再会、震える武闘派王子②
新連載です! 全12話でサクッと完結します。
頭を空っぽにして楽しんでいただけたら幸いです。
多少明け透けでコミカルな表現もありますが、どうぞ生温かい目で見守ってください。
気に入って頂けたらとても嬉しいです。(*ˊ˘ˋ*)。♪:*
そして──15歳になり、いよいよ王都の学園へ出発する直前のこと。
「なぁ、オティリエ。王都の学園には、前世で私の夫だった彼も、第一王子として転生しているみたいだよ」
荷造りをしていたアッシュがふと漏らした言葉に、オティリエは息を呑んだ。
「……えっ?! お義兄さんが?!」
「そう。ふふっ、覚えているでしょう? あなたが5歳の時に、私の女友達に泣かされていた、あの情けない男よ。私が死んだ後、あなたと彼は一緒に私を弔って、それからも時々仲良く遊んだのよね?」
「う、うん……。姉ちゃんが死んじゃった後、二人でしんみりと思い出話したり、たまに遊びに行ったりしてたけど……」
前世で大切な存在(姉/妻)を失った者同士、どこか絆めいたものが芽生えていた義弟と義兄──。
だがアッシュの美しい瞳の奥に宿ったのは、怪しく揺らめく捕食者の光だった。
「その元夫だけどね……早くに前世の記憶を思い出したようで、今では『俺は転生チートの万能王子!』ってすっかりノリノリで『俺TUEEEE』を満喫しているみたいだよ」
「うわぁ……」
「自分が前世で、この私の夫だった自覚が足りないようでね。学園に行ったらまずは、……徹底的に下僕を分からせないと、まぁいろいろと考えているのさ」
アッシュは美しい微笑みを浮かべながら、手元のティーカップを微力な魔力でパキィン!と粉々に粉砕する。
オティリエの頬を、ドッと冷や汗が吹き出した。
(や、ヤバい?!義兄さん何やらかしてんの!自分がチートで無敵と思って!あぁ、調子に乗っちゃってるけど!!……目の前に『元・妻』じゃない。?!『容姿端麗で規格外の魔力を持つ魔王(現兄)』!?じゃ気づけるわけないじゃん!!)
「……兄様、なんで義兄さんの様子まで知ってるの? ていうかどうするの?」
オティリエはガダガダ震えながら、聞いてみると───。
「そりゃあ、『腐ったはずの縁』のせいじゃないのかな? 私の旦那だった男が、アホ、……じゃない、下半身でもなくて、下僕のくせに調子に乗って、いい顔をするとか、……なにハーレム主人公ばりな事やらかしてるかなぁぁ……。というか、私が恥ずかしいんだよ! まったくそんなヤツを旦那にした私の黒歴史を抹消したい!!」
アッシュの背後に、まっ黒いオーラがメラメラと立ち上がる。
オティリエは、王都で絶賛「俺TUEEEE」をノリノリで満喫しており、この後に待ち受ける絶体絶命の惨劇にまったく気づいていない不憫すぎる前世の義兄(現・第二王子)に向かって、心の中で全力で叫び、合掌した。
(お義兄さん!!! 一刻も早く逃げてーーーー! ……いや、もう完全に手遅れだぁああ……!!)
◇◇◇◇
──王都、国立ラズールワンド魔法学園。
新入生代表として壇上に立つアッシュの姿は、あまりにも神々しかった。
銀髪をなびかせ、一切の無駄がない所作で礼をするその少年に、会場の全生徒が息を呑む。
だが、来賓席に座る第二王子イアンだけは、別の意味で息を止めていた。
(……な、なんだ、あの男は)
イアンは今世、死に物狂いで努力していた。
前世の「情けない自分」と決別するため、魔力を練り、剣を振り、誰もが畏怖する「武闘派チート王子」という座を掴み取ったはずだった。
なのに、壇上の少年に目を向けた瞬間、背筋からおぞましいほどの悪寒が走る。
アッシュがゆっくりと顔を上げ、その冷酷で、すべてを見透かすような瞳が、真っ直ぐにイアンを射抜いた。
(……ひっ!?)
