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表と裏の正体 その陸

 私は腕を振るい、火のカミクズに傷をつけた。

 その後、足場が消える前に蹴って、後ろへ飛び退いた。

 しかし……

「あ…れ…?」

 頭が痛い。

 というよりクラクラして気持ちが悪い。

 ……なんだこれは?

「イフリート、大丈夫?」

【ああ……まあな。ヒュヒヒッ、あいつ狙いがちょっとズレてたみたいだわ】

 何だ……それは。私は外してなど……

 睨みつけようとするが、一段と濃くなった煙に遮られよく見えない。

「くっ…くそっ…」

「あれ、もしかしてまだ気づいてないのあなた?」

【おい、だから自分から説明は……】

「いいの、どうせこいつもう死ぬし。冥土の土産ってね!」

【それ本当に冥土の土産になったパターンを見たことないんだが…もう…知らないぜ?】

 誰が……死ぬだ……

 誰がやらせるか……

 これは零次の身体、何があっても私が……

「納得いかないって顔してるね。しょうがないなー、わかんないの? おかしいと思わないの?」

「何…が…」

「煙、だよ。こんなに充満してたら普通もう人来てるでしょ~!! てか大騒ぎだよ!!!」

 確かに。

 あまり学校について詳しくは知らないが、それくらいは理解出来る。

「それが無いのは何故か、わかるかな~!? わっかるかな~!」

「ぐっ……」

 全くわからない。

 どういう事なんだ。

 それがこの気分の悪さと関係しているなんて、とても納得出来ない。

「はぁ、頭悪いねー。もうちょっと頭使いなよ馬鹿め!!!」

 馬鹿に馬鹿って言われた。

「でも仕方ないか。馬鹿なあなたにはこの応用方法はわかんないか……」

「え……応…用…?」

「煙の操作、ただし自分が燃やして出た煙限定だけどねー。今回は、あなたの所に煙を集めたの!!!」

「は……?」

「だから火の操作出来るっていったしょ? その応用で、作った火球がどういう感じの煙を発するかも自由に決めれんの」

【ま、俺の能力なんだけどな……】

「とにかく、小学校で習わなかった? 火事の時は、実は煙の方が危ないんだよ」

「……!」

 習ってない、というより小学校には行っていない。

 だからというわけではないが、煙を軽視したのは確かだ。

 奴がさっきからベラベラ喋っていたのは、私により多くの煙を吸わせたかったのかもしれない。

 先程から具合が悪いのは煙を吸い込みすぎたからか。

 今更ながら袖のあたりで口を覆う。

「おっそー。無駄だと思うよ! それにしても焦ったよ、まさかこんなに正気保ってるとは思わなくてねー」

【ヒュヒッ、常人だったらとっくに気を失っても可笑しくねーのにな!】

【「一体、何者?」】

 もちろん問いかけには答えない。

 そんな余裕もないし、もとより答える気はないからだ。

「……」

「何黙ってんの、なんか言ったら?」

「わかった。そんな言って欲しいなら、今すぐなんか言ってやる」

【「えっ?」】

 とりあえずこの煙は厄介だ。早々に排除する必要がある。

 そしてそれが出来るだけの力が私にはある。

 それを今こそ使う時だ。

「―――『カミクズ』確認。参から伍までの封印解除を許可する」

「この状況で何、念仏? 変わってるねー! そんな念仏初めて聞い……」

【おい、なんかやべぇぞあいつ! 攻撃するぜ!】

「は……?」

 さすがカミクズ、対応が早い。

 もう火球を作って投げる準備をしている。

 私も、急がないと……

 もう少しで『完成』するが、途中で攻撃を食らってしまったら終わりだ。

「魔界封印解除……!」

【死ねぇっ!】

 火球が投げられる。

 炎の豪速球が私に向かって物凄い速度で向かってくる。

 だがそれよりも少し早く……

「―――ゲート、解放」

【なっ……?】

 詠唱が完成した。

 私の目の前に黒い穴が現れる。

 これは【捕食特化形態】の一部、口だ。

