因を語るんだからな。細かいことには構ってられない。
そう、それが全ての根幹。諸悪の根源。
中学時代、俺に巣くった病。
その名は―――
「中 二 病 だ」
…………
ついに誰も何も言わなくなった。
これから話す内容がだいたい掴めたのだろう。
説明が楽で助かる。本当に、助かる……
「中学時代、本気でこの世界にモンスター居るとか思い込んでさ…… 自分にも特別な力があると思い込んでさ…… 挙げ句、自分自身を魔王にしちゃって…… 気付いたら全部実現してた」
【「「あー……」」】
この空気、ガチでたまらん。
頼むから哀れむ視線をやめてくれ。頼むからぁぁぁぁぁ……
もう、終わらせよう。
再びゆっくりと、除村に歩み寄るのを再開する。
「そのモンスターっていうのが、今俺がカミクズと呼んでいる存在。昔の設定書いたノートには『神のなりそこない。だから神屑』とか書いてあったけど、今は違う意味合いで呼んでるんだ」
「って、ちょっ、ちょっ!」
【言いながらくるな! マジ怖いって!】
慌てて攻撃を再開するイフリート。
だが俺の盾と刀の前にはかなわない。当たり前だ。
だってこれは俺が中学時代に考えた最強の武器なのだから。
神の加護が宿った決して壊れない盾と、光の力で触れる物全てを真っ二つにする日本刀、という代物だ。まともにやって勝てるわけがない。
もっとも、俺のノートには最強を更に越えし究極とかそういう設定などがたくさんあったので、これでもまだまだ手加減しているうちなのだが、こいつら程度これだけで充分である。
「今はさ……単なる黒歴史ノートから生まれた『紙屑』という意味と、俺という神が間違って生んでしまった屑という意味、二つを合わせて―――」
イフリートの真っ正面までたどり着く。
しかし除村はショックで固まってしまっている。もう技は使えまい。
炎の魔神は動揺し過ぎて、もう手足をバタつかせることぐらいしか出来てなかった。
【く……来るな……】
目の前の炎の化け物はあくまで抵抗したいようだ。
ならば教えてやるしか無いな。
この化け物の立場、それを示す名を。
そう―――
「―――カミクズと、そう呼んでいる」
俺は日本刀を振り上げ、一気に振り落とす。
真っ二つになるイフリートの身体。
決着はつい……
【マだ……まだ死ナなイ……!!!】
おっと、両肩を掴まれた。
しかも炎の手だから火傷しそうだ。熱い。
やっぱしぶといな、このカミクズ。二つに切ったぐらいじゃ死なないか。
はぁ、こういう時黒歴史ノートがあれば弱点とかすぐわかるんだけどな。
【コのマま抱きシめてヤる……!!!! シね……!!!】
「悪い、それは嫌だ。殲滅爆閃」
俺の前に爆風、吹っ飛ぶイフリート。
これは俺が昔考えた爆発呪文。
「ふぃ、あちちち……抱擁回帰……」
イフリートが立ちあがる前に、回復呪文で自らを回復。
そして倒れた魔神に、指を突き立て宣言する。
「今、お前は、自力で生き延びたと思ってるようだろ? でもそれは違う。あえて生かした」
【え……?】
「俺はこの状態じゃお前の力を『回収』出来ないんだよ」
【回……収?】
「神の力にも上限があってな。俺は無駄遣いし過ぎたから、次の世界を作れないんだよ」
「間抜けだね」
「うっせ」
夕凪の突っ込みは即座に返す。
「まあそれでだ、俺は力を戻すために生んだカミクズを今回収中なんだが……それが出来るのは、俺が『ポチ』と呼んでる人格だけなんだよ」
【え、じゃあ……】
「今の俺は痛めつける事しか出来ない。悪いな、お前らがポチを引っ込めてくれたお陰で、あいつを再び出すのには時間がかかりそうだ。だから……しばらくは覚悟してくれよ?」
そして少し目を閉じ集中し、周囲に古今東西あらゆる武器を召喚する。これら全てが文字通り一騎当千級の武器である。能力も全てえげつない物となっている。厨性能のパレードだ。もちろん殺さないように手加減はするつもりだが、とりあえず動けなくするぐらいにはボコボコにする必要がある。だから、俺もせめてもの情けをかけて一言呟く。
「ま、頑張って抵抗してくれよ」
その後、ボロボロになって見る影もなくなった炎の魔神が、ポチに捕食されたのは言うまでもなかった。