イアンの脳裏に、前世のトラウマが鮮明に蘇る。
お淑やかで静かだと思っていた妻が、つい間違ってお菓子を食べた自分に放つ、あの慈悲なきドロップキック。
そして、女子軍団の包囲網の中で自分を絶望させた、あの沈黙の無慈悲な威圧───。
アッシュの口角が、ほんの数ミリだけ上がった。
『見つけたわ。覚悟しなさい』と、イアンの鼓膜を直接揺らされた気がした。
(だ、だが今の俺は前世とは違う! 死ぬほど努力して強くなったんだ!)
式典の後、イアンはアッシュを威嚇しようと、校舎の裏へと呼び出した。
──周囲に護衛はいない。
王子の威厳を見せつける絶好の機会——のはずだった。
「おい、アッシュ・フォン・辺境伯! 貴様、さっきの態度は……」
「……ハルヨシ。随分と派手な『メッキ』を被ったわね。前世の名前通り、春うららなお花畑みたいな頭脳は変わっていないみたいだけれど」
アッシュの声は鈴を転がすように澄んでいたが、その芯には逃げ場のない「処刑人」の響きがあった。
前世の本名──『春好』と呼ばれた瞬間、イアンの体温がスッと下がる。
アッシュは優雅に腕を組み、冷ややかな視線で怯える王子を一歩ずつ追い詰めた。
「な、何を……俺は王子だぞ! 貴様のような地方貴族の嫡男が……」
「あら、そう。じゃあ今ここで『前世のあだ名』を全校生徒の前で叫んであげましょうか? 女子に囲まれて泣きべそをかいていた、あの情けないあだ名を」
「や、やめろ……! 頼む、それだけは……っ!」
イアンは膝から崩れ落ちた。
武闘派王子のプライドは、前世の「妻(現・魔王)」の前に一瞬で霧散した。
「ふふ、いいお返事ね。……あぁ、そうだわ。辺境で留守番をしている『私の可愛い妹』から、あなた宛ての手紙が届いているのよ。彼女もあなたのことは『よく』覚えているもの」
アッシュはポケットから一枚の手紙を取り出し、膝をつくイアンの目の前に差し出した。
それは、辺境伯領で留守番をしている3歳下の妹──オティリエが、これから遭遇するであろう惨劇を察して『義兄』に宛てて書いておいた、あらかじめの慰め(と諦め)の手紙だった。
◇◇◇◇
一方、辺境の屋敷では。
「……はっ!?」
庭で薬草を摘んでいたオティリエは、突如として激しい悪寒に襲われる。
「な、なに……? 今、すっごく嫌な予感がしたよ。お兄様が王都で何か『とんでもない威圧』を放ったような、そんな戦慄が……」
オティリエは不安そうに空を見上げた。
3歳年上の兄アッシュは、自分にとっての「守護神」であり、同時に「絶対的な支配者」だ。
彼が王都へ旅立った時、正直「これでしばらくは羽を伸ばしてのびのび過ごせる!」と歓喜していたのだが──その数日後、早くもアッシュからの便りが届いたのだ。
手紙を開くと、そこには美しい文字でこう記されていた。
『親愛なる妹、オティリエへ。
王都で、懐かしいアナタの「義兄さん」を見つけたよ。夏休みには彼を連れて帰るから、盛大に歓迎する準備をしておきなさい。
……ああ、それから。
私の部屋にある秘密の貯蔵庫、お菓子が一つでも減っていたら、帰宅後に「再教育」だからね』
「……お義兄さん、大丈夫かな。っていうか、王子(義兄)を夏休みに連れてくるの!? 私まで逃げ場がないじゃない!!」
顔を青ざめさせたオティリエは、震える手で手紙を抱きしめた。
夏休み──魔王が獲物を連れて帰ってくる。
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