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スケルトンの冒険者 異世界生活記 ~人化の術で冒険者やってます~  作者: 肉巻きおにぎり
3章 スケルトンの冒険者(Dランク)
50/60

48 シルビアとマシロとオルニア教会のシスター

お待たせしました。

2週間更新から、いい加減週1更新くらいには、投稿ペースを戻したいんですけどね……。


あ。今回は、最初から最後までシルビア視点です。

多分次回まで……かな?

 私の名前はシルビア。

 年中フードを被って活動している事で有名な亜人冒険者の1人。

 相棒のアーティアと共にトルマ共和国を出て、幾多の場所を巡り、このライムダールにやて来た。

 世界を回り知った事だが、トルマと違い、他国では亜人に対し余り良い感情を持ってない人間が多いみたいで、私が街を歩くだけで、色々な視線が突き刺さるのをいつも感じる。

 大抵は、興味本意か不信感って感じの物で害がある物でもないため平気なんだけど、稀に強い敵意や殺気を感じる事がある。

 そうした相手の存在を感じた時は、変にトラブルに巻き込まれる前にさっさと人混みに紛れて姿を消すのが手っ取り早い。


 そもそも、何故こうも人間が亜人を忌み嫌っているかは、この世界の歴史に答えがある。

 今から約500年程前に、魔族と人間との間に最初の大きな戦争が起きた。

 この大陸全土をその手に収めようとする魔族と、それに対抗する人間による戦争だ。


 その時代の亜人達は、この戦争時に人間と魔族両方からの助力を求められていたらしい。

 しかし、当時の亜人達の纏め約だったあるハイエルフが、この要請を拒否し、最後まで中立の立場を貫いたのだ。

 争いにより、多くの同族及び、友である獣人やドワーフ等が傷つき血を流すのを良しとしなかったかららしい。

 今を生きる一部の亜人は、この選択がそもそも間違いだったのだと言う者もいるが……。私はそうは思わない。


 実際、亜人達がどちらかに着いたところで、勇者という規格外の存在の出現があるため、結局はあの戦争の結末は変わらなかっただろうし。

 それに正直、戦争なんて下らないって、心底思うもの。


 勇者。

 人間側が魔族との圧倒的な力の差を埋めるために呼び出した異世界の人間。


 凄まじい力を携えたまさしく化け物だ。

 その勇者を呼び出すことに成功した人間側は、終始圧倒されていたはずの魔族を返り討ちにし、奪われていた領地を取り戻した。そして、逆に魔族達を大陸中央にある飛竜山脈の果てへと追い返し、人間達はその後めでたく平和な時代を築いたのでした。

 ――めでたしめでたし。


 なーんて要約された物語や唄を、酒場なんかでよく吟遊詩人が語ってるのを聞く事もある。

 更にこれに付け加えると、私達亜人は大陸の危機に何もしなかった臆病者であり裏切り者。

 まさしく神の裁きを受けるべき罪人だとかまで言われる始末。


 少なくとも人間側の歴史には、そのように伝わっているらしく、しかも厄介な事に、オルシミア神聖国の国教である、オルリア教会が、この話が真実であると神が告げたと、大々的に布教したのだ。

 今考えらたこれは、魔族だけでなく、亜人も悪しき者と称した方が、人々により布教しやすかったから体よく利用されたのだと思う。

 

 お蔭でますます私達亜人に対する弾圧は強まった。

 人間は自分と違う物を恐れ嫌う。

 心が弱い人程、明確な敵が分かり易いほうが、より安息を求めて神の力を頼るというものだ。

 正直、それに利用された私達としては、たまったものじゃないけど。


 そういった経緯もあり、この大陸でオルシミア神聖国は、亜人に対する扱いが最も過激だ。

 少しでも疑わしければ、捕まり、尋問と言う名の拷問が待っている。

 最後は見せしめの意味も込めて絞首台や火炙り。正直捕まったらその時点でお終いだね。

 しかも、狂信者たちはそれが正しい行いだって心から信じてるみたいだから救えない。

 ぞっとするわ。


 正直、私達が生まれる何年も昔の話で、こんな扱いを受けることが、最初は我慢できなかったんだけど……。

 今では人々から偏見の目で見られるのには、正直もう慣れてしまってる。


 亜人が魔族と裏で通じてるって噂話を本気で信じてる人も多いみたいで、主に明確な敵意を向けてくるのようなのは、こうした人種か、もしくは奴隷商人に売り払おうと企む人拐い達だ。

