56 Cランク昇格試験⑦
予約投稿の日付を間違ってたのに気づいてなかったでござる。申し訳ねぇ申し訳ねぇ!
昇格試験編はこれにて終わりです。
次回からは4章の予定。
ゆっくりした足取りで近付く俺に、冒険者達は皆恐怖の表情をし、後ずさる。
俺は、そんな彼らを警戒しつつも、足は止めずに、ウィリアムの方へと向かい足を進める。
「ま、まて! な、なんでこっちに来るんだ!?」
どうやら、目的が自分である事を悟ったらしく、恐怖の表情を一層強めウィリアムが叫ぶ。
それと同時に、周りの冒険者はさっと彼の周りから距離を取る。
誰も、ウィリアムを守ろうとする人間はいない。
そんな彼を若干哀れに思いつつも、足は止めない。
「う、う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
どうやら、恐怖が限界まで来たのか、ウィリアムは俺へと叫びながら切りかかってくる。
迫る一撃を、僅かに体をずらすだけで回避し、そのまま踏み込んで、一気に懐まで飛び込む。
「なにっ!?」
俺はウィリアムの剣をがっしり掴むと、力づくで奪い取ると、そのまま後方へ向かって放り投げる。
カランと放り投げられた剣が地面に落ちる硬質な音を聞いた、ウィリアムが、絶望の表情を浮かべた。
俺は、素早くウィリアムの背後を取ると、首に左腕を回してがっしりと抑え込んで、締め上げる。
本気でやると、首の骨を折りかねないので、しっかり加減はしておくが。
「が、がぁ!? は、はなぜ……ぎざまっ!」
必死に腕の拘束から逃れようと、爪を立てて抵抗するが、俺からしたらそんな抵抗等無いに等しい。
やがて、酸欠によって意識を無くしたのか、ぐったりとして動かなくなったので、俺は彼をそっと地面へと下ろす。
死んでない事を確認し、密かに安堵する。
俺がウィリアムを放しても、他の冒険者は、誰も近寄ってくる様子はない。
皆、震える手で自らの武器を力いっぱい握りしめてはいるが、俺にそのま攻撃してこようとはしない。
実力差がはっきりしているためか、彼らに最早戦意は無いにようだ。
俺としては、別に手を出してこないないのならば、それでいいので、彼らの事は無視して、気絶したウィリアムの懐から小瓶を探す。
……あった。
数分もかからず、目的の物を見つけだし、鑑定も使い確認を済ませ、そのまま魔法の袋へとこっそりしまう。
これで、目的は達成できたな。
これ以上ここに残っても、彼等を怖がらせるだけだし、俺はさっさと退散するか。
そう思い、走り出そうとしたその時。
「ゲホ……うっ……ケホッ!」
小さいが、女性の小さく咳き込む音と、呻くような苦し気な声が聞こえた。
しかも、聞こえてきた方向から考えて、背後の怯えている冒険者達ではない。
視線を彷徨わせ、音の出所を探す。
プラントリザード達にやられた者達が、倒れているあたりか?
倒れている冒険者達は、ぴくりとも動かないので既に死んでいるのだと思い込んでいたが、どうやらまだ生きている人間はいたようだ。
生命探知の感度を上げてみると、微弱だが1人だけ反応がある。
残りは残念ながら既に手遅れのようだ。
反応が消えかかってるな。
……あの人か。
呻きながら倒れていたのは、女性の冒険者だ。
年は17、8といった所か。
赤みがかかった茶髪の髪を肩まで伸ばしており、眉が細い。
肌は日に焼けて小麦色をした美人だ。
瞼が閉じられているため、その瞳の色は分からない。
苦痛の為か、顔を歪めて、荒い呼吸を繰り返しているその姿は、なんとも痛々しい。
武装はショート・ソードと小盾。防具は鱗鎧か。
皮や鉄で作られたものより値は張るが、その分防御性能は高い物だな。
流石にプラントリザードの爪牙を防ぐには強度が足りてなかったようで酷く破損しているが、幸運にも致命傷だけは防げた感じか。
しかし、それでも酷い傷だな。
このまま放っておけば確実に彼女は死ぬだろう。
だが、今治療すれば助かるかもしれない。
さて、どうするか……。
俺としては、別に助けなくても何の問題もないし、助けたとしてもメリットも無いのだが。
しかし、そうは言っても、目の前で死にそうになってる美女がいたら、やっぱ男としては助けたくなるよなー……。
一応、どれくらいの体力が残ってるか確認してみるためにステータスをチェックする。
うわ。もう体力も既に3分の1も残ってないな……。
おっ。この人探知スキル持ちなのか。
という事は、ここまで冒険者達を先導していたメンバーの1人って事だよな?
