第74話:扉の向こうの盗聴者たちと、無自覚な女神の報告
冬コミ衣装の「大試着&採寸調整」と、それに伴う薫の衝撃的な吹き飛び昇天劇をなんとか終え、コスプレ部の部室にはひとまずの休憩時間が訪れた。
「ふぅ……。ずっと同じ姿勢だったから、なんだか喉が渇いちゃったなぁ」
都姫はいつもの私服に着替え直すと、銀髪ウルフカットをのんびりと揺らした。薄手のトップスのフロントをB99のGカップで再びパツパツに押し上げながら、潤いを求めて廊下の自動販売機へと向かうことにした。
「ちょっと、都姫、一人で行って大丈夫?」とパーテーションの奥から天音の声がしたが、「自販機そこだし、いーよー」とゆるふわに返し、都姫は部室の重厚な木製のドアのノブを握って、手前に引き開けた。
――その瞬間、部室の外の廊下で、物理的な『静止』と奇妙なポーズの集団が視界に飛び込んできた。
「おっとっと……!?」
「ひゃあッ……!?」
そこには、学内の噂を嗅ぎつけて「雑誌の表紙の女神が部室にいる」と集まってきたエリート大学生やチャラ男、他サークルの部員たちが、壁に張り付いて耳を澄ましていた。
ドアが急に開いたせいでバランスを崩し、モーセの十戒のように一斉によろめきながら、間抜けなポーズで硬直している。
中には、部室の中から聞こえてきた「薫さんが逝った(尊死)」「柔らかさがバグりすぎてる」という阿鼻叫喚の声を、目をガンギマリにさせながら盗聴していたエリート学生も混ざっていた。
目の前の異様な光景に、普通の女子高生なら悲鳴を上げてドアを閉めるところだが、気分屋でゆるふわ属性の都姫は違った。長い睫毛をパチくりさせ、左目の下のホクロを覗かせてポカンと首を傾げる。
そして、部室の奥でミシンの片付けをしていた天音の方をのんびりと振り返ると、鈴を転がしたような美声で、何の気なしにこう告げた。
「ねぇ、天音(お姉ちゃん)。なんか面白い人たちがいるよぉ。みんなで壁にペタッてくっついて、何のダンスの練習をしてるのかなぁ?」
「え?」
天音があきれ顔でドアのところまで歩いてきて外を覗くと、そこには都姫の至近距離での極上のゆるふわ笑顔を浴びて、尊さのあまり胸を押さえてその場で静かに白目を剥きかけている大学生たちの姿があった。
「ちょっとあんたたち!! 何サークルの部室の前で壁のシミになってんのよ!!」
天音の容赦ない激しいツッコミが廊下に響き渡る。
当の発端である都姫は、エリート学生たちの脳の処理を無自覚に消し飛ばしたことにも気づかず、「ココアにしよーっと」と、間抜けなポーズで固まっている大学生たちの間をすり抜け、のんびりと自販機のボタンを細く白い指先で押すのだった。
自らの圧倒的な美貌で、大学の廊下の風紀すら一瞬でカオスに陥れてしまった都姫。
五万円のギャラと、この後に待っているプレミアムフレンチトーストへの期待を胸に、女神の気ままな大学潜入お手伝いは、廊下のパニックを置き去りにして、さらに賑やかに続いていくのだった。




