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表と裏の正体 その肆

「あっ、やっぱりここにいたんですか」

 俺が夕凪の助言を得て行ったのは、学校を取り囲むようにして存在する森だ。

 このあたりは田舎であり、こういった大きく自然が残っている環境は珍しくもない。もっとも、ここは意図的にそういう立地にしているような節もあるが、そこはあまり深く考えなくてもいいところだろう。

 ここは木と木の間隔が少し広めにとられており、各木の周辺のスペースは思いのほか広い。

 そんな中でも一際広いスペースに、木に寄りかかるようにして座っている少女が居た。

「……誰?」

 いつかの銀髪美女を彷彿とさせるリアクションをとったのは、先ほど部室から逃げ出した除村異であった。

 彼女は体育座りで、頭を膝のあたりにうずめたまま動かない。

 どうやらこれは夕凪に聞いた話によると、『本気で落ち込んでいるからこっち来ないで』という意思表示らしかった。

 しかし、こっちも黙ったままでもいられない。俺は初めての部活動を成功させるべく、なんとか彼女と会話をしようとする。

「俺です。さっき話した上倉零次っすよ」

 どういう言葉づかいをすればいいのかわからなかったので、とりあえずさっきまでと同じように少し砕けた敬語を使うことにする。

「……ああ。なに? どうして来たの? 一人になりたいって言ったよね? なんでどうしてどうしてなんで……?」

「ちょっ、まっ、落ち着いて! ね? まずは話を聞いてくださいよ!」

 除村さんの身体から邪悪オーラが出てきていたので、ひとまず引っ込めさせようとする。

 しかし俺の制止など意味などないかのように、除村さんから放たれるマイナスエネルギーは留まる事を知らない。

「……ここに来るってことは、しかも私を探しにきたかのような発言をしたってことは、これはもう嫌がらせと考えていいよね? いいよね? いいよねぇ!? そこまで人の逃げ場を潰そうとするならこっちにも考えが……」

「だから、落ち着いて下さいって! ああもう! これを見ろぉぉ!!」

 言うなり、俺は右手の先を彼女に向ける。

 ……そして、ポチが捕食特化形態に出すような黒い霧を、手のひらから発生させた。実はこれぐらいなら俺の状態でも出せたりする。もちろん攻撃には使えないし、なんの意味もないわけだが。

「!?」

 除村さんが罵倒をやめ、驚いて一歩下がる。

「なに……それ?」

 これで彼女は一時的に落ち着く。

 ……よし、これでようやく本題に入れる。

「ああ、やっぱり見えるんだ。よかったよかった」

 俺も安堵し、その際に言葉づかいも砕ける。これによってなんとか自分のペースで話を進めることが出来そうだ。

「これは、一般人には見えない『力』を具現化したようなものなんだよ」

「は?」

 いきなり中二病のような台詞を言われ、困惑している除村さん。

 しかし、これは事実であるため、仕方がない。

「これを見える人っていうのは、俺と同じような力を持っている者、もしくはそれに取り憑かれている人間だけなんだよ。除村さん、この霧っぽいの、明らかに『見えた』反応したよな」

「えっ!? な、なに急に!?」

 俺は今まで、この人がずっとカミクズに憑かれているのではないかと疑っていた。そしてそれが今の反応で確信に変わったわけだ。

 普通、カミクズと会った時、俺の人格は問答無用にポチに変わってしまう。しかしながら、カミクズが人を依代にしている時は反応が弱く、頭痛しかしないという特徴がある。それは一瞬のもので継続する痛みではないのだが、その特徴は除村が部室に入ってきた時に表れている。それと、手を払われた時の感触も憑かれた人間固有のものを感じた。

 これらのことを口にしても大して理由にはならないため黙っているが、これらの状況のお陰で早期発見をすることが出来た。

 俺は追いうちをかけにいく。

「いや、今更誤魔化されてもな。明らかに眼で追ってたし、それに凄いびっくりしてた。間違いない、見えてるんだよ。なら除村さん、あんたもなんかしらの力を持っているはずなんだ」

