表と裏の正体 その拾
「お前なんのために出てきたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」
意識が戻ると同時に俺は絶叫した。
まさか切り替わった人格が、ちょっと前に倒したあの忌々しい体育館事件のカミクズだったなんて…
しかも糞の役にもたたなかったという悲しい結末……これが叫ばずにいられるか!
「な…なんなの…何で火球を二度も喰らって平気なの……?」
【つーかさっきまでとまた雰囲気変わったぞ……一体なんなんだこいつ……】
「私はもう上倉君がわかんないよ……」
みんな唖然としている。まあそれはそうなるだろう。
ちなみに火球のダメージはキッチリきてるから、除村は安心していいと思う。ただ耐えてるだけだし。てか地味に死ぬ威力じゃねぇこれ。多少鍛えてれば、全然死なないレベルだ。なんだ、意外と弱いな火球。除村は何を過信してんだか。
……さてと、くだらんことを考えている暇はないな。現時点でもう結構考えちゃったけど。
とりあえず今がチャンスだ。行くか。
「よしっ、逃げるぞ夕凪!」
「え?」
俺はすぐに夕凪に駆け寄り、その手を掴み走り出した。
実は今結構ピンチだ。色々トラブルがあったとはいえ、こっちは二つも人格やられてんだ。ただの人間に勝てる相手でも無さそうだし、ここは逃げるのが懸命。それも相手が放心状態の今ならいけるはずだ。
「ちょっと……上倉君……」
「悪いけど夕凪、急ぐから!」
「っ……!」
よし、夕凪も渋々ながらも納得してくれたようだ。
二人の走る速度が早まる。逃げる方向は森の方だ。
学校側に逃げても、除村は被害を気にせず攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
それなら森に逃げた方が被害にあう人間は少なくて済む。それにもしも『最悪の事態』になった時、対応出来るしな……
「あ、ちょい、待ってーーーー!」
【お、おい、叫んでる暇ありゃ走れ異! 追いつけんぞ!】
背後から声が聞こえる。
さて連中もそろそろ追ってくるか。
後はどれぐらい木を利用して隠れれるかだな。
「……それにしても、何なんだキミは! 急に片眼が黒くなりだしたと思ったら、私のことを無視してくるし! そしてそれが直ったら今度は走るって、意味がわからないのだけども!」
夕凪がギャーギャー言ってるが今は無視だ……って、ん?
「なあなあ夕凪さん、俺の片眼がなんですって?」
「はあ? 黒くなってたじゃないか、正確には黒いオーラみたいなのが出てたよ! キミが入学式の時、全身から黒いオーラを出して変身していたように!」
「え?」
全く心当たりがない。
というか入学式の話を今されても……そっちも記憶にないし。
もしかしてまた中二妄想の話かな……こんな時に、マジ勘弁してくれよ……
「だいたいさっきから除村の背後に見えるあの黒い陰は何なんだい!? キミなら何か知ってるんじゃないか?」
はぁ、扱いが難しいぜ。
除村の背後にそんなモノなんて無………あれっ? 除村の背……後……?
お前、除村の背後に居るモノつったらアレしか居ないじゃん……まさ……か……
「あの……夕凪」
「何だい?」
「その陰ってもしかして、頭と手足が巨大な球体になってる中途半端な人型だったり……しない?」
「そう、それだよ。陽炎のように揺らめくあの異形さ。キミとあろう者が、わからない筈ないと思ったよ」
「……」
うわぁぁぁぁ……
半端だけどイフリート見えてらっしゃるよこの人……
え、ちょっと待てよ。じゃあ俺の黒くなった眼って何……?
待てよ。
今の発言からして、夕凪は黒くぼんやりしかカミクズを察知出来てない。
さっきまで俺の体を使っていた人格は、元は目玉のカミクズだった。ならその力は瞳に宿っていても不思議ではない。
実際、手を伸ばそうとして失敗してたあたり、腕とかには力は宿ってなさそうだし。
……あー。
そういや体育館事件の時、俺が全身から黒いオーラ出してたとも言ってたけど、たしかにポチの力は全身に及ぶよね。
つかそれ以前に、夕凪は入学式事件に触れてなかったっけ?
