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スケルトンの冒険者 異世界生活記 ~人化の術で冒険者やってます~  作者: 肉巻きおにぎり
3章 スケルトンの冒険者(Dランク)
57/60

55 Cランク昇格試験⑥

微妙に修正してたら18時過ぎてしまった。

ちょと遅刻気味ですが、とりあえず投稿。

 土煙を上げて着地したソレは、1体の魔物。

 それも恐らく冒険者だけではなく、子供ですら知っている程有名な魔物であり、とりわけ珍しい存在でもなかった。


 ――スケルトン


 死してなお動く骨の魔物であり、低位アンデッドの中でも最も弱いと言われている魔物だ。


 しかし、そのスケルトンは通常のソレとは違っていた。

 一般的に知られているスケルトンは白や灰色が殆どである中、このスケルトンは黒色をしており、眼窩の奥にはぼんやりと紅い光が、世闇の中で不気味に輝いている。

 体には、襤褸切れのような灰色のローブを身に着けてそれがまた一層その魔物を不気味に見せていた。

 

 この魔物は、恐らく、スケルトンの亜種。

 しかも、ただの亜種ではなく、進化を重ねた上位種だろうか。


 謎のスケルトンの乱入に、唖然とその場で固まる冒険者達。

 しかし、それよりも先に、混乱から立ち直ったのは3匹のプラントリザード。


 どうやら、彼らは、目の前のスケルトンが自分たちの敵であると認識したようで、いつでも仕留められる冒険者ではなく、先ずはこの邪魔者を先に排除する事を優先したようだ。


 プラントリザードは、鋭い牙がびっしりと生えた口を開き、3匹が一斉にスケルトン目掛けて飛び掛かる。


 ウィリアム達はプラントリザードの動きはかなり素早いのは先程の戦闘で理解しているつもりだった。

 しかし、この時の3匹のプラントリザードの速さは、先の戦闘をはるかに上回っていた。


 そんなプラントリザードに対して、黒いスケルトンの方に動きはない。

 静かに、たた佇んでいるだけだ。

 この黒いスケルトンも進化して多少その辺りは他の個体よりも強くなっていたのだろうが、このプラントリザード達の動きには対応できないのだろう。


 なぜあのスケルトンがこうして飛び出してきたのかはわからないが、あの三匹のプラントリザードの前では無意味だ。

 まもなくプラントリザード達は、あのスケルトンをかみ砕き、再び自分たちに向かってくるだろう。

 そう誰もが諦めかけたその時に、訪れた結果は、彼らの予想外の出来事となった。


 ◆


 危なかった。

 まさか、逃げるんじゃなく戦う選択肢を選ぶとは。

 普通こういった環境で魔物に不意打ちされたら、逃げるのが鉄則だと思うんだけどな。

 そうしてくれたら、俺としては逃げる冒険者達を追うであろうプラントリザード達を、その背後から仕留めて援護してやるなんて事も出来たと思うんだが……。


 こうなってしまっては、正面切ってこの3匹を相手にするしかないか。


 まぁ、彼らの選択を責めたところで仕方ない。

 それに、こうなってはもう尾行どころでもないしな。

 残酷な話ではあるが、正直今回俺は彼らを救うためにわざわざここまで来たわけではない。

 今回彼らはギルドの忠告を無視して、危険を承知でここまで来ているのだし、冒険者をやっているとこうした突然の死は、いつ訪れてもおかしくない事だ。


 それに仮にだが、俺がプラントリザード達の不意打ちを防いで、それによって彼らが助かったとしよう。

 だが、はたして彼らは俺を見て味方だと思うだろうか?


