噂の真相(フェイク)と、兄貴の悪ノリ⑦
新連載です! 全12話でサクッと完結します。
頭を空っぽにして楽しんでいただけたら幸いです。
多少明け透けでコミカルな表現もありますが、どうぞ生温かい目で見守ってください。
気に入って頂けたらとても嬉しいです。(*ˊ˘ˋ*)。♪:*
そして時は流れ、王立ラズールワンド魔法学園の文化祭───。
色めき立つ学園内でただ一人、世界の終わりのような顔をしている男がいた。
「……なぁ、オティリエ。俺、もう死んでもいいかな」
舞台裏には純白のドレスに身を包み、不自然なほど美しい黒髪のカツラを被らされた逞しい白雪姫──イアンの姿がある。
「お、お義兄様……。に、似合ってますよ。凄ーく遠目で見れば!肩幅が広くても間違いなく美女です……!」
辺境から遊びに来たオティリエは、必死に言葉を選んで慰めた。
だが、イアンの瞳は死んで光はない──。
「アッシュの野郎……! 『学園一の武闘派なら、どんな役でもこなせるよな?』って全生徒の前で煽りやがって……! 気がつきゃ俺が姫で、あいつが王子役に決まってたんだ! 普通は逆だろうが……!」
「そ、そうですね。だって王子ですもんね。忘れそうだけど……」
そこに靴音を鳴らし、眩いばかりの正装に身を包んだ「王子様」が現れた。
美しい銀髪にアイスブルーの瞳、極上の美貌を誇るアッシュは、これ以上ないほど愉しげに、意地の悪い笑みを浮かべている。
「やあ、白雪姫。準備はいいかい? お前が毒リンゴを食べて倒れるシーンでは、完璧な『愛の口づけ(フリ)』を俺がしてやるから、安心して寝てるがいいさ♪好きだろう。グータラするのが……」
その顔を見た瞬間、オティリエは頬を引き攣らせた。
(お兄様、確信犯だ……。お義兄様が一番嫌がることを、一番目立つ場所で見せつけようとしてる。めちゃくちゃやる気だわ……!)
「いやだ! やっぱこぇーよ! オティリエ、助けてくれ!!
」
イアンはドレスを振り乱し、オティリエの細い肩にひしとしがみついた。前世「いじめっ子」気質な面影など欠片もない。
今の彼は、ただの怯える小動物だ。
「ちょ、ちょっと、お義兄様! ドレスがシワになりますから! 離れてくださいっ!」
宥めるオティリエだが、イアンは涙目で離れない。
その様子を見たアッシュの表情から「愉悦」が消え、急速にまわりの温度が下がっていく。
「……イアン。私の妹にいつまでベタベタ触っているんだ? せっかく可愛いオティリエを飾るドレスが汚れるだろうが……!」
「ひっ!? いや、これは、でも……!」
「兄様も! そんなに怒らないでください。お義兄様、ガチで泣いてるじゃないですか。……文化祭なんですから、もっと仲良くしてください!」
オティリエが兄をピシャリと窘める。
アッシュは不機嫌そうに鼻を鳴らすが、大切な妹に言われて引き下がるほかない。
──そんな「ひっつく姫(王子)」と「窘める妹」、そして「それを苦々しく睨む王子(兄)」という奇妙な三角関係は、幕の隙間から観客席に丸見えだった。
「ねえ、見て……。白雪姫様(イアン様)が、アッシュ様の妹さんに抱きついて甘えていらっしゃるわ……」
「アッシュ様、あんなに怒って……。もしかして、イアン様の意中の相手って、アッシュ様じゃなくて妹さん?」
「身分も家柄も完璧……! でも、あのアッシュ様を乗り越えなきゃいけないのよ。なんて不憫なのかしら! 実際、なぜか白雪姫役にされて、ネチネチしごかれてるもの……」
「「「そうね……不憫すぎるわ……っ!」」」
あまりにも不憫すぎて、全力で応援したくなってしまう腐女子(観客)たちであった。
◇◇◇◇
粛々と劇は嫌がりながらも進んでいく。
そんな中「王子イアン×妹オティリエ」という新たな疑惑が、じわじわと学園内を巡っていた。