その時はたしか俺が変身したとか言ってたけど、もしや全身黒くなった俺を見て勘違いしたんじゃないだろうか。
俺がとどめの時消えた……とも言っていたが……無理矢理解釈するなら、ポチの捕食特化形態の力が強すぎて、察知出来なくなったのかも。
あと戦ってた相手も棒人間とか言ってたけど、考えてみりゃあの目玉野郎を黒いシルエットにしたら、棒人間に見えなくもない……よな。
すると他も怪しくなってくる。
「夕凪……?」
「今度は何だい?」
「入学式事件の時さ、俺が戦ってた棒人間の攻撃ってどんなだっけ?」
「忘れたのかい? ミサイルだよ。それも尾を引くように煙が出てたね」
「ああ、なるほど……」
触手攻撃をそういう風に見間違えたのか。てかどんな間違え方だよ。
けどこれで判明した。夕凪はカミクズが見えている。
それもかなり薄らぼんやり、しかも真っ黒に。
そういや右目だか左目だか忘れたけど、異形のモノが見えるだか言ってたよなぁ。あれは本当だったのか。
「夕凪……」
「しつこいね、何だい?」
「ごめん、お前ほんとに異形的なモノが見えてたんだな」
「……今まで信じてなかったのかい?」
「……ごめん」
ジト目で睨まれた。
まあこれは俺が悪いよな。勝手に中二病と決めつけちゃったわけだし。
……それにしても除村遅いな。追ってくる気配がまるで無い。どうしたんだろう。逆に心配だ。
「そういやたまたま聞いちゃったけどさ、お前なんであんなに除村罵倒してたんだよ?」
「ああ。たまには彼奴に、不満をぶちまけてストレス解消して欲しかったんだよ。だからまずはぶちまけやすいように私が悪役を演じた」
「馬鹿! やりすぎだよ!」
どんだけ不器用なんだこいつ。
そして端から見ればあれは本音にしか聞こえなかったぞ。
俺を入部させるのに『脅し』という手段しか浮かばなかったり、お前自分の意図しない部分でドSだよな!
「んっ?」
……なんて突っ込みを心の中で考えていたら、正面の方に二つの人影が見えた。
ていうか片方は人影というより、ただの炎の塊だった。
まさか……
「動くな!」
慌てて方向転換しようとする俺のすぐ傍に、火球が撃ち込まれる。
土とはいえ、結構大げさに地面が抉れている。
……明らかにさっきより威力上がってないか?
「なんで……お前がそこに居るんだよ……反対側から俺らを追ってきてたんじゃないのかよ!? 除村!」
そう、人影は除村だった。
彼女らは歩いてくる。
不味い、非常に不味いぞこのパターンは……
しかもこの不自然な場所に居るというのも不可解だ。
背後から追ってきたはずが、正面から歩いてくるなんて普通じゃ有り得ない。
一体どんな手段を使ったんだ……?
実は瞬間移動みたいな能力持ってたりするのか……どう考えても厄介だ。
「ヒュヒヒッ……」
除村が笑う。
ついにイフリートの笑い方が移ってしまったのか。可哀想に。
しかし不敵な笑みだ。
これはマジで本当かもしれない。
さっきよりも火球パワーアップしてるし、真の力を隠していた可能性は十二分にある。
さあ、どう来る除村……
「おい、答えろ除村!」
「校舎近かったから急いでチャリ置き場まで行ってチャリ取ってきて、急いで漕いで学校周辺走った。んで森の反対側まで行って待ってたけど意外と来ないから、仕方なくチャリ置いて歩いて様子見に行った。したら何か二人でトロトロ走りつつ、楽しくお喋りしていましたとさ。まる」
……よく見たら除村、汗ダラッダラだ。
「それは……お疲れ様」
としか言えなかった。