 考えるまでないよな。

 答えはNoだ。

 だって、傍から見たら獲物を横取りしようとより強力な魔物が乱入してきたようにしか見えないし。

 仮に彼らの立場だったとしたら、俺ならそう思うし。


 つまり、あのまま放っておいてこのプラントリザード達が食事を終えてからゆっくりと小瓶を回収してしまうのが一番楽だったと思う。


 ただ、そう思っていても、目の前に繰り広げられる惨状見ていることが出来なかった馬鹿が……俺だよ。

 本当なにやってんだろうな俺は。

 こんな堂々と飛び出してちゃ、今まで尾行していた意味がないじゃねーかって思わず自分で自分を殴りたくなる衝動に駆られるが、こうして飛び出してしまった物は仕方ない。


 一先ず小瓶の回収は後にして今はこのプラントリザード達を始末するのが先だな。

 幸い彼らはプラントリザード達によって傷を負っている者が大半で、戦意がある者も少ない。

 放置していても、すぐに何処かに行くようなことはないだろう。

 大人しくしてくれるのであれば、今はそれでいい。


 これが下手に抵抗する元気が残ってでもいたら、後で小瓶を回収する時に、万が一割れるような事態にななるかもしれない。

 そんな事になったら、もうそれこそ俺がここまでしてる意味が無いからな。


 あの中身の効果範囲がどれ程かはわからないが、この森の奥には、実際にギガント・キラーマンティスが存在しているのは俺は知っている。

 そして、それが1匹しか存在しているとは、とても思え無い。

 もし、この森であの小瓶が割れて、奴等がそのフェロモンの臭いを嗅ぎつけてしまったら。

 そして大群でその臭いの元へと寄ってくるような事態になれば……。

 事はこの場にいる冒険者達だけで被害が終わるとは思えない。

 なにせ、あんな化け物が興奮状態で何匹も奥から出てこられたら、それこそ周りの魔物も巻き込んでの大規

 模なスタンピードにまで発展しかねない。


 スタンピードにも2種類がある。

 一つは反乱主とよばれるその地域の王が生まれ、それが街等、人間が多く集まる場所へと餌を求めて魔物の軍勢を引き連れてくる場合。

そしてもう一つが、何かの突発的な原因で大型の魔物が大移動を始めた時、それから逃げるように小型の魔物が一緒になってやってくる時だ。


 どちらにしても、一度発生した突発的なスタンピードは、簡単に収まるものではない。

 発生したら間違いなく近隣の街や村に甚大な被害が出ることになるだろう。

 そして、この近くで大きな街はライムダールだけだし、それよりも近くには立川達が住んでいる村だってある。

 もし、村に彼が居れば、多少の被害は抑えられるだろうが、それでも限度はある。立川は魔法主体の戦い方だ。

 MPが切れればそのまま数に負けてしまう可能性も十分あるし、そもそも村人を守りながらの戦闘でだと、あいつでも苦戦は必須だろう。


 それに、もしギルドの依頼などで村を留守にしていた場合なんかは……。

 考えたくもないな。


 

 最悪の想像を振り切るように軽く頭を振り、俺は、改めて意識を前方にいる魔物に向ける。


 植物の蔦が絡み合って蜥蜴の形を作ったような魔物で、大きさは3メートル位か。

 前世のテレビで見たコモドオオトカゲが、たしかこれ位だった気がする。

 しかしコイツは、どうやら植物系の魔物ではなくあくまでも蜥蜴の魔物らしく、体の至る所に茨のよう棘がびっしり生えた蔦のような物を巻きついているのようだ。

 あれも体の一部なのか、それとも擬態のために植物を纏っているのかはわからないが……。


 先ずはステータスチェックだ。



[種族] プラントリザード

[状態]  通常

[ランク]  C

[Lv]   21/45

[HP]   188/188

[MP]   64/64

[攻撃]   197

[防御]   150

[魔法攻撃] 115

[魔法防御] 120

[素早さ]  184

[所持スキル] 

 食い千切りLv4 爪撃 触手Lv3 気配遮断 消化液



 同じCランクでも昼間戦ったコボルトナイトよりも強いな……。

 それに全体的にバランスがいい能力だ。

 気になるスキルもあるな。


 しかし、触手かぁ……。

 前世の知識のせいで、正直、少しアレな物を想像してしまうんだが、この場合は純粋に武器として使用する物だと思う。

 だが、それに該当する物が見えないが、はたして一体どうやって使用するスキルなんだ?