 俺が言葉を紡げば紡ぐほど、除村さんの表情が怪訝そうな物になっていく。

 おそらくこれは信じていない顔だ。たしかに、黒い霧を突然見せつけられてもそんなのトリックとしか思えないし、尚且つ一般人には見えないと言われても簡単に信じられるわけがない。

 それに、もしこの人がカミクズに利用されているのら、こんな話を本人にする意味などないのだ。

「……は? 上倉くんは霊媒師かなにかなの? 私はそういうの信じないんだけど。信じられるのは常に己のみだよ!!!!」

「ま、それが普通の反応だよな。普通、憑かれた人間に自覚はないわけだし」

 俺はあえて明るい調子で言う。

 実際普通に憑かれた人間にこんなことを言っても仕方がないのだ。

 カミクズに憑かれた人間の厄介なところは自覚のない所。

 たとえ真実を伝えても、本人にとっては身に覚えがない言いがかり同然。

 だから本来ならこんなこと言わない。

 意味がないから。

「でも、あんたは違うよな」

「!?」

 除村の目が見開かれるが、かまわず続ける。

「あんたが憑かれてる。それはもうわかっているんだよ。でもな、憑かれた人間ってのは一週間程度で生気吸い取られて瀕死になるんだ。だけどあんたに再度近づいてわかったけど、そのカミクズは昨日今日憑いた感じじゃなさそうだ。何故ならあんたは元気すぎる。生気を吸い取られたにしてはな。一日でも憑かれた人間は、もっとやつれて死にそうになっている」

「…っ…」

「それなのに長期に渡って取り憑かれてるって事は、憑く側と憑かれる側でギブアンドテイクが成立してる時ぐらいだ」

「……」

 ギブアンドテイク、つまり人間とカミクズで利害が一致しているということ。

 人間はカミクズに少しずつ生命力を与え、カミクズは人間に力を与える。

 カミクズは人間から一気に生命力を吸い上げるのが普通だ。ていうかカミクズは一気に吸うことしかできない。

 だがそれだとすぐに存在が明るみになってしまう上、長い間人間から力を供給することが不可能になってしまう。

 だから人間から少しずつ生命力を分け与えてもらうという形を取り、その代わりカミクズは人間の命令をある程度聞くことにする。

 生命力を吸い取るのはカミクズの能力、だがその能力の微調整は人間にしか出来ないのだ。

 だからカミクズは人間を頼り、代わりに力を貸す。

「それは【契約】っつー行為なんだけどよ。たまに居るんだよそういうのがさ。除村さん、あんた契約したろ?」

「な、何言ってるかわからない。おかしいよ上倉君!」

 当然の反応。だがここまでは想定内だ。

「そうか。俺の言うことは信じられない。そうだな?」

「うん、残念ながら……」

「じゃあこれも信じないよな。『俺はお前に憑いてるモノを消せる』。さっきあんたが言ってた霊媒師っての、あながち間違ってないんだわ」

「えっ……」

「軽く触れるだけで出来るんだ。試しに出してみろよ。その力を」

 サーッと血の気が引ける音が聞こえてきそうな程、除村は顔面蒼白になった。

「っ、そんなまさか!?」

 いきなり取り乱し気味の除村は手を中空にかざし、静かに呟く。

「お願い、力を貸して……出て、出てよ……!」

 すると彼女の手のひらから炎が噴き出る。

「おぉっ!!!!!!」

 それはまるで手がガスコンロになっているかのような構図だ。

 彼女はそんな異能全開の自らの手と、俺を見比べてこう叫んだ。

「なんだ出るじゃん! すんごいでるじゃん!!!!? 騙したなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「うん嘘。でもあんたもそんな力を使えるなんて隠してたからおあいこだな」

