第53話:降臨した銀髪の天使と、限界オタクの邂逅
天音からの緊急電話を受け、五万円+売上六割という破格の報酬に釣られた如月 都姫は、即座に省エネモードを解除。送迎車をフル活用して、渋谷の大型撮影スタジオへとやってきていた。
自動ドアをくぐり、カツカツとローファーを鳴らしてスタジオの撮影エリアへと足を踏み入れる。
「お姉ちゃん、お待たせー。動いたらお腹空いちゃった」
鈴を転がしたような美声がスタジオ内に響き渡った瞬間、機材を調整していたスタッフや、頭を抱えていたマネージャーの動きが文字通り『静止』した。
そこに立っていたのは、私服のタイトなハイブランドのトップスに身を包んだ、長身ウルフカットの超絶美女。
薄手の生地の上からでもハッキリと分かる、B99のGカップという凶悪なボリュームが激しく主張し、ウエスト60の圧倒的な曲線美を描いている。左目のすぐ下にある艶っぽいホクロが、渋谷のスタジオの照明に照らされて妖艶なオーラを放っていた。
「な、なんだあの次元の違う美人は……!?」
「天音ちゃんが言ってた代役って、まさかあの子……!?」
スタッフ一同がその圧倒的なビジュアルに息を呑むなか、メイク室から飛び出してきた天音の友人、白鳥 薫の視線が、都姫へと完全に釘付けになった。
薫は明るいオタクであり、大の美少女大好き人間である。目の前の光景を脳内処理しようとした薫の顔は、一瞬にして真っ赤に変染し、心臓を爆音で高鳴らせた。
「あ、天音ぇぇぇぇぇぇっ!!! あんた、こんな隠し子がいたなんて聞いてないんだけど!? っていうか、隠し子にしては発育が暴力的すぎるし、何よりその艶のある濃い銀髪の天使は何ものよおおおおっ!?」
薫は尊さのあまり頭を抱え、その場でへたり込みそうになりながら大絶叫した。
「薫、落ち着きなさいよ。隠し子なわけないでしょ、私の妹の『都姫』よ。ちょっと、あんたプロのモデルでしょ、シャキッとしなさい」
天音があきれ顔で薫の肩を叩くが、薫のギラギラとした「美少女ハンターの目」は完全に限界突破していた。
「妹!? 天音の妹って、あのメイド喫茶で可愛い女装男子として働いてた修くんじゃ……って、いや、そんなの関係ないわ! 今私の目の前にいるのは、私の理想と妄想をすべて具現化して、神様が本気で属性を盛りまくったお姉さん系本物の女神様じゃない!!」
薫は都姫の細く白い手を両手でガシッと握り締め、長い睫毛を震わせながら至近距離で見つめてきた。
「都姫ちゃん!! 私、白鳥薫って言います! 今日は代役受けてくれて本当にありがとう! その銀髪ウルフカットも、Gカップのムチムチボディも、左目のホクロも全部が尊すぎて直視できない! 今日は私と一緒に最高の神写真を量産しようね!!」
薫の凄まじい熱量とプレッシャーの前に、都姫はいつものようにコテンと小首を傾げ、うるうるとした瞳でゆるふわに微笑んだ。
「うん、薫ちゃんよろしくね。お姉ちゃんから五万円もらえるって聞いたから、私、ちょっとだけ頑張るよー」
「(……五万円のために、この世界を滅ぼすレベルの美貌が動いてるの、ギャップがシュールすぎて好き……っ!!!)」
都姫のマイペースなゆるふわ発言に、薫は完全にハートを撃ち抜かれ、無言で天を仰いだのだった。
こうして、現場のスタッフ全員の呼吸を止め、プロモデルの薫を一瞬で狂わせた都姫。
いよいよ撮影に向けて、大人っぽいコンセプトの「タイトな黒ドレス」へのお着替えが始まろうとしていた。




