49 神眼の神子
遅れながらもこの作品の総合評価が300を超えた事に対し皆様に限りない感謝を。
作者が半狂乱で喜んでおります。
実は、この作品を投稿した当時の目標が300だったんですよね。
読んでいたエッセイ系の影響です。
書いてるうちに、いろんな人からの評価や感想も頂けてすごく嬉しいです。
これからもがんばって完結めざしますので、どうか応援よろしくお願いいたします。
あと、少し前にルーターが死んで、HDDも死んで、書いてデータが色々消えてしまいました。
結局投稿も遅れましたし。ホントもう、色々申し訳ありませんって感じです……。
一応、初期プロットのデータは無事だったので、また少しずつ思い出しながら、色々書いていきます。
最後に今回の話ですが、またちょっと長くなってます。
これでも、かなり削ったはずなんですけどね。
では前回から引き続きシルビア視点で。
私達に声を掛けてきた、シスターの姿を改めてじっと見る。
少しあどけなさが残ってはいるものの、比較的整った顔立ち。
歳は15、6歳あたりかな?
青の綺麗な長い髪に、薄紫の瞳が特徴的で、どことなく神秘的な雰囲気を感じる、そんな少女だ。
そして、身に纏っている服にはオルニア教会に所属している証である十字架と青い薔薇の刺繍。
「あっ、突然失礼しました。私の名はメリーナっていいます。貴女は……」
「……シルビア。一応冒険者よ。この蛇の魔物はマシロちゃん」
「シルビアさんとマシロさんですね。よろしくお願いいたします。それで、その……よければマシロさんを触ってみても……?」
「本人に聞いてみたら? 賢い子だから人の言葉は理解してるみたいだし」
「そうなのですか? では、マシロさん。宜しければ少しだけ触れさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
マシロちゃんの紅い瞳を真っ直ぐに見つめてお願いをするメリーナ。
その、彼女の態度にマシロちゃんはというと……。
「……シャー……」
少しだけ悩んだみたいだけど、どうやら、少しだけなら良いぞ、と許可を出したらしい。
尻尾をメリーナの方へ差し出した。
「ありがとうございます。では、失礼して……。あらあら。思ったよりすべすべしてますね。それにとっても大人しい子で。ふふ」
そんな感想を言いつつ、マシロちゃんを撫で回しているメリーナはご満悦な表情だ。
一方やや迷惑そうにしつつも、じっと我慢して尻尾を撫でなられている雰囲気のマシロちゃんは、それを気にせずお皿に盛られた串焼き肉を食べている。
その姿を少し気の毒に思いつつ、私も購入したワイルドボアの串焼きを一口齧る。
うん。
脂の乗った肉と味付けに塩と少しぴりっとした香辛料が合ってて美味しい。
これならもう少し買っても良かったかな?
「……それで? アンタはいつまでマシロちゃんを撫でてるの? いい加減離してあげて欲しいんだけど?」
「あ、す、すいません。はい。もう十分です。幸せそうにお肉を食べていたこの子を見てたら、どうしても気になってしまって……」
「……オルニア教会の人間が、従魔とはいえ魔物に興味を示すなんて少し意外ね?」
「ええ。そうですね。教会の教えでは、魔物や、亜人も魔族と同じような扱いですからね。でも、全ての魔族が人との争いを望んでいるとは思えませんし、それは亜人の方にも言えます。魔物だって、中にはこうして、人と共に歩める存在だっているのです。何事も自分の眼で確かめなければ分から無いものですから。もっとも、教会に所属しながらもこんな考えを持った私は、一部の方からは、あまり良い印象は持たれて無いみたいですけどね……」
そう言って微笑む彼女からは、嘘をついてる様子はない。
教会からの教えを鵜呑みにはせず、まずは自分で見て判断する……か。
