50 Cランク昇格試験①
ついに50話ですか。
正確にはプロローグと閑話をいれたら52ですけど。
ここまで続けてこられたのは読んでくれてる皆様が居てこそです。
本当にありがとうございます。
そして評価人数が10人を超えました。
これも小さい事と感じるかもしれませんが、こうして読んでくれる方が少なからずいるんだと実感できるため、めちゃくちゃ嬉しいです。
これからも、がんばります。
さて。ついに俺達の昇格試験の実施日だ。
俺とマシロそれにシルビアとアーティアの4人で、ギルドにやってきている。
まだ日が昇ってそれほど時間が経ってないからか、1階の酒場も数人の冒険者やギルドの職員達が軽く朝食を取っているようだが、夜のように喝采に包まれていることも無く静かな雰囲気だ。
そんな静かな酒場を素通りし、階段を上がる。
そのままギルドの本部へ進むと、いつもの様に新しい依頼と古い依頼を入れ替えているルミナが、入り口から入ってきた俺達の姿を見つけて挨拶をしてくる。
「あら。皆さん今日は早いですね?」
「おはようございますルミナさん」
「おはよルミナ」
「おはよう。今日も忙しそうね」
「はい。おはようございます。ところで、何故2人がジェイド君と共に?」
「実は、この2人とパーティを組む事にしたんですよ」
「それは! おめでとうございます。ようやくメンバーが見つかったんですね。では、パーティ登録の手続きをしておきますので、こちらの用紙にそれぞれ名前をお願いしますね?」
そう言われて手渡された1枚の用紙に俺はシルビアとアーティアの名前を記載していくと、最後にある項目で一瞬手が止まる。
パーティ名か。
特に決めてなかったなそう言えば……。
だが、特に決めてないなら、無理に書く必要も無いみたいだし、今回はそのままでいいか。
「書きました。これでお願いします」
「はい。お手数おかけしました。登録手続きは後で私が責任を持ってやらせていただきますので。では、改めまして、今日はどういった依頼をご所望ですか?」
「あ、いえ。今日は依頼じゃなくって、俺達は昇格試験を受けに来たんですよ」
「あっ! そうでしたそうでした。今日でしたね。はい。窺っていますよ。ちゃんと決められた時間の前に、こうして来てくれる冒険者の方ってかなり貴重なんですよね。大抵の人は、指定した時間よりも遅れてやって来るのが当たり前なので……。私もそれに馴れてついうっかりしてました」
「あー。こうして時間前に来るのはなんていうか、俺の習慣みたいなものですから、珍しいかもしれませんね」
なにせ日本じゃ、時間前行動が基本だったしな。この世界は割とそういったところがルーズなので俺からしたらそっちの方が違和感を覚えてしまう。
なので、別に合わせる必要もないだろう。
実際少し前に来るくらいが、相手の印象も良くなるものだし。
「皆さんもジェイド君みたいに時間を守ってくれれば、私達としても助かるんですけどね。まぁ、愚痴ってても仕方ないですね。試験内容の説明は、他の受験者さん達が揃ってから発表させていただきますので、もうしばらくだけお待ちください」
そう言うことなら仕方ないと、俺達はギルドの壁側に設置してあるベンチに3人で座り、軽く雑談しつつ、他の受験者が集まるのを待っていると、ある人物が俺達に声を掛けてくる。
「随分早いねジェイド」
そう声を掛けてきたのが、まさかのギルドマスター。
ウィルター・カルトリッツァさんその人だ。
今日は黒を基調としたギルドの制服を着ており、手には黒のステッキのような形状の杖を持っていた。
「こ、これはウォルターさん。おはようございます」
「ああ。おはよう」
