第57話:甘味の宴と、お姉ちゃんの極秘フォルダ
渋谷の高級デザイナーズカフェのソファー席。
席に着くなり、如月 都姫は「えーっと、生クリームチョコバナナパンケーキと、濃厚ガトーショコラ、あと季節限定のいちごパフェとアイスココアで」と、カロリーの暴力のような注文をゆるふわな笑顔で一気に通した。
「本当に全部頼んでいいからね! むしろもっと食べなさい!」
財布の紐をドブに捨てた白鳥 薫は、注文が確定した瞬間から、待ってましたとばかりに身を乗り出して都姫への質問攻めを開始した。
「ねえねえ都姫ちゃん! さっきの撮影の動き、マジで美夜さんそのものだったけど、普段からお母さんにモデルの英才教育受けてるの!?」
「うーん、お母さんがお家のジムとかスタジオでレッスンしてるのを、私がソファーでゴロゴロしながら見てただけだよー」
「見てただけであの神がかったキャットウォークが身につくの!? 遺伝子強すぎでしょ!」
薫が頭を抱えて限界化する中、質問のレイザービームはさらに過熱していく。
「じゃ、じゃあその異次元のスタイルはどうやってキープしてるの!? B99のGカップなのにウエスト60って、どんな過酷なトレーニングをしたらそうなるわけ!?」
「特になにもしてないよ? お家でそうめん食べたり、お徳用のアイス食べたり……あ、でも、歩くだけで胸がすっごく重くて、息してるだけでカロリー使ってる気はするかなぁ」
コテンと首を傾げ、長い睫毛の瞳をうるうると輝かせながら答える都姫。その無防備でお姉さん系な色気に、薫は「うっ……尊い……」と何度も胸を押さえて悶絶した。
そんな薫の様子を優雅にハーブティーを飲みながら眺めていた天音が、ニヤリと不敵に笑ってスマホを取り出した。
「薫、そんなに都姫のスペックに驚いてるなら、これ見せてあげるわ。さっきの撮影の合間、都姫が油断してる時に私が隠し撮りした『極秘データ』よ」
「なによそれ見せて!!」
薫が天音のスマホに吸い寄せられるように画面を覗き込む。
そこに映し出されていたのは、楽屋のソファーでタイトな黒ドレスのまま、大きなぬいぐるみを抱き抱えて完全に省エネモードでうたた寝している都姫の姿だった。
無造作な銀髪ウルフカットの隙間から覗く、涼しげな首筋と左目の下の艶っぽいホクロ。そして、ドレスのフロントをはち切れんばかりに押し上げているGカップの質量が、静かな寝息に合わせてゆったりと上下に波打っている、神々しいまでの無防備ショットだった。
「――っっっ、ギャァァァァァァ!!!(音にならない悲鳴)」
薫はあまりの尊さに顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏した。
「な、何これ……! プロのカメラマンが撮ったやつより、ある意味破壊力が天災レベルなんだけど……! 天音、お願いだからこの写真、私のスマホに今すぐ転送して! 今すぐ!!」
「いいわよ。ただし、今度うちのメイド喫茶に新しく導入するコスプレ衣装の仕入れ、手伝いなさいよね」
「喜んで奴隷になるわ!!!」
がっちりと悪魔の契約(?)を結ぶ天音と薫。
当の発端である都姫は、運ばれてきた山盛りのパンケーキを前に「わぁ、美味しそう!」と目を輝かせ、自分の隠し撮り写真が他校のプロモデルを完全に調教しているとも知らず、あぐあぐと幸せそうに甘味を頬張るのだった。
五万円の臨時収入と薫の奢り、そしてお姉ちゃんの極秘フォルダの更新。都姫の気ままなゆるふわ無双ライフは、放課後の渋谷のカフェでも、周囲の視線を完全支配しながら賑やかに続いていくのだった。




