52 Cランク昇格試験③
遅れて申し訳ありません。
ちょっとここ最近体調が悪くてずっと寝込んでました……。
少し回復してきたので、更新の方もぼちぼち再開していきます。
コボルト達に敢えて見つかるようにするため、俺は気合の一声と共に飛び出し、近くに居たコボルトを数体切り倒した。
突然の乱入者によって仲間がやられたことにより、付近のコボルト達が騒ぎ出す。
慌てふためくコボルト達を走りつつ切り捨てて、俺はハイコボルトとコボルトナイトの2体に狙いを定め、コボルトの群れを突き進む。
「「アォォォォォォ!」」
ハイコボルトとコボルトナイトの2匹は、狼のような遠吠えをすると、接近する俺に狙いを定め、同時に地を蹴り向かって来る。
俺も走りつつ、懐から2本短剣を取り出し、それぞれに向かって投擲。
しかし、ハイコボルトとコボルナイトは特に驚いた様子は無く、それぞれ手にした剣で、俺が投げ放った短剣を弾き飛ばし、足を止めることなく迫ってくる。
投び道具くらいは予想済みだったか。
普通のコボルトなら今ので倒せたと思うし、上位種といえど少しくらい隙が出来るかなと思ったんだが……。
下手な小細工は無駄か。
正面から行くしかない。
魔造剣に魔力を流し、刀身の強化をし迫りくる2体の魔物を迎え撃つ準備をする。
「ガァァ!!」
最初に動いたのはハイコボルトだ。
仲間を殺された事に対する怒りの雄叫びか、一際大きな声で鳴くと、正面から飛びかかるように、その手にした剣を勢いよく叩きつけてくる。
目前に迫る刃に対して俺は、冷静に魔造剣を合わせる様に横にして、ハイコボルトの攻撃を受け止める。
ガキンと金属同士が打ち付けられた硬質な音が響き、火花が散る。
攻撃を止められたことに対する苛立ちか、ハイコボルトは犬歯をむき出しにし、更に力を込めてくる。
進化した上位種なだけはあり、普通のコボルトに比べたらなかなかのパワーではあるが……受け止められない程ではないな。
しかしハイコボルトの攻撃を防ぐ為に、俺がその場で立ち止まった事によって、もう1体の上位種も攻撃へ移ったようだ。
ハイコボルトの攻撃に紛れ、俺の背後に回り込んでいたコボルトナイトが、俺の首を切り落すように、手にした剣を横に振りかぶってきた。
しかしこの攻撃は、生命探知で位置をマーキングしていたため、見えてはなくとも、予想は出来ていた。
冷静に俺は正面のハイコボルトの腹を蹴りつけ、それにより怯んだ隙に身を屈め、コボルトナイトの攻撃を回避する。
頭上を掠める刃に内心冷やりとしつつも、コボルトナイトへと視線を向けると、背後からの奇襲を回避されるとは思っていなかったのか、コボルトナイトは驚いており、俺への反応が一瞬遅れる。
チャンスだな。
その隙を逃さず、俺は左手を伸ばし素早くコボルトナイトの首を掴む。
「アォン!?」
首を掴むと、そのまま一息に引き寄せ、右手の魔造剣を喉に突き刺しにかかったのだが、寸での所でハイコボルトが横から刺突を放ってきた為、仕方なくコボルトナイトを投げつける事で迎撃し、数回後ろにバックステップを挟み距離を取る。
ちっ。
コボルトの進化系だけあって、やっぱりコンビネーションが良いな。
正直、Cランクのコボルトナイトは、今の不意打ちで確実に仕留めたかったんだが……。
そう簡単には決めさせてくれないか。
しかも、俺がカウンターによる一撃必殺を狙った事で警戒心を増したのか、今度はハイコボルトとコボルトナイトが付かず離れずの絶妙な距離を保ち、油断なく俺の出方を伺っている。
