第73話:至高の弾力と、限界オタクの昇天
阿鼻叫喚の限界突破採寸が続くコスプレ部の部室。
都姫のB99のGカップとW60のウエストというバグり散らかしたプロポーションを前に、部員たちが鼻血を堪えて右往左往するなか、目の色をガンギマリにさせた薫だけはマッハの速度でまち針を動かしていた。
「あ義ぃぃ……! ここ! このアンダーからトップにかけての布地の浮き具合が、冬のビッグサイトの勝敗を分けるのよ……っ!」
「薫、うるさいから静かに集中しなさい。ほら、都姫が動きづらそうじゃない」
天音が呆れ顔で指示を出すが、薫のプロモデル兼限界オタクとしての執念は止まらない。
「分かってるわよ天音! 私は今、神の衣を仕立てる大司祭としての使命を全うして――」
ブツブツと呪文のように呟きながら、薫がドレスのフロント部分のカッティングを微調整しようと、衣装の布地に細い手を置いた、まさにその時だった。
都姫が「うーん、なんかちょっとスースーしてくすぐったいなぁ」と、いつものゆるふわな様子でコテンと小首を傾げ、ほんの少しだけ体を動かした。
その不意の挙動により、薫の差し出していた右手が、衣装の布地越しではなく、都姫の豊満な胸の膨らみにダイレクトに当たってしまった。
「――あ」
静寂が部室を支配する。
当たったのは、ほんの一瞬。手のひらに伝わってきたのは、高級ランジェリーショップを貸し切りにした美夜ママの遺伝子を100%引き継いだ、人類の奇跡とも言えるあまりの柔らかさと、吸い付くような至高の弾力だった。
薫の脳内に、言葉では表現できないほどの激烈な衝撃が走った。
「………………っっっ!!!」
次の瞬間、薫はこれ以上ないほどに尊さと幸福感に満ち溢れたいい笑顔をしながら、まるで目に見えない波動砲でも浴びたかのように、後方へと文字通り吹っ飛んだ。
ドサササッ!!! と部室の隅に積まれていた冬コミ用の布地の山へと背中から突っ込み、そのままピクリとも動かなくなる薫。しかし、その顔は完全に現世の未練をすべて無くし、天国の門をくぐった聖人のような、白目を剥いた極上の恍惚の笑みを浮かべていた。
「ちょっと薫ーーーっ!? 何の臨死体験してんのよあんたは!!」
天音がすかさずツッコミを入れ、部員たちが「薫さんが逝ったぞーーーっ!!」「救急用ティッシュ(鼻血用)持ってこい!!」と再び部室内は阿鼻叫喚の大騒ぎに。
当の発端である都姫は、吹っ飛んでいった薫を長い睫毛をパチくりさせながら見つめ、特大のクマのぬいぐるみを抱きかかえるようにして、ポカンと首を傾げていた。
「あれぇ? 薫ちゃん、急に後ろに飛んでいっちゃった。……あ、もしかして、私の胸ってやっぱりちょっと重くて、当たると危ないのかなぁ~?」
自分の規格外のバストの柔らかさが、他校のプロモデルの理性を完璧に消し飛ばして昇天させたとも知らず、どこまでもマイペースにゆるふわな勘違いをする都姫。
五万円のギャラと、この後に待っているプレミアムフレンチトーストの生クリームを思い浮かべながら、女神の大学潜入お手伝いは、一人のオタクの尊死を乗り越えながら、さらに混沌の極みへと突き進んでいくのだった。