「ジェイド、この人は?」
思わず立ち上がって頭を下げる俺を不思議に眺めつつ、シルビアが俺に聞いてくる。
「ああ。この人はウォルター・カルトリッツァさん。このギルドのギルドマスターだ」
それを聞いた瞬間シルビアが、すごい勢いで立ちあがって、頭を下げる。
「は、はじめましてギルドマスター。知らなかったとはいえ、とんだ失礼をいたしました! し、シルビア・ミルトレットです!」
遅れてアーティアも立ち上がると、淑女のようにしなやかなお辞儀をする。
「……アーティア・ルルシアナ。お見知り置きをギルドマスター」
そんな対照的な2人を面白そうに眺めつつウォルターさんが人のよさそうな笑みを浮かべている。
「ああ。よろしく。私はあんまり下に降りてこないからね。知らないのも無理は無いさ。気にしなくていいよ。書類仕事に飽きてね。今日が、Cランクの昇格試験なのを思い出して少し新人たちの顔を拝みに来てみたのさ。それで、」
そう言葉を区切り、ちらりと俺に視線を向けてウォルターさんは
「この娘達かい? ジェイド。この前話してたいたのは」
そう聞いてきた。
この前ってのは、俺がウォルターさんの執務室に呼ばれた時の話か。
この質問は、つまりシルビア達が例の制度を欲してる事かについてだろう。
「はい。そうです」
「そうかい。なら準備しておいて正解だったねこりゃ。確かに必要そうだね」
「え、えっと? なんの話?」
「なに、いずれ分かるさ。さて、折角だ。少し今回の試験内容の説明でもしてあげようかね」
「え? いいんですか?」
「なに。構わないよ。どうせ、知った所で有利になるような無いよでもないしね。それに他の連中も、しばらくは集まらないだろうし、このままじっと待ってても、お互い暇だろうからね」
そう言うと、ウォルターさんは近くの椅子に腰を下ろす。
俺達も顔を見合わせたが、折角の好意だ。
素直に聞くしよう。
俺達が座り直したのを確認すると、にっこり微笑んでウォルターさんが今回の試験内容を話してくれた。その内容とは。
「まぁ、今回の試験は、簡単に言ってしまえば、魔の大樹海と呼ばれる場所での魔物の間引きだね」
「魔の大樹海……ですか?」
「ああ。このライムダールから南に少し進むと、ある開拓中の村があってね。その場所から、更に南下すると、広大な面積を誇る森林地帯があるんだ。そこが魔の大樹海と呼ばれている場所だよ」
へー……。ここから南にそんな場所が……。
ん? あれ……まてよ?
その場所ってもしかして。
「その魔の大樹海は、広大な面積もだが、生息する魔物の種類もかなり多くて厄介な場所なんだ。ゴブリンやオーク、コボルトなんかのどんな場所にでもいるようなのから、キラーマンティス、マンイーターやロックバジリスク等、他にも色々と多種多様な魔物が生息している、まさに魔境とも言える場所だね」
うん。間違いないな。
開拓村は、タチカワが住んでるあの村だろうし、そこから南にある森林地帯……。
聞いた特徴から考えても、その魔の大樹海ってのは、俺が最初に彷徨い歩いていたあの森と考えていいだろう。
名前が示す通り、確かにあの森は、かなり広かったし魔物の数も種類も異常な位だったからな……。
そして俺がマシロと出会った場所でもある。
しかし、あの森を出てから、まだ1ヶ月も経ってないはずなんだが、なんだかとても懐かしく感じるな……。
「まぁ、大層な名前が付いてる森だが、実際危険なのは、ある程度奥まで進んでからだ。しかし今回の試験はCランク昇格の物で、参加者は皆Dランク帯の冒険者だ。当然無理をして奥地に進むような事はしなくていい。あんた達にやって欲しい事は、比較的入り口近くに生息している魔物を、なるべく狩ってくれればいいんだから」
