#5
ぼくたちはその場で引き返すことにした。
いくら話し合っても意味がないのはわかってるからだ。
「少なくとも、さっきの男が向かったのは逆方向だから、いきなり出くわすことはないだろ」
とケンゴは言ったけれど、どうしてもおっかなびっくり歩くことになり、出口に戻るのには少し時間がかかってしまった。
外から入ってくる明るい光を見て、ぼくたちは心底ほっとする。
途中でツノコウモリが現れたが、ケンゴが上の空のまま片手で叩き落とした。
考えてみれば、モンスターよりも人間の方を怖がっているなんておかしな話だ。
思えば、ぼくたちもずいぶんモンスターに慣れたもんだ。
ようやく基地に戻って、みんな息をつく。
「みんな、聞いてくれ」
ケンゴの声に、皆が振り返る。
「今日のことについて、話し合っておこうと思う」
なんかリーダーっぽいことをいい出した。
「賛成」
アリサが手を挙げて、
「つまり……これからどうするかってことだよね?」
「またばったり会うこともあるかもしれないからね」
「あたしはいつもどおりでいいと思う」
カナちゃんの言葉に、アリサが顔をしかめる。
「それは……『ダイチさん』が出てこなかったから危険はないって判断?」
「そう」
頷くカナちゃんに、
「それはまぁ……言いたいことはわかるけれど、実際のところはわからないじゃない?」
アリサが反対する。
「索敵はコータが担当だ。だから、敵との遭遇についてはコータの意見を聞こう」
ケンゴの言葉に、
「え、ぼ、ぼく?」
コータがちょっと狼狽えた。
「そうだ。リーダーとしてコータの意見を聞きたい。索敵が一番上手いのはコータだ。だから、もしこれからもダンジョンに潜るなら、さっきの男に会わないために、コータに頼ることになる」
ケンゴが真剣な顔でコータを見つめる。
「コータは、どうしたらいいと思う?」
コータはしばらく考えて、
「わかんないよ」
と答えた。
「わかんないって、そりゃわかんねぇのはみんな同じだけどさ」
ケンゴが口を尖らせるが、コータは
「や、そうじゃなくて」
と、考え考え思ったことを言葉にしていく。
「カナちゃんの言うことも一理あると思うんだ。ぼくは、大人ダイチ……いや」
ちらっとぼくの顔を見る。
「もう『ダイチさん』でいいかな」
「ちょ、その呼び方やめて」
しかしぼくの言葉はサラッと無視された。
「ダイチさんのことは、ぼくも信用していいと思ってる」
「その呼び名、定着しちゃうんだね……」
「じゃあ、これからもいつも通りでいいってことか?」
「ううん、アリサの言うことももっともだと思うんだ。多分、危険はないとは思う。とはいえ、本当に遭遇しても大丈夫かどうか、試して見るわけにもいかないよね」
「ま、そうだよな」
「だから、ぼくとしてはこれまで通りダンジョンには潜りながら、できるだけ灯り魔術を使わないで、できるだけ遭遇しないようにした方がいいと思ってる」
「なるほど」
「でも、さ」
コータは肩をすくめて、
「それが正しいかどうかは、ぼくにはわかんないかな。最終決定は、リーダーのケンゴが決めるべきだと思う」
まぁ、そうなるよな。
「ケンゴ……」
アリサが少し不安そうにケンゴを見つめる。
視線に気づいたケンゴは、アリサの顔を見つめる。
「アリサ、お前さ、もうダンジョンに潜るのやめたいか?」
「う、ううん、あたしは、ケンゴが決めたとおりにする」
そしてちょっとうつむいて
「やっぱりちょっと怖いけど……」
「じゃ、ダイチは?」
え、ぼく?
「お前はどうしたい?」
「う、うーん……正直、これでダンジョン探索はやめる!ってのは、無いかなって思ってるけど」
「けど?」
「ほら、ぼくの場合さ、『大人ダイチ』はぼく自身でもあるわけで……ちょっとみんなとは立場が違うというか」
「あぁ……」
コータが頷く。
「でもまぁ、なんだろ、ぼくもケンゴの決めたようにするのが一番だと思う」
丸投げした。
「よし」
ケンゴが腕を組んで、何やら悩んでいるように見せる。
まぁ、どうせ格好だけで、何も考えてないと思うけど。
「決めた!」
ケンゴが宣言する。
「索敵担当のコータの意見で行く!できるだけ灯り魔術を使わず、できるだけ鎧の男に遭遇しないようにする。あとはいつもどおりということで」
とりあえず、そういうことになった。