 今のところ使用していないので分からないが、一応警戒は必要だろうか。


 しかし、確かにこのステータスの魔物では、この場にいる冒険者じゃ勝てないのも当然か。

 ちなみに参考までにこの中で一番強い後ろの次男坊君こと、ウィリアムのステータスはこんな感じだ。



[名前]  ウィリアム・フォン・ヴァイルマルス

[種族]  人間 (冒険者)

[状態]  恐怖

[Lv]   20/45

[HP]   157/157

[MP]   75/75

[攻撃]   122

[防御]   94

[魔法攻撃] 55

[魔法防御] 75

[素早さ]  79

[所持スキル]

 剣術Lv4 体術Lv2 剣武の才 身体能力強化


 Dランクの冒険者として考えたら、ウィリアムのステータは強いほうだろうか。

 こうして見ると、スキルが少なく感じるかもしれないが、立川のような勇者や俺みたいな魔物と比べて一般的な人間が所持してるスキルってのは実は結構少ないのだ。

 レベルの上限だって人によってまちまちだしな。

 俺やマシロの様な魔物ならばレベルが最大まで上がれば進化により新たな種族になる事も可能だが、残念ながら人間や亜人は進化する事など無い。

 つまり、レベルが最大になった時が成長の限界なのだ。

 まぁそれでも、ステータスの成長が無いだけで、強い武器を得たり、経験を積むことで数値では測れない成長をする事は可能だろうけど。


 しかし、やっぱりこの世界は、人間や亜人にとってかなり厳しい環境だな。

 能力が多少劣っている魔物も進化すればすぐに人間を上回るわけだし。

 まぁだからこそ、人間側は数と知恵によってその差を埋めてきたのだろうが、きっと並大抵の事ではなかったはずだ。


 さて、そして最後に現在の俺のステータスだ。


[名前]  ジェイド

[種族] ナイト・スカルリッチ

[状態]  通常

[ランク]  C

[Lv]   8/35

[HP]   225/225

[MP]   175/175

[攻撃]   233

[防御]   226

[魔法攻撃] 177

[魔法防御] 149

[素早さ]  195

[所持スキル] 

 冥騎士の武術Lv4 体術Lv3 忍び足 生命探知

 夜目 投擲Lv4 状態異常無効 深淵の知恵

 魔力探知Lv4 魔力操作Lv4 闇魔法Lv1

 NP自動回復Lv1 HP自動回復Lv1 魔闘法

 サリエルの加護


 昼間の戦闘と合わせて、結構上がっている。

 レベルでこそ負けてはいるがステータス差はむしろ俺のほうが有利だ。

 それに、今回は全力で戦えるスケルトンの体である。

 油断はないが、負けるつもりも正直無い。


 そう心で自分に活を入れ、前方のプラントリザード達へと視線を戻す。

 すると、まるで俺に邪魔をするな、と言わんばかりに、プラントリザード達もまた、低く唸りつつ俺を睨みつけ来ていた。


 その視線を真っ直ぐ受け止めて俺は、腰に括りつけた1本の鉈を(・・)引き抜くと、右手に構えて魔力を軽く流す。


 この鉈は立川から貰った無数の武器の中の一つだ。

 流石に今の状態で普段愛用している魔造剣や毒蛇のローブを装備して戦うわけにはいかないからな。

 偽装工作の一環として持ってきたものだ。

 更に、今回森での戦闘を想定して、木々が多い場所でも振り回しやすい物はと選んだのがコレだ。

 武骨で特に特徴のなさそうな鉈だが、ただの鉈だと侮るなかれ。


 鑑定してわかった事実なのだが、驚くことに刃が純魔鉄製の物なのだ。


 魔鉄とは、この世界特有の金属の一つだ。

 他にもファンタジーおなじみのオリハルコン、ミスリル・アダマンタイト等も存在しているらしい。

 それぞれに色々と特徴があるのだが今は割愛する。

 その中でも魔鉄は、これらの王道ファンタジー金属に比べると珍しさでは劣るのだが、その性能はなかなかの物だ。


 そそもそも魔鉄と普通の鉄の違いだが、魔鉄は、長い年月を掛けて魔力を大量に吸った鉄が変質した代物であり、最大の特徴は、魔力を蓄えるという事と魔力を吸えば吸うほど固くなるというその性質だ。

