表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/28

表と裏の正体 その壱

 よう、上倉零次だ。

 今回はとある話をしようと思う。けどその前に、二つ程説明しておかねばいけないことがあるんだ。聞いてくれ。

 まず一つ目だが、そろそろポチの能力について語ろうと思う。

 基本的にあいつが行使する力は『捕食』だ。つまりは喰うための力。ポチは斬撃も打撃も使えるが、それらは全て『敵を喰いやすい状態にするため』のもの。食材を切ったり、調理するのと同じだ。

 そんなポチが主に使う技は『空間を歪めて刃の形を作り、空間に設置する』という物だ。

 こう説明すると面倒臭そうに聞こえるが、実際は『好きな位置に透明なナイフの刃を出現させ、その場に固定する』ぐらいの認識でいい。射程は短いが不可視であり、一般人に気づかれることなく使うことが出来る。しかも作った刃は4~5秒程度で消えるから、隠れて使うにはうってつけだ。発動方法は軽く腕を振るだけ。

 こいつは簡単に発動できる強力な技であるため、ポチの攻撃は専らこれである。

 一見、気の短いポチには似合わぬ設置技に見えるこの技。だが敵の位置に直接刃を作ることも可であり、直接攻撃の手段にもなるのだ。

 むしろポチの使用回数は『設置』より『直接』の方が明らかに多い。

 ポチはこの技を『透爪撃とうそうげき』と呼ぶ。

「食らえっ!」

 そして、今戦いに使用しているのがこの『透爪撃』だ。

 説明が遅れたが、ポチは今公園でカミクズと戦闘中だ。

 ただし一般人にカミクズやポチの技は見えないので、ただポチが暴れまわってるようにしか見えないだろう。

 公園に居た子連れの家族がそそくさと去っていく。なんて恥ずかしい。

 ついでに言うとポチは俺の別人格のため、実質痛い目で見られてるのは俺だ。自重しろ。

「くっ、まだ粘るかお前はぁ!」

 しかしそんな俺の苦難など気にせず、ポチさんはノリノリで戦ってらっしゃる。せめて喋るな。黙ってやれ。

 周囲の物に攻撃が当たらないように注意してる所以外、評価できる部分がない。

「くっ…! 当たれぇ! このっ!」

 ちなみにどんなカミクズと戦っているかというと、これまた奇妙な奴だった。

 シールのような薄い身体をしていて、そこに『^o^』←こんな顔がついているやつだ。ボディカラーは銀。

 こいつはさっきからポチの攻撃をひらひらと避け続け、今の今まで粘り続けているのだ。

「今だ! 喰らえっ!」

 ポチが腕を振るう。

 シール野郎がひらりと一回転しながら移動する。

 するとさっきまでカミクズが居た位置に、一瞬遅れて『爪』が発動した。

 空間を歪めて作られた刃が、何もないスペースに発生する。どうやらシール野郎の動きの方が早かったらしい。また避けられてる。

 さっきからこの繰り返しだ。

 ……はぁ、こんなんじゃいつまでたっても終わりそうにない。

 ああいう流れるような動きの相手を制すには、激流のような激しい攻撃じゃ駄目なのに。どちらかと言えば、激流に身を任せ同化するかのような精神が大事なのだ。

 『爪』は腕を振るってから発動するまでにタイムラグがあるから、それを何とかしなければ攻撃は当たらないだろう。ゴリ押しでは何もできない。せめて設置をうまく使ったりしないと勝ち目はないだろう。

「あ゛ーもう! あったま来たぁぁぁぁ!!」

 ポチは突然叫びだすと、いきなり身を翻して砂場へと向かう。

 何だか無性に嫌な予感がする。何故だろう。

「よし、これでいいな」

 何を思ったかこの子、砂場に落ちてたスコップを拾いだした。

 おそらく誰かの忘れ物だろう。十中八九、子供のおもちゃだろう。

 それを持ち、周囲を見回し野次馬が居なくなったのを確認。何をする気だこいつは。

 そんなこんなで改めてカミクズの方を向いたかと思うと……

 大きく振りかぶって……

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 ……投げたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?

