第25話:女神の不在とどん底の聖地(久しぶりのメイド喫茶)
怒涛の中間テストと手料理パーティーを無事に終え、如月都姫は久しぶりに放課後のメイド喫茶『ル・ロワイヤル』へと向かっていた。
「テスト期間中、丸々1ヶ月もお休みしちゃったからなぁ。お姉ちゃんにもお店の人にも迷惑かけちゃったかも。怒ってないといいんだけど……」
ウルフカットの銀髪を揺らしながら、いつものゆるふわな足取りでバイト先の扉に手をかける。テスト勉強にクラスの補修、そして手料理の準備と大忙しだった都姫にとって、本当に久しぶりの出勤だった。
カランカラン。
「……お帰りなさいませ、お嬢様……あ、都姫ちゃん……?」
扉を開けた瞬間、都姫は「あれ?」と小首を傾げた。
いつもなら明るい萌え萌えソングが流れ、笑顔のメイドたちと熱気あふれるご主人様たちで賑わっているはずの店内が、まるで世界の終わりかのようにどんよりと暗く静まり返っていたのだ。照明のトーンまでいつもより暗く感じられる。
ホールの真ん中では、天音が魂の抜けたような顔でトレイを持って突っ伏していた。
客席を見渡すと、常連客が、お通夜のような暗い表情で、冷めきったコーヒーを力なくストローで混ぜている。店全体が、重苦しい「都姫ロス」の絶望に包まれていた。
「お姉ちゃん、みんな、おはよう。今日からバイト復帰するね」
鈴を転がしたような美声が店内に響き渡った。
――その瞬間、店内の空気が文字通り『静止』した。
ガタタタタッ!!! と、突っ伏していた姉が跳ね起き、客席の男たちが一斉にガタッと椅子を鳴らして入り口を振り返る。
「都姫ええええええええええ!!! あんた、本当に帰ってきたのね!!!」
天音が涙目で都姫に飛びついてきた。
「あんたがテスト期間で1ヶ月も来ないから、お店の売上はガタ落ち、常連客はみんな生ける屍みたいになっちゃって、スタッフみんななんか毎日神棚に『都姫様を早くお返しください』って拝んでたんだからね!?」
「あはは、お姉ちゃん大袈裟だよ」
都姫は苦笑いしつつ、急いで更衣室へ向かい、フリルたっぷりのメイド服に着替えた。
1ヶ月ぶりのメイド服。Gカップがタイトな胸元を限界まで押し上げ、ウエストラインが完璧な曲線美を描き出す。左目のホクロから漂うお姉さん系の色気は、テストを終えて少し大人っぽくなったせいか、以前よりもさらに神々しさを増していた。
更衣室から都姫が一歩足を踏み出すと、店内のどん底だった暗雲が一瞬にして消え去り、目も眩むような聖なる光が満ち溢れた。
「大変お待たせいたしました、ご主人様、お嬢様。今日からまた、都姫が心を込めてお給仕させていただきますね」
都姫が両手を前に合わせ、完璧なゆるふわ笑顔で一礼する。
その瞬間、生ける屍のようだった常連客たちの目に、一斉にギラギラとした生命の炎が蘇った。
「うおおおおおおおおん! 都姫ちゃんが帰ってきたアアアア!!」
「この1ヶ月、俺たちの世界には太陽がなかった……! 今、世界が救われた!!」
「如月さん! チェキの指名が200件超えたわ! オムライスのおまじないも全テーブル同時よ!」
「はーい、お姉ちゃん。今いくね」
都姫が1ヶ月のブランクを物ともせず、至近距離での「萌え萌え、きゅんっ!」を連発するたびに、店内の至る所で尊さのあまりに撃沈する男たちの歓声(悲鳴)が響き渡る。
暗かったメイド喫茶は一瞬にして過去最高の熱気と売上を叩き出し、完全なる「聖地」へと大復活を遂げたのだった。