 魔力を十分に蓄えた時の魔鉄の硬度は、通常の鉄や鋼をはるかに上回るとの事だ。

 性質的に俺がこの前シルビアに貰った毒蛇のローブに近い物を感じるな。

 故に理解もしやすい。


 だが、そんな金属が当然加工が容易な筈はない。

 そもそも、この世界の金属の加工は炎魔法や魔石を使った魔力炉を使うのが一般的だ。

 ただ、魔鉄の性質上、この使われている魔法の炎や、魔石の魔力に魔鉄が反応して加工途中で硬度が跳ね上がると、武器の形や鎧の形に整えるのは非常に困難を極める事だろう。

 故に、魔鉄によってきちんと精製された武具はかなりの値が付くと聞く。

 その加工も一般的なものではなく、ドワーフ達が秘匿している技術によるものらしく、現状この世界に出回っている魔鉄製品の大半は、ドワーフ達の本拠地である鉱山都市ガルバルト産の物であるか、もしくはダンジョンで偶に発見される宝箱産かのどちらかだという。


 そしてこの鉈だが、おそらく後者だ。

 立川は冒険者時代色々とダンジョンに潜っては、見つけた武具を魔法の袋へと保管していたと言ってたしな。

 これもその一つだったのだろう。


 まぁ、長くなったが、要するにだ。

 この鉈は、そこらに売ってる剣よりも余程強いという事だ。


 多分、他にもこうしたお宝は、魔法の袋の内部に、まだまだ眠ってる可能性が高い。

 考えてみれば、初めてこの中身を見たときは俺に鑑定スキルなかったからな。

 今改めて見れば、また違った発見がある事だろう。

 こりゃ一度試験が終わって、落ち着いた頃に、改めて魔法の袋の中身を鑑定してみたほうがいいな。


 さて、魔鉄の性質、そして今の俺がどれ位戦えるのか、ちょうどいい機会だしこのプラントリザード達で試させてもらおうか。


 ◆


 しばしの間の後、3匹のプラントリザードが示し合わせたように同じタイミングで俺へと疾走してくる。

 俺みたいなスケルトン相手に、スキルを使うまでもないってか。


 では、遠慮なくこちらも1匹いただくとするか。



 3匹のブラントリザードは正面から馬鹿正直に3匹で突っ込んで来るが俺は、ぎりぎりまでそれを引きつけ、静かに魔力を四肢に纏い強化。

 そのまま飛び越えるようにして、突撃してきたプラントリザード達を回避する。


 プラントリザード達には俺が消えたように映ったのか、暫し攻撃の対象を見失いキョロキョロとしていたが、うち1匹の尻尾をおもむろに掴むと、横の2匹に向かってぶつけるように振り回す。


「「「キャゲェ!?」」」


 おー。結構吹っ飛んだな。

 なんて呑気な感想を思いつつ、尻尾を掴まれたプラントリザードが喧しいく喚き散らすので、そのまま一回転させた後に地面に頭から叩き付けて黙らせる。


「ガボゲォ!?」


 禄に受け身も取れてないためか、衝撃が体の内部にまでしっかり伝わったようで苦し気に呻きじたばたと暴れ、鋭い爪が地面を難度も掻く。

 俺は、そのまま鉈に魔力を流して刀身の硬度を上げると、一息に跳びかかるようにして、今もなお、もがいているプラントリザードの頭部へと叩き付けるように振るう。


 ――じゃあな。


 勢いをつけて振り下ろした鉈が、ブラントリザードの頭部をグシャリと一撃で叩き潰した。


【経験値を345獲得しました】

【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが9に上りました】


 潰されたプラントリザードの頭から鉈を引き抜き、軽く払うことでこびりついた肉片と血糊を弾き飛ばす。

 刃には傷一つなく、うんと満足げに一つ頷く。

 流石魔鉄で作られてるだけある。

 普通の鉄だと今の一撃で折れてたと思うし。

 こうして全力で叩きつけても耐えられる武器ってのはありがたいな。


 それに今の一撃。どうやら、ちゃんと剣術スキルの補正も乗ってくれたようで、自分でも思ってた以上の威力が出た。

 強化に使った魔力の消耗も、たいして気にならない程度だし、これならまだまだ行けそうだな。


 さて、これで残りは2匹だ。


 1匹の仲間が一撃でやられた事によって、俺への警戒度が上がったのか、先程と違い、用心深く距離を一定に保ち俺へと威嚇するかのうよに唸り声を上げているプラントリザード達。