「入り口近くの魔物ですか。となると……ゴブリンやコボルトとかですかね?」
「そうだね。ゴブリンやコボルト、オークなんかが主だろう。まぁ他にも何種類かの魔物はいるだろうが……。殆どが、この3種だろうさ。奴らは一応多少なりとも知恵はあるようで、木で作ったボロ小屋のような物を住処としてたりするから、もしそういった物を見つけたら注意しな。それと、別の個体に再利用されたら意味が無いからね。討伐したらそいつの住処もしっかり破壊するんだよ?」
「討伐と巣の破壊か。これは、けっこう大変そうだな」
「確かに大変そうだけど、でも、聞いてる限りだとあんまり難しい内容じゃなさそうだよ? これなら安心していいんじゃない?」
肩の力を入れ過ぎていたシルビアが、試験内容を聞き、そう安心した呟きを漏らす。すると、
「勘違いしちゃいけないよ? 確かに相手はゴブリンやコボルトなんかが多いとは言っても、あの森の魔物は他の場所に生息してる同族の魔物よりもかなり厄介なんだからね」
ウォルターさんは今までの穏やかな表情から一変、鋭い眼つきに変わると、そうシルビアに注意を促す。
その視線の鋭さや、あふれ出る殺気ににも似た雰囲気に、思わず俺やマシロもごくりと喉がなる。
アーティアも少し驚いてるようではあるが、それを表情に出さないだけ凄いと思う。
しかし、流石は元トップクラスの実力を誇っていた冒険者の1人だな。
年老いてなお、この雰囲気か……。
「た、例えばどんな風にですか?」
その雰囲気に吞まれたのか、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まりつつもシルビアが訪ねると、ふっと表情をやわらげたウォルターさん。
「老人の警告を素直に聞き入れるのはいい心がけだね。ふむ。ジェイド、あんたはゴブリンの使う獲物と聞いて、まず何を思い描く?」
「ゴブリンですか? 経験から一番多いのは、やはり……木の棍棒ですかね?」
「そうだね。それがその変のゴブリンだ。だがあの森のゴブリン達の中には、金属製の武器を使うのも居るんだ」
「ダンジョンでも無い場所のゴブリンが? 一体どうやって……」
「それはね。そこで散っていたった冒険者達の遺品物を装備してるからさ」
ウォルターさんは、小さな溜め息を吐いた後、更に詳しい話を聞かせてくれた。
「そもそもこの魔の大樹海での間引きってのはね。ライムダールの領主が、スタンピードを未然に防ぐための処置として、ギルドに定期的に依頼してる物でね。実際これまでにも我がギルドからも、多くの冒険者が参加してるんだがね。スタンピードを防ぐなら、入り口付近だけを討伐しても駄目なんだよ」
話が見えてきた。
つまりは……。
「……つまり、本命である、氾濫主を産み出さないように、ある程度危険を承知で奥まで進んで、強力な魔物の数を減らす必要があるんですね?」
「察しが良いね。ああ。正にその通りだよ。だが、奥に進むにつれて出現する魔物は厄介さを増して危険も増えていくすると、どうなるか? 考えるまでもないね。危険が高くなるにつれて、犠牲となる者もまた増える。どれだけ気を付けようとも、奥まで進んだ場合、犠牲者は必ず出てしまうのさ……。そうした犠牲者達の多くは、魔物にその死肉を食われる。そして残った装備品はあの大樹海に生息するゴブリンやコボルト、オーク等の人型に近い魔物達が回収して使うんだよ」
「犠牲者達から装備品を回収したらいいのでは?」
