表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と罵られ婚約者も奪われたので全てを捨てて辺境でスローライフを始めます  作者: 希羽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/21

第10話:神のスイーツと、忍び寄る巨大な影

 エルフたちに新しい服を配ってから、さらに数日が穏やかに過ぎていった。

 村の生活基盤は、俺の魔法のおかげで完全に整った。水も食料も尽きることはなく、家は快適で、虫除け結界のおかげで安全も保障されている。


「ルーク様。今日もお天気が良くて、気持ちいいですね」


 家のテラスで、シルフィが幸せそうに目を細めていた。

 彼女は新しい純白のワンピースを着て、俺の隣でニコニコと笑っている。


「そうだな。みんなの仕事もひと段落したみたいだし、今日は少し休むか」


 広場の方を見ると、エルフたちが日向ぼっこをしたり、子どもたちが走り回ったりして遊んでいる。

 衣食住が満たされると、次に欲しくなるのは『娯楽』や『嗜好品』だ。


「よし、シルフィ。みんなを集めてくれないか。お茶会をしよう」

「お茶会、ですか?」

「ああ。甘いものを食べて、のんびりしよう」


 俺がそう言うと、シルフィはパッと顔を輝かせて広場へ走っていった。

 エルフたちは「神の御使い様からのお呼び出しだ!」と、すぐさまテラスの前に整列した。相変わらず統率が取れすぎている。


「そんなに畏まらなくていいよ。今日は、みんなに甘いものを振る舞おうと思ってね」


 俺はテラスのテーブルに手をかざした。

 事前にしまっておいた小麦粉、卵、砂糖(魔力で精製したもの)、そして大量のイチゴサイズの真っ赤な果実を取り出す。


「『自動調理オート・クッキング』。からの、『冷却クール・ダウン』」


 空中で食材が混ざり合い、フワフワのスポンジケーキが焼き上がる。

 そこに、魔力で泡立てた純白の生クリームと、宝石のように輝く赤い果実をトッピングしていく。

 数秒で、巨大な『特製ショートケーキ』と、芳醇な香りのする紅茶が三百人分完成した。


「さあ、食べてみてくれ。俺の自信作だぞ」


 俺が切り分けたケーキを配ると、エルフたちは恐る恐るそれを口に運んだ。

 次の瞬間。


「「「…………っっ!!!!」」」


 三百人のエルフが、全員同時に目を見開き、そして――バタバタと地面に倒れ込んだ。


「えっ!? お、おい、どうした!?」


 毒でも入っていたかと焦る俺の横で、シルフィも一口食べたまま、両手で頬を押さえてプルプルと震えていた。


「ル、ルーク様……っ。甘い……ふわふわして、お口の中で一瞬で溶けて……っ」


 シルフィの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。


「こんなに美味しいもの、エルフの長い歴史の中でも食べたことがありません……! あぁ、私の魂が、天に昇っていきそうです……!」

「……気絶してるやつらも、死んでるわけじゃなくて昇天しかけてるだけか。びっくりさせないでくれよ」


 どうやら、自然の果実の甘みしか知らなかったエルフたちにとって、極上の砂糖とクリームを使ったショートケーキは、脳を直接殴られるような衝撃だったらしい。


「長老様! 長老様が息をしておりません!」

「大丈夫だ、ただの気絶だ。『蘇生回復リザレクション』」


 気絶した長老に回復魔法をかけると、「はっ!? ワシは今、精霊の園でお花畑を見て……!」とむくりと起き上がった。


 いくらなんでもリアクションが大きすぎるが、まあ、喜んでもらえたなら何よりだ。


「紅茶もあるから、ゆっくり食べてくれよ」


 俺は自分の分のケーキをフォークで切り分け、のんびりと紅茶を啜った。

 テラスから見渡す村の風景は、本当に平和そのものだ。


 ――ズシン。


「ん?」


 ふと、ティーカップの紅茶の水面が揺れた。


 ――ズシン。ズシン。


 微かな地鳴り。

 それは、遠く離れた深い森の奥から響いてくるようだった。


「ル、ルーク様……っ! 森の方から、恐ろしい魔力の気配が……!」


 ケーキの感動から立ち直ったシルフィが、顔を青ざめさせて森の方を指差した。

 他のエルフたちも、地鳴りの音に気づいて身を寄せ合っている。


 俺も森の方へ視線を向けた。


 確かに、先日駆除した『毒蜘蛛』の群れなど比較にならないほど、巨大で濃密な魔力の塊が、一直線にこちらへ向かってきている。


「なんだろうな。山よりデカい猪でも来るのか?」

「い、猪どころではありません! あの気配、もしかして……伝説に語られる『厄災の魔竜』では……っ!?」

「魔竜? へえ、そんなのがいるのか」


 俺は最後の一口をパクッと食べ終え、紅茶で喉を潤した。

 王都の結界を維持していた頃の『ストレス』に比べれば、魔竜の一匹や二匹、どうということはない。


「まあ、結界を強化しておけば大丈夫だろ。シルフィ、ケーキのお代わりいるか?」

「ルーク様っ!? ケーキどころじゃありませんよぉっ!」


 平和なスローライフ村に、新たなる『招かれざる客』が迫っていた。

 だが、俺の心は驚くほど穏やかだった。


 ◇◇◇


 その頃。王都、宮廷の地下牢。


「出してくれ……! 私は、私は第一王子だぞ……っ!!」


 レオンは、鉄格子を血が滲むほど叩きながら絶叫していた。

 誰も答えない。食事も水も与えられず、ただ冷たい石の床の上で、自分の無力さを噛み締めるだけの時間。


「ルーク……ルーク……! 貴様さえ、貴様さえ……っ!」


 かつて自分が「無能」と見下していた青年の名を、レオンは呪詛のように呟き続けた。


 だが、その声もやがて力なく途絶え、王都の地下の闇へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