第62話:拡散する聖地の神話と、揺らぐ鉄の規律
「――おい、マジかよ。いくらなんでも、それだけは都市伝説の域を超えてるだろ……!」
「いや、本当なんだって! 俺、昨日この目でハッキリと見てきたんだから!」
ある日の昼休み。明恭学園の廊下や中庭のあちこちで、これまでにない規模の凄まじい地鳴りのようなざわめきが巻き起こっていた。
噂の発端は、今や全校生徒の精神的支柱(生ける神様)となっている如月 都姫が働くクラシカルメイド喫茶『ル・ロワイヤル』の、現在の布陣についてだった。
「あの雑誌の表紙を飾ったプロモデルの白鳥薫ちゃんが体験入店してるだけでも大パニックなのに、なんと……あの『鉄の女』、現生徒会長の五十嵐沙奈絵さまが、都姫ちゃんのすぐ隣でメイド服着てお給仕してたんだよっ!!」
「な、なんだってえええええええっ!?!?!?」
教室内、いや学年全体を揺るがすような驚愕の叫びが響き渡る。
すでに放課後の聖地へ巡礼し、その「奇跡の光景」を網膜に焼き付けていた隠れファンクラブの幹部(いぬくん達)が、ツーショット、いやスリーショットのチェキ画像をスマホの画面に映し出すと、周囲の生徒たちは尊さのあまりその場にバタバタと崩れ落ちた。
「嘘だろ……あの規律に厳しくて、モデル顔負けのスタイルと気品を持つ五十嵐会長が、フリルたっぷりのメイド服を着て、顔を真っ赤にしながら都姫ちゃんの横に並んでる……!」
「しかも、都姫ちゃんに『会長さん、このお皿持ってってー』って言われて、『か、勘違いしないでよね! 風紀の監視のために運ぶだけなんだからっ!』ってツンデレ全開で家来みたいに動いてたぞ!!」
目撃者たちの生々しい証言により、噂のパンデミックは一気に対流を加速させた。
『あのウルフカットの女神、如月都姫は学園の絶対的トップすら一瞬で調教し、自らの隣にハベらせてメイドにしてしまった』
この衝撃的な事実は、姉妹校である聖華学園のコミュニティサイトにまで瞬く間にリークされ、両校の生徒たちの間で「今すぐル・ロワイヤルへ巡礼(入店)すべし」という、新たなる絶対至上命令が下されることとなった。
当の発端である如月都姫は、そんな学園内の大狂乱などどこ吹く風。
自分の席で「なんか最近、廊下からの視線がいつもの3倍くらい熱い気がするなぁ。気のせいかな?」と、のんびりお茶を飲みながら、気分屋でゆるふわな空気を醸し出していた。
「都姫ちゃん、今日も世界を滅ぼすレベルで可愛いよ……!」
「ねえ、今日の放課後もやっぱりお店にいるの!? 会長さんと薫ちゃんもいるの!?」
クラスの女子生徒たちが目を輝かせて席を取り囲むと、都姫はコテンと首を傾げ、長い睫毛を揺らしてゆるふわに微笑んだ。
「うん、今日もバイトだよー。会長さんも薫ちゃんも、すっごく可愛いメイド服着て一緒にがんばってくれてるから、みんなも涼みに遊びにきてね」
その女神の無自覚なタラシ発言と完璧な笑顔が向けられた瞬間、教室内では再びハートを撃ち抜かれた男女がバタバタと倒れ、放課後の聖地の予約席は、開店数日前(システム上は一瞬)の段階で過去最高の発注数で完全に埋まるのだった。
学園の鉄の規律を誇る生徒会長すらも無自覚に自らの世界へ巻き込み、聖地の神話をさらに巨大なものへとアップデートしてしまった都姫。
彼女の気ままなゆるふわ無双ライフは、全校生徒の理性を心地よく消し飛ばしながら、どこまでもマイペースに、優雅に続いていくのだった。