オルニア教会にも、こんな考えをした人間がいるんだ……。
「それに、私って元々は孤児院出身なんですよ。と言っても幼い頃に数年だけでしたけど。すぐに教会に引き取られました。でもその孤児院には、人間だけでなく、亜人の子供も沢山いましたから、私にとっては種族が違う事なんて些細な問題なんです」
「孤児を教会が引き取ったの……?」
「はい。少し特殊な事情がありまして……。でも、そのお蔭で、私が引き取られた後に、孤児院にかなりの寄付もしていただきました」
「まさか、それって売られたって事……?」
「いいえ。先生……院長は最後まで私に判断を委ねてくださいました。行きたくなければここに残ってもいいとも言って頂けました。でも最終的に教会に行くことを決めたのは、私の意志ですから。教会から孤児院への寄付は、私が頼み込んだからですし、教会はその希望通りにしてくれただけですので……」
「……立派な心構えだね。教会の人間全てがメリーナみたいな考えの人間なら、私達ももう少し過ごしやすい世の中になったんだろうけどね」
「それは……」
つい、皮肉めいた言葉が出てしまう。
……ダメだ。
やっぱり教会の人間ってだけで、言葉と態度に棘が出てしまう。
この人は多分、他の教会の人間とは違うはずなんだけど……。
あの服を見てると、どうしても嫌な記憶が蘇り、必要以上に意識してしまう。
「……ごめん。こんな世の中になったのは、ずっと昔で、メリーナは何も悪くないのにね。当たっちゃったわ。……私達はもう行くね」
「いえ……。シルビアさんのお言葉も理解できますので。私も寄らなければいけない場所があるので、ここで失礼しますね。貴方達に神の祝福の有らんことを」
最後に頭を下げつつ、私達にそんな事を言ってそのシスターは歩いて行った。
私達が離れるのを確認したからか、どうやメリーナを狙っていた連中も動き出したみたい。
彼女に着かず離れずの距離を保ちつつ、人混みを掻き分けて尾行している人物が目に入る。
その数は4人。
動きからして、武器を使い慣れた冒険者とか……ではなさそう。
尾行を警戒してる雰囲気も無いから、人攫いを常時している感じでもない。
つまり素人の悪漢?
しばし眺めていたが、どうやらメリーナは、西通りの方へと歩いて行くみたい。
しかもあの方角で言うと、スラム地区……?
なんでよりによって、そんな恰好で一番治安が悪い所に向かってるのよ。
まぁ、極端な話、私には関係無い事ではあるんだけど……。
それでも、このまま放っておくとどんな目に合うのか想像に難しくない。
「さて……どうしよっかな……」
「シャア?」
◆
ライムダールの西地区。
その中でも最も荒れているのがこのスラムだ。
建物はボロボロで、路上ではゴミが散乱している。
そこら中に物乞い達が座り込んでたり、安酒を飲み過ぎた酔っ払いが寝転がっていたりと、一言で言えば酷い有様。
この場所では、貧困層の人間だけでなく、亜人の流れ者も多く住んでいて、こんな場所にオルニア教会の服を着た人間が1人で歩いているとどうなるか……。
まぁ、大方想像通りの展開になっていたみたいだけどね。
「お願いします。離してください!」
「まぁまぁ……いいじゃないですかシスターサマよぉ」
「俺達迷える子羊の声を聞いて下さいよぉ」
「おめー羊じゃなくって牛だろうが」
「ちげぇねぇ! ゲヒャヒャヒャ!」
スラム地区の路地裏の一角。
そこで下卑た笑い声を上げながらメリーナの腕を乱暴に掴んで、囲んでいるのは、彼女を追いまわしていたと思われる男達。
ボロボロのフードを着込んでいるが、全て獣人のようだ。
うち何人かは、首に黒の首輪のような物をしている。
アレは、犯罪奴隷を示す首輪だ。
と言う事は、こいつらは逃走した元奴隷って事?
