第51話:気ままな女神と、五万円の緊急代役
姉妹校交流会という大イベントを終え、学校も放課後のメイド喫茶のシフトも完全にオフ。
如月 都姫は、これ以上ないほど贅沢な休日を大満喫していた。
「うーん……やっぱりゴロゴロするのが一番だなぁ……」
自宅の広々としたリビングのソファーの上で、都姫は特大のクッションにしがみつきながら、限界までだらだらとしていた。
長身の体を寝返らせるたびに、ウルフカットの濃い銀髪が乱れ、はだけた大きめのTシャツの襟元から、B99のGカップという凶悪なボリュームが重力に従って形を変えている。ウエスト60の細いお腹がチラリと覗いているが、オフモードの都姫は気にする素振りすら見せない。完全に省エネモードである。
ソファーの背もたれに頭を預け、クッションを抱きしめながら、テレビのバラエティ番組をぼんやり眺めている。
テーブルには、食べかけのポテトチップスと、冷たい麦茶。
まさに、休日を全力で満喫するダメ人間の完成形だった。
「今日は何もしないぞぉ……」
ごろり。
「お昼寝してぇ……」
ごろごろ。
「お菓子食べてぇ……」
ごろり。
「またお昼寝する……」
完璧な計画である。
ちなみに、母親の美夜はそんな娘を見ても、特に何も言わなかった。
「あらあら、都姫ちゃん。今日はのんびりなのねぇ」
「うん〜。今日は完全休業日なの〜」
「ふふっ。じゃあ、お昼にプリンでも作ろうかしら」
「やったぁ〜」
……この親にして、この子あり。
そんな、平和そのものの休日。
しかし。
その静寂を破るように、都姫のスマートフォンが震えた。
ブブブブブッ。
「……んぁ?」
ソファーに埋もれていた都姫が、片目を開ける。
テーブルの上で震えるスマートフォン。
画面には、見慣れた名前が表示されていた。
『お姉ちゃん』
都姫は面倒くさそうに細く白い指先で画面をスワイプし、耳元に当てる。
「もしもし? お姉ちゃん、どうしたのぉ~?」
『都姫! あんた今日、完全にフリーだったよね!? ちょっと今すぐ手伝ってほしいことがあるんだけど!』
電話の向こうの天音の声は、いつになく焦っており、切羽詰まった様子がビンビンに伝わってきた。
しかし、コタツやこたつ代わりにソファーと一体化している都姫は、長い睫毛を眠そうに揺らす。
「なんのお手伝い~? 私、今すっごく居心地がよくて動きたくないんだけど……」
『大緊急事態なのよ! 私の大学の友人の白鳥薫って子、前に話したプロモデルのオタクなんだけど、今日その子の事務所の撮影が入ってたの! なのに、もう一人のペアモデルの女の子が、急な体調不良で現場に来れなくなっちゃったらしくて!』
「そっかー、それは大変だねぇ……」
『スタジオの予約時間もあるし、衣装も用意されてるから、今すぐ代役を探さなきゃいけないのよ! 薫から泣きつかれて、私、あんたのあの歴史的な美貌と異次元のスタイルしか思い浮かばなくて! お願い、今すぐ現場に来て!』
「うーん、でもやっぱり動きたくないなぁ~、めんどくさいしぃ……」
都姫がクッションに顔を埋めて完全に拒絶の姿勢を見せると、電話の向こうの天音が一瞬だけ沈黙した。
そして、妹(元・弟)の「ゆるふわだけどお金(時給)にはシビア」な性格を完全に熟知している姉は、不敵にニヤリと笑って切り札を提示した。
『……報酬、出るわよ』
その瞬間、都姫のウルフカットの銀髪がピクッと跳ね、左目のすぐ下のホクロが怪しく光った。
「ほう?」
『基本ギャラとして……現金五万円。プラス、今回の撮影グッズや写真の売上の六割を、あんたの取り分として事務所に一瞬でねじ込んであげたわ』
ソファーの上で這いつくばっていた超絶美女は、まるで獲物を見つけた肉食獣のような鋭さで上半身を跳ね起こした。鈴を転がしたような美声が、リビングに凛々しく響き渡る。
「やります。」
動揺ゼロ、驚異のスピードで新しいお仕事を受け入れた都姫。
現金五万+売上六割という、高校生にとってはあまりに破格すぎる、かつ父親の玲司の影をちらつかせるリーガルなバックアップの匂いすらする報酬を前に、彼女の「ゆるふわ省エネモード」は一瞬にして吹き飛んだ。
「お姉ちゃん、場所どこ? 今すぐ着替えて向かうね」
『さすが話が早いわね! 場所は渋谷の大型スタジオよ、薫と一緒に待ってるから急いで!』
電話を切った都姫は、「よし、五万円のためにちょっとだけ本気出しちゃおうかな」と、お着替え部屋から適当なハイブランドの私服を引っ張り出し、カツカツとローファーを鳴らして玄関へと向かうのだった。
自分の規格外のビジュアル(Gカップムチムチボディ+ウルフカット銀髪)が、プロの撮影現場にどれほどの「大狂乱」をもたらすかも知らずに、気ままな女神は五万円の臨時収入を夢見て、初めての「モデルの現場」へと出陣するのだった。