俺は深く息を吐き出し、集中することで素早く両手足に魔力を回す。
何らかのスキルを俺が発動さようとしてるのに感づいたのか、コボルトナイトとハイコボルトが慌てた様子で飛び掛かってくる。
どうやらスキルが発動する前に2体掛かりで俺を仕留める算段のようだ。
しかしナイト・スカルリッチに進化した今の俺は、以前よりも体内の魔力を操作する事も容易くなってきている。
両手足に魔力を集中的に高速で回すイメージをし、魔力を操作。
魔闘法を瞬時に発動させて、速度を上げ2体の魔物へと進む速度を爆発的に上げる。
この急加速にハイコボルトの方は対応できなかったようで、驚愕の表情でその場で立ち止まると、俺を近寄らせまいと出鱈目な機動で剣を振りまわしている。
一方コボルトナイトの方は、速度の上がった俺に対してもしっかり狙いを定めているようで、自身もまた地を蹴る速度を上げて俺に肉薄してきた。
同時に来られるよりはマシだが、まさか正面から突撃してくるとは……。
魔闘法で強化した俺のスピードについてくるなんて、やっぱ178の素早さは伊達じゃないな……。
俺は魔造剣を両手でしっかり握りしめ、今俺が放てる最大速度の一撃をコボルトナイトへ向かった放つ。
しかし残念ながら、俺の攻撃はコボルトナイトの剣でしっかりと受け止められてしまった。
自分でも今のは結構な速度の攻撃と思ったんだが……。
随分簡単に受け止めてくれたものだな。
ハイコボルトは見た感じ、対応できてなかったようだが、こいつは俺の動きに対してしっかりついて来ていた。
流石Cランク。
俺とコボルトナイトは同時に後ろに飛び退くと、再び同じタイミングで前へ。
そのままお互いの武器を打ちつけ合い、森に乾いた音が鳴り響く。
コボルトナイトの一撃の威力は、ハイコボルトより更に上。
なんとか受け止めてはいるが、正直毎回手に軽い痺れを感じる。
こんなの真面に食らったらヤバそうだな……。
しかも更に厄介な事に、俺とコボルトナイトの攻防の間に、ハイコボルトが支持を出しているようで、時折援護をするように周囲のコボルトも飛びかかって来る。
一応、その度にマシロのブレスが、シルビアの放つ矢が、アーティアの魔法が迎撃してくれているので、俺はただ目の前の相手に専念できているが……。
正直鬱陶しい事に変わりはない。
だが、どうやら苦戦しているのは俺だけの様で、周囲のコボルト達の数は着実に減ってきている。
シルビア達が頑張ってくれているおかげだ。
時折、コボルトナイトとの攻撃の合間に、皆の様子を窺っているのだが、どうやら苦戦しているのは俺だけみたいだ。
マシロは宙を縦横無尽に飛び回っては目につくコボルト達を鎌鼬や強化した尾でズタズタにしたりと無双している。
ありゃ相当私念が籠ってるな……。
まぁ、コボルトに対してああなる気持ちは分かる。
シルビアは……。
うん。流石エルフだ。
木々を蹴りつけて、短い跳躍を繰り返し、まるで飛び跳ねるように森の中を移動しつつ、変則的な機動で矢を放っている。
放たれた矢はどれもコボルトに命中しており、確実にその数を減らしているようだ。
しかし、シルビアはなんか活き活きしてるな。
森の中ってやっぱエルフからしたら
水を得た魚状態かな。
そして、魔術師であり、近接戦が最も苦手そうなアーティアは……。
「ガァァ!」
ちょうど視界にアーティアの前後に飛び掛かっていく2体のコボルトの姿が見えた。
あれは、少し不味いのでは?
