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無能と罵られ婚約者も奪われたので全てを捨てて辺境でスローライフを始めます  作者: 希羽


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第14話:ワイバーンのバーベキューと、震える大国

『グルルルルォォォッ!』


 ズシン! という地響きと共に、クロが村の広場に着地した。

 空の散歩から帰還した俺たちを、エルフの村人たちが総出で出迎えてくれる。


「ルーク様、シルフィ! おかえりなさいませ!」

「おう、ただいま。ちょっと遠出してたから、お土産を持ってきたぞ」


 俺がクロの背中からヒョイッと飛び降りると、長老が不思議そうに首を傾げた。


「お土産、でございますか? いったい何を……」

「これだよ。『土倉解放ストレージ・オープン』」


 ドサァァァッ!!


 俺が亜空間の倉庫から取り出したのは、隣国の姫騎士たちを襲っていた『ワイバーン(飛竜)』の山だった。

 クロの威圧で気絶したままだったので、せっかくだからと血抜きと解体魔法をかけて、食用として持ち帰ってきたのだ。


「「「ヒィィィィィィッ!?」」」


 エルフたちが、またしても一斉に白目を剥いて悲鳴を上げた。


「わ、わ、ワイバーン!? 空の暴君と呼ばれるBランク魔獣が、こんなに大量に……っ!?」

「あ、ああ……! ルーク様は、お散歩のついでに竜の群れを狩ってこられたのですね……! なんという神の御業……っ!」


 エルフたちが一斉に地面にひれ伏し、ワイバーンの死体(お土産)に向かって祈りを捧げ始めた。


 相変わらずリアクションが大きすぎる。


「シルフィ、みんなに言ってくれ。今夜はこいつの肉でバーベキューにするから、宴会の準備をしてくれって」

「はいっ! ルーク様が狩ってくださった竜のお肉……食べたら、魔力が爆発してしまいそうです!」


 シルフィは嬉しそうにエルフたちに指示を出し始めた。


 ワイバーンの肉は筋が多くて硬いと言われているが、俺の『超軟化魔法』と特製ダレに漬け込めば、最高級の牛肉のようにとろけるはずだ。


 今夜もまた、平和で美味しいスローライフが待っている。

 俺は大きく伸びをして、澄み切った青空を見上げた。


 ◇◇◇


 その頃。

 隣国のルミナス王国、王城の謁見の間。


「――以上が、我々が国境付近で遭遇した事の顛末でございます」


 泥だらけの銀鎧を着たフローラ王女が、玉座に座る父王に向かって深く首を垂れていた。

 彼女の報告を聞き終えた国王、そして居並ぶ重鎮たちは、水を打ったように静まり返っていた。


「フローラよ。お前は疲労で幻覚でも見たのではないか?」


 長い沈黙を破り、白髭を蓄えた宰相が震える声で尋ねた。


「あの『厄災の黒竜』をペットのように乗り回し……ワイバーンの群れを一睨みで気絶させ……騎士団全滅の危機を、無詠唱の範囲回復魔法で救った、ただの『村の青年』だと?」

「信じ難いのは承知しております。ですが、私を含め、数十人の騎士たちが確かにこの目で見たのです」


 フローラは顔を上げ、強い眼差しで言い切った。


「あの青年……ルーク殿は、間違いなく人間という枠組みを超越した存在です。もし彼がその気になれば、我がルミナス王国など、ものの数分で地図から消し飛ぶでしょう」

「「「…………っ!!」」」


 広間にいる全員が、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 ルミナス王国は、周辺諸国の中でも強大な軍事力を誇る大国だ。しかし、フローラの言葉には、微塵の誇張も含まれていないことが伝わってきた。


「……隣の王国が魔獣に蹂躙され、崩壊の危機にあるという急報。そして、突如として現れた神の如き力を持つ青年」


 玉座の国王が、深くため息をついて額を押さえた。


「もしかすると……隣国の崩壊は、その青年が何らかの理由で国を去ったからではないのか? 隣国にはかつて、国全体を覆う『絶対防壁』なるものを維持し続ける、稀代の宮廷魔術師がいたと聞く」

「父上! 私もそう推測しております!」


 フローラが身を乗り出した。


「彼がその魔術師本人だとするなら……隣国は、自らの手で『神』を追放し、自滅の道を選んだことになります!」

「なんと愚かな……!」

「自ら破滅を招くとは……!」


 重鎮たちが、隣国のあまりの愚行に呆れ果て、恐怖に身を震わせる。


「父上、お願いがございます!」


 フローラは再び深く頭を下げた。


「あのルーク殿は、恐ろしく強力ですが、同時にとても穏やかで、慈悲深い御方でした。我がルミナス王国は、何があってもあの方と敵対してはなりません! どうか私に、あの方の村へ赴き、同盟……いえ、臣従の誓いを立てる許可を!」

「……よかろう」


 国王は重々しく頷いた。


「フローラよ、お前に全権を委ねる。我らが国の存亡は、お前の双肩にかかっておるぞ。最高級の貢物を用意し、彼の機嫌を損ねぬよう、細心の注意を払って向かうのだ」

「はっ!」


 こうして、ルミナス王国という大国が、辺境でバーベキューをしている一人の青年のために、国家の総力を挙げて『ご機嫌取り』に向かうことが決定した。


 もちろん、当のルーク本人は、そんなことなど露知らず。


 「ワイバーンの肉、うめぇ〜」と、エルフたちと宴会を楽しんでいるのだった。

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