第30話:女神の休息、あるいは究極のだらだら(如月家の日常)
海での大騒ぎから数日後。その日の都姫には、学校の予定も、姉に強制されるメイド喫茶のシフトも一切なかった。
つまり、完全なるフリーの休日である。
「うーん……動きたくないなぁ……」
自室のベッドの上で、如月都姫は大きなぬいぐるみにしがみついたまま、限界までだらだらとしていた。
学校では完璧な美貌と天才的な頭脳で周囲を圧倒している彼女だが、その本質は「気分屋でゆるふわ」。オフの日はとことん省エネモードになるのが都姫という少女だった。
長身をベッドの上で寝返らせるたびに、ウルフカットの銀髪が乱れ、少しはだけた大きめのTシャツの襟元から、Gカップという凶悪なボリュームが重力に従って形を変える。細いお腹がチラリと覗いているが、本人は気にする素振りすら見せない。
「都姫ー。お昼ご飯できたわよー」
階下から美夜ののんびりとした声が聞こえると、都姫は「はーい……」と力ない返事をして、トボトボとリビングへ這い出していった。
リビングのソファに到着するや否や、都姫は再び横になり、クッションを抱き抱える。
「あんた、せっかくそんな歴史的な超絶美女になったんだから、もう少しシャキッとしなさいよ。見てる私の美意識が削削削られるわ」
大学の課題を片手に冷たい麦茶を飲んでいた天音が、呆れたようにため息をつく。
「えー、お姉ちゃん。家の中くらいゴロゴロさせてよ。今の私、息してるだけで結構カロリー使ってる気がするんだよね。胸が重いし」
「それはアンタのスペックが規格外すぎるからでしょ!」
父の玲司は本を読み、
お昼ご飯のそうめんを優雅に、しかしどこか眠そうに手際よく平らげると、都姫は再びソファと一体化し、スマホで動画を見ながらゴロゴロと過ごした。
豪華な家の広いリビングなのに、家族が集まるソファの周りだけは妙に生活感があった。
都姫はそこに潜り込み、動画を見たり、母とアイスを分け合ったりして過ごす。
「休日くらい運動したら?」と天音が言うと、都姫は「さっき冷蔵庫まで歩いたよ」と真面目に返した。
その答えに家族全員が笑う。
どれだけだらだらしようとも、左目の下のホクロから漂うお姉さん系の気怠げな色気は健在で、無防備な姿のまま夕方までひたすら充電を続ける、ゆるふわな女神の贅沢な休日だった。




