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無能と罵られ婚約者も奪われたので全てを捨てて辺境でスローライフを始めます  作者: 希羽


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第4話:ただの農作業が、神の奇跡と呼ばれる件

 翌朝。

 更地に建てた豪邸のキッチンで、俺はシルフィに温かい朝食を振る舞っていた。


「んんっ……! 美味しいです! こんなに美味しいスープ、生まれて初めて食べました……!」


 目をキラキラさせながら、シルフィがパンをスープに浸して頬張っている。


「そりゃ良かった。昨日採ってきた香草が良かったのかもな」

「いいえ! これはルーク様の愛と神聖な魔力が込められているからです! あぁ、世界中のエルフに食べさせてあげたい……!」


 俺が作ったただのスープを、彼女はエリクサーか何かのように有り難がっている。

 少し大げさだが、誰かに自分の作ったものを喜んで食べてもらえるというのは、悪くない気分だ。


「ごちそうさまでした! あの、ルーク様。私にも何かお手伝いさせてください!」

「手伝い? うーん、今は特にないけど……あ、そうだ。せっかく庭が広いし、畑でも作ろうと思ってたんだ」

「畑、ですか?」

「ああ。毎日森へ採集に行くのも面倒だし、家の前で野菜を育てられれば便利だろ?」


 俺は立ち上がり、シルフィを連れて庭(という名の広大な更地)へ出た。

 とはいえ、(くわ)で一から耕すのは骨が折れる。ここでも魔法を使わせてもらおう。


「えっと、土を柔らかくして、(うね)を作って……『土壌改良(ソイル・メイク)』」


 ドズズズズズッ!!


 俺が軽く魔力を放った瞬間、目の前の広大な大地が波打ち、一瞬にして美しく整地された巨大な畑が出来上がった。

 土からはキラキラと魔力の粒子が立ち上り、最高の栄養状態であることを示している。


「よしよし。ここに種を撒いて……『成長促進(グロウアップ)』と」


 パラパラと撒いた種に向かって、初級の育成魔法をかける。

 すると――。


 ボシュッ! バシュシュシュッ!!


 撒いた種が、目にも留まらぬスピードで発芽したかと思うと、わずか数秒で大人の背丈ほどの巨大なトマトや、スイカサイズのキャベツに成長した。


 しかも、どれも宝石のように瑞々しく輝いている。


「大豊作だな。これで当分、食料には困らないぞ」


 俺が満足げに頷いていると、隣でシルフィがへたり込んでいた。

 震える指で、巨大なトマトを指差している。


「ル、ルーク様……。たった数秒で、枯れた大地を『世界樹の苗床』に変え、神話級の霊草を実らせてしまうなんて……」

「霊草? いや、これただのトマトだけど」

「ただのトマトから、こんなに膨大な生命力が溢れ出すはずがありません! 一口食べただけで、寿命が百年は延びそうです……! やはりルーク様は、創世の神様だったのですね!」


 シルフィは地面に平伏し、祈りを捧げ始めた。


 ……まあ、彼女が喜んでいるなら、トマトだろうが霊草だろうがどっちでもいいか。

 俺は採れたてのキャベツをかじりながら、澄み切った青空を見上げた。


「それにしても、平和だなあ」


 ◇◇◇


 一方その頃。

 王都は、かつてないパニックに陥っていた。


「どういうことですの!? 結界の魔力漏れが止まらないなんて!」


 宮廷の地下にある結界の制御室で、アリアが金切り声を上げていた。

 彼女の美しい金髪はパサパサに乾燥し、自慢の白い肌には深い隈ができ、シワが目立ち始めている。


「アリア! 早く結界を修復しろ! 西門から中級魔獣のオーガが侵入したぞ!」


 レオン王子が血相を変えて制御室に飛び込んできた。


「や、やっていますわよ! でも、この魔導具、ルークが残した術式が複雑すぎて、私の魔力をいくら注いでも全部弾かれてしまうんです!」

「馬鹿な! たかがルークの魔法だぞ! お前の方が優秀だと言っていたではないか!」

「そ、それは……っ!」


 アリアは焦燥感に駆られながら、魔導具に強引に魔力を流し込んだ。

 だが、その瞬間。


「キャアアアアッ!?」


 バチィッ!という火花と共に、魔導具から強烈な拒絶反応が返ってきた。

 ルークが構築した超高密度の防衛術式は、アリアのような低級な魔力を異物とみなし、強制的に弾き出したのだ。


「あ、ああ……! 私の、私の魔力が……!」


 すべての魔力を完全に弾かれ、アリアは床に崩れ落ちた。


「ちぃっ! 使えない女め! 騎士団を総動員して、魔獣を食い止めろ!」


 王子はアリアを冷酷に見下し、そのまま部屋から出て行ってしまった。


「待って……殿下、見捨てないで……っ」


 誰もいなくなった薄暗い地下室で、アリアは震える手を抱きしめた。

 かつてルークは、この冷たい地下室で、文句一つ言わずに十年間も一人で魔力を注ぎ続けていたのだ。


「ルーク……ルーク、助けて……」


 初めて、彼女の心に激しい後悔が押し寄せた。

 だが、彼が戻ってくることは二度とない。

 王都の崩壊は、まだ始まったばかりだった。

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