第59話:大繁盛の聖地と、サプライズな新入り
カランカラン、と心地よい鈴の音が響き、如月 都姫はバイト先であるメイド喫茶『ル・ロワイヤル』の更衣室からホールの扉を開けた。
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様……。あれ?」
一歩足を踏み入れた都姫は、いつものゆるふわな様子でコテンと小首を傾げた。
雑誌の表紙を飾ってから初めての出勤日。
普段から、都姫の「シリコン補正なしの本物Gカップ」と「萌え萌えきゅん」を求めて常連客で賑わう店だったが、今日の混み方は明らかに異常だった。
開店直後だというのに客席は満卓。
それどころか、お店の外の階段には長蛇の列ができている。
いつも通りの明恭学園のファンクラブ男子たちに加え、明らかに「雑誌の表紙を見て一目惚れした」と思わしき新規の一般客や、他校の女子高生グループまでが熱い視線をホールに注いでいた。
「わぁ、今日はお客さんがいつもより多いなぁ。時給たくさんもらえるかな?」
都姫がフリルたっぷりのクラシカルなメイド服に身を包み、B99のGカップで胸元をパツパツに押し上げながらのんびり呟いていると、隣から聞き覚えのある、しかしこの店では絶対に聞くはずのない限界突破した声が響いた。
「は、はいっ! お帰りなさいませ、ご主人様っ!!……って、ひゃああん!! 都姫ちゃんのリアルメイド姿、至近距離で見たら尊すぎて心臓がバックドロップされたみたいになっちゃうぅぅぅっ!!」
「え?」
都姫が声のした方を振り返ると、そこにはフリルとリボンに彩られた、これまた異常に顔面偏差値の高い可愛いメイドさんが立っていた。
ウルフカットの銀髪を揺らす都姫の左目のホクロを直視できず、顔を真っ真っ赤にして激しく震えているその美女は、なんと渋谷のスタジオで共に撮影をしたプロモデルの白鳥 薫だった。
「あ、薫ちゃん。どうしてメイド服着てるの~?」
「都姫ちゃん聞いて!! 私、あの撮影のあと都姫ちゃんのことが頭から離れなくて、天音に『お願いだから私もル・ロワイヤルで働かせて! 奴隷でも何でもいいから都姫ちゃんの近くにいさせて!』って五体投地で泣きついたの!! そしたら今日から体験入店させてもらえることになって!!」
薫はプロモデルとしての気品を完全にどこかへ放り投げ、完全に一人の狂信的なオタクとして都姫の細く白い手を握りしめた。
ホールの奥からは、店長である姉の天音が、大量のチェキの注文用紙を両手に抱えてニヤリと笑いながら歩いてくる。
「そういうことよ、都姫。薫はこれでもプロのモデルで顔もいいから、即戦力としてスカウトしたわ。これで今日の『雑誌発売記念・大感謝祭イベント』の売上は過去最高、確定ね!」
「そっかー。薫ちゃんも一緒なら楽しいね。……まあ、いっか。じゃあ、お仕事がんばろー」
気分屋でゆるふわな都姫は、薫が新入りとして入ってきた超展開にも特に動揺することなく、いつも通りのマイペースさでトレイを片手に歩き出した。
「お待たせいたしました、ご主人様。本日のオススメのオムライスです。美味しくなるおまじない、かけますね。……萌え萌え、きゅんっ」
開放的な夏の余韻を残した笑顔で、長い睫毛を揺らして放たれる完璧なウインク。
その瞬間、店内の新規客も常連客も、そして後ろでトレイを持っていた薫までもが一斉に胸を押さえて「うっ……!!」と悶絶し、卒倒しかける男たちの歓声(悲鳴)が店内に響き渡った。
「如月さん! チェキの指名が追加で300件よ! 薫ちゃんも都姫ちゃんとのペアチェキの列に誘導して!」
「はーい、お姉ちゃん。今いくねー」
女装の手間が省けたどころか、全国区の知名度を得てさらに神々しさを増した都姫。
彼女の気ままなゆるふわ無双ライフは、大繁盛の聖地と新入りメイドの薫を従えながら、今日も多くの人々を無自覚に狂わせていくのだった。