 黒い口は、火の玉の進路を塞ぐように現れ、突っ込んできた火の玉を飲み込んだ。喩えるならビー玉が小さな穴に落ちていくようなイメージ。

「えっ……? まさか……私の火球が完全に消えた……?」

【嘘だろ……!?】

 それだけではない、黒い口は周囲の煙までもを全て吸い込み、景色を明るみにした。

「ふぅ、お前のはかなり美味だな。もっと喰わせろよ」

【「うっ……!」】

 軽く脅しをかけ、多少なりとも隙を作る。

 これでまだ戦える。

 実のところ『口』だけでは戦いにくい。

 たしかにある程度は動かすことは出来るし、自動的に自分に追従するようになっているため便利だ。

 だが自ら食べに行くことが出来ないので、向かってきた物しか喰えないのだ。

 またこれを一度使うと『爪』が使えなくなるので、攻撃面に関しては全く無防備になる。

 だから早く『牙』を出して、武器を作らねば……

「―――捕食補助システム作動」

「!? あいつまた何か!」

【ヒュヒッ、止めるしかないよなぁ!】

 火球が通じなかったのを学習したのか、今度は直接走って襲ってくる。

 不味いな、どう対処するか。とりあえず少し早口になる。あくまで少しだ、噛んだら元も子もない。

「我が存在は魔、我が定義は……牙」

【言ってんじゃねぇぞ!】

「そーだそーだ! 死んじゃえこのぉ!!」

 向かってくる奴らから距離を置きながら詠唱する。

 1メートル以内に近づかれたら終わりだ。

 バックステップで避けてはいるが、木に当たって逃げられなくなったら確実に死ぬ。

 あと少しなのに……

 せめて少し足止め……を……あ、そうだ。

 私は傍にある木の枝に手をかけ、逃げるついでに折る。

【どうしたぁ!? よそ見出来る立場かよ!! って、あ……】

「どしたの?」

 私が枝を投げるふりをした瞬間、炎のカミクズの動きが止まる。

 直後、しゅるしゅると少女の中へと消えていった。

「えっ、何で!?」

【いや、だってあの木の枝、今までの攻撃と違って俺じゃなくて『お前』を狙ってたんだぜ……? 万が一俺が入ってない無防備なお前が食らって、無事でいられるか?】

「木の枝なんて……灼けば……」

【それでも炭の破片でも当たって、運悪く重傷負ったらそれまでなんだよ!】

「……むぅ」

 憑かれた人間は基本的に生命力が上がる。だが力を使う際にカミクズを一旦外に出してしまうと、その恩恵は無くなってしまう。

 ちなみに普通なら、一度中に入ったカミクズはそいつの生命力を吸い上げてから外に出て、その力で人間を支配する。

 それが無いのは契約者の特徴だが、その場合逆に人間が仇となるケースだってあるのだ。

 人間を狙えば、カミクズは必ず守りにいく。せっかくの金ズルをみすみす死なせたくはないから。

 そして今が最大のチャンスだ。

 さっさと枝を捨て、詠唱を再開する。

「捕食封印解除。魔界の牙、展開!」

 私の指先から黒い爪のような物が伸びる。これは『牙』だ。

 触れただけであらゆる物を咀嚼し破壊するモノ。

 その上、攻撃したい対象だけを破壊出来るという機能付きだ。

 つまりこれを使ってこの少女を直接攻撃しても、中に潜むカミクズのみを殺すことが可能というわけだ。

【「しまっ……」】

「今度はこっちが攻める番だ!」

 焦り、火球を投げてくるカミクズ。

 面倒臭いから避けない。メインディッシュのために『口』を使うつもりもない。空腹感、飢えは大切だ。

 だから腕を振るい、『牙』で引き裂く事にする。黒く長い闇を纏った左手を振りかぶり、一気に振り抜く。

 『牙』が当たった瞬間、火球は音もなく消滅した。

【「な、なに……? それ……」】

「牙だ」

【「どう見ても黒くて長い爪じゃん!」】

 今更な突っ込みは無視して、走り出す。

 ついでに次の詠唱もしておく、でないと『口』と『牙』を維持することが出来ない。

「魔界の顎、現時点で30%解放済み。魔界封印解除……」

 私の体を薄く、黒い霧が包み始める。

 この霧が完全に濃くなれば、私の捕食特化形態は完成し、勝負はつく。