というのも舞台の幕が下がる度に、王子が泣きつくからだ。
今現在も舞台裏では、絶望に震える白雪姫と、妹を奪われ殺意を隠さない王子がわちわちゃしていた。
「……アッシュ。お前、確信犯だろ。これ以上、あらぬ噂を広めてどうするつもりだ!」
舞台袖の薄暗がりの中、イアンは絶望に満ちた声を絞り出した。
今の彼は誰が見ても「学園一の爽やかな武闘派王子」ではない。
純白のドレスに身を包み、不自然なほど美しい黒髪のカツラを被る「追い詰められた白雪姫」である。
「あらぬ噂? 心外だな。私はただ、君の隠れた魅力を引き出そうとしているだけだよ、イアン」
アッシュは乱れ一つない衣装の襟を正し、鏡の中の自分を厳しくチェックしながら微笑んだ。
学園一の優等生として名高いアッシュだが、その中身は前世で女子集団を束ね、黙らせていた最強の「女傑」だ───。
女子の心理を知り尽くしている彼は、今や学園中を席巻している『アッシュ様とイアン様の禁断の友情(BL)』という噂を、完全に「娯楽」として愉しもうとしている。
「面白がるな! お前のせいで女子と話をすると、熱に浮かされたみたいな顔で『お幸せに……!』って言われるんだぞ!?」
「いいじゃないか。実に平和で豊かな学園生活だよ」
「どこが平和だ! めちゃくちゃ奇想天外の間違いじゃねぇか! 俺の王子としての威厳はどこへ行ったんだ!」
イアンはもう王子の体面など窓から投げ捨てていた。
少し離れたところでハラハラと見守るオティリエのもとへ、ドレスの裾をバサバサ振り乱して駆け寄る。
「オティリエ……助けてくれ! アイツは可笑しい……っ! お前だけだ、俺を人間として見てくれるのは……!」
大きな体を縮こまらせ、12歳の少女に縋り付く第二王子───。
その姿は前世、姉の説教から逃れようと弟の部屋へ逃げ込んでいた義兄そのものだ。
だから──。
「お、お義兄様、落ち着いてください……! 大丈夫ですから、ねっ! ……兄様も、あまりお義兄様をいじめないでください。本当に可哀想です……」
オティリエが本当に困り果てた顔で、アッシュを哀しげに窘める。
3歳年下の妹として生まれたが、やはり前世からの習性から、どうしてもこの二人を放っておけない。
「いじめてなんていないさ。ただ愉しもうとしているだけだよ。……さあ、時間だ」
「それが一番怖いって言ってるんだよ!」
アッシュはまるで慈悲深い聖者のような笑みをたたえ、イアンの肩に手を置いた。
その瞬間……、「ゾワッ」と強烈な戦慄が走る。
(……この感じ。前世で浮気がバレた翌日の笑顔だ……!)
アッシュは本気でこの劇を成功させるつもりだ。
それも観客の脳裏に焼き付けるほど完璧に──。
それがイアンにとって、どれほど社会的な死を意味するかを理解した上で───。
どうやら今までの出来事は、アッシュにとって仕込みにしか過ぎないようだ。
イアンはツウ───ッと、冷や汗が流れる。
「行こうか、イアン。君はそこで美しく倒れていればいい。……あとは私が、すべてを『完璧に』終わらせよう……」
「───ッ! オティリエー、助けてくれ!!」
イアンの悲痛な叫びも虚しく、舞台の幕が無情にも上がる。
照明の下、そこには美しく凛々しく立つアッシュ王子の姿があった。
そのあまりの美貌と、横たわる「姫イアン」を見つめる深い(ように見える)情熱的な眼差しに、客席からは悲鳴に近い歓声が巻き起こる。
(……終わった。俺の人生、完全に終わった……!)
絶望のなか、白雪姫イアンは舞台の上で目を閉じ絶望にうちしぐれていた。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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