↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄様が前世、僕の姉な件につき……。お義兄さん、一刻も早く逃げて!  作者: マシュマロ羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/12

安らぎの辺境と、時々、氷点下の兄⑥

新連載です! 全12話でサクッと完結します。

頭を空っぽにして楽しんでいただけたら幸いです。

多少明け透けでコミカルな表現もありますが、どうぞ生温かい目で見守ってください!

 




「お義兄様、見てください! この辺りにしか咲かない『氷晶花』ですよ。煎じて飲むと、前世のあのエナジードリンクみたいな味がするんです」


「マジか、懐かしいな……。そういやアッシュは知ってるのか? あいつ、王都で『飲み物がもの足りない』って文句言ってたぞ」


 ──辺境伯領の深い森。


 木漏れ日が降り注ぐ穏やかな散策路を、イアンとオティリエは並んで歩いていた。

 二人の間には、どこまでも長閑で平和な空気が流れている。


「……いいんです。兄様に教えたら、また『そんな得体の知れないものを口にするんじゃない』って、説教3時間コースになっちゃいますから」


 オティリエが苦笑いしながら花を摘む。

 その隣でイアンは王子の身分を忘れ、前世の友人と接するように気安く笑っていた。


「だな。……にしてもオティリエ、お前本当に可愛くなったよな。前世のあの万年寝不足みたいな弟とは思えないぞ」


「お義兄様こそ。あの頃のひょろっとした頼りない面影がまったくありませんよ。今は……まあ、お兄様にボコボコにされてる時以外は、ちゃんと王子様です」


「一言多いんだよ。……でも、サンキュな。こうして二人で歩いてると、……ようやく自然に息が吸える気がするよ」


 二人は森の奥にある、澄んだ小川のほとりに腰を下ろした。

 せせらぎの音と鳥のさえずり、そして前世の記憶を共有し、今世の苦労を分かち合える戦友との時間──。


 それは二人にとって何よりの「癒やし」だった。


 ──……!


「……ッ?! 誰だ!!」


 イアンは反射的に剣の柄に手をかけ、オティリエを庇うように一歩前へ出る。

 武闘派王子としての本能が、鋭い「気配」を察知したのだ。

 静寂を破り、茂みからゆっくりと姿を現したのは──銀髪を冷たく輝かせた美しい「死神」だった。


「なかなか鋭いじゃないか、イアン。私の気配に気づくとは……少しは特訓が身に付いているね」


「あ、アッシュ……!? 貴様、なんでここに……?」


 アッシュは一切の汚れもない白手袋を整えながら、悠然と歩み寄ってくる。

 彼が放つ圧倒的な「冷気プレッシャー」によって、周囲の小鳥たちが一斉に逃げ去っていくのが見えた。


「『なんで』? 心外だな。可愛い妹が、前世問題のある男と二人きりで森にいるんだよ? 兄として心配するのは当然だろう?」


 アッシュはオティリエの隣に滑り込むようにして腰を下ろす。

 そして当然のような顔をして、オティリエが摘んだばかりの氷晶花を指先で弄んだ。


「……オティリエ。この花は毒はないけれど、飲みすぎるとお腹を壊すんだ。後で私が正しく調合してあげるから、勝手に口にしないこと。いいね?」


「……は、はい。兄様」


 オティリエは直立不動で返事をする。

 さっきまでの穏やかな空気は一変し、そこは一瞬で「アッシュによる統治領域」へと変貌した。

 アッシュはチラリとイアンに視線を向ける。

 その瞳には「前世夫」に対する皮肉と、それ以上に「妹へ近づく男」を冷ややかに牽制する光が混ざっていた。


「イアン。おまえも少し自分の立場を考えろ。オティリエはまだ子供だが、男女二人でウロウロするんじゃない」


「……いや、だがいくらなんでもまだ年齢的にいいんじゃないか?」


 イアンの至極全うなツッコミを、アッシュは優雅な毒のある微笑で受け流した。


「そう……。なら、おまえは『13の筆下ろし』すらしていないとでもいうのかい?」


「っ!!??」


「……あぁ、そろそろ戻ろうか。オティリエ、今聞いたことは忘れなさい。今世のお前は女なんだ。わかったね?」


 アッシュは立ち上がると、オティリエの手を優しく、けれど絶対に離さないという強い意志を込めて握りしめた。

 その後ろでは、イアンが盛大な溜息をついて肩をすくめながら付いていく。


 ……そんな無言の牽制を飛ばし合う二人を余所に、オティリエだけは愕然とした表情で固まっていた。


(……え? え??)


 冷ややかな視線を飛ばし合うアッシュとイアンは、そんなオティリエの様子を密かに気にしつつも、屋敷へと連れ立って帰宅する。

 その後、二人は何やら連れ立って屋敷のどこかへと消えていったのだった──。


 数日後、地獄(?)の夏休みは明け、二人は学園へと帰っていく。

 だが、残されたオティリエはあれからずっと、気になって気になって仕方がなかった。


(……13歳で『筆下ろし』って……!? え?えっと、じゃあ前世の姉ちゃん(お兄様)も、そうなの……!?)