「それもなかなか難しいらしい。不意打ちを除いて、犠牲者が出始める頃には、辺りは大量の魔物が溢れかえり、撤退戦に移行する頃なんだ。犠牲者から装備や遺品の回収をする暇なんてとても無い。引き際を誤ると、今度は自分がその死体の仲間入りを果すことになってしまうからね……」
「それは……難しい問題ですね」
「ああ。まったく難しい物さ。だが、犠牲を恐れてこの依頼をやらなければ、間違いなくスタンピードは数年で発生するだろう。そうなったらこの街にどれだけ被害が出るか分かったものじゃないよ。それを防ぐ上では、犠牲が出るとしてもあの森で魔物の数を減らし続けるしか道は無くいんだ」
「……怖い場所ですね」
「ああ。入り口とはいえ、まだ冒険者として未熟なあんた達を行かせるのは危険が無いなんて言えないさ。だが、これも冒険者を続けるなら避けられない仕事だ。……理解してくれるかい?」
「それは大丈夫です。私も、覚悟して冒険者になったんですから」
そう答えたシルビアに、ウォルターさんはやや驚い表情の後に満面の笑みを浮かべる。
「……そうかい。強い娘だねあんたは。さて、嫌な話をしてしまって悪かったね。だが、今の話で分かったと思うけど、魔の大樹海は奥になるに連れて、出現する魔物もだんだんと強力になるんだ。比較的入り口近くには弱い魔物しか生息していないから、用心してれば心配は要らないんだけどね。森の奥には天然の魔力溜まりがいくつもあって、ある一定の強さの魔物はそこから吹き出る魔力に惹かれて集まっている。良くてCランク。運が悪ければAランクオーバーの魔物との遭遇すらありえる。だから、あんた達は絶対に奥まで進むんじゃないよ。死にたくなければね。……っと、どうやら結構話し込んでたようだね。他の受験者達もぼちぼち集まってきたようだしね。」
最後に、そう締めくくったウォルターさんが指差した方向を見ると、掲示板前に居るルミナの所に、冒険者達が集まっているのが見えた。
「既に私が概ね説明してしまったんだけど、ルミナの説明もしっかり聞いておきな。無茶な事はするんじゃないよ。さあ、行っておいで」
俺達はウォルターさんに揃って頭を下げて、受験者と思われる冒険者の集団に合流するべく歩き出した。
俺達が30人近い冒険者達の集まりに、混ざって待機していると、どうやら時間が来たようて、ルミナから集まった人たちにの試験内容説明が始まった。
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「えー。以上が今回の試験の内容となります。ご理解いただけましたか?」
ウォルタさんから聞いたのと粗方同じ説明をルミナから聞き終わり、俺達はそのまま大樹海へ移動しようとした正にその時、1人の男が不満の声を上げた。
「おい。話が違うぞ。去年の試験だと、死霊迷宮の探索だけでこんな大がかりな試験じゃなかったらしいじゃないか!」
「魔の大樹海っていうと毎年何人も冒険者が死んでるような危険地帯だろ!? なんで俺達がそんな場所に行かなければいけないんだ!」
どうやら魔の大樹海はかなり有名な場所らしく、試験内容の説明を聞いた冒険者達は、去年までの内容と大きく違う事に対して不満のようだ。
声を荒げているのは数人だけで、残りは大人しくしてはいるものの、どうも少なからず他の者も今回の試験内容に良い感想は抱いてないようで、どこかしこ不満そうな雰囲気だ。
