第66話:朝霧の散歩道と、贅沢なひとりモーニング
ジリリリリ、といつもより数時間も早い午前六時頃。如月家の大豪邸の寝室で、如月 都姫は珍しくパチリと目を覚ました。
「うーん……珍しく早起きしちゃったなぁ……」
いつもなら二度寝の誘惑に身を委ねるところだが、その日はなぜかすっきりと意識が冴え渡り、ベッドの中で寝返りを打っても再び眠れる気配がない。
枕元には、昨日ゲームセンターで勝ち取った特大のクマのぬいぐるみが鎮座している。
「せっかく早起きしたし、お外の空気でも吸いにいこうかなぁ」
気分屋でゆるふわな都姫は、のんびりとベッドから這い出た。
ハーフアップにもしていない無造作な銀髪ウルフカットのまま、お着替え部屋から母親の美夜が仕入れてきたハイブランドの薄手のスウェットパーカーとショートパンツを選んで身にまとう。
しかし、カジュアルな部屋着であっても、B99のGカップという規格外のボリュームは布地を限界まで押し上げ、ウエスト60の細い曲線美からすらりと伸びる生脚が、早朝の静かな空気の中でどこか妖艶なオーラを放っていた。
カチャ、と静かに玄関扉を開け、都姫は朝霧の残る外の世界へと歩き出した。
都内の一等地でありながら、早朝の街は驚くほど静かだった。
カツカツとローファーの音を響かせながらのんびり歩いていくと、やがて視界が開け、敷地の広い大きな公園へと辿り着いた。
緑豊かな木々が朝日に照らされてキラキラと輝き、公園のすぐ脇を流れる川の水面が、心地よい音を立てて流れている。
「わぁ……。朝の自然って、空気がひんやりしてて、すっごく気持ちがいいねぇ」
いつもは学校や放課後の聖地で、狂信的なファンクラブやツンデレ会長、他校のプロモデルたちからの「視線のレイザービーム」を浴びまくっている都姫。
しかし、この時間だけは周囲に誰もいない。涼しげな川風がアップにしていない濃い銀髪を優しく揺らし、左目のすぐ下のホクロを覗かせる。都姫はのんびりと深呼吸をしながら、誰にも邪魔されない穏やかな自然の景色を、ゆるふわな笑顔で満喫した。
しばらく川沿いの遊歩道をのんびり散歩していると、公園のすぐ近くに、朝早くから明かりの灯るお洒落なテラス付きの近くのカフェを見つけた。
「あ、あそこのお店、モーニングやってる。ちょうどお腹も空いてきたし、入ってみよーっと」
カランカラン、と静かな店内に鈴を転がしたような美声が響く。
早朝のワンオペで眠そうにしていた店員が、入ってきた長身ウルフカットの超絶美女(都姫)を見た瞬間、持っていたトレイを取り落としそうになるほど目を剥いて『静止』したのは言うまでもない。
都姫は窓際の特等席に腰掛け、メニューを開いた。
「えーっと、厚切りバターレエトーストのモーニングセットと、生クリーム添えのワッフル、あとホットココアをお願いします」
運ばれてきた焼き立ての香ばしいトーストに、はちみつをたっぷりと回しかける。
サクッ、じゅわっ、と美味しそうにトーストを頬張り、甘いココアをふーふーと冷ましながらコクリと飲む都姫。
「ふふ、早起きすると、こんなに美味しいご飯がのんびり食べられるんだねぇ。ラッキー」
夏の終わりの爽やかな朝の光を浴びながら、一人きりの贅沢なモーニングを食べながら、どこまでもマイペースに、気ままな時間を楽しんでいく都姫。
自分の知らないところで、昨夜天音から送られた「ぬいぐるみ抱っこ写真」の破壊力によって、白鳥薫がベッドでのたうち回りながら一睡もできない夜を明かしていたとも知らず、女神の優雅な早朝散歩は、穏やかに過ぎていくのだった。