どっちにしろこのまま放っておくとどうなるかなんて、火を見るより明らかね。
私は弓をいつでも構えられるように、準備しつつ、その集団へ歩き出す。
「あん? なんだお前は?」
「この女司祭サマは俺達の獲物だぞ?」
「それとも、……ネーチャンも混ざるか? 俺はそれでもいいぜぇ? ヒヒヒ……」
「貴女は先程の……。こ、ここは危ないですから、どうかお逃げください」
私の姿を見てメリーナはそんな事を言う。
普通こういう場合、そこは助けて下さいでしょう……。
「な、なぁ、あんたも俺達みたいな亜人だろ? そんな深々とフード被ってるんだしな」
男の1人が私の姿を見てそう尋ねてくる。
「そうね……。否定はしないわ。それで、目撃者の私を始末する気? それとも私も辱める気かしら?」
「いんや? 俺達は人間を憎んではいるが、他の亜人に対してそんな感情はねーよ。それにあんたが何の種族かも別に興味はねぇ。同じ亜人のよしみだ。見なかった事にしてやるから、黙ってここから立ち去りな」
「ふーん。お優しい事ね。……ちなみに、その人をどうするつもり?」
「知ってどうする。別に教会の人間がどんな目に合った所で構わないだろう?」
「こいつらオルニア教会のせいで、俺達は日々不当な扱いをされ続けてんだ」
「だよな。俺達が奴隷に落とされたのだってこいつらのせいだぜ」
「だからよ、少し位やり返したって、バチは当たらねぇよ」
「な~に。心配すんなって。俺達も馬鹿じゃねぇ。別に殺しはしねぇよ。騒ぎが大きくなっちまうからな。ただ、ちょっとばかり、その体で楽しませて貰うけどな」
「っ……!」
これから何をされるのか想像してメリーナの顔が恐怖に歪む。
それを見てまた男達が下種に相応しい顔で笑う。
まったく、酷い光景ね。
「はぁ……もう良いわ。大体分かった」
こんな奴らから同族扱いされるなんて……最悪な気分だわ。
「いい? 確かに私もオルニア教会なんか大っ嫌いよ。当たり前でしょそんなの」
「お、おう。だよな?」
「分かる分かる。俺達も同じ気持ちだ」
「だから、さっさとどこかへ……」
「でもね」
でも。
例え、そうだとしても。
「こんなやり方で、女を辱しめようとするようなクズは、それよりもっと嫌いなのよっ!」
拒絶の言葉を吐き捨てると同時に、素早く愛用の弓を構えて矢を放つ。
矢は男の腹部に突き刺さると、たまらず悲鳴を上げて男が踞る。
「ぐおおおっ!?」
よし。まず1人無力化した。
ちゃんと急所も外してあるから、死にはしないはず。
「こ、このアマ! よくも」
「囲めっ!」
攻撃された事で、私が敵だと本格的に理解したのか、男達はナイフやら割れた酒瓶やらを構えて私を取り囲もうとする。
構えからして戦い慣れしてるようなのは居ないみたい。
でも、この数を私1人で同時に相手をするのは少し手間取ったかもね。
最も、今の私には心強い味方が居るから心配無いんだけどさ。
「マシロちゃん!」
「シャア~……」
まるで、しょうがないなぁ……。みたいな雰囲気をさせつつも、私の背後に隠れていたマシロちゃんが、素早く飛来すると口からブレスを放ち更に1人の男を吹き飛ばした。
ブレスの直撃を食らった相手は、まさかこんな魔物がやって来るとは、予想もつかなったようで、碌に回避も出来ずにブレスの直撃を受けて、爆風で壁に叩きつけられ意識を失ったようだ。
少し焦げてはいたけど、一応生きているようなので、ちゃんと私に合わせて威力を手加減してくれたらしい。
本当に頼りになる魔物だ。
ジェイドがマシロちゃんを信頼してるのにも頷ける。
これで残りは2人。
実力差を感じて、逃げてくれたら楽なんだけど……。
「く、くそ。動くなてめぇ!」
「きゃっ!」
「そ、それ以上近付いたらこの女が死ぬぞっ!」
世の中そう都合良くはいかないよね。
興奮気味に叫んだ男が、メリーナの首にナイフの切っ先を当てて喚き散らす。
また、随分古典的な事をするわね……。
「お、おいザッハ! その女は生きたまま旦那に届けなきゃ金が!」
「うるせぇ! 金よりも命だ! しくじってここで死ぬよりはマシだろっ! お前は黙ってろ!」
うん? 今の口振りからして、こいつらは誰かにメリーナの誘拐を依頼されたって事?
……なんだか気になる会話ね。
でも、あんまり深入りするつもりもないしここはスルーで。
「あんた達が大人しく逃げるなら私は追わないわよ?」
「うるせぇうるせぇ! いきなりガズルを射ぬいた奴の言うことなんざ信じられるか! 良いからさっさと武器を捨てろ! その妙な蛇の化け物も、遠ざけろ!」
「シルビアさん……」
私は、男の警告に構わず、再び弓を引き絞る。
「て、てめぇ! この女がどうなっても……!」
「……メリーナ。いい? 絶対動いちゃダメよ。それと怖いなら目を瞑ってなさい」
「は、はい! シルビアさんを信じます!」
そう言うと、ギュッと固く瞼を閉じて震えるメリーナ。
本当に、なんで私が、オルリア教会の人間を助けてるんだろう……?
