人生の適性検査
表向きは不動産会社、裏では怪異と境界を管理する組織。
新人5人を待っていたのは、知識を学ぶだけの研修ではなかった。
怪異への対処、判断力、そして命懸けの実戦。
それぞれの能力と覚悟を試される中、5人は自分たちが関わる世界の厳しさを知る。
境界に関わる者たちの新たな記録が始まる。
エレベーターの到着ベルが鳴る。
ホーククロー「入れ。左側は適性検査用の部屋だ。試験は4項目。行くぞ。」
研修生が挙手。
「あの、内容は…」
ホーククロー「敵が己が性質を先に教えてくれると思うのか。実践だと思え。」
一気に緊張感が強くなった。ただの研修の検査ではない。既に始まっていた。判断力が求められる。生きるか死ぬか。
ホーククロー「検査では無いがまず面談だ。全員コードネームを確認しろ。全員名乗れ。」
男「シダーです。」
男「ウルフです。」
男「フリントです。」
女「リンクスです。」
女「アイビーです。」
ホーククロー「連携でコードネームは必須だ。お互いのコードネームを忘れるな。」
ホーククロー「1項目目は筆記テストだ。時間は10分。あらゆる場面の選択肢がある。迅速に判断しろ。始め。」
ホーククローが目の前に腕を組んで立っている。ただの威圧感では済まない。筆記だからといって安心できる訳ではなかった。
ホーククロー「終了だ。2項目目は射撃テストだ。弱点は赤い印がある。何回当てたか覚えておけ。現場での報告を意識しろ。5分だ。始め。」
アイビーが撃った瞬間体が跳ねた。実弾。日本で。研修生の適性検査で。ひたすら赤い的を狙い撃ち続けた。まだ2つしか検査は終わっていない。それなのに消耗が激しい。
ホーククロー「終了。3項目目は境界感知試験だ。全員部屋へ入れ。30分間中にいてもらう。終わったら紙に報告書形式で書け。始め。」
初めの合図が聞こえた瞬間。リンクスが固まった。視線も動かせない程怯えている。フリントは何も感じないらしい。ウルフは一点を見つめ近づき始めた。今回の検査は個人差が激しいようだ。
リンクスの呼吸が荒れ始めた。誰よりも感知能力が高いらしい。
アイビー「リンクス…?」
返事がない。ただ怯えている。境界の先の何かに。
シダーは冷静に辺りを見渡している。
ホーククロー「終了。出口に紙がある。まとめろ。」
リンクスは手を震わせながら、ウルフはスラスラと、アイビーだけは作文のような長文を書いた。
ホーククロー「全員書いたな。次は…」
遮るようにリンクスが言葉を発する。
リンクス「あ、あの…御手洗行かせてください…」
ホーククロー「任務中もそれが言えるのか。お前は。まぁいいすぐに戻れ。」
リンクスは一礼し、走っていった。遠くから嗚咽が聞こえる。酔ったのか何か見たのか。数分で涙目になりながら帰ってきた。ホーククローは触れない。
ホーククロー「行くぞ。4項目目。戦闘訓練だ。武器は揃ってる。好きなものを使え。害の少ない怪異を部屋の中に放す。死にはしない。安心しろ。」
空気が凍りついた。唐突の実践。体育館程の広い部屋。戦闘経験などない。
だがホーククローは待ってはくれない。
ホーククロー「全て倒せ。始め。」
シャッターが空いた。三体の影が近づいてきた。人型、犬のような形、モヤのような実態があるかも分からない怪異。喰われたら死ぬと本能が感じ取っている。
アイビー「きょ、協力しよう。」
フリント「でもどれから…」
ホーククローは腕を組んでまじまじと見ている。何も言わない。自身の研修の時と同じだ。唐突のことで動揺。そこからどうするのか。ピンチからどの手札を使うのか。
シダーは微動だにしない。怖気付いたか。
アイビー「人型から倒そう。捕獲は選択肢にないし。人に近い形なら多少は知能が高いはず。厄介になる。その後犬型。その後モヤ。」
フリント「惹きつけるから叩いてくれ。いくぞ!」
シダー「待て!」
シダーが叫ぶ。
フリントが走り出すと人型と犬型が反応しとてつもないスピードで走り出した。
アイビー「犬…!動くものに反応したんだ…!しまった……!」
ウルフが逆へ回りこみ剣で犬型を真っ二つにする。犬型が消滅した。
4人と人型の動きが止まった。
ウルフ「人型!!!!」
全員我を失っていたようだった。咄嗟に動き出す。人型はフリントに向かって走り出す。
フリント「今だ!!」
シダーが短剣で頭を貫く。人型が消滅した。
ウルフ「あとはモヤ。」
リンクス「待って!!!」