「……あ」

 馬鹿で良かった。これがたまにもっと狡猾なやつもいるから困る。

 さてと、これでお互い同じ土俵に立ったわけだ。後は説得して、なるべく平和にカミクズを処理しよう。

「で、あんたはどんな化け物と取引したんだ? そこまで簡単に力が借りれるなら流石に覚えあるだろ?」

「……」

 除村は固まった表情のまま、こっちを向いて何も言わない。

 素晴らしいまでに硬直していた。まさに模範的な『しまった!』という顔である。

「なんで隠してたか……いや、これはたしかにむやみやたらに見せていいものではないな。でも安心しろ。俺も同類みてーなもんだから。いや、どっちかと言うと解決側の人間ってとらえてくれよ」

「……」

 除村は語らない。未だにびっくりしたまま固まっている。

 それでも俺は気にせず、彼女との距離を詰めるため歩いていく。

「たしかにそのあんたと契約した『カミクズ』の力は便利だ。でもそんな力、ロクでもないって思わなかったか? 危険だと、思わなかったか? でも大丈夫だ。すぐに、俺が消すから。消せるっていうのは本当だしな」

「……」

 俺は、除村のそばまで寄って、手を伸ばす。

 ひとまずは落ち着かせて、その後にちゃんと説明してポチと入れ替わって、カミクズのみを捕食する。

 それで今回のカミクズ撃破は終了のはずだ。

 だが、そんな俺の平和的観測は粉微塵に砕かれた。

「っ!」

「!?」

 再び、差し伸べた手を弾かれた。

 除村の表情は、さっきまでとはうって変わり、真剣そのものの顔でこちらを睨んでくる。

「ねえ、今何て言ったの? たしか消すって言ったよね? 私と、その契約っていうのをした化け物っていうのを。ねえ、言ったよね? 答えてよ、ねえっ!!!?」

 ……急にキレ出した。

 相変わらず情緒不安定だなと思うより先に、俺が思ったのは何故ここまで執着心があるか、だ。

 今まで会った契約者というのは、犯罪に手を染めた者がいたとしてもその力に何処か不気味さを憶えていて、意外とみんな簡単に消させてくれるのだ。中には武闘派もいたが、その場合は最初から全力拒否のケースが多かった。

 今回はそういった今までのパターンから、あっけなくいくのではないかと期待していたのだが、どうやらそううまくは行かなさそうだ。

「ああ、消すって言った。実際、そうするのがあんたにとって一番良いんだよ。頼む、もっと話を聞いて……」

「はぁ。そういう目的なら、こっちも抵抗するしかないよね。―――焼いて、イフリート」

 俺の言葉を遮るように、除村は低いトーンで呟く。契約しているカミクズの名を。

 それと同時に、彼女の背後から燃えているような人影が現れた。

 正確には、炎が人の形をとっているように見える。

 デカい鉄球のような頭と手足、しかし腕、体、脚は細い歪なデザイン。

 漫画とかでよく見る炎の魔神がそこに居た。

【ヒュフフフフ……人を灼くのなんて初めてだなぁ…楽しみだなぁ…】

 ……あれ? イフリートってこんなイメージだったっけ?

 あまりにも小物臭がする。

 まあ、いい。こっちはこっちで問題児が居るしな。

「んだよ。話し合う気もなし、戦うつもりしかない、って感じか? ならこっちもやらせて貰うぞ」

 ここはもう応戦しかない。戦って、叩きのめしてから会話をすることにする。それしか今はなさそうだ。

 さて、ポチはカミクズを見れば出てくるはずだが、人に憑いた奴の場合何故かそうならない。

 だから別の方法で呼び出すしかない。気を失うか、許可するか。

 気を失うのは痛いから御免だ。だから取る方法は一つだけ。

「おいポチ、出てこいよ」

 主人格の特権、人格の呼び出しだ。

「―――俺が許可する」

 そうして俺の意識は一瞬飛び、戦いの火蓋が切って落とされた。

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