投擲による援護が必要かなと思ったが、そんな俺の心配は無用だったようで、アーティアは手にした杖をくるくるとまるで風車の様に扱い、正面から飛び掛かってきたコボルトの頭部を石突で地面に向かって叩きつけるように迎撃する。
更に落下地点に無詠唱で土槍アース・ランス」を発動させていたようで、コボルトの落下地点に即席の剣山が精製されている。
哀れなコボルトは成す術も無く、そのまま串刺しになりグロテスクなオブジェが一つ出来上がる。
さらにもう1体のコボルトにも死角から火球ファイア・ボールの3連撃をお見舞いし吹き飛ばす。
どうやら今の魔法は、発生速度に特化させて威力を幾分か低めにしていたようだが、直撃を受けたコボルトは既に息絶えているようだ。
そんな感じでアーティアは一定の位置から動かず、消費最低限の動きと魔力で迫り来るコボルト達を効率よく処理しているようだ。
やっぱり皆強いなー……。
これは俺も負けてられないか。
任せてもらっている以上は、この2体は確実に仕留めたいんだが……。
動きを見る限りハイコボルトはそこまで強くない。
だが、このコボルトナイトがかなり厄介だ。
まったく、その細身の体の何処にこんな力があるのかと思えるほど、繰り出される一撃は重く、恐らく魔闘法で身体能力を強化していなければ、吹き飛ばされていただろう。
幾度目かの剣撃の応酬の最中、コボルトナイトが突然、振り下ろした剣を引き戻すよな機動で動きを変えてきた。
タイミングをずらされた俺に隙が出来た。
コボルトナイトは、間髪入れずに鋭い突きを放ってくる。
フェイトを織り交ぜてのカウンターか。
こいつそう言えばカンウタースキルを持っていたんだったな。
不味いぞ。
これは躱せない距離だ。
……仕方ない。
まさかこんな速くに使うことになるとは思わなかったが、アレを試してみるか。
俺は咄嗟に、手足に集中していた全ての魔力を、コボルトナイトが突き出した剣の切っ先が当たるであろう、おおよその部分に全て回す。
そして、キーンと乾いた音を立ててコボルトナイトの剣を弾いた。
己の剣が薄布一枚に弾かれた事に対し、驚愕の表情をしているコボルトナイト。
「いってぇ! 硬質化が間に合ってなかったら貫通してたな……!」
衝撃までは完全に殺せなかったのが残念な所だが、お掛けで隙が出来た。
「おらっ! お返しだ!」
反撃に魔力で思いっ切り強化した右膝で、コボルトナイトの腹を思いっ切り蹴り上げてやる。
魔闘法による強化と体術スキルの乗った俺の膝蹴りは、コボルトナイトの装備している鱗鎧を砕き、その腹に深々と突き刺さる。
「グゴェッ!?」
膝蹴りを真面に受けた事により苦悶の表情でコボルトナイトが体制を崩す。
俺はコボルトナイトのその首に、魔造剣を素早く突き刺し、捻り上げる様にして首を撥ね飛ばす。
頭部を失ったコボルトナイトの死体が地に倒れ、傷口から鮮血が勢いよくあふれ出る。
ステータスが高いランクの魔物と言えど、こいつらも生物だ。
なので、こうして急所を攻撃する事ができれば、一撃で倒す事も出来る。
まぁ、毎回狙ってやれたら苦労は無いんだけどな……。
【経験値を307獲得しました】
【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが5に上りました】
獲得経験値も過去最高記録か。
やっぱ上位の魔物になると倒せたときのメリットが大きいな。
しかし、あの高質化。
咄嗟の事とはいえ、なんとか上手くいったな。
そう。今回の俺の隠し玉。
それがこの毒蛇のローブに隠された能力。
イービルパイソンの持つ本来の能力の一つ。高質化だ。
この高質化の仕組みは、どうもマシロの使う刃鱗強化に近い物らしい。
実は、シルビアにこのローブの素材となった魔物の名前を聞いたその日の夜に、俺は宿の自室で魔力操作をしつつ、気まぐれに魔物図鑑でイービルパイソンについて、なんとなく調べてみたのだ。
すると一つ面白い項目を見つけた。
この魔物は、身に纏う毒が強力な事で有名なようだが、その鱗にもまた面白い性質があるらしい。
なんでもイービルバイソンの鱗は、非常に良く魔力を通す性質らしく、また魔力が通る事によって、その鱗がまるで鋼のように硬質な物へと変化するというのだ。
なので、例え外的に襲われたとしても自らは殆ど反撃せず、鱗を高質化してじっとやり過ごす。
その間に外的はその強力な毒で勝手に倒れているという事だ。
なんとも防御特化な魔物だな。
そもそも猛毒を持つこの魔物を襲うような魔物がいるのかも分からないんだが、とにかくそう書いてあったし、中にはいるんだろうそう言う変のも。