 弾丸のような速度のスコップは真っ直ぐ飛んでいき、シール野郎に直撃する。

 貫通こそしなかったが、深々とシールの中心に突き刺さった。

【ギュェッ!】

 カミクズが呻き声をあげ、墜落していく。

 それを見上げながら構えるポチ。

「これで……」

 ニヤリと笑い、ぐぐっと身体を捻る。力を溜めてるかのような動きだ。

 実際溜めている。『爪』は溜め時間に応じて威力が変化するのだ。

 その方が空間の刃を多く作れるから。

 複数作るのは時間がかかるだけで、不可能じゃない。

 ギリギリまで力を溜める。

 こうして溜めに溜めて……

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 力いっぱい解放する。

 思いっきり腕を振りぬき、カミクズのちょうど落下地点の空間を歪める。

 そうして大量の刃型を形成し、その全ては落ちてくるカミクズを待ち構えるように設置。

「今までのお返しだ、クソ野郎」

 シール野郎は真っ直ぐ空間の歪みに突っ込んでいき、ズタズタに引き裂かれ、ボロボロになって地面に落ちた。

 ……あー。なんだこいつ、結局激流で制しやがった。

 『爪』じゃスピード不足だからって、その辺の物をそれ以上のスピードでぶん投げるなんて……

 そのうえ相手の動きを一度止めた後に、落ち着いて大技を当てるとは……なんつー力押し。

 だがそれを本当に実現させる力があるのだから凄まじい。

 ……ここで説明。こいつの能力その2、身体能力の向上。

 ポチはベースとなる俺の身体を使って戦っているわけだが、その身体能力は俺以上だ。同じ身体を使っているのにこの差だ。

 ちなみにポチは身体強化の能力は持っていない。ようは使い方の問題なのだ。

 同じ筋肉一つにしても、使い方が根本的に異なっている。ポチは、俺の身体を100%使いこなしているのだ。

 だからさっきスコップを投げたような超人的な攻撃が出来る。

「―――さて、喰わせて貰うぞ」

 そしてこれから出るのがポチの最大の能力。

 ポチは両手を左右限界まで広げる。

「―――『カミクズ』確認。参から伍までの封印解除を許可する。魔界封印解除。ゲート、解放」

 ポチの眼前に小さな黒い点が出現する。

 ポチから言わせてみればそれは捕食のための『口』らしい。

 つまりこれは空間に開いた『穴』のようなものなのだが、俺にはやはり黒い点にしか見えない。

 ちなみにカミクズ同様、一般人には見えないそうだ。

「―――捕食補助作動。我が存在は魔、我が定義は牙。捕食封印解除。魔界の牙、展開」

 ポチの五指から一本一本、黒い爪のようなものが伸びる。

 生え方といい形といい、長い爪にしか見えないが、これは咀嚼のための『牙』だそうだ。

「魔界の顎、現時点で30%解放済。召喚封印解除…顕現率上昇…40…60…90%突破! さあ見せてやろう、お前にとっての地獄をな! 100%解放! 出でよ死を呼びし捕食者!」

 ポチの身体を黒い霧のようなものが包んでいく。

 これはさっき出した『口』や『牙』を繋げるための『顔のパーツ』なのだそうだ。

「汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ! さあ喰らうぞ! 冥獄門イビルファング!!!」

 ポチの姿が変わる。

 正確には、ポチにまとわりついた黒い霧の形が。黒い巨大な狼の頭を横倒しにしたような外観に変わる。

 左腕の位置には上顎が、右腕の位置には下顎が。先に生じた黒い穴が、ちょうど『口』の位置にくるように。指から伸びた爪のような『牙』は、歯茎の位置にくるように。

 その姿は黒い狼型のオーラを纏ったポチ、というのが一番しっくりくる。

 しかし狼と呼ぶにはあまりにも牙が長過ぎ、生え方もかなり異常だ。人間の腕ぐらい長い牙が、上下五本ずつついており、その全てが口の先端部分に集中している。

 他に牙らしい牙はなく、その異様な姿は他の動物で喩えることは出来ない。

 だからそれは間違いなく―――人間の知る生き物の姿では無かった。

「さぁて…久方ぶりの食事だ…楽しませてくれよ」

 捕食特化形態、これがポチの真の能力。

 ポチは普段、自分の『捕食』の力を封印している。

 それを解放するのが今ポチが唱えた呪文(?)であり、今の姿はある意味ポチの『真の姿』と言ってもいい。

 捕食のためだけに特化したその力は、どんなモノでも喰らうことができる。

 それがたとえカミクズであっても。

「イタダキマス」

 ポチは獣の顎と化した両腕を振り、地面に落ちた哀れなカミクズに噛みつく。黒い狼の口が閉じられ、中にいたカミクズを噛み砕く。

 たったそれだけで『捕食行動』は終わるらしい。

 ……俺から見れば、噛んだだけじゃねーかって感じだがね。

 どうやらあれだけでカミクズを咀嚼し、尚且つ呑み込んでるそうなのだ。

 さすが『捕食特化形態』すごい能力だ。どんな奴でもポチに喰われたら終わる。

 それなのにこのお手軽さはお得すぎると思う。

 もちろんデメリットも存在するが、まぁ今は気にしないことにしようか。

「げっぷ…うわっ、まずっ…なんだもぉ最悪だ…」

 捕食が終わるなり、ポチの身体を包んでいた黒い霧が晴れる。戦いは終わったのだ。

 ポチは少し寂しそうな顔で溜め息を吐くが、目の前の少年を見て安心したらしい。安堵の表情を浮かべる。

 そう、ポチが暴れたせいで公園から人はほとんど居なくなった。

 しかしどんな状況になっても決して動かなかった少年が、たった一人だけ居たのだ。その少年はまるで死人のように生気のない表情で、ずっと呆然とつっ立っているだけだった。戦闘中も。

 けれどもその少年は、ポチがカミクズを倒した瞬間、糸が切れたように倒れだした。これはどういうことなのか。

 ……さて遅くなったが、冒頭で話した二つ目の説明をさせてもらおう。

 カミクズについての説明だ。

 平たく言えばこの少年はカミクズに支配されていたのだ。

 カミクズは人の心の隙間に入り込み、人間を依代にして寄生するという特性を持つ。それによりカミクズは姿を隠したり、生命力を奪ったり、逆に力を貸し与えたりする。

 人間に取り憑いたカミクズは非常に厄介で、見つけにくく、強力な場合が多い。それに憑かれた人間が疲弊していくケースが多いため、早く対処しなければいけない。

 ようするに憑かれた人間は操られ、カミクズの都合のいいように使われる。カミクズは人間の中に入って隠れたり、出てきて暴れたり出来る。さらにカミクズは取り憑いた人間から生命力を吸い上げ続ける。たとえ離れていても。そのため、カミクズを倒してその流れを断ち切らなければいけないということだ。

 今回はまさにそういったケースで、ポチが偶然カミクズに憑かれた子供を察知しなければ、おそらく大惨事になっていただろう。

 ……そういえば最近、憑かれた人間を見るのが多い気がする。

 これから語る話の中心人物もそうだった。まったくもって気分が悪い。

 ……ってと。とりあえずポチの能力とカミクズの特性については、わかって貰えただろうか。

 何故今こんな説明をするかと言うと、これから語る話はこれらの知識がないと、多分わかりにくいと思うからだ。

 そう、あれは一週間前の出来事……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