↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄様が前世、僕の姉な件につき……。お義兄さん、一刻も早く逃げて!  作者: マシュマロ羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/12

この世界の設定など知るわけがない⑨

新連載です! 全12話でサクッと完結します。

頭を空っぽにして楽しんでいただけたら幸いです。

多少明け透けでコミカルな表現もありますが、どうぞ生温かい目で見守ってください。

気に入って頂けたらとても嬉しいです。(*ˊ˘ˋ*)。♪:*

 




 ──王立ラズールワンド魔法学園の文化祭。


 そこには、この世界の「運命(シナリオ)」を書き換えようと目論む一人の転生者がいた。

 その名は、ヒロインのリリィである。


(……おかしい。シナリオ通りなら、アッシュは『妹を亡くした悲劇の貴公子』として、もっと影があるはずなのに。……何なの、あの爽やかすぎる笑顔の優等生は!)


 リリィの視線の先では、アッシュがクラスの模擬店のパンフレットを配りながら、優雅に女子生徒たちの相談に乗っていた。

 さらりと揺れる美しい銀髪に、吸い込まれそうな澄んだアイスブルーの瞳。

 黒地に金刺繍の施された豪華な衣装を着こなすその姿は、まるで絵画から抜け出してきたかのような神々しさだ。


 元女子プラス年齢(元姉)ゆえに女子の悩みへの共感力が高すぎて、今や「学園の聖母(王子)」のような扱いである。


 一方のイアン王子も酷かった。

 情熱的な深い赤髪を揺らし、仕立ての良い華やかな王子衣装を纏った彼は、王太子へのコンプレックスで闇堕ちしているはずだった。

 しかし「ちょっと暑苦しいほどの武闘派」として、アッシュに振り回されながらも楽しそうに学園を駆け回っている。


(こうなったら……イレギュラーな存在、あの『妹』を排除するしかないわ!)


 リリィは壁際の花壇ベンチで、兄たちが戻って来るのを、のんびりと待つオティリエに狙いを定めた。


 ──乙女ゲームのヒロイン、リリィが牙を剥く!


「あら、あなたがアッシュ様の妹さん? 辺境育ちなんですって?」


 ふいに声をかけられ、オティリエは肩を跳ねさせて振り返った。

 透き通るような肌に、柔らかなピンク色の髪と、守ってあげたくなるほど可憐で大きな瞳。

 ふんわりとしたフリル衣装に身を包んだ姿は、誰もが庇いたくなるような愛くるしさだ。


 絵に描いたような美少女──この学園のヒロイン、リリィが立っている。

 だがオティリエ(元弟)の直感は、即座に告げていた。


(……あ、この子、前世で姉貴の周りにいた『取り巻き(マウント女子)』と同じ匂いがする)


「は、はい……。今日は、兄たちの応援に……」


「応援? 笑わせないで。アッシュ様が冷酷無情な『氷の貴公子』になれないのは、あなたのせいよ。 あなたが生きてお兄様に甘えるから、本当の孤独を知らず、彼は真実の愛(私)に気づけないの!」


 リリィがグイと顔を近づけると、その瞳には狂気じみた異様な熱があった。

 オティリエは前世で「姉貴の地雷」を必死に回避していた頃の記憶が蘇り、大きな瞳にみるみる涙を浮かべて条件反射で縮こまる。


「ご、ごめんなさい、私……」


「謝って済むなら──」


「──おい! そこで何をしている!」


 リリィの言葉を遮ったのは、低く、野性味溢れる声だった。


 現れたのは第二王子イアン。

 お姫様から王城の正装に戻った彼は、猛獣のような殺気を放ってリリィを睨みつけている。


「イ、イアン様! 違うんです、この子が私に失礼なことを……!」


 リリィは瞬時に「被害者なヒロイン」の仮面を被った。

 ゲーム設定のイアンは、自分を敬う儚げな女性に弱いはず、しかし目の前にいるのは、元・義兄イアンなのである。


「……オティリエ、こっちへ来るんだ!」


 イアンはリリィを完全に無視し、小さく震えるオティリエを自分の方へ引き寄せた。


「お前!今こいつを泣かせたな? 辺境からわざわざ遊びに来た、俺の大事な妹に何してくれてんだ! ……俺の心の癒やしだぞ!」


(えっ? お、俺の癒やし……!?)


「身内を傷つける奴だけは許さねぇ! 王子として権限をフル活用して叩き潰す!」


 そこには魅惑の王子スマイルなど一つもなく、ただただ大切な妹(弟)を守ろうとする「義兄」の顔があった。

 華やかな赤髪の王子が、可憐な妹を抱きすくめて、優しく頭を撫で繰り回しながら、リリィを恐ろしい目つきで威嚇する。

 どう見ても最愛を守る騎士そのものである。


 ──そんな中、影の支配者が動いた。


「……おやおや、随分と賑やかだねぇ」


 鈴の鳴るような、しかし絶対的な静寂を運んでくる声──。


 美しく整った顔立ちに冷ややかな笑みを浮かべたアッシュが、いつの間にかリリィの背後に立っていた。

 リリィは救いを求めるように、冷酷なはずの攻略対象を振り返る。


「アッシュ様! 助けて、イアン様が急に怒り出して……っ」


 アッシュはリリィの震える手を取り、その氷のように澄んだ瞳と、作り物めいた微笑みを浮かべ、リリィをじっくりと観察して言った。


「ねぇ……リリィ嬢。私は君に聞きたいことがあったんだ。私の妹を勝手に殺さないでくれないか。聞いていてあまり気持ちのいい話じゃないだろう? だいたいなぜ彼女のせいなんだ? 私がなぜ孤独を知らなきゃならない? それをお前は本気で幸せというなら、お前がなればいい。生きた人間を死んだ事にするヤツにこそ、孤独がお似合いだよ?」


