#8
洞窟から出てきて、ぼくはようやく、二人のポカンとした顔の理由に思い立った。
いやいやいやいや。
何なの、今のは。
そう思ったのは当然ぼくだけじゃなかった。
「ダイチ、今の……何!?」
「おい、ダイチ! お前、ダイチだよな!?」
「待って待って! 落ち着いて!」
いや、ぼくも落ち着いてないけど。
「なんでダイチが、あんなこと知ってんだ?!」
「なんか、口調まで変わってた」
「完全に大人みたいだった」
「ダイチはいつも大人ぶってるけど、そういうんじゃなくて……本物の大人みたいだった」
「それに、ダンジョンの歩き方って何?」
「蛍光石?緑光石?なにそれ!」
「それに……」
二人は、恐る恐る顔を見合わせて
「魔力って、言ってた」
そう言って、怪訝そうな目でぼくを見た。
思わず顔を伏せる。
何だ今のは。
ぼくにだってわからない。
幽霊か何かに取り憑かれた?
ううん、違う。二人を引っ張っている時――あれは間違いなくぼく自身だった。
二人をなんとか元の場所に連れ帰ってやらないとと思って、手を引っ張ったんだ。
その時の気持ちも、二人の手の感触も、はっきりと覚えている。
あれは、ぼくだ。
……でも。
「ぼくにもわかんないよ!」
ぼくは叫んだ。
「ただ、あのときは夢中で……三人一緒に戻らないとって思って……そしたら、帰り方がわかったんだ」
というか。
「わかったというか、知っていたというか……」
自信が無くなって、声が小さくなる。
自分でも、なぜあんなことを知っていたのか、なぜ当たり前のように洞窟を「ダンジョン」だと知っていて、そして「ダンジョンの歩き方」ができたのか、さっぱりわからなかった。
自分が、自分でなくなったようで怖くなる。
こんなぼくのことを、二人はどう思うだろう?
気持ち悪いと思うだろうか。
怖いと思うだろうか。
――今まで通り、友達だと思ってもらえるんだろうか。
「ダイチさ、『オレ』って、言ってた」
コータの呟きに、ぼくはビクリと肩を震わせる。
怖い。
何が起きたのか自分でもわからない。
嫌われたくない。
色んな気持ちがグチャグチャと頭の中で混じり合って、ぼくは泣きそうになった。
「ダイチ……」
ケンゴが、ぼくをそう呼んで、俯く。
見ると、ケンゴの肩は小刻みに震えていた。
これはもうダメかもしれない。
そう思った瞬間だった。
「「すっっっっっっっげぇえええええええええ!!!!」」
ケンゴとコータの声が重なった。
「は?」
ぼくはキョトンとして顔を上げた。
二人の目は、好奇心と羨望でキラキラと輝いていた。
「コータ、お前実は凄かったんだな!」
「もうびっくりしたよ! コータにそんな一面があるなんて!」
二人はきゃあきゃあと叫びながら、跳ねた。
「『次は、こっちだ』(キリッ)」
ケンゴが何か始めた。
「『何してる?さっさと行くぞ(キリッ)」
コータまで……!?
って、それぼくの真似?!
ていうか、ぼくそんな感じだったの?!
「かっけぇーーーー!!!!」
「すっごい安心したもん!!!」
「ちょ、やめて! やめて!」
本当にやめて! 恥ずかしい!
「『何だ、蛍光石を見るのははじめてか?』」
シャキーン、とポーズを取るケンゴ。
「『ダンジョンの道標……だ』」
ビシィ、とポーズを決めるコータ。
なんでもいいよ! もう!
* * *
しばらく盛り上がって(そしてぼくが凹んで)、ふと気づく。
「そろそろ帰らないと門限ヤバイんじゃない?」
「あ!そうか!洞窟の中だと時間感覚わかんないから」
「ていうか、スマホ!圏外じゃなくなったかなー」
ケンゴがポケットからスマホを取り出す。
だから、圏外かどうかと、電源が入るかどうかは関係ないってば。
「おっ電源入った!」
「あ、ぼくのゲーム機も!」
え?
二人は電源が入ったことを喜んでいるが、ぼくはなんとも言えない違和感を覚えていた。
そして、足元に転がる、電源の入りっぱなしの懐中電灯が煌々と光っているのを見て、その違和感はますます深くなる。
「あれ?」
さらに、ケンゴのスマホの電源はまだ5時を指しており――探検を始めたあたりから、ほとんど時間が経っていないのだった。