あの傷だらけの冒険者達だけでは、このまま帰ったところで、途中に魔物と鉢合わでもしたら、今度こそ全滅しかねない。
かといって、俺が彼等を野営地まで送り届ける訳にはいかない。
折角助けたのだし、帰りに他の魔物に襲われて全滅……なんて事になったら俺も寝覚めが悪い。
だが、仮に彼女が生き残れば、探知スキルがある分、生き残った冒険者達が森を抜けられる可能性が高くなるかもな。
俺は魔法の袋から薬瓶を一つ取り出す。
このポーションは、緊急時に使えるようにと買っていた物だ。
瓶に入ってるポーションの色は、黄色ではなく赤。
値段も黄色に比べると高額な赤の癒し薬だ。
黄の癒し薬との違いは、治療時に発生する痛みを和らげる鎮痛効果がある事。そして肝心の治療能力もより上を行くという完全上位の品だな。
最も、これが最上級というとそういうわけでもなく、更に効果が高いポーションも数多くあるらしいのだが、高価に比例して、値段はどんどん上がっていくので、そう簡単に手に入るものでもない。
赤の癒し薬の蓋を開けると、夜の静粛が支配する森の中でキュポンと、どこか間抜けに聞こえる音が鳴る。
そのまま中の赤い液体を、そのまま彼女の傷口へと振りかける。
「うっ……つあっ……」
傷口に染みるのか、きつく瞼が閉じられ苦しそうに呻くものの、それも一瞬。
すぐに鎮痛効果が発揮されたのかその表情は穏やかなものになる。
ゆっくりと瞼が開かれ、その下の黒い瞳と目が合った。
もっとも今の俺に瞳は無いのでこの表現であってるのかは不明だがな。
「ここは……? えっ……きゃっ!」
視界がはっきりして、目の前にいる俺の姿に思わず恐怖の声を漏らす。
まぁそういった反応が返ってくるのはわかっていた。
そりゃ怖いよ。
目が覚めたら目の前に、骸骨がいたら、ただのホラーだしな。
「な、なんで!? 私、あれ……嘘っ! 治ってる……?」
彼女は状況がうまく呑み込めていないのか、混乱しつつも、今も自分の傷がゆっくりと治っているのは感じたようだ。
こんだけ動けるなら、もう心配ないだろう。
これ以上してやれる事はないし、後は、自分達でなんとかしてくれ。
「貴方……が……助けてくれたの?」
なんとなく、自分の状況を理解したのか、彼女は疑問のこもった瞳を俺に向けてくるが、俺は特に答える事もなく(そもそも今の状態じゃ喋れん)、背を向けて去る俺に、慌てて何かを言おうとしていたようだが、俺はそれを無視して、森の奥へ向かうように、走りその場から離脱した。
◆
――あれから、どれくらい進んだだろうか。
とにかく、離れる事を目的にひたすら真っ直ぐに進んで来たが、もう大丈夫だろうか。
周囲には、人の姿はもちろん、魔物の気配も感じない。
風に揺られた草木が微かに音をたてるくらいで、静かな物だ。
ここまで来たのは、俺が入り口の方へ戻る姿を、あの場にいた冒険者達に見られたくなかったからだ。
彼らが無事に帰還したとしたら、まず間違いなく今回の一件はギルドの耳に入る。
黒いスケルトンが魔の大樹海に現れたと。
更にそのスケルトンが、死霊迷宮に現れた、例のスケルトンと同一存在である事もすぐに分かるだろう。
黒いスケルトンが既に、死霊迷宮の外に逃げたとなれば、閉鎖が解かれるのも時間の問題だと思う。
そもそもあの迷宮の封鎖は、後先考えずに突っ走った俺のせいだしな。
まぁ、結果として2人の命は助かったんだが。
それでも、一時的とはいえ一つのダンジョンが封鎖される事態は、街にとって、というよりギルドにとっての損害は結構大きかった事だろう。
なので、色々引っ掻きまわしてしまった原因であるスケルトンは、このまま森の奥に消えて行方知れずって事にしてしまった。とした方が、都合がいいだろう。
後は、今後は人のいる場所で人化を解かないのを意識してれば、もうライムダールに黒いスケルトンが現れる事もないだろう。
さて。色々トラブルはあったが、これで、なんとか厄介事は片付いたんだ。
……帰るか。
そう決め、くるりと反転し再び森の中を移動し始める。
しばらく進むと、生命探知に森の中を進む10人前後の青の反応があった。
さっきの冒険者達が生き残りをあつめて帰還している途中なのだろうか。
気になって、立ち止まり、少し様子を見てみたが、行きと同じ要領で、魔物の反応を上手く避けて少しずつ進んでいるようだ。
これは、さっきの女性は助かったとみていいのかな?
