発展の干渉
1984年、東京。
人間はかつてない速度で発展を続け、夜を照らす光や巨大な建造物によって世界の姿を変えていた。
しかし、その発展は境界にも影響を与えていた。
還すべきものを還し、現世と常世の均衡を守り続ける境界守は、これまで存在しなかった異変を目にする。
人の手によって傷が悪化し続ける境界。
本来なら還るはずだった怪異。
そして、怪異に干渉する人間たち。
変わりゆく時代の中で、境界守は新たな存在の気配を感じ取る。
世界は変わった。とてつもないスピードで。
「明るくなったなぁ。松明もいらないもんなぁ。」
1984年。東京。
人間の発展の速さは予想異常だった。光や電気を扱えるようになってからは見違えるほど。自分たちが便利なものを作り商売をする。よくできたもんだ。
あたしは相変わらず還し境界を守る。人間の事も多少は勉強したんだ。甘味はお気に入り。あれは罪深いね。
深夜2時。
「しゃー。巡回。建物が高いから見渡しやすいのはありがたいね。」
建物の屋上伝いに飛んで移動する。
2階建ての家壁に境界の亀裂。だが様子がおかしい。無理やり閉じてある。浄化もしていない。焼け焦げた跡。
「誰がやったの。こんなやり方じゃ世界が混濁する。かなり放置してるし…」
ナイフで切られた傷を消毒もせずに焼いている様なものだった。悪化しないわけがない。
「穢れは還り、境界はあるべき姿へ。」
声が空間に染み渡った。壁面の焼け焦げた傷痕に触れる。
鍵が光を帯びた。修復の光。
縫い合わせるのではなく、傷そのものを浄化し、境界の組織を"あるべき姿"に戻していく。
黒ずんだ瘢痕が、ゆっくりと色を失っていった。焼き漬された境界の縁が、まるで時間を巻き戻すかのように再生していく。損傷した深層から順に、一層ずつ、丁寧に。
「ここはいいとして。こんな事するのは…」
知っている限り思い当たるのは一つ。人間。怪異は境界に触れる必要がない。こんな事までできる様になったのか。ただ適切な方法じゃないのがタチが悪い。日本の他の地域にはなかった。
「東京中心で探すか。とりあえず自然多めな場所を巡回。」
しばらく経った頃。発見。小型の怪異が喰われた跡だ。そんなに時間は経っていない。直ぐに行けば…
その時、黒いスーツを着た女が2人。怪異の死体に近づいていく。
おかしい。明らかに怪異を直視している。人間に怪異が見えるなんて滅多にない。何か資質があるのか。
1人が箱を取り出し怪異の死体を入れた。何かの組織か。怪異の死体を何に使うんだ。
「何やってんだ。還さないと境界が。くそ…。人間は余計な事ばかり…」
鍵を取り出し2人の女の真下の境界を開き100m先に繋げる。怪異が入った箱が地面に落ちた。
箱の元へ着地し拾う。特殊な金属。構造も結界に似ている。
「何これ。怪異の気配まで遮断されてる。こんなことまでするようになったの…。還してあげるからね。」
箱に境界の亀裂を入れ死体を出す。
鍵を手に取り境界を開く。
「境界は開かれた。汝を、還るべき場所へ送る。」
手を当て呟く。人間の手に渡らなくてよかった。今はただそれだけ。
同じ時刻。安心する境界守が気づかない距離から、また黒いスーツを着た男が見ていた。
男「こちら観測部ダリル。新規怪異発見。ゲート使用あり。危険度、敵意不明。監視を続行。」
慣れた報告だった。




