夜行祭終了とその後の火種⑪
新連載です! 全11話でサクッと完結します。
頭を空っぽにして楽しんでいただけたら幸いです。
多少明け透けでコミカルな表現もありますが、どうぞ生温かい目で見守ってください。
気に入って頂けたらとても嬉しいです。(*ˊ˘ˋ*)。♪:*
───反対側のテラスにいたイアンとオティリエは、のんびり食事をしながらアッシュの戻りを待つ。
「……ブェッ、クシュン! なんだ、誰か俺の噂でもしてるか?」
オティリエから差し出されたジュースをゴクゴクと飲み干しながら、イアンが豪快に鼻を擦った。
「風邪ですか、お義兄様? ……あ、兄様。エレーナ様とお話し終わりましたか?」
戻ってきたアッシュに、オティリエが尋ねる。
アッシュはイアンの頭をポンと気安く叩き、妹の隣に腰を下ろした。
「……君の婚約者候補が一人減ったよ。……良かったのかイアン? まぁ、これで心置きなく『王太子を支える筋肉バカ』として生きられるね」
「言い方ぁ! ……でも、そうか。エレーナ嬢は聡明な方だから……助かったよ、アッシュ。お前、やっぱり頼りになるな!」
イアンは心底ホッとした顔で破顔した。
アッシュはそんな「元夫」の能天気な笑顔を見ながら、内心呆れて毒づいた。
(……本当に君は私(妻)がいないとダメだね。人任せにしてまったく……。今世は『兄』としてせいぜい面倒を見るとしよう)
「……さあ、そろそろ戻ろうか。オティリエ、ダンスは人前で踊ってこそだよ。……せっかくだから、ここで軽くダンスをしてみたらどうだい?」
アッシュは風で乱れた前髪を優雅に払い、中へ戻るとオティリエに向かって手を取るような仕草を見せる。
その表情はどこまでも涼やかで、学園の完璧な貴公子そのものだった。
そのままイアンの方へ冷ややかな視線だけを向けると、軽くあごをしゃくり──。
「イアン、お前は壁際で大人しく肉でも食べてろ。噂をこれ以上増やすんじゃないぞ」
「分かって……って、おい待てよ! なんで俺だけ除け者なんだよ!」
イアンは目を見開き、指を突きつけてアッシュに噛みついた。
「お前がいると話がややこしくなるからに決まっているじゃないか」
アッシュは呆れたように片眉をくいっと上げ、肩をすくめて見せる。
「俺がいつややこしくしたんだよ! ややこしくして、面倒にしたのはお前じゃないか!」
イアンは頭をガシガシと掻きむしりながらアッシュへ一歩詰め寄り、感情を爆発させていた。
対するアッシュは、パチリと片目をまばたかせ、薄く唇を開く。
「……気のせいだろう。ただの悪ノリだよ」
「それがややこしくしたって言ってるんだよ!」
血管が切れんばかりに怒鳴るイアンに対し、アッシュは冷ややかな瞳でフッと鼻で笑い、優雅に腕を組んだ。
「グチグチうるさいな。女々しいぞ、お前は」
「はあぁぁぁぁ!???」
絶句したイアンは、拳を握りしめて眉間に深いシワを寄せ、般若のような顔でアッシュを睨みつける。
「あ、あのお二人とも……! お願いですから、仲良くしてください……っ!」
殺気立つ空気の間に立ったオティリエは、涙目になりながら両手を前にブンブンと振る。
イアンの服の袖を引っ張ってはなだめ、アッシュに向き直っては「兄様も煽らないでください!」と小さな両手を広げて遮ろうとする。
眉をハの字にして右へ左へと視線を泳がせ、手を一瞬たりとも止めず、二人を必死に宥めるオティリエ。
(あわわ……目が回る……っ!)