 来ないのなら、俺から行くぞ。


 足に魔力を多めに流し力強く地面を蹴ることによって、爆発的な加速で2匹のプラントリザードへと肉薄する。


 プラントリザード達は慌てた様子で左右に避けるが、俺は内1匹に狙いを定めると、そのまま強化した足で強引に方向を返えて、右手の鉈を構える。

 狙いは頭。またも一撃で決める。

 そう思い、いざ叩きつけようとした正にその時、背後で突然ヒュンと何かが空を切る音が響く。


 俺は嫌な予感がして攻撃を中断。

 そのまま勢いよく前に倒れこむように姿勢を低くする。

 その何かは、ちょうど先程まで俺の頭があった場所を、薙ぐように過ぎ去って行くと、近くに生えていた木にぶつかり、その幹を綺麗にへし折った。


 ……今のは、なんだ?


 俺は振り向き、今の攻撃の正体を知る。


 それはブラントリザードの体に巻きついていた蔦だ。

 どうやら、こいつらは、自身に巻き付けていた蔦を、束ねて一つの大きな物へと変えて操る事ができるらしい。


 なるほど。つまり触手ってのはアレの事だったか。

 てっきり、あの纏ってる蔦は、防御や擬態に使うために巻き付けてるんだと思っていたんだがアレも一つの武器だったわけだな。


 蔦の中に隠されていたプラントリザードの肌は黄緑色をした細かい鱗に覆われており、先程に比べて幾分かスリムに見える。

 随分と着膨れするだな。なんて馬鹿な事を考えつつ、油断なくプラントリザード達へと視線を向ける。


 残りのプラントリザードも、自身の蔦を束ねた触手を展開すると、2匹そろって、威嚇するかのようにゆらゆらと揺らしながら、俺を睨みつけつつ隙を伺っている。


 今の木をへし折った一撃を見るに、あの触手はかなり威力だ。それに速い。

 これからこの一撃が頻繁に飛んでくるのかと思うと、やれやれ……随分と面倒な生態をした魔物だな。

 当たったとして、今の俺なら一撃でやられるような事はないだろうが、それでも結構ダメージを受けるだろう。

 普段こういった魔物を相手にする場合は、焦らずゆっくりと機を待つものだろうが、生憎俺には残された時間も少ない。

 このままこいつ等との戦いが長引けば、他の魔物の乱入も考えられるし、後ろの冒険者達がいつまでもじっとしているとも思えない。

 こっちはさっさと小瓶を回収して戻らないといけないんだし、ここは出し惜しみしてる場合じゃないよな。


 俺は魔闘法で現在扱えうる最大の魔力を体に纏う。

 俺の黒い骨の体から、淡い蒼のオーラが顕現し、どこか幻想的な光景が広がる。


 そのまま腰を深く落とし、正面からプラントリザード目掛けて地を蹴った。

 瞬間視界が一瞬にして切り替わる。

 魔闘法。それも人化時に使えば筋肉や皮膚が弾け飛ぶような程の爆発的な加速。

 普通の人間が、こんな事をしたらならば、間違いなく四肢がイカれるだろう。

 正にそれは、魔鉄にも劣らぬ、強靭な硬度を持つ骨で形成された、このナイト・スカルリッチの体だからこそ許された動きである。


 しかし、プラントリザード達も今回は予想していたのか、冷静だった。

 どうやらあらかじめ俺が接近した時ように切り札を隠していたようだ。

 2匹は同紙に息を吸い込む動作をすると、それぞれの喉元がぼこりと膨らみだす。

 その動きを見て、俺は咄嗟に右へと大きく飛ぶ。

 瞬間、プラントリザードの口から黄色い液体が吐き出される。

 その液体は、先程俺が居た場所に落ちると、じゅっと音を立てて地面を溶かし、小さな窪みを作り出した。

 なるほど、消化液か!