 決着までもう少しだ。

【何だあいつ突っ込んでくるぞ……!?】

「……大丈夫、あれの射程距離は1メートルもない……射程は短くなってるから、切られる前に灼けるよ……灼いてみせる!!! 絶対に!」

【ヒュヒヒッ、しゃあねぇな……そこまで言うなら付き合ってやるよ!】

 奴らもこちらへ向かってくる。

 現在の距離、3メートル。決着は数歩でつく。

 そして―――全力の殺し合いが始まった。

「顕現率上昇……40%」

 私を纏う霧が少し濃くなり、それがゴングの代わりとなった。

 まず奴らが火球を投げてくる。

 結構至近距離ではあったが、問題なく左の『牙』で消す。

「55%……」

 霧がまた濃くなる。

 距離が近くなり、ついに奴の射程内に入る。

 前を向くと、嫌な笑みがそこにあった。

「70っ……%ぉ……!」

 霧が濃くなると同時に炎を噴出される。

 まるで爆発したかのような強く早い炎が、眼前に迫っていた。

 だが反射的に右の『牙』を振り、残滓を『口』で吸いこみ、なんとかそれも打ち消す。

 奴の顔には衝撃が走っていた。

「84%……!」

 濃くなる霧を裂くようにゆっくりと一歩踏み出し、『牙』の射程圏内に入る。

 振り切った腕を構え直し、右腕を振るう……が……

「うわちゃっ……」

 直前で奴がコケたため、虚しく空振りという結果に終わった。

「っ……!?」

 だがその事実は、必要以上に私を追い詰めた。

 今、奴がこけたせいで微妙に攻撃が届かない。

 しかし一歩でも歩けば攻撃は届かせることが出来るのだ……出来るのだが……

【……?】

「あ……あれ? 追ってこないの? とどめを……刺さないの?」

 呆然とした顔の奴が問いかけてくる。

 確かに今しがた高速戦闘をしていた所なのに、急に動きが止まるのは妙に思えるだろう。

「まさか……出来ないの……?」

「っつ!!」

 ……見破られた。

 捕食特化形態は、喰うことに特化した状態。つまりそれ以外の機能をほぼ捨てている。

 歩くこともその一つだ。

 この私を覆う黒い霧には、私を徐々に捕食特化形態に近づけていくという意味がある。

 つまり―――パーセンテージが溜まれば溜まる程、私の行動は制限されるのだ。

 もちろん途中解除は不可能。

「これは……動けないと見たねっ!!! イフリート、こいつを取り囲むように木を!」

【ヒュ…ヒヒヒッ! そういうことね、やってやらぁ!!】

「90……%……」

 虚しくも霧は濃くなる一方だ。

 ふと前を見ると、奴らは火球を投げまくっていた。

 私を取り囲む、木々に対して。

「100%……解放」

 私の周りの木が、燃えながら倒れてくる。

 その先には逃げる奴らの背中。

 これは時間稼ぎのつもりなのだろう。実際、効果覿面だ。

「……はぁ……汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ……出よ、冥獄門イビルファング……」

 私を包む霧の形が変わり、横倒しにした牙の長い獣のような形になる。

 私は両腕を上に振るい、襲いかかる木々を一撃で喰らい尽くした。

 牙が当たるだけで木々は全て砕け、直接当たってないものまで壊れ出す。その破片は口に吸い込まれ、煙すらも消えてしまう。

 そしてこの場からほとんどの痕跡が消えて無くなった。

 こうして何もなくなったスペースに、私は一人立っている。しかしこうしていても仕方がない。

「っ……くそっ……」

 私は、冥獄門イビルファングを解除した。

 霧散する私の力。

「ちく…しょう…」

 追わなくては……今ので見失った。

 早く奴らを追わなくちゃ……

「ちくしょう…何で…」

 カミクズは倒さないといけない、それが私のやるべきことだから……早く……

 しかし手足に力が入らない、どうしてか意識が保ってられない……

 だけど止まっちゃいけない……止まっては……

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