さて。話を戻そう。
その記述を見た俺は、鱗の形状変化と聞いて、マシロの刃鱗強化を思い出した。
そこで、マシロに直接聞いてみた。
毎回どうやって刃鱗強化のスキルを使ってるのかを。
そうしたら、
「んー? 使いたい個所に、意識して魔力を流すだけで勝手に鱗が変化するの」
と教えてくれた。
それを聞き、イービルパイソンの鱗が使われたこのローブも、もしかしたら同じような現象が起こるのでは? と思い、試に魔力を流してみると、わずかだがローブが硬くなったのを感じた。
しかし、少し力を加えると曲がってしまうくらいで、そのままではとても防御に使える代物ではなかった。
こんなものかと納得しようとして、ふと、魔闘法で使うような密度の高い魔力を流してみたら、どうだろうかと、今度は循環させ密度を高めた魔力をローブに通してみたところ……。
これが予想以上に上手くいったのだ。
ただ魔力を通しただけの時では、わずかに固くなる程度の変化だった物が、より密度を上げた魔力を流した途端、その部分がまるで鋼のように固くなったのだ。
改めて、これを選んでくれたシルビアとマシロに感謝だな。
◆
さて、一番厄介だったコボルトナイトは仕留めた。
これで残るは、あのハイコボルトだけだな。
自分よりも上位種であるコボルトナイトがやられた事で、恐怖を感じたのか、既に逃げ出そうとしているようだ。
俺としては、逃げ出す相手を追うのは少し気が引けるんだが、今回はギルドからの依頼としてこの場所に来ているんだ。
俺も一応冒険者。当然このまま逃がしてやるつもりは無い。
逃げるハイコボルトに対し、足に力を込めて力強く地を蹴り、一気に接近する。
「グ、グォン! ガゥ! アォォォォン!」
追ってくる俺に対し、ハイコボルトが必死の形相で近くのコボルトに指示を出し、俺の前に壁として集めたようだが、最早その行動も分かりきっている。
冷静に邪魔をしてくるコボルトを1体1体切り捨てつつも、足を止めることなく更に接近。
「アゥ、ガアア! ガ、ゲグォォ!?」
また何かコボルトに指示を出そうとしていたハイコボルトだが、俺はそのハイコボルトの喉に、素早く近付き左手で貫手を放つ事でコボルトへの指示を強制中断させる。
まぁ所謂地獄突きだな。
しかし、良いのが入ったな。
喉をつぶされて苦しげに呻くハイコボルトを蹴り転がし、地面に転んだところを踏みつけ動きを止める。
「悪いが、積みだ!」
俺は魔力を込めた魔造剣を両手でしっかりと握り、足元で必死に逃れようともがいているハイコボルトのその首を、一刃の元に切り落とした。
【経験値を151獲得しました】
【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが6に上りました】
指示を出していた2体の上位種が倒した事で、そこからの戦いは早かった。
元々の実力差もあり、大した苦労も無く残っているコボルトを皆で討伐し、確認できるコボルト達の巣も全て破壊する事が出来た。
「はぁ……やっと終わったか。結構多かったな」
「そだね。でも、ジェイドが上位種を抑えててくれたから私達は楽に戦えたよ」
「そういえば、コボルトナイトの戦闘時に被弾してたようだけど……平気なの?」
「ああ。このローブのお蔭で傷一つ負ってないよ」
「そっか。少し不安だったけど、ちゃんと防御力あるんだねこのローブ! 役にたったならよかった」
「おう。お蔭でコボルトナイトを倒せたしな。……さて。それじゃ皆で討伐証明の部位を集めて回るか……」
その後は皆で協力してコボルトの耳を剥ぎ取り、渡された皮袋に詰めていく。
「それで、次はどうするの?」
「そうだな。また魔物の巣を潰しに行くのも考えたが、夜には戻る事を考えると時間が厳しい。数はこのコボルト達で結構稼げたし、後は周囲の魔物を見つけ次第皆で倒して行こう」
「ん。了解」
そんな感じで、俺の生命探知とシルビアやマシロの索敵能力で発見した魔物を4人掛かりで仕留め、着実に戦果を伸ばしていく。
どうやらこの近辺で最強だったのはあのコボルトナイトだったようで、それから出会う魔物の殆どはゴブリンやら、はぐれオーク等の魔物だった。
まぁ、比較的入り口に近い場所でCランクの魔物が生まれていた事自体、結構不味かったのかもしれない。早めに処理できて良かったと思おう。
それから、もうどれ位戦っていたのだろうか。
いい加減魔物との戦いに少しうんざりしてきたなと思った頃、時刻は既に夕方に差し掛かていた。
皆まだ戦えそうではあるが、正直ここで無理をする理由も無い。
今日はこの辺りで一度切り上げて、ギルドの野営地へ戻ってもいいかもな。