っていけない。
それより今は集中……集中。
小さく息を吐き出して、狙いを据えて、私は矢を放つ。
「ぎゃあああっ!」
私が放った矢は狙い通り男の右手首に突き刺さった。その痛みにより、ナイフを取り落して喚きだす男に、マシロちゃんが追撃で飛び掛かり、しなる尻尾による一撃を顔面に叩き込む。
「ぐぴゃっ!?」
そんな間抜けな声を上げ、男は鼻血を出してその場に倒れ込み動かなくなった。どうやら意識を失ったようだ。
「ひ、ひぃぃ!」
最後の1人は悲鳴を上げて一目散に逃げていく。マシロちゃんがちらりと私を見て、追うの? と尋ねてきたが、私は首を振り不要だと返す。
無事伝わったようで、マシロちゃんは興味を失ったのか、逃げた男から視線を外すと、地面に降り立ち、とぐろを巻くと欠伸を一つ。
その切り替えの速さに少しだけ笑ってしまう。
「あ、あの、助けていただき、ありがとうございました!」
「お礼はいいわ。見てられず勝手に助けただけだし……。それよりなんでよりによって、こんな場所に来たの? オルニア教会の人間が、こんな場所に来るなんて、あんな連中に襲われても文句言えないわよ」
「それは……」
私の疑問にメリーナは少し言い淀む。
「別に言いたくないなら、それでいいんだけど」
「その……。孤児院へ……行きたいのです」
俯いたメリーナは、確かにそう、ぽつりと呟いた。
「孤児院? それって、もしかして昔あんたが住んでいたっていう?」
「……はい。この地区の端にある孤児院です。そこへ今日、どうしても行きたくって……。私が1人で居れば狙われる可能性は理解していました。なので、なるべく人に合わないような路地を選んで移動してたんですけど……」
「無謀もいいところね。その服じゃ、どんな道を使っても、流石に目立つわよ。あと、言っとくけどあの連中には、屋台通りの時点で既に尾行されてたわよあんた」
「えっ!? そ、そうだったんですか!?」
「やっぱり気付いてなかったのね……。しかもあの口ぶりからして、多分誰かにメリーナを誘拐するよう頼まれてたっぽいし」
「はい……。心当たりが……無いわけではないですね」
「ま、貴族なんかにありがちな派閥争いみたいなの、教会でも良くあるみたいだしね。まぁ、その辺の都合は正直、私からした、あんまり興味無いから言わなくてもいいわ。でもせめて、服を変えるとか、誰かに着いて来てもらうとか位は、するべきだったんじゃない? いくらなんでも不用心すぎるわよ」
「それは、確かにおっしゃる通りなんですけど……。実は、今回の外出って、許可なくこっそりと抜け出してきちゃった物でして……。それに服も同じ種類しか持ち合わせてなく、新しい物を買えるほど裕福でも無くって……その……。確かに無謀過ぎますね」
「本当よ。そんな状況でよくここに来たわね……。無茶するわ」
こんな調子では、このまま別れてもまた別の連中に襲われそうね。
「メリーナ。その孤児院ってここから遠い?」
「えっと、そう遠くは無いですけど……?」
「そっ。じゃあ行きましょうか」
「え……?」
「このまま1人で行くのは、危なっかしいから、着いてってあげるって言ってるの。ほら、行くわよ」
「あっ、は、はい! ありがとうございます!」
ま、せっかく助けたのに、ここで別れて、また襲われたんじゃ寝覚めが悪いしね。
スラム地区の端も端。そこにある一軒の大き目の建物。
周囲のボロ小屋のような家屋に比べたら、かなり立派に見える。ただしこの建物もまた所々痛んでおり、窓は割れ、壁にも植物の蔦がびっしりと絡みついており、少し不気味な雰囲気を醸しだしている。
どうやら、あれが、メリーナが言っていた孤児院らしい。
柵に囲まれた庭には、孤児たちが元気に駆け回っている姿が見える。
その子供達を優しく見守ってるのは、1人の老婆と2人の冒険者風の恰好をした男女がいるが、あれはここの孤児院出身の冒険者だろうか?
