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表と裏の正体 その弐

 一週間前。

 旧音楽室(現天文学部部室)に二つの人影があった。

 片方は俺、そして……

「そろそろ部活動を始めようじゃないか!」

 そう声を張り上げたのは我らが部長、夕凪ひらり。

 彼女は相も変わらず部室の中心で、椅子に座ってふんぞり返ってる。

 ……てか部活動って、いきなり何言い出すんだあんたは。

「その前に、とりあえず二つ程質問していいか?」

「いい加減キミもノリが悪いね。何だい?」

「まず一つ目、御堂は?」

 俺達天文学部(仮)はこの場に居る二人だけではない。

 他に部員だって居るし、その中には当然俺の友人の御堂も含まれているわけで。そいつが居ない状況で本格的な部活動の話をしていいのか、俺はそういう意図を込めて問う。

「やだな、上倉君は。御堂君が居ちゃあ話せるわけないじゃないか。奇人観察部の件は極秘だという事を、本当にわかっているのかい?」

 確かに夕凪の言うとおり、俺らの部活には裏の顔が存在する。それが奇人観察部だ。

 このことは夕凪曰わく極秘で、部員ですら知らない人間がいる。

 だから彼女の言葉に説得力があるかのように感じてしまう。

 だが俺には腑に落ちない点がまだまだ残っていた。

「んで二つ目の質問、そもそも奇人観察部って何?」

「……えっ?」

 夕凪の目が見開かれる。

 『あれ、知らなかったの!?』みたいな顔をしないで欲しい。

「いや『えっ』じゃなくて、部活内容だよ。まさか世界中にいる変な人達を延々と探し続けるんじゃないだろうな?」

 多少の不安を込めて聞いてみた。これで肯定されたら俺もうやめる。

 元々無理矢理入れさせられた部活だ。それぐらいの自由はあってもいいと思う。

「はぁ、キミは実に想像力豊かだね。羨ましいよ。高校でそんな部活あるわけないじゃないか」

「ふぅ、良かった…良かった…」

「本気で安堵されてしまったよ。私は上倉君に何て思われているのだろうか……?」

 もちろん目的のためなら何でもする変態鬼畜女だと思っているが、口には出さない。

「で、改めて聞くけど奇人観察部って何なんだ?」

「ああ。街行く人々を観察して『奇人』の類……つまり変態や変人を見つけ出し、そいつを徹底的に付け回して研究する部活だよ」

「具合悪いから帰るわ俺」

 そそくさと帰る準備をする。

 ……何この部活内容!? さらっと最悪の部活内容語りやがったよこいつ! それむしろこっちの方が変な人だから!

 とにかく逃げないと……

「まあ待ちなよ。キミが居なくなったら困る」

 パシッと肩を掴まれる。

 地味に凄い力だ。

 掴まれた辺りがミシミシ悲鳴を上げている。

 痛い痛い痛い痛い……

「いてぇよっ! 離せよ! だいたい何で俺この部に必要なんだよ!?」

 自分でも今更だと思うが、ついずっと前から気になってたことを質問してしまう。

 思えば何故、こんな奇人系部活に俺が勧誘されたのか。

 俺には変態の素質でもあるのだろうか、それはとっても嫌だ。

「何でって……もちろん上倉君の入学式の活躍を見たからに決まってるじゃないか」

「……あー」

 そんな事もあったな。

 俺は入学式の日、カミクズと戦ったせいで酷い目にあったんだっけ。

 戦闘中、俺は人格が変わる。

 そんで敵の姿は一般人には見えず、こっちの攻撃も不可視ときたもんだ。

 つーわけで端から見れば俺は一人で暴れまわる変人で、以降その立ち位置が定着してしまった。

 それを見た夕凪は俺のイタい言動を出汁に中二妄想をし、それを理由に俺を入部させたというわけね。

 やだ、振り返るだけで何か頭が痛いよ。

「わかった……もう何も言うまい。でもな夕凪、一つだけいいか?」

「ん?」

「普通に部活に勧誘するという選択肢は無かったのか?」

「…」

「…」

「……」

「……」

「………あっ」

「『あっ』じゃねぇよ!!! 最初に思いつけよ!」

「その発想は無かった、ごめんねっ☆」

 ……軽っ? いくらなんでも! 謝り方が軽すぎる! こいつは許したくねぇ!