 前動作が、マシロのブレスの動作に似ていてくれたお掛けで、どういった攻撃か察しやすくて助かったな。


 そのまま追いかけるようにして、続けて2発の消化液の塊を吐き出してくる。

 だが、その速度はあまり早くなく、俺なら難なく躱せるレベルだ。不意打ちならともかく、こうしてわかってる状態で当たるような事はないだろう。

 そう思い躱そうとするが、ふと自分の立ち位置を確認してその動きが止まる。

 今の俺の背後には、木にもたれかかるようにしているウィリアムの姿があった。


 ……ちっ!

 恐らくこれは、狙ったわけではなく偶然だろう。だが、ここで躱すのは無理だ。

 何せ、あいつ、あの小瓶を懐にしまってたはずだ。

 あの消化液の威力を考えると直撃したら間違いなく小瓶も溶かされる。

 かといって、直撃を受ければ俺の体とて無事とは限らない。

 ならば……残された答えは……。


 俺は咄嗟に右手に構えた鉈に魔力を多めに流し、迫りくる2発の消化液を叩き落す。


 1発目の攻撃は難なくはじけたが2発目は刃が耐えきれなかったのかわずかに軌道を反らすだけしかできなかった。だが、それたら十分だ。

 ウィリアムのすぐ近くに着弾した消化液だが、なんとか彼に当たらず、木と地面に軽い穴をあける程度の被害で済んだようだ。

 変わりに俺は武器である鉈を失ってしまったがな。

 そう。いくら魔鉄といえども、万能ではない。

 あくまでも魔力によって強化された鉄であるため、こうした強力な酸等で溶かされたりもするのだ。


 再び喉が膨らむ新たな消化液を放とうとしているようだが、悪いがそれはもう使わせてやる気がない。

 俺は、刃がぐずぐすに溶かされた鉈をプラントリザード目掛け投げ放ち、それを追うようにして走る。


 投げられた鉈は、途中でプラントリザードの触手で迎撃されたが、意識を一瞬反らすことには成功したようだ。

 その一瞬があれば十分だ。


 瞬時に近くにいるほうの1匹をタックルで突き飛ばし、そのまま右手でその首を掴む。

 更に苦悶の声を上げるその口を左手で更に押さえつけるようにして塞ぐ。


 じたばたと必死に足掻くプラントリザードを、力技で首を固定し、口を押さえつけた手で頭を少しずつ回すように動かく。

 もう1匹が慌てて助けようと触手を俺へと叩き付けてくるが、多少のダメージに構ってる余裕はない。致命傷となりえる可能性がある、頭部以外の攻撃は無視だ。

 体に叩き付けられた触手の一撃の重さに内心舌打ちしつつも、なおもじたばたと動くプラントリザードを地面に数度頭を叩きつけ大人しくさせる。

 そのまま頭を捩じるように力を籠める。


「グゲ、グ、ゲェ!!」


 ミシミシという音と共に苦悶の声を上げるプラントリザード。

 それを無視し更に込める力を増していく。

 そして……。

 突然ボキリと何かが折れる音が鳴り、じたばたともがいていたプラントリザードが動かなくなった。


【経験値を304獲得しました】


 さて、これで2匹だ。

 俺も武器を失ってしまったが、まだ魔闘法があれば十分戦える。

 だが、こんな力業長くは持たないのも現実だ。

 正直今の無茶苦茶な攻撃も、魔力の消費がかなり大きかった。

 いっそ、何か鉈の代わりに魔法の袋から、何か武器を取り出して使おうか。

 いや、またあの消化液で溶かされでもしたら、損失が大きすぎるか。

 それに、さっきからビシビシ叩きつけられている触手にいい加減、俺も我慢の限界だ。

 俺は迫っていた触手の攻撃を飛びのいて回避すると、真っ直ぐ最後の1匹へと視線を向ける。

 その瞬間、プラントリザードにははっきりと恐怖の表情が見て取れた。

 今更怖気づいてももう遅い。


 両手をばきりと鳴らし、その命を刈り取るべく、俺は疾走する。

 先の2匹目の殺され方を見て、俺に接近されるのはまずいと踏んだのか、錯乱したように、触手を乱打するかのごとく振り回し、俺を少しでも近づけさせまいとしてくる。

 しかし、どうも速さを優先しすぎて先程よりもいくらか威力が落ちているようだ。

 どのみち既に数発食らっているが、いずれも致命傷には至らない。

 体も動く。罅も無い。

 先程よりも威力が下がっているならば、最早躱す時間すら惜しい。

 なので、無視してそのまま駆ける。

 