その婆を見つけると、メリーナは思わずといった感じで、走りだしてしまう。
「アナ先生っ! 皆、お久しぶりです」
「えっ!? メリーお姉ちゃん!」
「メリーナ!」
「ああ、マーク、ルウ!」
冒険者風の2人に駆け寄ったメリーナが抱擁して再会を喜んでいる。
「ああ。皆。久しぶり。マーク、ルウ。2人共大きくなったね。それにその姿……。冒険者にもちゃんとなれたんだ……夢を叶えたんだね……。頑張ったね……2人共」
「お久しぶりですねメリーナ。元気そうで何よりです。それにその服。とっても似合っていますよ」
「ありがとうございますアナ先生。先生もお変わり無いようで、なによりです」
「ええ。ありがとう。でも、どうして貴女がこんな場所に……。もう貴女はここに来てはいけません。貴女は今や教会のに人間です。この地区は貴女にとって危険なんですよ」
「心配かけてごめんなさい。アナ先生。危険なのは、分かっています……。それでも、どうしても、アメルの墓参りをしておきたかったんです。私は近々このライムダールを発つ事になりましたので……。それに今日はアメルの命日ですから。今日を逃したら、私はずっと後悔しそうで……。どうかこの我儘をお許しください」
「メリーナ……。分かりました。着いてらっしゃい。それとお連れの方もどうぞ」
その言葉で初めて、私達の存在に気付いたのか、冒険者の男女は慌ててこちらを見ると、頭を下げてくる。
私も特に気にせず、軽く会釈するだけに留めて、メリーナの後に続く。
「メリーナ。俺達はここに残るよ。子供達を見てないといけないしな」
「メリーお姉ちゃん。また後でね。帰りは私達が送って行くから」
「はい。2人共また後でね。シルビアさん。行きましょう」
そう言うと、アナと呼ばれた老婆の後に続き、メリーナは孤児院の裏へと歩いて行く。
それを追うように私達も並んで歩く。
「……随分慕われてるのね」
「ここの孤児院では、皆本当の兄弟みたいに仲が良かったですからね。今では私の知らない子の方が増えていましたが、昔からここに居た子は、まだ私の事をちゃんと覚えててくれたんだなって。嬉しく感じてしまいました」
「……さっき話してたアメルっていうのは……?」
「……。昔ここにお世話になっていた時に、私と一番仲の良かった子の名前です。猫耳族の男の子で、とても明るくて優しい子で……。そんな彼が大好きで、いつも一緒に過ごしていました。でも……」
「……墓参りって言ってたって事は……」
「はい。彼は流行り病で、もうずっと前に亡くなっています。私が教会に引き取られる少し前でしたね」
「そう……。辛かったわね」
「いえ……」
それっきり会話は無く、お互い黙ってアナさんの後ろを着いて行く。
やがて、錆びだらけの鉄扉が見えてきて、アナさんは懐から鍵を取り出して錠前を外し、扉を開けると、私達に手招きした。
私達は、ここで待とうとしたが、メリーナにもう少しだけ付き合って欲しいと言われたので、メリーナの後に続きその扉をくぐる。
そこは、疎らな大きさの墓石や木で出来た十字架が地面に突き立てられた場所。
恐らく、この孤児院で亡くなってしまった子達の墓地……なのだろう。
「私は表に居ます。終わったら声を掛けてください」
「はい。ありがとうございますアナ先生」
メリーナに優しく微笑んだアナさんは扉の外へ出て行った。
メリーナは一つの墓石の前に来ると、祈りを捧げる仕草をする。
恐らく、アメルの眠る墓石だ。
「久しぶりですねアメル。私、ライムダールでの勤めを終えて、近々教会の本国であるオルシミアに、旅立つ事が決まったんですよ……。その前にどうしても、ここに来たかったんです。ここは、私にとって大切な思い出の場所だから……」
薄紫の瞳から、涙を流しながら、メリーナはアメルの墓石にこれまでの事を語り続ける。胸の中に溜め込んだ思いを吐き出すように。
私は何も言わず、彼女をじっと見つめ続ける。
メリーナの涙は本物だ。
きっとアメルという獣人の子が本当に大好きだったんだろう。
「ごめんなさい……。付き合わせてしまって。どうもありがとうございました」
「……もういいの?」
「はい。あんまり泣いてばかりだと、アメルに怒られてしまいますからね」
ふふ。と軽く笑い、瞳に溜まった涙を拭うと彼女は初めて出会った時のような明るい顔で笑う。