必死すぎるあまり、右往左往して自分自身が目を回す可憐なオティリエの姿に、痺れを切らした周囲の者たちが一斉に止めに入った。
「──おやめなさいな、二人とも!!」
───凛とした怒声が響き渡る。
去ったはずのエレーナが眉を吊り上げて戻ってくるなり、アッシュとイアンを容赦なく一喝した。
「いくら何でもオティリエ様を困らせすぎですわ! くだらない言い争いで可愛らしい方を巻き込むなんて、男として最低限の品位すら欠けておりますわよ!」
さらにリリィをはじめとする女子生徒たちが「オティリエ様、大丈夫ですか!?」「まあ可哀想に……!」と駆け寄り、目を回しかけているオティリエを手厚くガードしながら、男二人を冷ややかな目で見咎める。
「……っ?!」
「……あ! いや……その……」
周囲からの容赦ない大目玉と、女子たちの鉄壁のガードによって守られたオティリエ。
その凄まじい周囲の怒りに毒気を抜かれ、ヒートアップしていたアッシュとイアンは、ただ呆然と目を丸くするばかりであった。
こうして怒涛の後夜祭は無事?終了したのである。
◇◇◇
そして数日が過ぎた、辺境伯の王都屋敷でのこと──。
アッシュから「信じられない報告」を聞かされた二人は、口に含んでいた紅茶を盛大に噴き出した。
「……はぁ!? 俺が辺境伯家に婿入りして、オティリエの旦那になる……だと!?」
イアンが勢いよく立ち上がり、椅子が派手な音を立てて床を転がる。
その顔は驚愕と、そして少しの……いや、かなりの恐怖に染まっていた。
隣に座るオティリエも、顔を真っ白にしてカタカタと震えている。
「に、兄様……冗談ですよね? お義兄様が私の旦那様になるということは……一生こ、このまま家族関係が続くってことですか……?!」
「その通りだ。おめでとう、二人とも。これで君たちは法的に一生、私の支配下……いや、管理下に置かれるというわけだ」
アッシュは優雅に足を組んで至福の微笑みを浮かべ、これこそまさに理想的な配置だと喜んだ。
自分は公爵家へ婿入りして中央政界を牛耳り、実家の辺境には「御しやすい元夫イアン」と「溺愛する元弟オティリエ」をセットで配置する。
国の内外から、実質的支配権を握ったと言っても過言ではない。
「待て待て待て! お前が公爵家に行くってことは、俺の上司が『宰相(お前の義父)』と『お前』になるってことか!? 逃げ場ねぇじゃねぇか!!」
イアンが頭を抱えて悲鳴を上げる。
前世、妻だった男が、今度は「国の実権を握る文官の長」として命令を下し、自分は最果ての地で元義弟(現・妻)を世話しながら、アッシュへ報告書を送り続ける日々──。
想像しただけで眩暈と鳥肌が立った。
「いいじゃないか、イアン。君は事務作業が死ぬほど嫌いだろう? 辺境なら魔物相手に暴れていればいい。細かな政務はオティリエが助けてくれるし、私が公爵家から指示を出してあげるから」
「それが一番嫌なんだよ! お前の指示通りに動かなかったら、速攻で視察(処刑)に来るだろうが!」
「話が早くて助かるね。……あ、オティリエ。君も安心するといい。旦那様が羽目を外したら、いつでも私に言いなさい。公爵家の権力で即、彼を『教育』してあげよう。何ならアレを切り落としてもいいぞ♪」
「……うぅ、お義兄様があまりにもお気の毒すぎます……」
オティリエは、がくがくと膝を折るイアンの手をそっと握り、「ごめんなさい……っ」と涙目で謝った。
イアンはそんな彼女が哀れで愛おしくて、優しくぎゅっと抱きしめる。
……まあ、その抱擁は恋愛というよりは、完全に「不憫な身内を庇う保護者視点」なのだが。
「……あ、アッシュ。お前こそ、エレーナ嬢と話はついているのか?」
「もちろん! 彼女は『実務能力の高い夫(私)』が手に入って満足しているし、私も『話のわかる賢い妻』ができて助かるよ。まさに利害の一致の極みというわけさ」
アッシュの瞳の奥で、最強の采配が渦巻き怪しく輝いている。
(前世、事故で突然死んだからな……。残された二人の不器用さを心配し、どれほど途方に暮れて生きいくのかと心配して後悔したんだ……。あの時の心残りは未だ胸の内で深い……、もう二度とあんな思いをするのは御免だ!)
だからこそ今世では、全員を「自分の手の内に入れ」てリスク管理し、絶対に幸せにしてやる!
アッシュにとっての家族愛とは、自分の届く範囲ですべてを統制し、誰も破滅させない『最強の盾』になることなのだ。
「……終わった。俺の自由な独身生活が……」
「失礼だな、イアン。前世からの深い縁なんだ。……それに、オティリエの何が不満だというんだ?」
アッシュから放たれる絶対零度の眼差しがイアンを射抜き、オティリエからの申し訳なさげな眼差しが彼の心をかき乱す。
(……クソッ!俺は昔から義弟の、あのどこか哀しげで寂しげな瞳に弱いんだよ……!)
オティリエの頭を優しく撫でながら慰めるイアン。
アッシュが目の前に差し出した「契約書」のような婚約承諾書を前に、イアンとオティリエは逃げられない運命を悟り、深く、深く溜め息をつくのだった。
まだまだ二人は学園の一年生であり、オティリエに至っては未成年。
これからまだまだ仕込まなければと、アッシュは口角を上げて企むのであった。
二人の受難はまだまだ続く──。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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