#11
「ダイチ、ダイチ」
「何だ」
「ダイチはさ、どこでそんな知識を身に着けたの?」
コータの言葉に、ふむと考える。
「どこでも何も、冒険者としては常識の範囲だぞ」
「冒険者って……」
コータが呆れたように肩を落とす。
「あの……今更なんだけど」
「何だ」
「キミ、ダイチだよね?」
一体何を言ってるんだ、コイツは。
「他に何に見える」
「いや、だって、完全にキャラ違うし」
「知ってることも多すぎるし」
二人がオレを見つめる。
「そう言われてもな……」
二人が何を言いたいのか、今ひとつわからんが、間違いなく言えることが一つある。
「ほら、外だ」
うっすらと光が差し込む先を指さした。
「「外だ!」」
二人はパッとそちらを向いて、嬉しそうに走り出す。
「おい、ダンジョンで走り出すとか……まぁ、ここは危険があるわけでもないし、かまわないか」
オレはため息をついて、二人の後を追った。
* * *
「で、今に至ると」
ケンゴが椅子に座ってぼくをジト目で見つめる。
頭をかかえるぼくの肩に、コータが手を置く。
「コータ……」
コータはニッコリ笑い、
「説明が欲しいかな」
のー!
声無き悲鳴をあげて、ぼくはもう一度頭を抱える。
だから、そんなことを言われても、自分でもわからないんだってば。
「さすがにキャラ変わりすぎかなって」
コータの追撃に、
「喋ってるとさぁ、まぁ間違いなくダイチはダイチなんだよ」
と、ケンゴが珍しく真面目な声で言う。
「なんか別の人? 幽霊? とかがさ、取り憑いてるとかさ、モンスターに乗っ取られるとかさ、そういうのあんじゃん?」
「あーそういう感じではないよね」
二人がうんうんと頷く。
「ぼくも……乗っ取られたとかそんな感じは全くしてない……」
ぼくが答えると、
「最初は、単純に本当は最初からこの場所を知っててさ、知らないフリしててカッコつけてるんだと思ったんだけど」
「そんなことしない……」
「だよね。ダイチはそういうことするタイプじゃないし。『ダイチ』って話しかけたら、普通に返事してくれるしさ」
コータの笑顔が怖い。
「でもさぁ、さすがに知りすぎっていうか……いつものダイチだとも思えないだろ、アレ」
ケンゴのジト目もやだなぁ……。
「あ、あのさ、一応心当たりがなくもない、っていうか……」
ぼくがそう言うと、
「お、何だ、吐け。秘密基地仲間の間に隠し事はナシだぜ?」
「ぼくら親友でしょ?」
二人がぼくの肩をガッと組んできた。
うん、友情っていうか「逃さねぇ!」って意思しか感じないよ。
ため息をついて、ぼくは正直に話することにする。
「ぼくさ、記憶が二つあるんだよ」
「記憶が二つ?」
「うん、一つはさ、まぁ、いつものぼくっていうか……要するに『仁科 大地』の記憶なんだけど」
「うん」
「もう一つは……えーっと……」
ぼくが言い淀むと、ケンゴがむっとした顔をする。
「なんだよ、言えねぇのかよ」
「そうじゃなくて」
ぼくは二人の顔を見つめて、
「笑わない?」
「は? 何を?」
「いや、今から言う話。馬鹿にして笑われそうで言い辛いんだよ」
そう言うと、二人は真面目な顔をして頷いてくれた。
「笑わねぇよ」
「うん、約束する」
「じゃあ……」
ぼくは意を決して話をする。
「もう一人のぼくは、どうも異世界でモンスターと戦ったりする戦士みたいなんだ」
二人はそれを聞いてポカンとする。
そしてゆっくり口を閉じて「ぐっ」と変な声を出して俯いた。
笑われる、と思った瞬間、
「ずっりぃいいいいいいいい!!!」
とケンゴが大声で叫んだ。
「お、ま、えーー!! なんでお前だけさぁ!! そんなカッコイー記憶? 戦士? モンスター?! 羨ましいーーー!!」
「待って待って、予想外の反応に対応できない」
「ちくしょー! オレにもそんな記憶があったらなぁあああああ!!」
ケンゴはジタバタと暴れる。
コータはというと、ハァーと長いため息を吐いて、
「あー、ケンゴはそういうの憧れてるからねー」
と力なく笑った。
「幼稚園の頃からいつも「オレは戦士だ!」みたいな? 剣道を始めたのもその影響」
「コータは? 信じてくれるの?」
「信じるって、もう一つの記憶とかって話のこと?」
「そう」
「世界中にそんな話あるからね。テレビとか図書館の本とかでも見たことがあるから、うん、そうだね。信じるよ」
まさか身近にいるとは思わなかったけど、とコータは笑ってくれた。
心底ホッとした。
「なんで、怖がらないの?」
まだ「ずるい」「ずるい」といい続けているケンゴと、それを生暖かく見ているコータに、ぼくは言った。
「ぼくは正直怖かった」
「自分が変になったと思って?」
「違う」
そうじゃなくて……。
「怖がられたり、嫌われたりするんじゃないかと思って」
それなのに、学校に行ったら二人とも秘密基地に行く気満々だし……。
そう言うと二人は「あー」と声を上げた。
「いや、でもダイチだし」
「だよね、ダイチだから」
「どういう意味?!」
「あ、馬鹿にしてるんじゃなくて」
と、コータが慌てたように手を振って、言ってくれた。
「ほら、友達だからさ。ちょっとくらい様子がおかしくても、本人かどうかくらいはわかるでしょ」