ウルフが硬直する。あと一体だ。こいつをやれば終わりだ。なぜ止める。
ウルフ「何言ってんだ。命令は全て倒せだ。」
リンクス「……敵意がない。私たちに脅えてる。存在してるだけで無害な怪異に手は出さない。」
全員が思い出した。ホーククローの言葉を。
"必要なものは排除。存在だけの無害なものには手を出すな。"
だが命令は全て倒せ。これもまた判断力なんだ。
ホーククロー「追加だ。」
シダー「え……」
ホーククロー「異常事態など当たり前だと思え。」
予告無しの怪異追加。明らかに大きい3m越え。単眼の大口。3本の腕。爬虫類のような。素早い動きでアイビーを狙い謎の霧を出す。
アイビー「え……なに…………」
リンクス「アイビー!!!」
アイビーが力なく倒れた。毒か、睡眠か。どれだ。頭の回転がまとまらない。
ウルフ「フリント!足狙え!」
フリント「クッソ!!!!!がぁぁ!!」
標的がフリントに変わる。その隙にリンクスはアイビーの元へ寄る。
リンクス「アイビー…!脈ある…。寝てるだけだ。ガスは睡眠ガス!気をつけて!」
ウルフ「フリントいくぞ!」
フリント「足…ここだぁ!!」
怪異の断末魔が聞こえる。鼓膜が破れそうだ。至近距離に居るフリントは膝から崩れ落ちている。
シダー「背中の筋断ち切れ!」
静かに怯えていたとしか思えなかったシダーが叫び出した。怯えていたのではなく観察していた。実態がある。ガスを生成する。ならどこかに神経系等の役割器官があるはずだ。
ウルフに怪異の目が向く。腕がウルフへ向かって猛スピードで近づいてくる。避けられる距離じゃない。
ウルフ「くそ……!!!」
ウルフが覚悟し、受身を取ろうとした時。
フリント「がっ……!!!」
断末魔で動けなくなっていたフリントが飛び出し代わりに攻撃を受けた。
ウルフ「お前…クッソ…。今だな…!!」
ウルフが背中を断ち切った。怪異は硬直し消滅。最後の呻き声が漏れていた。
十何秒の沈黙。目の前で怒ったことが現実かもわからなかった。
ホーククロー「終了だ。フリントとアイビーは医務室へ。全員集まり次第配属先を伝える。いいな。」
リンクス「アイビー…。終わったよ。起きてってば…」
-医務室-
広い清潔な医務室。ベッドが何台もある。それだけけが人が出るのだろう。それを考えるだけでもゾッとした。
女医「相変わらずスパルタするねぇ。」
リンクス「あの…アイビーは…」
女医「すぐ起きるよ。安心しな。フリントだったか。あの子の方が酷い。なんで折れてないのか分からないよ。ただ打撲はしてる安静にしないとね。湿布も貼っておく。」
フリント「体だけは丈夫っすよ!あだだ…」
女医「それに頼りすぎると早死するよ」
話しているうちにアイビーが目を覚ました。
リンクス「アイビー!大丈夫?」
アイビー「ん…。平気。声聞こえてた……。ありがとう。」
リンクス「良かった…」
女医「怖かったかい。目の前で人が死ぬかもしれない状況は。」
リンクスは図星だった。唇を噛み体が硬直している。
女医「これからもっと怖いことが数え切れないほどある。やっていけんのかい。」
リンクスは黙っていた。すぐに答えが出る問いではない。目の前で人が死にかけた。何も出来なかった。これより怖いことがあるのか。
女医「しっかり考えな。配属もまだ聞いてないんだろ。フリントは車椅子だ。全員戻りな。」
リンクスの背中をポンと押す。
9階
ホーククローが待っていた。
ホーククロー「戻ったか。全員大丈夫そうだな。配属だがシダーは研究部。観察力は十分だ。どの状況でも冷静だったのは評価する。ウルフは制圧部第1部隊。俺の直属だ。荒いが磨けば光る。フリント。お前も制圧部だ。第2部隊。反応速度と覚悟は評価する。ただし死に急ぎすぎだ。アイビーは情報管理部だ。今回は知識不足と焦りが目立った。そこを磨いてこい。だが誰よりも早く皆をまとめ指示を出せたことは評価に値する。リンクスは観測部だ。感知能力は群を抜いている。ただし飲まれるな。感じ取れることと、耐えられることは別だ。5人とも、今日は運が良かったと思え。研修は2度はない。」
ホーククローが背中を向け歩き出したが数歩で止まった。
ホーククロー「配属先は墓場じゃない。帰る場所だ。それと今日の評価はあくまで今日のだ。明日からは意味を持たない。以上。解散。」
5人の体から力が抜けた。リンクスとアイビーは腰を抜かし座り込んでいる。命懸けの研修が終わった。ただし全てはここからだ。




