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無能と罵られ婚約者も奪われたので全てを捨てて辺境でスローライフを始めます  作者: 希羽


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第6話:エルフの集落と、ただの『害虫駆除』

 シルフィと一緒に暮らし始めて、数日が過ぎた。

 美味しいご飯を食べ、温かいお風呂に入り、ふかふかのベッドで眠る。

 そんなストレスフリーな生活のおかげか、俺の魔力はさらに澄み切り、ただ深呼吸をするだけで周囲の植物がイキイキと育つようになっていた。

 だがその日の朝、朝食の席でシルフィがどこか浮かない顔をしていた。


「シルフィ、どうした? どこか痛むのか?」

「あっ、い、いえ! ルーク様のおかげで体はすっかり元気なのですが……その……」


 シルフィは膝の上でギュッと手を握りしめ、申し訳なさそうに俯いた。


「実は私……ルーク様にお会いしたあの日、集落を救うための薬草を探して、森の奥へ向かっていたのです」

「集落を救うため?」

「はい。私の住むエルフの隠れ里は、猛毒のデス・タランチュラという恐ろしい魔獣の群れに襲撃されていまして……。このままでは、結界が破られ、みんな食べられてしまいます……っ」


 デス・タランチュラ。


 たしか、王都の騎士団が一個大隊を組んでようやく討伐できるかどうかの、Aランク相当の危険な魔獣だ。


「どうしてもっと早く言わなかったんだ?」

「だ、だって……ルーク様には命を救っていただき、こんなに良くしていただいているのに、これ以上ご迷惑をかけるわけには……っ!」


 シルフィはポロポロと涙をこぼした。

 自分の命より、俺への恩儀を優先してしまったらしい。本当に健気で、真面目な子だ。


「迷惑なもんか。シルフィの家族なら、俺にとっても助けるべき隣人だろ」

「ル、ルーク様……」

「よし、善は急げだ。すぐに行こう」


 俺は立ち上がり、シルフィに里の方向を指差してもらった。


「歩いていくと時間がかかるからな。『空間転移テレポート』」

「えっ? きゃあっ!?」


 俺が指を鳴らした瞬間。

 視界がふわりと歪み、俺とシルフィは、鬱蒼とした深い森の奥深くへと一瞬で移動していた。


 ◇◇◇


「ひ、ひぃぃっ……! 結界が、もう保たないぞ!」

「長老様! どうかお逃げください!」


 エルフの集落は、まさに地獄絵図の一歩手前だった。

 集落を覆う薄い緑色の結界に、見上げるほど巨大な毒蜘蛛が何十匹も張り付き、紫色の酸を吐きかけて結界を溶かそうとしている。

 集落の中では、美しいエルフの男女が身を寄せ合い、絶望の涙を流していた。


「あぁ……我らエルフの歴史も、ここで終わるのか……精霊王様、どうかお助けを……っ」


 杖をついたエルフの長老が、天を仰いで祈りを捧げた。

 バリィィッ! という音と共に、ついに彼らの結界が砕け散る。

 巨大な毒蜘蛛たちが、獲物を求めて一斉に雪崩れ込んできた。


「みんなっ!!」


 俺と一緒に転移してきたシルフィが、悲痛な叫び声を上げる。


「シルフィ!? お前、生きて……いや、逃げなさい! ここに戻ってきては駄目だ!」

「長老様! 大丈夫です、ルーク様が来てくださったから!」


 シルフィの声に、エルフたちが一斉にこちらを向いた。

 だが、俺の姿を見て、彼らの顔はさらに絶望に染まった。


「に、人間の子ども一人を連れてきたところで、この魔獣の群れをどうにかできるわけがないじゃろうがぁっ!」

「うん、まあ、普通はそう思うよな」


 俺はため息をつきながら、群がり来る巨大な蜘蛛たちに向けて、スッと右手をかざした。

 あの時、俺が王都の地下で張っていた防衛結界に比べれば、この蜘蛛たちの魔力など、ホコリのようなものだ。


「こんなデカい蜘蛛がウロウロしてたら、シルフィが安心して暮らせないからな」


 俺は、普段家の中を掃除する時に使う、ごくごく初級の生活魔法を起動した。


「『害虫駆除バグ・キラー』」


 ピシャァァァァァァァァァンッ!!!!


 その瞬間、天から無数の白銀の閃光が降り注いだ。

 それは、空間そのものを浄化する絶対的な光の矢。


「「「ギィャァァァァァァッ!?」」」


 数十匹いた巨大な毒蜘蛛たちは、逃げる暇すら与えられず、一瞬にして光に包まれ――塵一つ残さず、完全に消滅した。

 毒の沼に沈みかけていた周囲の森も、浄化の光を浴びて、一瞬で美しい緑を取り戻していく。


「……え?」


 静まり返った森の中で、エルフたちの間の抜けた声だけが響いた。

 彼らは信じられないものを見るような目で、綺麗に消え去った蜘蛛たちと、平然と手を下ろす俺を交互に見つめている。


「よし、駆除完了。これで安心だな、シルフィ」

「はいっ! さすがはルーク様! どんな魔獣も、ルーク様の前ではただの羽虫と同じです!」


 シルフィが誇らしげに胸を張り、俺の腕にギュッと抱きついてくる。


「シ、シルフィや……。その御方は、いったい……?」


 腰を抜かした長老が、震える声で尋ねてきた。


「長老様、皆様! こちらが、私を死の淵から救ってくださった、生ける大地の神、ルーク様です!」

「か、神……っ!? おおぉぉぉっ! やはり精霊王様は我らを見捨ててはおられなかった!!」

「「「神の御使い様ぁぁっ!!」」」


 気付けば、何百人ものエルフたちが俺に向かって一斉に土下座し、祈りを捧げ始めていた。


 ……どうやら俺は、美少女エルフだけでなく、エルフの集落丸ごとから崇拝されることになってしまったらしい。

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