後は、このまま森を無事に出る事ができればいいのだが……。
心配じゃないと言えば嘘になるが、しかしもう俺が彼らにしてやれる事は何もない。
生きて森を抜けられるかは、彼らの運次第だろう。
折角の偽装がバレては意味がないので、当然冒険者達の反応を迂回するのを意識して、スピードを更に上げつつ俺は、森の中を跳ぶように移動する。
今だゆっくりした足取りで進む彼等を引き離すように、俺は野営地に向けての足を速める。
◆
――この辺でいいかな。
足を止め、周囲を軽く確認する。
よし。この距離なら、人化しても、数分も歩けば野営地まで戻れるな。
正直、戦闘後も常に生命探知を使い続けていたため、もう俺の残りの魔力も少ない。
人化を発動させるのにも、僅かではあるが魔力を使うんだ。
消費が大きい生命探知はこの辺で切ろう。
これで、後は人化の術を発動して、帰るだけだな。
留守にしてた時間は、数時間位か。
シルビア達が起きてたら、なんて言い訳しようかな……。
まぁ、言い訳は、その時に考えればいいか。
とりあえず、さっさと人化を使って、それから……。
――っ!?
突如、今の俺が感じるはずのない寒気にもにた何かを感じ、思わずその場から飛び退く。
直後、ヒュッという小さな音と共に、今まで俺が立っていた場所に矢が深々と突き刺さり、更に勢いよく土煙が上がった。
弓による遠距離射撃!? しかも今の一撃は、普通の矢の一撃じゃない。
威力だけなら、まるでバリスタだ。
恐らく、何らかのスキルによって強化された物。
当たってたら俺も唯じゃ済まなかっただろう。
慌てて、更に数歩後ろに下がり、矢が飛んできた方へと視線を動かす。
「うそっ!? 躱された!?」
そこには、次の矢を番えつつ、こちらに狙いを定めているシルビアと、杖を構え、油断なくこちらをにらんでいるアーティアの姿が映る。
あ、まずい。一番見つかっちゃダメな奴に見つかった。
「シルビア! 次の矢のチャージを急いで! 魔力の節約は考えなくていいわ!」
「りょーかい。じゃ、魔力ありったけ込めてさっさと蹴散らしちゃうよ!」
アーティアが杖を構えて、氷柱を空中に展開。
その数は20。鋭く尖った切っ先は全てが俺へと向けられている。
更にシルビアが番えている矢からは、淡く蒼い輝きを放っており、何らかのスキルによって強化されている最中の様だ。
ちょ、待て待て待て! 呑気に見てる場合じゃない。
シルビア達と正面切っての戦うなんて、冗談じゃないぞ!
逃げるか?
いや、今の俺の魔力じゃ魔闘法もほぼ使えない。
更に、相手はエルフの血を持ってるシルビアだぞ。森の中で彼女から逃げられると思えない。
あれ、これ、積んだんじゃ……。
まもなく2人の魔法と矢が、俺に向かって同時に放たれるというそんな時、白い小さな影が割って入るように勢いよく飛び出し、シルビア達に殺気を放つ。
マシロだ。
ただし、今のマシロからは、いつもの人懐っこい雰囲気は完全に消え失せ、血のように紅い瞳からは、魔物本来の獰猛さが醸し出されている。
「……シャアア!」
「ちょ、ちょっと!? 何してるの! 冗談でしょマシロちゃん!」
「まさか、あのスケルトンを庇ってるの……?」
「フシャァ!」
マシロの口の端からは、ちろちろと火の粉が舞う。
これは、いつでもブレスを放てる事を意味している。
当然、シルビア達もその事を理解しているため、一気に緊迫した雰囲気となる。
「お願いマシロちゃん……。いい子だから邪魔しないで!」
「シルビア。もしもの時は、私がやるわ」
両者の間にはピンとした鋭い気配が向けられ、一触即発状態だ。
まずい。
このままシルビア達とマシロが戦い出すなんて事態になったら最悪だぞ。
早く止めないと取り返しがつかなくなる。
止める手段があるとしたらそれは一つだけだ。
……仕方ないか。
躊躇いはあったが、それも一瞬。
俺は覚悟を決めて、その場で人化の術を発動する事にした。
変幻の指輪に魔力を流すと、俺の体が瞬時に作り替えられていくような、感覚を覚えつつ俺の体が瞬時に変化する。
「はぁ……。もうういいマシロそこまでだ。それとシルビアとアーティアも。悪いが武器を下ろしてくれないか?」