「それで、ですねシルビアさん。ついでに、一つ私の夢について、聞いてもらえます?」
「……夢?」
「はい。私の夢はですね。……オルシミア神聖国の教皇になる事です」
「…………」
一瞬、思考が固まってしまった。
とんでもない爆弾発言だ。
教皇。オルシミア神聖国を治め、オルニア教会をも支配しているオルシミアの法そのものとも呼べる人物だ。
確か、現在の教皇はかなりの高齢で、そろそろ新しい人物が教皇に選ばれる時期だと聞いた記憶があるが……。
「冗談でしょ……?」
「本気です」
その私の問いに、ぴしゃりとそう宣言したメリーナからは、とても強い意思が感じられた。
正直な話で言えば、馬鹿げていると思う。
教皇は、誰でもなれるものではない。
オルシミアの教皇とは、他国の王族のように血筋や家柄で決まる者ではなく、ある特別な資格とも言われる、ユニークスキルが必要であり、それを持たぬ者はどうあってもなる事は出来ない。
つまり、メリーナにその夢が叶えられるとは到底思えないのだけど……。
「メリーナ。厳しいようだけど、そう簡単になれるものじゃないわよ……」
「もちろん、すぐには難しいかもしれません……。ですが、私は人生をかけて、この目標を必ず達成するつもりですよ。なので、どうか見届けてくれませんか? 私が足掻く事によって、この世界が少しでも変えられるのかを……。私の命が尽きるまでに、結果が見届けられずとも、貴方の寿命でならば、それが可能だと思いますので……」
私の寿命なら……。
私が長命種だと言うことは一言も話していないし、彼女に耳を見られた覚えもない。つまり、メリーナは知っていたって事?
私の種族を? 一体どうやって探った?
「……気付いてたの? いや、違うわね。貴方の言葉は確信してる。つまり、知ってたって事よね? 私の種族について」
「はい……。最初に会った時に既に。私には、その人がどういった人物なのか、全部見えてしまうので……」
そういって、まっすぐ見つめるメリーナの薄紫の瞳には、透き通るような輝きを放っているが、同時に、何か、とても神秘的な魔力のような物を携えている事に気付いた。
「その眼……まさか……」
「真実の眼。生まれつき私が持っているユニークスキルです。教会が私を欲した最大の理由でもありますね」
「つまり……メリーナ。貴方は……神の眼の神子なのね?」
「はい。それが私の教会での呼び名です。……黙っていて申し訳ありません……」
オルニア教会には、勇者とはまた違う特別な能力を持った人間が数人存在する。
彼等はその不可思議な力から所謂神の子。神子と、呼ばれている。
今の教皇も、元は神子の1人だったという話だし、メリーナの話が真実ならば、私に語った教皇になるという話もまた、その可能性は大いにあり得るという事になる。
「私は、教会に引き取られた後、この眼によって、色々な物を見てきました。特に、人の醜い部分や、恐怖を覚えるような物を沢山……。正直、人だけが、他の全ての種族よりも優れているという教会の教えには、とてもじゃないけど、納得できませんでした。毎日どうしたらこの現実を変えられるのだろうと、幼いながらも私は必死に考えていました。答えは結局出なかったんですけどね。ですが、ある日、私の神子としての役目や力の使い方。そして、神子が教時代を担う皇候補だという話を教えられて、思ったんです。私が教皇になって、教会の教えを正しいものに変える事ができるんじゃないかって……。人間のみが神に愛され、他の全ての種がその下に見られるなんて……。そんな風に歪んでしまったこの世界が、私には堪らなく悲しいんです……。種族によって同じ心を持った人達が差別され続けるなんて……そんなの悲しすぎますよ。見た目の違いなんて、些細な事なんだって私は知っています。だってアメルと私は、ずっと一緒だったから。亜人にだって優しい人や、良い人は沢山います。人間にだって醜い心を持った人や、恐ろしい人だって沢山いるんです。見た目が違っても、その心は何も……何も変わらない! 皆同じなんです。だからこそ、誰かが、誰かがこの悲しい世界を変えないとダメなんです!」
それが神眼の神子。
時期教皇候補の1人である、メリーナの心の内に秘めた思いなんだ……。
「メリーナ……。それは確かに立派な考えだと思うよ。でも、全ての亜人がメリーナの考えてるような連中とも限らないわよ? 今日メリーナを襲った奴らも、認めたくないけど、私と同じ亜人なんだし」