「はい。おっしゃられる通り、本来ならばCランクの昇格試験は、死霊迷宮で特定の魔物を倒して、証拠の素材を持って帰って終わりだったのですが……。しかし、死霊迷宮で例のスケルトン騒ぎがあった事は、既に皆さんご存知ですね? 現在死霊迷宮では、その調査の為立ち入りを一部の冒険者以外禁止させてもらっております。その為、今までのように死霊迷宮を使っての、試験を行う事が出来ないのです。紅蜥蜴の迷宮もまた、利用者が非常に多い場所であり、魔物の強さも上なため、今回の試験で使う場所にしては危険が大きすぎるとギルドは判断いたしました。それに、魔の大樹海での魔物の間引き依頼は、定期的にどのランクの冒険者にも出されている街からの大切な依頼であり、スタンピードを未然に防ぐ上でも必須です。しかし死霊迷宮の調査で、現在この依頼を受ける冒険者の数が減っていますので、今回の昇格試験では、このような処置をさせていただくことになりました。どうぞご理解下さい」
ルミナがそう言い終えると、不満の声を上げた男はしぶしぶと言った感じに納得し、他の者もまた表面上は不満表情を消したようだ。
「それに、今回の試験は、魔の大樹海の間引き依頼としてもカウントされますので、皆さんが討伐した魔物の証明部位を持参していただければ、ギルドからそれに合わせた報酬も出します。紅蜥蜴の迷宮に潜るのにも装備を最低限は整える必要がありますので、これを機にしっかり稼いでランクをあげちゃってくださいね」
そう営業スマイルを向けたルミナに、男はやや顔を赤くしつつ、「そ、そう言う事なら……」と呟き大人しくなった。
しかし、成程な。
この試験内容に不満が出るのも既に想定済みだったか。
その不満を抑える上で、分かり易い飴を用意してるとは……ウィルターさんらしいな。
報酬の話が出た途端、それまでの不満な雰囲気がウソの様に散り、変わりに別の熱気のような物を感じる。
こう、皆ギラギラとやる気に満ちているような表情だ。
皆現金だね……。
いやまぁ、俺も勿論貰えるってんなら、当然欲しいんだけどさ。
しかし、どこの世界でも例外という物はあるようで、この報酬の話を聞いてももう1人の男の不満は消えなかったようだ。
「待て。たとえ報酬が出たとしてもだ。それは紅蜥蜴の迷宮で稼ぐよりもずっと少ないものだろう? そんな僅かな額の為にこんな面倒な事をしろと言うのか? 冗談じゃないぞ。そもそもの話だ。何故この私が、今更ゴブリンやコボルトなんぞの雑魚の討伐依頼をしないといけないのだっ! こんな面倒な依頼よりも、早く私を紅蜥蜴の迷宮へ潜れるようにしろ!」
そうヒートアップして叫ぶように言うのは、やや癖毛が目立つ金髪の若い男だ。
顔立ちもまぁ、イケメンなんじゃないかなって思える位は整ってるし、仕立ての良い服を着て、黙って歩いてれば、女性の方から声を掛けて来そうなもんだ。
身に着けている装備も回りの冒険者達に比べても明らかに金が掛かってるのが分かる物を身に着けており、特にその剣。
なんか鞘や柄の部分に宝石がジャラジャラつている。
しかも魔石ではない。ただの装飾の為の宝石だ。
多分、身なりからしてどこぞのボンボンだろうな。
それにしたって、この横暴な態度とは。
いやはや。なんともスゲーのがいるもんだな……。
「残念ですが、これも規則ですので。昇格試験の内容は全てギルドマスターに一任されておりますし、紅蜥蜴の迷宮は死霊迷宮よりもずっと危険な場所です。ある程度実力が無ければ危険な所なのです」
そんな男の声にも臆することなく、ルミナがそう説明するも、男は聞く耳を持たない。
「ふん。それならばギルドマスターに直接抗議させてもらおう! そもそもだ。私は名誉あるバウルマイス家の人間だぞ! こんな面倒な手続きなどせず、さっさとランクだけ上げさせればいいんだ」
「ほー。これはこれは。随分と威勢が良いのが来たじゃないか」
今までの騒ぎを聞いていたのか、にこにこと面白そうな表情をしたウォルターさんが静かに歩み寄ってきて、その男の近くまでやって来ていた。
……気付かなかったぞ?