「えっ!?」
「これは幻術……? いや、それとは何かが違う……?」
「ほ、本当にジェイドなの?」
二人は驚きつつも、武器は下ろしてくれた。
展開していた魔法も解除されたのか、氷柱も解けるように消える。
マシロの殺気もそれによって収まり、まるで何事もなかったように、俺の方へと飛んでくると、甘えるように頭を擦り付けてくる。
「……とりあえず、話はテントに戻ってからでいいか? 外は冷えるし」
俺の言葉に二人は顔を見合わせる。
「……いいわ。行きましょうか」
「う、うん。わかった……」
一応同意してくれたので、俺達はそのまま無言で歩き、野営地まで向かう。
テントに入る前に、周囲に人が居ないのを確認し、更にアーティアに防音の魔法をお願いするのも忘れない。
「これで、私たちの声は外には漏れないはずよ」
「助かる。さて、先ずは、どこから話していいのか……。ああ。その前に俺からも、一つ聞いていいか? シルビア達はどうしてこんな時間に森に入ったんだ?」
「ジェイドがいなくなってたから、皆で探してたのよ。起きたらマシロちゃんだけ置いて何処かに行ってるんだもん。しばらくしたら戻ってくると思ってたけど、全然戻ってこないし! そもそも、夜の森は危険だって散々お互い話してたのに、何考えてるのよもぉ!」
俺の何気ない質問に対して答えたのは、シルビアだ。
しかも、言葉に含まれた怒気からしても、かなりご立腹の様子だ。
まぁ、やっぱり急いでいたとはいえ、もう少しやり方があったと思うし、俺が悪いな。
心配かけたのも事実だし、ここは素直に謝るべきだろう。
「どうしても、行かなきゃいけない理由ができたんだ。黙って出たのは、危険に巻き込むかもしれなかったからだ。ただ、心配かけて悪かった」
「もういい。一応、無事に帰ってきたみたいだし」
「……そういえば、マシロはシルビア達を止めなかったのか?」
『シルビア達、とーさま探しに行くって言ってた。……迷ったけど、2人を守れっていう命令だったから、一緒について来た。……ごめんなさい』
「ああ。謝らなくていい。うん。マシロは悪くないよ。ちゃんと自分なりに考えて行動してくれたんだし。今回は全面的に俺が悪い」
しょんぼりとしてるマシロを撫でて慰めているとシルビアが、じとっとした目で見てくる。
「それで、さっきの何? なんでスケルトンから人間に突然変わったの?」
「……簡単に言えば、あれが本来の俺の姿だからだ。今の俺は、魔道具の力によって、姿を変えてると思ってくれ」
「もしかして、その指輪かしら?」
「当りだ。この指輪については、俺も全部分かっているわけでもないので、どういった魔法によってこうなってるのかは、詳しくは言えない。そういう物だと思ってくれ」
「とりあえず、今まであった事を順番に話すよ」
とは言っても、さて、まずどこから話したものかね。
そもそも、俺自身この世界に来た経緯については一切わかってない。
自分自身が本当は何者なのかも知らないし、俺について語れる事は意外と少ないと思うんだが……。
とりあえず、初めてこの世界で目が覚めた所から、今までの事を順番に話していくしかないよな。
◆
「――それで、まぁ、これがその小瓶。ギガント・キラーマンティスのフェロモンが入ってる」
「ほ、本物なの?」
「じゃなきゃ、今回みたいな危険をわざわざ冒す理由がないだろ……」
「信じられない事ばかりだけど……。こうも色々見せられたら信じるしかないわよね。それにしても、貴方どういった存在なのかしらね。意思を持つ魔物とみるべきかしら? それとも呪いか何かで魂を縛られた存在とか? 既に禁術として滅んだとされる死魂術の線も考えられるか。……ふふ。興味深いわね」
シルビアは恐る恐る小瓶を手に取った眺め、アーティアは思考の海に没頭しつつも、その顔は知的好奇心にあふれ、どことなく妖艶な物を感じる。
一瞬ぞくりとした寒気のようなものを感じ、思わず視線を反らす。
なんか、あんまり、突っ込まないほうがいい気がした。
「はい、返すね。かなり、危険な状況だったんでしょ? なんで、私達にも一言手伝ってって言わなかったのよ?」
じとっとした目で俺を睨みながら無茶な事を言ってくれる。
