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無能と罵られ婚約者も奪われたので全てを捨てて辺境でスローライフを始めます  作者: 希羽


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第11話:厄災の魔竜と、新しい番犬

 ズシン、ズシン、という地鳴りが、次第に大きくなっていく。


「ル、ルーク様……っ!」


 シルフィが涙目で俺の袖を引っ張った。

 エルフたちはパニックに陥りながらも、俺を守ろうと家の前に陣形を組んでいる。長老などは、木の杖を震える両手で構え、今にも気絶しそうだった。


「大丈夫だよ、みんな。そんなに怯えなくても」


 俺はシルフィの頭を撫でて安心させると、エルフたちの前に歩み出た。

 ちょうどその時、村の境界線にある森の木々が、バキバキと音を立てて薙ぎ倒された。


『グォォォォォォン!!!』


 現れたのは、見上げるほど巨大な、漆黒の鱗を持つドラゴンだった。

 背中には巨大な翼が生え、赤い凶悪な瞳がこちらをギョロリと睨みつけている。口の端からは、周囲の草木を瞬時に灰に変えるほどの高熱の炎が漏れ出していた。


「ひぃぃっ! やはり、『厄災の黒竜』じゃ……! 神の御使い様といえど、あんな規格外の化け物相手では……っ!」


 長老が絶望の声を上げる。

 なるほど、確かにすごい威圧感だ。宮廷魔術師時代、文献でしか見たことがないが、一つの国をたった三日で滅ぼしたと言われる伝説の魔獣に違いない。


『グルァァァァァァァッ!!』


 黒竜が大きく息を吸い込んだ。

 その喉の奥で、太陽のように眩しい極大の炎が圧縮されていく。あれを放たれれば、結界ごと村が吹き飛ぶ――エルフたちはそう思い、絶望に目を閉じた。


 だが、俺の感想は違った。


(熱そうだな。せっかく育てた巨大キャベツが干からびたら困る)


 俺はスッと右手をかざし、炎を吐き出そうとした黒竜に向けて、初級の『温度調節魔法』を放った。


「『強制冷却クーラー』。からの、『おすわり』」


 ピキィィィィィンッ!!!!


『―――!?!?』


 黒竜の喉の奥で圧縮されていた極大の炎が、一瞬にして絶対零度の氷塊へと変換された。


 さらに、俺の放った莫大な魔力の重圧プレッシャーが、上空から黒竜の全身にのしかかる。


 ズゴォォォォォンッ!!


『きゅ、きゅぅぅ〜〜んっ……』


 先ほどまで国を滅ぼすほどの威容を誇っていた厄災の黒竜は、口から氷の塊を吐き出しながら、地面にペシャッと腹這いになり、犬のように情けない声を上げた。


「「「…………え?」」」


 エルフたちが、またしても全員揃ってポカンと口を開けた。


「よしよし、いい子だ」


 俺は結界の外へ歩き出し、腹這いになっている黒竜の鼻っ柱をポンポンと撫でた。


『ル、ルルル……ッ』

「ん? どうした? ああ、ケーキの甘い匂いに釣られて来たのか」


 俺の至近距離で魔力の波動を直接浴びた黒竜は、恐怖と、それ以上の『絶対的な服従(安らぎ)』を感じ取ったらしい。


 コロン、と巨大な体を仰向けにし、尻尾をブンブンと振って、俺に撫でてアピールをしてきた。


「なんだ、案外人懐っこいじゃないか。よし、今日からお前は村の番犬ドラゴンだ。名前は……黒いから『クロ』でいいか」


『グルルッ!(歓喜)』

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?!?」


 俺がクロの顎の下を撫でていると、背後で長老が奇声を上げた。


「厄災の……厄災の魔竜が、ルーク様に媚びを売っておる……! あ、ありえん、ありえんぞぉぉっ!」

「ルーク様……。まさか、伝説の神話級魔獣まで、あっさりとペットにしてしまわれるなんて……っ!」


 シルフィが感極まったように両手を組み合わせ、ウットリと俺を見つめている。


 他のエルフたちも、「ルーク様はついに竜を従えられた!」「竜騎士様だ!」「いや、竜神様だ!」と、また新しい肩書きを勝手に作り出して拝み始めていた。


「まあ、これで村の防衛力も上がったし、結果オーライだな。クロ、後でキャベツをやるから、大人しく畑の隅に座ってろよ」

『ワンッ!』


 厄災の黒竜は、嬉しそうに犬のような鳴き声を上げ、指定された場所へトテトテと歩いていった。


 こうして、俺のスローライフに、最強の(そして大人しい)ペットが加わったのだった。


 ◇◇◇


 ――その頃。王都。


「きゃあああああっ!! こないで、こないでぇぇっ!!」


 アリアは、泥まみれになりながら王都の路地裏を必死に走っていた。

 王城の門はすでに魔獣に突破され、王族たちは真っ先に秘密の地下通路から逃亡してしまったのだ。


 見捨てられたアリアは、ドレスをボロボロに引き裂きながら、オークやゴブリンが跋扈する街を逃げ惑うしかなかった。


「はぁっ、はぁっ……! どうして、どうして私がこんな目に……っ!」


 かつて美しい金髪と美貌を誇り、次期王妃として持て囃されていた彼女の面影は、見る影もない。

 シワだらけの顔は煤と泥で汚れ、靴は脱げ、足からは血が流れている。


「グルルルル……」

「ヒッ!?」


 路地の行き止まり。

 アリアの前に、巨大な棍棒を持った醜悪なオーガが立ちはだかった。


「あ、あぁ……嫌、いやぁっ……! 誰か……レオン殿下! ルーク……ッ!!」


 彼女は絶望の中で、かつて自分が無能だと罵り、冷酷に切り捨てた男の名前を叫んだ。

 だが、奇跡は起きない。


 ルークは今頃、遠い辺境の地で、彼女が一生味わうことのないほどの『究極の安らぎ』と『愛』に包まれて笑っているのだ。


 振り下ろされる棍棒の影の中で、アリアの絶叫が王都の空に虚しく響き渡った。

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