 体に叩きつけられた触手から衝撃が伝わる。

 だが、最早俺の足を止められる程のものではない。

 構わず疾走。残り数歩。

 更なる速さで、2度3度と触手がぶつけられるが、もはや微々たる物だ。

 それがどうした。


 そして、4度目の攻撃が左腕に叩き付けられ、そのまま叩きつけられた触手がまるで生き物のようにがっしりと巻きついて絡みつく。

 ギチギチと音を立てるように締め付けてくるが、俺の骨はその程度では砕けない。


 そこで俺は足を止める。

 これで、捕まえたつもりだろうか。

 この程度で俺の体は砕けない。

 だが、先程からの攻撃といい、この触手が不快極まりない物である事も事実であり、俺はある考えにたどり着くと、無造作に右手で左手にまきついたその蔦を掴む。

 

 俺が何をしようとしてるか悟ったのか、プラントリザードは慌てて触手を引き戻そうとするが、既に遅い。


 俺は引き戻そうとされる強さ以上の力で、触手ごとブラントリザードの体を、思いっきり引っ張る。


 すると、触手経由でプラントリザードの体が引っ張られるようにして俺の方へと宙を舞い飛んだ。


 慌てて口から消化液を出して反撃しようと、喉を膨らませているようだが、既に俺の射程内だ。


 俺は迫りくるプラントリザード目掛け、右手の指を真っ直ぐに揃え伸ばし、手刀の構え。

 そのまま、突き刺すように勢いよく刺突を放つ。


 放たれた俺の貫手は、プラントリザードの鱗に覆われた皮膚を貫きその肉を深く抉る。


「ケホォ! ゲボォ!」


 不快な鳴き声をあげ苦しむプラントリザード。

 ふと、体内に進めた指先に何か無機質で硬い物を感じた。

 それなんとなく掴む。


「ゲガ! ゲァギギギッ!?」

 

 それは、恐怖からかプラントリザードが今まで以上の力で暴れだすが、俺の手は抜けることはない。

 

 この反応。それにこの感触。

 ああ。もしかしてアレか?

 

 俺は、指先に感じた感触とプラントリザードの反応に当りを付けると、何かを引き千切るような感触が返ってくるのを構わず、無理やりソレを力を込めて引っ張り出す。

 瞬間びくりと、プラントリザードが痙攣しながら白目を剥き、消化液と血の混ざりあった泡を口からぼたぼたと零すと動かなくなった。


 引き抜いた俺の手の中には、プラントリザードの体内から引き千切ったエメラルドグリーンの魔石が淡い輝きを放っていた。


【経験値を314獲得しました】

【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが10に上りました】


 魔石は魔物にとって、心臓にも等しい物だ。

 当然それを引き抜かれればこうなるよな。

 

 ……一応、貰っとくか。

 どうせ金はあっても困らないし。ライムダールに帰った時にでも換金してもらおう。

 そう思い、ローブの中に隠した魔法の袋が、見えないように気を付けつつ、魔石をそっとしまう。



 ――さて、これで3匹目全て片付いたな。

 しっかり生命探知でプラントリザード達が死んでいるの確かめ、更に周囲にほかの魔物の反応も無い事も確認した。

 これで、一先ずは、危機は去ったとみていいだろう。


 俺は、ちらりと視線を怯えたように震える冒険者達に向ける。


「ひっ!」


 怯えたように後退り始める冒険者達。

 まぁ、そういう反応になるよな。わかってたけどさ。

 さて、後の問題は、この状況でどうやってあの小瓶を回収して帰るか……だな。

次回の話で長かった昇格試験編は終了です。

そしてたぶんエピローグなり閑話なりを描いて4章の予定です。あくまで予定ですけど。

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