#9
どう考えてもおかしい。
ケンゴとコータは気になっていないようだけれど、ぼくはなんとも言えない不安な気持ちが振り払えず、悶々としていた。
あの時、二人のことをを親友だと認識していたし、自分のことを「仁科 大地」だと理解していた。
つまり、誰かに取り憑かれたとか、乗っ取られたとか、そういうことではない(気がする)。
(でも、ぼくは自分のことを「オレ」とは言わないもんな)
ぼくは確かに、ごく自然にダンジョンの歩き方を理解していた。
むしろ、ダンジョンの中で、蛍光石のことを何も知らない二人に驚いていた。
――ダンジョン。
もしかして、あの場所に何かあるんだろうか。
行けば……何かわかるかもしれない。
▽
「ダイチ!コータ!秘密基地行こうぜ!」
「ちょ、ケンゴ!声でかいって!」
テンション MAX で話しかけてくるケンゴを牽制する。
「もう一度、奥の方まで行ってみようぜ!」
「え、いや、それは……」
危ないかもしれないなぁ、なんて……。
「大丈夫だよ、昨日、ダイチが丁寧に歩き方を教えてくれたじゃないか」
コータがポンポンとぼくの肩を叩く。
「『こうすれば、ダンジョンは迷わずに歩ける』(シャキーン)って言ってたじゃないか」
ちょ、やめて。
「『歩き方がわかっていれば、迷うことなどありえない』(ビシィ)とも言ってたよね」
「わかったから、そのポーズやめて!ていうか、ぼくそんなことした?!」
「いや、ポーズはなかったけど」
「そんな感じだった」
「な?」
「ね」
「やめて」
そんなわけで、今日も秘密基地に潜ることになった。
▽
学校帰り、直接婆ちゃんちへ向かう。
今日は、机とかイスを婆ちゃんが出してくれてるはずだ。
「婆ちゃん、来たよ!」
坂を登って婆ちゃんちにたどり着くと、大声で婆ちゃんを呼ぶ。
ほぅい、と奥の方から返事があって、
「裏においでー」
と返事があった。
裏手に回る。
「うおおぉ」
「すげー」
「これはまた…」
ちょうど、学校の教室でつかうくらいのサイズの、木でできた机やイス、が並んでいた。
横で、ばあちゃんがニッと笑って
「昔、ここで青空学級をやってたときの机だよ」
と言った。
「青空学級?」
「そうさね。あんたらのお父さんやお母さんが子供の頃に、今の学校が建ったんだけどね」
「ということは、二〜三十年前?」
「そう、建て替えでね。でも、夏休み中に建て替えるはずが、長雨で工事が長引いちゃって間に合わなくてね。一ヶ月くらいかね、うちの家を学校として使ってたんだ」
「へー!」
「だから、あんたらのお父さんやお母さんのことも、アタシはよーく知ってるよ。特にケンゴ君のお父さんは、悪さばっかしてたね」
えーっ!と声が上がる。
「ケンゴ君そっくりだったよ」
といって、婆ちゃんは笑った。
ケンゴはすこしだけバツの悪そうに顔を掻いていた。
▽
一度に運ぶのは無理なので、とりあえず一人一つずつ、椅子を運ぶことになった。
「石段に気をつけなー」
「わかってるー」
言いながら、石段を登る。
坂を下り、川沿いを行く。
赤い大岩で曲がり、また石段を登る。
さすがにちょっと疲れた。
とりあえず、祠に手を合わせて、お約束の儀式。
「よし、会員証を見せろ」
三人でお守りを取り出して見せ合う。
「入場を許可する」
ケンゴが真面目くさった顔で宣言する。
秘密基地は、奥の方だと暗いので、入ってすぐくらいのところに椅子を置く。
「椅子が来るだけで、秘密基地感が違うな」
「そうだね」
感慨深く眺める。
うん、ぼくらの秘密基地は世界一だ。
「じゃ、どうする?机取りに行く?」
「それはまた明日でもいいんじゃない?」
「せっかく来たし、ダンジョンに潜りたい!」
コータが手を上げる。
こういう時、一番積極的なのがコータなのだ。
「よし、じゃあ、どうする?昨日と同じでいい?」
「ううん、ちょっと考えたんだけど」
と言ってコータが首を横に振る。
「昨日と同じでも『ダンジョンの歩き方』がわかっていれば大丈夫だとは思う。けど、念には念を入れて角を曲がるときのルールを作ろう」
「ルール?」
「うん、つまりこういうこと」
1.最初の曲がり角を右に曲がったら、次からは、左、右、左、右…と交互に曲がる
2.曲がりたい方に道がない場合は、曲がれる方に曲がる。
3.2は「正しい方向に曲がった」とカウントする
「こうすれば、あとで必ず元の場所に戻ってこれると思うんだ」
コータが言う。
なるほど、よく考えてるなぁ。
「紐はどうする?」
「良く考えてみたら、どのみちそんな長い紐じゃないから、あんまり役に立たないと思う」
想像してたよりずっと広かったからね、とコータが言う。
「なるほど」
だいたいの方向性はわかった。
「じゃあ、行くか!」
「おー!」
「出発!」
そうして、ぼくたちは二回目のダンジョン探索に出発した。