 リスクは承知だが、黙ってやられっぱなしなのはシャクだ。

 だから俺は禁断の言葉を口にする。

「はぁ、ったく謝罪の気持ちが足りなすぎだろ……ひ・ら・り・んよぉ……」

「!!?」

 一瞬で夕凪の顔が真っ赤に染まる。

 名前で呼ばれるのが恥ずかしいとか、相変わらず変な弱点だ。

 さてちょっとスッキリしたし、拳が飛んでくる前にやめとくか。

「そ、そそその名前で……」

 と思ったらもう拳を振りかぶってらっしゃる。

 あれ気のせいか前回より沸点が低くなってる気が……

「ちょっ、待っ…」

「私を呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 当然のように俺は殴り飛ばされ、真っ直ぐ壁まで飛んでいき激突した。


「……で、そろそろ本題の部活動について聞こうか?」

 なんとか一命を取り留めた俺は、さっさと話を終わらせにかかる。

 ちょっと夕凪は危なすぎる。俺にはとても扱い切れない。

「すまないね上倉君。名前のこととなるとどうしても手が出てしまうんだ…」

 本気で申し訳なさそうな表情の夕凪。

 こういう姿を見ると無条件で許したくなってくるが、そこをぐっとこらえる。

 ここで気を許したら負けだ。

 ただ許さないままなのも逆に面倒臭いので、適当に話を終わらそう。

「はあ、そんな事より部活動って何なんだよ。ストーキングでもすりゃいいのか?」

 それだけは絶対に御免だと言外に付け加えつつ、夕凪に問うてみる。

「あ、その必要はないから安心していいよ。今回のターゲットはわざわざ尾行る必要なんて無いからね」

「……? どういう意味だ?」

 予想外の返答に少し動揺する。

 どうせ彼女のことだからそれ以上の事も想像していただけに、かなり拍子抜けだ。

「この部活の人間にね、面白い子が一人居るんだよ。その子を観察して調べ上げ、研究結果を出して欲しい」

 ……思ってたよりずっとハードな要求来ました。

 そんな事言われたって、反応に困る。

 というかそれ行動に起こしたら多分犯罪だよ。

「名前は除村異よけむら ことな。下の名前を初見で読めた人間はほぼいない。キミと同学年の女子だ。ちなみに私の幼なじみでもある」

 黙っていても夕凪は淡々と説明を続ける。

 ……って今、無視出来ない言葉がちらちら聞こえたような。

「ちょっと待て、除村?」

「そ、キミの担任の除村先生の娘。この学校に通ってたの、知らなかったのかい?」

 ……知らなかった。

 って、待て待て。ということは……

「お前、もしかして昔から除村先生と……」

「面識はあったよ。あの人はいい人だ。娘と違ってね……」

 急に夕凪の声が低くなる。

 周囲の温度が何度か下がったかのような錯覚。

 なんとなくだが、今の夕凪に少し恐怖を感じるのは気のせいだろうか。

「お、おい。娘さんって、お前の幼なじみだろ? そんな言い方……」

「いいんだよ、彼奴には並々ならぬ貸しがあるからね。あの人格破綻者め」

 お前もな、とは言えなかった。

 夕凪は明らかに不機嫌だ。よっぽど除村(娘)が嫌いなのだろう。

「一体……どんな子なんだ……?」

「聞きたい……? 彼奴は一言で言うなら『面倒臭い』んだよ。厄介という言葉は彼奴のために生まれたんじゃないかな」

「それはそれは……」

「オマケに今は引きこもりだしさ。昔はそこまで酷くはなかったのに……あー兎に角最低だね」

 聞く限りではまだ何とも言えないが、何て夕凪と相性の悪そうな人なのだろう。

 逆に見てみたい。

「って、お前今引きこもりつったか!? もしかして部活動って、除村さんの家まで行かなきゃならんの?」

「ああ、もちろんだよ。出来ればヒッキーも直して欲しい」

「ちょっ、ざけんなおまっ……!」

 ガチャリと。不意に、何の前触れもなく部室のドアが開かれた。

 瞬間、どうしてか急にめまいがして俺は意識を失いかける。視界が一瞬消し飛び、呼吸も止まりそうになる。

 突然の激しい頭痛に耐えながら、一体何が起きたのかを確認。

 周囲を見回す。

 すると全開のドアの前に、一人の少女が立っているのが見えた。恐らく今入って来たのがこの子だろう。

 長い髪を後ろで一括りにした、俗に言うポニーテールという髪型。瞳は好奇心に満ちていて、表情は満面の笑み。背は平均程度で、ウチの制服を着ている少女。

 ……誰だろう。

 そう思って隣を見ると、夕凪が驚きのあまり『○△○』←こんな顔になっていた。

「まさか……!?」

 俺がある答えに到達しかけた時、少女はゆっくりと口を開いた。

「こんちわーーっす!!!! どもどもあたしだよ、除村異ちゃんだよーーーーっ!!! ひらりん元気してたーーーー!!?」

 無駄に溌剌とした声が部室に響き渡った。

 ……アレ、ヒッキーじゃなかったの……?

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