 未だ衝撃から立ち直れず、頭を抱えて赤面するオティリエである。


 そして魔狼(ポチ)がいないのは、健診中だからだった。


「おい、バカ犬。オティリエといるつもりなら、変な病気持ち込むなよ。わかったか!」


「キ、キャイン!キャウン!キャウウゥゥゥン!(も、もちろん!絶対!持ち込みませーん!)」




 ◇◇◇◇




 ───夏休みが明け、国立ラズールワンド魔法学園に新学期が始まった。


 王都へ戻ったイアンは若干やつれていたものの、あの「魔境(辺境伯領)」から解放され、久しぶりにのびのびとした時間を過ごしていた。

 役員に抜擢されて連日多忙なアッシュと、その誘いを必死で断り、一人学園生活を満喫するイアン。

 アッシュの影から解き放たれ、ぼんやりと秋空を眺めながら「平和」の尊さを噛み締めていた。


 ──だが、学園の空気がどこか明らかに異様だった。


「ねえ、見た? イアン様、最近とても退屈そうね。ずっとぼんやりとお一人でいらっしゃるわ」


「夏休みの間、ずっと辺境でアッシュ様と一緒に過ごされていたから……寂しいのかしら?」


「二人とも、あの神がかった美貌だもの……。もしかして、本当は『そういう関係』なんじゃ……」


 耳に飛び込んでくるのは、ひそひそ話と、好奇と興奮に満ちた熱い視線。

 それは、アッシュとイアンに対する「BL疑惑」の囁きだった。


「な、なんだと!? ふざけるな! 俺とアッシュが、そんなわけないだろうが!」


 予期せぬ方向から飛んできた腐女子レーダーの誤作動に、イアンは血の気が引く。


(くそっ! あの辺境のドS野郎、一体何をしやがったんだ……!?)


 昼休みの食堂で、熱視線に耐えかねたイアンは、アッシュを人気のない中庭へと連れ出した。

 アッシュはいつも通りどこ吹く風で、優雅にパンをかじっている。

 さらりと揺れる美しい銀髪に、吸い込まれそうな澄んだアイスブルーの瞳───。

 整いすぎたその顔立ちは、ただパンを食べているだけでも絵画のような神々しい。


「おい、アッシュ! お前のせいだろう、このバカげた噂! お前は俺について、どんなデマを流したんだ!?」


 アッシュはゆっくりとイアンを見上げた。


 その冷艶な青み銀色の瞳には、イタズラが成功した子供のような悪趣味な光が宿っている。


「デマ? 別に何も流していないが。ただ、寮の部屋が隣同士だと知人に話しただけだ。それに……イアン、お前が私の部屋に夜な夜な毎晩訪ねてきて、私の好物のお菓子を持参していた話を伝えただけだが?」


「それはてめぇが『献上品』って名目で強制召喚してただからだろうがぁ!」


 怒りに満ちてイアンは叫ぶが、アッシュは素知らぬ顔で可愛らしく首を傾げる。


「そう言えば、辺境での滞在中に、お前が私の腕にしがみついて『アッシュ、お前がいないと怖いんだ』と震えていたことも友人に語って聞かせたな。もちろん、適度な誇張を面白おかしく加えたが……」


「てめぇが『夜の訓練だ』とか言っておいて、わざと俺を森へ放置したからだろうが! 俺は別に怖がってなんか……」


 イアンがそこまで言いかけたところで、アッシュはクスリと優雅に笑い、意味深な眼差しを送ってきた。

 そして、ゆっくりとイアンへと歩みを進め顔へと近づける。

 華やかな赤髪を揺らし顔をサッと青ざめるイアンと、至近距離で見つめ返す銀髪の絶対的美貌──。


「……まあ、実際は俺がお前を『からかっていた』だけだからな。それがここまで変な噂になって広まるとは、俺も思わなかったぞ。……実に面白いじゃないか。それに考えてみれば、前世では『夫婦』だったわけだし、ね?」


 アッシュの甘い吐息が、イアンの耳元をかすめさせる。


 ──その瞬間、たまたま背後を通りかかった女子生徒たちがその光景を目撃し、口元を押さえて「きゃあっ!?」と熱狂的な嬌声を上げた。


「っ……!? やめろ、アッシュ! そういう変なフリはやめろ! 周りが本格的に勘違いするだろうが!」


 イアンは顔を真っ赤にしてアッシュを押し退けたが、アッシュは楽しそうにニヤニヤと笑うだけだった。


「何をそんなに焦っているんだ、イアン。別に構わないじゃないか。これでお前も『新しい扉』が開くかもしれないぞ?」


「開くかそんなもん!!」


 アッシュの楽しげな言葉に、イアンは絶望した。

 前世で「いじめっ子」気質だった彼だが、BLというジャンルにはこれっぽっちも興味はない。

 そして何より、相手があの「鬼嫁(現・悪友兼魔王)」だなんて、想像しただけで寒気が止まらないどころか鳥肌ものである。


「お前は、俺の学園生活をどこまで掻き乱せば気が済むんだ……!」


 イアンの悲痛な叫びは、秋の澄み渡る空へと虚しく吸い込まれていった。

 アッシュにとってイアンをからかうことは、前世からの趣味であり、今世における最高のストレス解消法。

 この不憫すぎるBL疑惑は、アッシュという「元妻」の悪ノリによって、さらに加速していくのだ──。






最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

「面白かった!」「イアン不憫すぎ(笑)」と思っていただけたら、ページ下部の【★★★★★】評価やブックマークで応援していただけると凄く嬉しいです(ˊ˘ˋ)。♪:*°

皆様からのポイントが、何よりの創作意欲とワクワク感に繋がります!

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。