やはりオティリエ(弟)はバカワイイ④
新連載です! 全12話でサクッと完結します。
頭を空っぽにして楽しんでいただけたら幸いです。
多少明け透けでコミカルな表現もありますが、どうぞ生温かい目で見守ってください。
気に入って頂けたらとても嬉しいです。(*ˊ˘ˋ*)。♪:*°
────その日の夜。
アッシュが「親睦のための茶会」と称して二人を数時間拘束した後、ようやく解放されたイアンとオティリエは、月明かりの差し込む屋敷のバルコニーで密かに合流していた。
「……なぁ、オティリエ。アイツ、王都でも本当に酷かったんだぞ? 俺が少しでも他の女子生徒と話していると、後から気配もなく魔力を飛ばしてくるんだ」
「まだマシですよ、イアン様……。私なんて、テストで一問間違えるたびに、目の前でおやつを没収されてアッシュお兄様に食べられるんですからね!」
「だからお前、同年代より少し小さめなのか……。辛かったな、オティリエ」
「……お義兄さんも」
実はこの二人、前世では「いじめっ子」と「いじめられっ子」の関係だった。
5歳の頃、姉(現・アッシュ)たちに遊んでもらっている弟(現・オティリエ)に嫉妬した春好(現・イアン)が、彼が一人で遊んでいたボールを隠す。
それを必死に探した弟が転び怪我をしてしまい、それに激怒した姉と姉友(女子軍団)が春好に容赦ない復讐を敢行──それがイアンのトラウマの原点である。
けれど成長するにつれ、二人はいつしか「最恐の存在(姉)」の機嫌を伺いながら生き抜く『戦友』になっていた。
今世でもやはり「アッシュ」と魔王から身を守るため、同じ塹壕に潜む同志となるのは自然な流れだったのだ。
「……なぁ、オティリエ。明日、アッシュの目が届かないところで、遊ばないか? 実は王都で、お前が好きそうな前世の映画みたいな『投影魔法』のスクロールを手に入れたんだ」
「えっ、本当ですか!? 映画みたいな魔法があるんですね!……行きます、絶対行きます! あ、お菓子は私が料理長からこっそりくすねておきますね!」
「よし、決まりだ。……絶対にアッシュにはバレないようにな」
「「ふふっ……!」」
すっかり前世の調子を取り戻した二人は、最強の姉(兄)という共通の「恐怖」を前に、時空を超えて絆を急速に深めていく。
──……その頭上、屋敷の屋根の上から、銀色の髪を夜風に揺らしたアッシュが冷ややかな笑みを浮かべて静かに見下ろしていることにも気づかずに。
◇◇◇◇
「見てくれよオティリエ、この投影魔導具。前世で二人で夢中になった、あの特撮シリーズの新作っぽいんだぜ」
──辺境伯領の広大な庭。
大きな樫の木の木陰で、イアンは地面に座り込み、宝物を見るような目でスクロールを広げていた。
「わあ、本当だ! お義兄様、すごいですね。このチープな爆発エフェクト、まさにあの監督の味ですよ!」
オティリエもドレスの汚れを気にせず身を乗り出す。
二人の間にあるのは、前世でポップコーンを突き合いながら映画を見ていた「趣味の合う親友」の空気そのものだ。
実際イアンにとってオティリエは、唯一前世の「男友達」としてのノリで話せる相手であり、何よりアッシュという強烈な存在を分かち合える最高の戦友だった。
「やっぱりオティリエと遊ぶのが一番落ち着くよ。王都の連中には何かと気を張らなきゃいけないし、アッシュの奴は隙あらば俺をいじり倒してくるし……」
「わかります。でも、お義兄様がいてくれるとお兄様の注意が分散されるので助かります!」
「おい、盾にするなよ(笑)。……でもお前、見た目はこんなに可愛いのに、笑い方はあの頃のままだな。……よし、いい子だ」
イアンが自然な動作で、妹(元弟)の頭を優しく撫でる。
オティリエも懐かしい兄貴分に触れられ、子犬のように目を細めた。
だが──その微笑ましい光景を、屋敷の二階の窓から「銀色の死神」が見つめている。
「…………」
アッシュは手に持っていた羽根ペンを、ミリ、と微かな音を立ててしならせた。
窓から見えるのは、自分の大切な妹(元弟)と、かつての夫(元いじめっ子)の睦まじい姿──。
(……私のオティリエに気安く触れるとは、一万年早いんだよ、イアン。というか私が死んだ後、かなり仲良くなったのね……)
なんとも複雑な心境だった。
──前世で死ぬ間際に、最も心配したのは弟のことだ。
両親を早くに亡くし、自分が死ねば一人になってしまう弟。
親類との付き合いもない──。
だから今の二人の様子を見れば、生前の春好が残された弟を、何かと気にかけてくれていたことは察しがつく。
そう思うと感謝の気持ちでいっぱいになる。
(だけど──それとこれとは話が別なんだよ)
アッシュは音もなく部屋を出ると、瞬く間に庭へと姿を現した。
「……楽しそうだね、二人とも」
背後から響く、冷ややかでどこか艶のある声。
イアンとオティリエの肩が、同時にビクッと跳ね上がった。
「に、兄様! いつからそこに……」
「……アッシュ。いや、これはその、オティリエに王都の文化を教えていただけだ!」
「へぇ……。文化、ね」
怯える二人に対し、アッシュはイアンをジロリと睨みつけると、オティリエの頭からイアンの手をサッと退け、代わりに自分の大きな手で優しく包み込んだ。
「オティリエ。男に軽々しく触らせてはいけないと教えただろう? ……例えそれが、前世で私の伴侶だった男であってもだ」
「あ、あの……。ごめんなさい、兄様」
「……分かればいいんだ。だがな、イアン。私の可愛い妹を独占した罪は重いよ。これから夕食の時間まで、私の『手合わせ』に付き合ってもらおう……」
「えっ……待っ、無理無理無理! 助けてオティリ──」
アッシュはイアンの首根っこを掴んでズルズルと引きずっていきながら、振り返ってオティリエにだけは、茶目っ気たっぷりのウィンクをしてみせた。
「オティリエ、後でお前の好きなお菓子を出してあげよう。王都のお土産だ。……兄様と一緒に食べようか?」
「……は、はい! 兄様!」
遠ざかるイアンの悲鳴を聞きながら、オティリエはパチパチと瞬きをした。
(……やっぱりお兄様、今世でも性別を超えて、お義兄様のこと大好きなんだな。なんか邪魔しちゃって悪いことしたかも……)
オティリエは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
兄のネチネチした態度は独占欲の裏返しであり、二人を「家族」として誰よりも大切に思っているがゆえの照れ隠しなのだと──オティリエは、全てを察してあたたかく見守るのだった。
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