 アッシュが極上の美貌から冷酷な声音で繰り出しされたセリフに、リリィの顔から血の気が引いていく。


「違う、ゲームが……」とブツブツ呟くリリィを見て、アッシュは心の中で冷ややかに察する。


(なるほど……、これが噂の地雷系『転生ヒロイン』か。女子の嫉妬心とゲームの知識を履き違えた面倒くさいタイプだね。ついでに髪がピンクとか……マジかよ)


「イアン、オティリエを連れて先に模擬店へ行きなさい。……この『お嬢さん』には、私が少しばかり、学園のルールではなく『女子の正しい立ち振る舞い』について、教育(カウンセリング)をするから」


 それを聞いたイアンとオティリエは、ビクンと身体を震わせ、リリィに同情の視線を送る。


「あ、アッシュ……。お前、そいつを植物人間にするなよ?」


 イアンが引き攣った顔で忠告するが、アッシュの耳には届かない。


「……さて、どこから直そうか。まずはその、安っぽい上目遣いからだな?女目線でもかなりイタ過ぎて恥ずかしいのよ。あなた分かる?」


 美しい銀髪をなびかせながら、アッシュに腕を掴まれズルズルと別室へ連行されていくヒロイン──。

 それをプルプル震えながら見送る可憐なオティリエは、イアンの腕の中でポツリと呟いた。


「……やっぱり、姉ちゃんが一番こえーよ……」


 前世から変わらぬ絶対的真理に達するオティリエであった。




 ◇◇◇




 ───三十分後。


 アッシュが「教育」を終えて戻ってくると、後ろには虚無の表情を浮かべたリリィがいた。


「……お待たせ、二人とも。とても建設的な対話ができたよ♪」


 アッシュはハンカチで優雅に指先を拭きながら、一点の曇りもない満面の笑みで告げる。

 背後にいるリリィはガタガタと震え出し、ひれ伏すようにオティリエの前へ進み出た。


「オ、オティリエ様……! 先ほどは、た、大変失礼な態度を……! 私は己の浅はかさを恥じております。……あなたは、この世に咲く一輪の純潔な百合。私のような泥水が、お傍に寄ることすらおこがましく……!」


「えっ、あ、あの……!?」


 あまりの豹変ぶりに、オティリエはイアンの背中に隠れる。

 アッシュ(元姉)による「女子の格付け(マウンティング)の恐ろしさと、正しい猫の被り方、および私を敵に回した際の末路」についての徹底的レクチャーにより、転生ヒロインのプライドはズタズタに引き裂かれたようだ。


「アッシュ、お前……あの子に一体何を教えたんだ……?」


 イアンが引き攣った顔で尋ねると、アッシュは「ふふ、ちょっとした心得だよ」と答える。


「とりあえず私の顔を見て、もう一度その妄想を言ってみろ、と何十回も復唱させたのさ♪……おい、言え!」


「ひゃい!……『も、求めてしまえば、失ったときの絶望に耐えられない。だから……何もいらないはずだったのに、この手を離したら、僕は二度と立ち上がれない。……だから、僕を見捨てないでくれ』……で、です」


「「……?!」」


 イアンとオティリエは鳥肌を立てる。


「だいたい『孤独を知らない』? てそんな退屈なものを味わせるなら、まずヒロインが完璧な孤独のお手本を見せて貰いたいよ。経験なくて何が慰めになるのさ。白々しいと思わないか?なぁ?」


「ひゃ、ひゃい!そ、そうです!」


「それより、イアン。さっきの『俺の癒やし』っていうセリフは、なかなかいいじゃないか。本来言うはずだった決めゼリフより、ずっと男らしかったよ。なぁリリィ?」


「ひゃ、ひゃい!! そうです!!」


「……っ、うるせぇよ! 勢いで言っただけだ!」


 真っ赤になるイアンを見つめるアッシュの目には、悪友に対する親愛と、少しだけ「かつての夫」を見る柔らかな光が混ざっていた。




 ◇◇◇◇




 ───この騒動の後。


 アッシュの容赦ない「教育」によって完全に毒を抜かれたヒロイン。

 ネチネチと弄り倒すアッシュに見かねて、オティリエは頼み込んで解放して貰う。

 それが原因で、なぜかヒロインはオティリエの「忠実な下僕(お姉さん分)」として爆誕することとなった。


「オティリエちゃん! 私が美味しい料理も、お菓子も作ってあげるからね! 身長が伸びないのは、全部あの悪魔のせいよ!」


「そうだ! よく言った! アイツがオティリエのオヤツを没収して食べるから小さめなんだ!」


「小さい子のオヤツを奪うなんて許せないわ!」


 ……実は、ヒロインを恐怖の教育から助け出す条件として、アッシュに「おやつ1ヶ月分」をカツアゲされたオティリエ。

 その事実を知ったイアンと元ヒロインは、今や固い絆で結ばれ、共にアッシュへの憤りを爆発させていたのである。


 (……前世の因縁も、ゲームのシナリオも、全部まとめてぐっちゃぐちゃだけど……毎日楽しければいいかな)


 不憫な義兄と、改心した元ヒロイン、そして最強の元姉を見つめながら、オティリエは今日も生温かい笑顔を浮かべるのだった──。






最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

「面白かった!」「イアン不憫すぎ(笑)」と思っていただけたら、ページ下部の【★★★★★】評価やブックマークで応援していただけると凄く嬉しいです(ˊ˘ˋ)。♪:*°

皆様からのポイントが、何よりの創作意欲とワクワク感に繋がります!

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。