第52話:絶対的エースの出陣(撮影スタジオの異変)
少し前の時間――。
大学生でありながら、メイド喫茶『ル・ロワイヤル』の店長を務める如月 天音は、都内にあるお洒落な大型撮影スタジオの片隅にいた。
今日の目的は、大学の友人であり、プロのモデルやコスプレイヤーとして活躍する白鳥 薫の仕事の見学だった。
薫は明るいオタク、特に「美人と美少女が大好き」という少々極端な趣味の持ち主だが、ひとたびカメラの前に立てば、事務所所属のプロとして見事なポージングを決める実力者だ。
「ふふ、やっぱり薫のポージングは綺麗ね。うちの店でコスプレイベントやる時の参考になるわ……」
天音が腕を組んでそんなことを考えていた、その時だった。
スタジオの入り口のほうが、急に慌ただしく騒がしくなった。カメラマンや事務所のマネージャーが、血相を変えて電話を握りしめている。
「えっ……!? ペアのモデルちゃんが体調不良で来られない!? そんな、もうスタジオの時間も衣装も押さえてあるんですよ!?」
「今から代役なんて、このコンセプトの衣装(ハイブランドの大人っぽいタイトドレス)を着こなせるスタイル抜群の女の子なんて一瞬で見つかるわけが……!」
どうやら、今日の撮影の目玉である「ペアモデル」の片方が、急病で現場に到着できなくなったらしい。
目の前で頭を抱え、パニックに陥っていくスタッフたち。撮影が中止になれば、多額のキャンセル料や大人の事情(損害)が発生してしまう。
メイク室から出てきた薫も、「ええ~っ!? 私の相方ちゃんお休みなの!? 楽しみに執筆してたのに大ピンチじゃん!」と頭を抱えていた。
その様子をじっと見ていた天音の脳裏に、ある一つの、そして最強の選択肢が電撃のようにフラッシュバックした。
(待って……。大人っぽいコンセプトの衣装……スタイル抜群……プロ並みのビジュアル……。そんなの、我が家に『文字通りそのままで完璧』な化け物スペックが1人転がってるじゃない……!)
天音の頭に浮かんだのは、もちろん自分の妹(元・弟)である、如月 都姫の姿だった。
B99のGカップ、ウエスト60という、お姉さん系ムチムチボディ。長身ウルフカットの濃い銀髪に、左目のホクロ。
「あの、マネージャーさん。コンセプトに完璧に合う、とんでもない超絶美人の代役、私に心当たりがあるんですけど」
天音のその一言に、スタッフ全員が縋るように振り返った。
天音はすぐさま、KMH(如月ホールディングス)の社長令嬢としての交渉スキルと、店長としての商売人の血をフル稼働させ、その場で事務所と「基本ギャラ五万円、売上の六割」という、都姫が絶対に断らない破格の条件をリーガルにねじ込んだのだった。
そして今――。
天音がスマホを耳に当て、自宅のリビングでクッションと一体化しているであろう都姫へ向けて、あの不敵なセリフを放つのだった。
「……報酬、出るわよ」
すべてはここから始まった。
プロのモデルである薫ですら想像もしなかった、全校生徒やメイド喫茶を狂わせてきた「生ける女神」が、五万円の臨時収入を夢見て、このプロの撮影現場へと文字通り降臨しようとしていた。