どうやって移動したんだ今……。
「な、なに? 誰だ貴様は!?」
「私がこのライムダールのギルドマスターだ。名前はウォルター・カルトリッツァ。よろしく頼むよ」
そう堂々と宣言した彼女の名前を聞いた瞬間、ざわざわと周りの冒険者達が騒ぎ出す。
「あの人が首狩りウォルター……」「ヒュドラ殺しか」「ライムダールが誇る元Aランクの冒険者……」
等々の声。
ウォルターさんの名前はかなり有名らしい。
最も問題のこの男には、その名前の効果が無いようで、尚も横暴な態度でウォルターさんを睨んでいる。
更に言えば、その視線にはどこかしら侮辱的な物も感じるのは、ウォルターさんの特徴的な兎耳を見ている事から恐らく気のせいじゃないな。
「はん。獣人がギルドマスターなどと、この街のギルドは大丈夫なのか?」
「なに。これでもそこそこ王都からも信頼されているのでね。それにしてもあんた、バウルマイスとか言っていたね。その名前。たしか、西のバルレシアの街の貴族だったかね? 王都にも優秀な騎士を多く輩出した名家だと記憶しているが。しかし、その家の人間がなぜこんな場所で冒険者をしてるのかね?」
「ふん。私は兄よりも剣の腕が立つにも関わらず、父上は私に家を継がせる気がないようなのでな。こうして自分自身の強さを証明するために冒険者になったんだ。私の実力ならばすぐに最高ランクであるSランクまで上り詰めるだろうさ。だから、こんなくだらない試験で時間を無駄にする暇は無いんだ。わかったらさっさと試験内容を変えろ。もしくは私に紅蜥蜴の迷宮に挑めるように許可を出せ」
こいつ、頭大丈夫か?
呆れて思わず隣のシルビアに視線を向けると、彼女も冷めた目でその男のやり取りを見ていた。
ちなみにアーティアとマシロはそもそも興味すら無さそうだ。
「何と言われようと無理な物は無理だね。そもそもアンタが貴族だろうと平民だろうと関係ない。こうしてギルドに所属する冒険者になったからには、ちゃんとギルドによって決められた最低限のルールには従ってもらうよ。第一、今のあんたの腕で紅蜥蜴の迷宮になんて挑んだら、サラマンダー辺りに焼かれて死ぬだけだ。やめときな」
「な、なんだと貴様っ! ギルドマスターだからとて亜人ごときが、この私を愚弄するか!」
すると、その言葉に激昂したのか、その男がそう言うな否や、なんと腰に差した剣を引き抜き、ウォルターさんに切りかかろうとした。
おいおいマジかよアイツ!?
「っ!」
俺は咄嗟に腰から短剣を抜き投擲しようとしたのだが、それよりも早く、ミリッツァさんの持っていた杖が、突きつけられた剣を弾き飛ばし、更に杖の先端をその男の喉に押し付けていた。
……速いな。
「えっ? な、なにっ!?」
「はぁ……。こんな先の短い老いぼれ1人に良いようにされてる様じゃ、あんたなんか、まだまだひよっこだよ」
そう言って杖を下げるウォルターさん。
「今の行動は見なかったことにしてやるから、さっさと指定された依頼をこなしに行きな。それが嫌ならこのまま冒険者を辞めて、おとなしく家に帰るんだね。別に止めはしないよ」
その言葉を聞いて男は顔を真っ赤にしつつも、急いで剣を拾うと、
「ぐっ! やればいいのだろうやればっ! 見ていろ! 必ず大物を仕留めてやる! その時はこの無礼な仕打ちの謝罪をしてもらうからな! 覚えていろっ!」
そう吐き捨てるように叫んでから、逃げるように飛び出していった。
「……やれやれ。あんなのが来るようになったんじゃ、年々冒険者の質が下がってるって言われてるのにも、あながち反論できないね。……さてさて、騒がせて悪かったねアンタ達。試験内容は聞いたね? 倒せば倒した分だけギルドは報酬を支払おう。これを機に迷宮に挑む装備を整えるといい。もちろんその日の酒に使うのも女や男を買うのだって自由さ。だが、警告しておくよ。くれぐれもあの森で魔物を深追いするんじゃないよ? 生き残りたいならね。私からは以上だ。それでは、これよりCランク昇格試験の開始を宣言するっ! さぁ、張り切って行って来いひよっこ共っ!」
最後に歳を感じさせない凶悪そうな笑みを浮かべて、激励の言葉を放ったウォルターさん。
こうして、俺達の長い1日。
Cランク昇格試験が始まった。
出来たら今年中には流石に3章終わらせたいな。
年末年始とか絶対休み取れないけど……。なんとか4章来年に始められるように頑張ってみます。




