任務
「アタシが…殺される?」
スパルティアの発言を受けて、眉をひそめる神楽。
「ハハ…やだなぁ、アタシ、人様の恨み買うようなマネしたことないよ?そりゃあたまに男子に恥かかせちゃったりとかはあったけどさ…」
「どこまで覚えている」
「え?」
「ここに来るまでだ。記憶の欠如はいつからだ」
「え…と、早く寝ようと思って布団に入ったとこまでは覚えてて…ただ、色々考え事しちゃって…全然眠れなくて…」
うーん、と指を口元に当てつつ答える神楽。
「でも結局…寝ちゃったのかな?あんまり覚えてないや」
「……寝るときに携帯でも見ていたんだろう」
「え?あー、うん。見てたかも…」
「よこせ」
「あ!」
〈シュパッ!〉
スパルティアは目にも止まらぬ速さで、神楽のジャージのサイドポケットに入っていたスマホを掠めとる。
「あ、ちょっと!」
スパルティアは神楽の控えめな抵抗に目もくれず、奪取したスマホをポチポチ操作している。
「……これか」
「キミ…何を…」
〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜
スマホから、オルゴールの音が流れる。
安らかゆえに少し不気味、そんな音色。
「オルゴール…?」
聡汰はキョトンとした顔をしている。
「なるほどな」
「!」
「夜を眠れぬ者には効果てきめんというわけだ」
「何を言って…」
聡汰がいいかけたところで————
「う、うぅ……」
「!?」
見ると、神楽が苦しそうにこめかみのあたりを押さえている。
「八代さん!?」
とっさに神楽の元へ駆け寄る聡汰。
〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜
「うぅ…う…頭が…ぅぅう…」
「音…!?スパルティア、止めてくれ!彼女、苦しそうだ!」
〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜
「ぅぅぅ”…うぅぅぅぅ”」
〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜♫〜〜〜〜〜〜〜
スパルティアは再生を止めない。
「スパルティア!!」
「確定だな」
「……もう…にたい」
「!?」
〈ドンッ〉
突如、神楽が聡汰をはねのける。
そして、柵の方へと近づいていく。
「や、八代さ…」
止めなければ、と聡汰が慌てて立ち上がろうとしたところ————
「ッ……!?」
身体中に、今までに感じたことがないほどの激痛が走り、再び膝をつく。
どうやら先のスパルティアによる強制操縦のツケが回ってきたらしかった。
「なん…で…」
神楽はすでに柵に脚をかけている。
「聡汰」
「!」
「まずひとつ、答えをくれてやる」
見ると、スパルティアが想像を練っていた。
〈ぷくーーーーーー〉
今度のそれは、銃の形を成していく。
そして、あいかわらず細部にこだわりを感じさせる仕様である。
人を殺すための、無機質(直線的)なデザインではない————どこか曲線的で、円い、平和のピストル。
そんな銃を、スパルティアは構えた。
「これが、吾輩の任務だ」
〈パァン!!〉
神楽が柵を乗り越え、まさに飛び降りようとしたとき、高らかに銃声が鳴った。
放たれた弾は、実に柔軟である。
たちまち縄のようにしなり、神楽の身体全体を捕縛する。
「あッ」
さらにその縄はまるで生き物のように、神楽と鉄柵を結びつけ、神楽をバンジージャンプの要領で屋上に引き戻した。
不思議の縄はクッションの役割も果たしているらしく、神楽が屋上に落下する際はポヨヨンという安全な音がした。
「死なせて…死なせてよぉ…」
神楽は為すすべなく、子供のように泣きじゃくっている。
「一体…どうして…」
聡汰は、神楽の豹変ぶりに混乱している。
「ほんの芽生えだ」
スパルティアはゆっくりと神楽に近づいていく。
「だがやがて、巨悪になる」
〈ビリビリッ〉
スパルティアはそう言って、電気ショックで神楽を寝かしつけた。
「聡汰」
そして、聡汰に向き直る。
「吾輩は、未来から来た」