「どう説明しろって言うんだよ。いきなり目の前で人化を解くわけにもいかないだろ?」
「そりゃ、そうだけども……」
「確かに、私が同じ立場だったとしたら、打ち明けるのには抵抗があるわね。シルビアも、ある程度気持ちはわかるんじゃない?」
「……そうだね。簡単に……話せるわけないよね」
「話したとして、信じてもらえる保証はない。それに、俺のこの秘密は、発覚した時の危険が大きすぎる。2人を巻き込む訳にはいかなかったんだ」
2人にもそれは理解してくれてるのか、頷いて同意を示してくれる。
「最後に、今後についてだ。俺の秘密は話した通り、危険な物だ。なので、このままパーティを組み続けるのは、危険かもしれない。なので、この試験が終わった後は、お互いに別の道を進むのが得策なんじゃないかというのが俺の意見だ。当然、今回のパーティを組む時に話したギルドからの身分証の話は、俺からウォルターさんに頼むつもりだ。シルビアにとって、あれは必要な物だろう? 口止め料……ってわけではないが、今まで世話になったんだ。せめて、それくらいのお返しは……」
「待って!」
俺がそこまで言うと、シルビアは目を瞑り、暫し何かを考えているようだ。
短い沈黙の間に、考えを纏めたのか、再び口く。
「そりゃ確かに、危険はあると思う。でもねジェイド。私は、抜ける気ないよ」
シルビアはそう、笑顔を浮かべて宣言する。
それが当然だと言わんばかりに。
「……危険だぞ」
「そんなの。冒険者をやってたら、いつもの事じゃない」
「そういう問題じゃなくってだな……」
「今までの話を聞く限り、基本は人化して過ごすんでしょ? なら、よっとぼのヘマしなきゃ、普通の人間と見た目が変わらないんだし、私たちが黙ってればそれで済む話でしょ?」
「確かに、それはそうかもしれないが……本当にいいのか? アーティアも納得してくれるのかそれで?」
ちらりと視線をシルビアの隣にいる魔術師に向けると、彼女は微笑みを浮かべる。
「私としては、シルビアがいいなら、それでいいわよ。それにね。話を聞いた限り、私としても、非常に興味深い存在なのよねジェイド君は。流石に解剖とかは……無理でしょうけど。よければ、少し調べるくらいはさせてもらってもいいかしら? もし許可してくれるなら、私も魔法について色々教えてあげるから」
俺とシルビアのやり取りを黙ってみていたアーティアもまた、笑って、そう答える。
元々魔法については、昇格試験が終わった後に聞く予定だったし、俺としてもあまり手荒な事をされなければそれは構わないんだが。
なんだろう、少し嫌な予感がした。……気のせいかな。
「あんまり、手荒な事じゃなければ、多少は構わないよ」
「ありがと。なら、私は特に反対しないわ」
「それにさジェイド。そもそも、こんな話人に話して信じてもらえる訳無いでしょ? こうして実際に見た私達ですら信じられない位なんだもん」
「そう言われると……確かにそうだが、シルビアに何の得があるんだ?」
「あ、もちろん明確な理由もあるよ? そもそもジェイドと一緒に行動するのは悪い事じゃないと思うだよね。魔法の袋っていう、とんでもない物も持ってるしね。それに、ギルドマスターとのコネもあるし。それだけでも、ここで逃したら損するの間違い無しな優良物件と思うもん。だから、私はこのパーティ抜けるのは勿体ないと思うんだよね」
「……それ、俺を利用する気満々じゃね?」
「そ。当り前でしょ? 私達は冒険者。明確な利益が見えてるんなら、多少の危険なんて二の次よ。それに、建前でも、そうした理由があったほうが、分かりやすくていいでしょ?」
「後は貴方次第ね。どうするのジェイド君?」
たぶん、俺の正体を知っても、ここまで堂々と迎えてくれる仲間はそうそう現れる物じゃないだろう。
下手したら、もう二度とこういう機会は無いかもしれない。
なら、答えなんか決まってる。
「わかった。……悪いな。迷惑をかけるが、今後も力をかしてくれ」
そう言って頭を下げた俺に対して、話は決まったと、シルビアが笑って右手を差し出してきた。
その手を俺も握り返した。
その時の彼女の手の温もりは、俺にはとても暖かく感じた。