「例えそうであったとしても、そうした悲しい出来事を少しでも減らせる可能性があるのならば、私はやり遂げてみせます」
そう宣言したメリーナの瞳は力強い輝きを放っている。
揺るがない強さ。
この子は、強いな……。
この神子の少女は本気で言っているのだ。
こんな夢物語みたいな話を実現するんだって。
「私は今のオルシミアも教会も大っ嫌いだよ。……でも、今日メリーナと出会った事で、少しだけ、マシに思えたわ。教会にも、こういう考えの人間が居るんだって……。だからさ。メリーナのその夢が本当に叶ったら……その時は、この歪んだ世界を変えてみせてよ。私は、それが本当に実現するか、見ててあげるからさ」
「ありが、とう、ございます。シルビアさんっ」
「……教皇になるんなら、先ずはその泣き虫な所。直さないとね?」
「はい……。ふふ。アメルにもよく同じ事、言われちゃいました」
「……帰りはあの冒険者達がいるから、もう心配無いよね?」
「はい。2人も多分、送っていくって聞かないと思いますから……。今日は本当に色々ありがとうございました」
「……正直、メリーナの話は、私からしたらまだまだ夢物語に感じるわ。だからこそ、きっと実現を目指すならそれは厳しい道だと思う。だけどさ、本当にやりたいと思うんなら、歯を食いしばって、這ってでも進み続けなさい。それでどんな結果になったかは、私がちゃんと見届けてあげるからさ」
「っ! はいっ!」
「じゃあねメリーナ。色々あったけど、貴女と会えてよかったわ」
「私もです。シルビアさんとマシロさんに出会えて、良かった。どうかお元気で」
そんな感じで、私達はこの不思議な神子の少女と別れた。
メリーナが語った未来が訪れるなんて、本当にあり得るのだろうか。
それについては分からないし、私ができる事なんて何もない。
でも、もし実現したとしたら……。
私みたいな思いをする子も……少しは減るのかな。
◆
スラムの孤児院を去り、定宿である白翼亭に向かって歩く事数分。
孤児院から未だに私にぴったりとついてくるように一つの気配がしている。
それに対してマシロちゃんは、いい加減気になるのか、ソワソワしている。
だが、別に警戒はしていない。
だってこの気配は良く知ってる人物なのだから。
私は足を止めて、振り向かずにその人に声をかける。
「で、いつから見てたの?」
私の問いに、その気配は真っ直ぐ近づいて来ると、隣に並び、頬を掻きつつ答える。
「そうだな。具体的には……あの女性を助けに入った当たりからだな。シルビアこそいつからだ?」
「孤児院を出た辺り。ジェイド気を抜いて気配消すのを緩めたでしょ? でもそれまでは、正直全然分からなかったんだけどね……。あっ。もしかして、今日ずっと着けてたんじゃないよね?」
思わず疑惑の意思を込めてじとっと睨んでみると、私の隣の人物。
ジェイドは慌てて首を横に振り否定の意思を示す。
「誤解だ誤解。マックロウさんの店に寄った後に少し西区を探索しててな。近くを通りかかったのは、本当に偶然なんだよ。路地裏が騒がしかったからちょっと覗いてみたら、シルビアがいて驚いた位だ。それで状況から何をしようとして察してな。危なくなったら俺が助けに入る予定だったけど……。まぁ余計なお世話だったな」
「今回は、マシロちゃんが居たからなんとかなっただけだよ。でも、ありがと。……ちなみに逃げた方はどうしたの?」
「ああ。もちろん捕まえたぞ。気絶してたり呻いてた奴らも、全員引っ括めて衛兵に付き出しといたから、心配しなくていい。ちなみに黒幕はわからなかった。気は進まないが、結構強めに脅したんだが、あのかを拐うよう頼んだのは、黒のフードで顔を隠した男だって事しか知らなかった。引き渡し場所も見事に外れだったよ。まぁ、後は俺達の仕事じゃないからな。残りは教会なり衛兵なりが調べるだろう」
「なんていうか……手際良いよね本当。うん。色々後始末ありがとね」
「なに。仲間なんだし、気にするな。……じゃ、帰るか」
「うん。そうだね」
私達は2人並んで夕闇に染まりつつあるライムダールを歩く。
そうだ。
……あれを渡すなら、早い方が良いよね。
というか、このまま帰って、カリナやアーティアの見てる前で渡すと、絶対にからかわれるから嫌だし……。
よし。こ、ここはさっと渡してしまおう!
