第68話:ロイヤル帰宅と、限界オタクのボロボロ自撮り
カフェでの極上のワッフル「あーん」タイムを終え、如月 都姫は父親の玲司、母親の美夜と三人で仲良く並んで歩きながら、都内の一等地にある大豪邸へと帰宅した。
「ただいまー……。あー、朝からいっぱい歩いて、お腹もいっぱいで眠くなってきちゃったぁ」
都姫が銀髪ウルフカットを揺らし、スウェットパーカーの胸元をB99のGカップでパツパツに膨らませながらリビングへ這入っていく。
すると、ちょうど二階からパジャマ姿にポニーテールというラフな格好で階段を下りてきた姉の天音とバッタリ遭遇した。
天音は、朝の七時前だというのに、すでに完璧に充電が完了して満足げな顔をしている両親と、その後ろで眠そうにクッションを抱きかかえる都姫の姿を見て、やれやれと呆れたようにため息をついた。
「あら、お父さんにお母さん。朝のランニングじゃなかったの? なんで都姫を捕まえて、朝からリビング(お散歩帰り)で撮影会みたいなオーラ放ってるわけ?」
「ふむ。天音、言葉を慎みなさい。今日の朝は都姫から至高のワッフルを授かった、KMHの歴史に刻むべき聖なる朝だぞ」
玲司がイケオジの顔のまま、真顔でスマホの極秘フォルダをそっと愛おしそうに撫でる。
「そうなのよ天音ちゃん! 朝のカフェでお散歩中の都姫ちゃんに出会うなんて、お母さん運命を感じちゃったわ!」
美夜も天然100%の笑顔でふわふわと笑っている。
「はいはい、ごちそうさま。……あ、そうだ。都姫、あんたのせいで今朝の私のスマホ、大変なことになってるんだけど」
天音はそう言いながら、手元でバイブレーションが鳴り止まない自身のスマートフォンを差し出した。
画面に表示されていたのは、昨夜、天音がおもしろ半分で送りつけた『特大ぬいぐるみをギュッと抱きしめてはち切れそうな都姫の寝顔写真』への、白鳥 薫からの返信の嵐だった。
そこには、薫から送られてきた一枚の「自撮り写真」が添付されていた。
「ちょっとこれ見てよ。面白すぎるから」
天音が画面を都姫と両親に見せる。
画面の中にいたのは、普段のプロモデルとしての気品ある美貌を完全にドブに捨て去った、白鳥薫の衝撃的な姿だった。
昨夜の都姫の破壊神レベルの尊顔(寝顔)を送りつけられたせいで、一睡もできずに夜を明かした薫。髪の毛はボサボサに爆発し、目の下には漫画のように濃いくっきりと黒いクマが刻まれており、魂が口から抜け出しかけたような死にそうな形相で、ベッドの上でピースサインを作っている悲惨なボロボロの自撮りだった。
メッセージ欄には、
『天音へ。都姫ちゃんの寝顔のせいで心臓の動悸が止まらず、脳内物質が出すぎて一秒も眠れませんでした。今からゾンビとしてそっち(如月家)に向かいます。なむなむ。』
と、呪詛のような長文がギッシリと詰め込まれていた。
「あはははは! 薫のやつ、本当に一睡もできずに文字通りボロボロの生ける屍になってるじゃない! 傑作ね!」
天音はお腹を抱えて声を出して笑った。天音の予想を遥かに超えて、薫の限界化(発狂)は完全なる天災レベルに達していた。
「まぁぁ、薫ちゃん大丈夫かしら? お母さん、今度お肌にいい高級パックをプレゼントしてあげなきゃね」
美夜がのんびりと心配し、玲司は「ふむ。我が娘の美貌は他校のプロモデルの睡眠すら奪うか。セキュリティをさらに強化せねばな」と、やっぱり冷静に親バカな解釈をしていた。
当の発端である都姫は、薫のボロボロの自撮り画面を見つめながら、クマのぬいぐるみに顔を埋めてコテンと首を傾げた。
「うーん……薫ちゃん、お目々の下が真っ黒でパンダさんみたいだねぇ。睡眠不足は美容の敵だから、私みたいにいっぱいゴロゴロ寝なきゃダメだよ~?」
遠隔で他校のプロモデル(新入会員)の理性を完全に破壊し、ゾンビ化させてしまった張本人。
そんな世界線の狂乱などどこ吹く風で、都姫は朝食後の贅沢な二度寝の誘惑に身を任せるべく、ソファーへとふにゃふにゃと倒れ込み、どこまでも気ままに、ゆるふわな二度目の夢の世界へと旅立っていくのだった。