「ね、ねぇ、ジェイド」
「なんだ?」
「そ、そのさ。は、初めて出会った日の事覚えてる?」
「はぁ? いや、お前な……。まだ出会ってから一月も経ってないんだぞ。忘れるわけないだろ?」
ああ。駄目だ。今まで誰かに贈り物なんかした事ないからどう切り出したらいいのか分からない。
大体、慣れない事で緊張してるとはいえ、その言い方はどうなのよ私!?
ああもう、ジェイドにも少し呆れた顔をされちゃってるしさ!
「そ、それもそっか。なんか、打ち解けるのが異様に早かったから、少し変な聞き方になっちゃったね……」
「それで、なんでそんな事聞いたんだ?」
「あの日の……お礼。まだ何もしてなかったからさ……」
「お礼……?」
恐らく何に対しての物かをしばらく考え込んでいたようだけど、無事思い出したのか、ああ。と一言呟きジェイドは足を止めた。
「別に気にしなくて良いぞ? どっちみち帰り道は同じ方向だったんだし、俺も迷惑なんてしてなかったしな」
「それもだけどさ。その後だって、本当にホーングリズリーを譲ってくれたり、こうしてパーティーにだって誘ってくれたじゃない? 今日だって、結局面倒かけちゃったしね。パーティを組んだ以上、これからも一緒に行動する機会が増えるんだし、貰ってばっかりだと、私も気を使っちゃうからさ。だから、はいっ。その……今までの色んな事に対するお礼……。受け取ってくれたら、嬉しいかな……なんて……」
最後は消え入りそうな声で、聞こえたか分からないまま、とりあえず包みを渡す。
多分今私の顔真っ赤になってるんじゃないかな……。
「……開けてもいいか?」
「うん」
がさがさと包装の包みを外し、中を覗きこんだジェイドが少し驚いたような声を漏らす。
「これは……ローブじゃないか。うん。触ってみてわかる。いい素材だ。軽いし丈夫で、更に魔力の通りもいい。実に俺好みの品だよ」
「実はそれ……選んだのは、マシロちゃんなんだけどね」
「マシロがか?」
「そのローブの素材はってイービルパイソンって強力な毒蛇の魔物の素材で作られてるんだって」
「毒蛇の魔物か……。なるほど。マシロが反応するわけだ」
「性能は、良いみたいだけど、素材が毒蛇って事で気味悪がられる事もあるみたいでさ……正直、少し不安だったんだけど、……気に入らないなら後日別のを用意しようかなって思ってもいるんだけど……」
「いや。俺は気にしないぞ。だってこれは、2人が俺のために選んでくれた物なんだろ? なら当然大切に使わせてもらうよ。ありがとなシルビア。マシロもありがとう」
「シャアシャア♪」
……良かった。
少し心配だったけど、ちゃんと喜んでもらえたみたい。
色々あったけど、無事に目標を達成できて一安心だ。
残る問題は、明日の昇格試験。
精々皆の足を引っ張らないように頑張ろう。
今回の話を思いついて、書いてたら、主人公シルビアでいいんじゃなかなこれって、少し思ったのは内緒。
た、多分次回からは普通にジェイド君活躍すると思うんで……(多分)
ちなみに今回孤児院で出てきた冒険者は37話で、ジェイドが助けた2人組冒険者です。
覚えている人はいるのかな……。
さて。いい加減昇格試験はじめろと言われそうだし、次回からはいよいよその話です。
日常苦手だから、個人的に早くバトルパート書きたい。(本音)
それが終わったらやっと3章もお終いの予定……ですね。
4章で少しは物語を動かせたら……いいなぁ……。