 そうした人達に目を付けられない簡単な方法が、そもそも1人で出歩かないこと。

 もしくは、ギルドの身分証を貰って、その保護下に入るかだ。

 前者はともかく、後者は簡単にはいかない。

 トルマ以外の国では、亜人が普通の仕事に就く事が難しい。

 それを簡単な手続きだけでなれる冒険者という職は、ある意味で私達からしたら天職とも言えるかもしれない。

 だが、例え冒険者になったとしても、いきなり世間の目が変わるなんて事はあり得ない。

 身分保障をしてもらえるのは、数が多い冒険者の中で、実力があり信頼を得られた一握りの人だけ。

 それを求めて日々亜人同士でも争ってるような物だ。

 つくづく私達、亜人とよばれる種族には辛い時代と世界だなと、内心この世界の理不尽さを思い出し嘆きつつも、


「じゃ、行ってくるねアーティア」

「気をつけてね。マシロちゃんシルビアの事、頼んだわね?」

「フシャ!」


 そんな私が、今日敢えて1人で出かけるのには、それなりの理由がある。

 というのも、私達とパーティを組んでくれた人が原因というか……。


「あ、そうそう。もし買うなら商業地区のアズマール防具店って店が私的にはおすすめよ?」

「な、何の事かなー……?」


 とっさに目を逸らして知らんふりをするけど、これ絶対アーティアには分かってるよね?


「そう? 必要な情報だと思ったけど。まぁ、そう言うなら私の独り言だと思ってね。それじゃあシルビア。くれぐれも気をつけてね? それと無理に悩まなくても、こういうのは気持ちが籠ってれば喜ばれる物よ」


 やっぱりアーティアは鋭いなぁ……。


「い、行ってきます! 行こうマシロちゃん!」

「シャシャ」


 小さく鳴いて返事を返したマシロちゃんが、小さな翼をはためかせて、宙に浮きあがりると、そのまま私の横を泳ぐようにして並んで飛ぶ。

 アーティアに言われた通りにするのが、全部お見通しみたいで少し癪だけど、実際今日は防具を探してみるつもりだった。

 最も、私用の物じゃなくってジェイドのなんだけどさ……。

 昨日のグリーンウルフの戦闘時ももう少しいい防具があれば無駄に傷を負う事も無かっただろうし……。

 それに、まだ私は彼にちゃんとしたお礼が出来てない。

 パーティに誘ってくれた事もそうだけど、初めて出会った時にも、お礼をするって話だったけど、結局まだ何もできてないし。

 一度食事を奢ろうとした事もあったんだけど、けっこう高いお店を選んだはずなのに、本当に全員分の料金を払っちゃったりするし……。

 普通Dランクってもう少しお財布が厳しい物じゃないの? なんであんなに持ってるのよもぅ!


 そんなわけで、今度こそ、ちゃんとお礼をしたいと思って、こっそり準備をしようとしてたんだけど……。

 まぁ、アーティアにはバレてたみたいだね。

 それにしっかり私が何を考えてるのかを読んでの助言もしてくれてるし……。

 実際、私も当てが無かったし、今日はアーティアに提案されたアズマール防具店とやらに行ってみようかな。


 目的の店は特に苦労する事も無く見つかった。

 東の宿場街を少し進み、路地をいくつか曲がると、様々な品を扱う店が並ぶ商業地区に出る。

 この辺りのお店は、人通りが多い事もあり、あまり利用した事が無いので少しきょろきょろと物珍しさに釣られて、辺りを見回しつつも、目的のアズマール防具店の名前が刻まれた木の古びた看板を見つけ、足を止める。

 うーん。

 店の雰囲気は、マックロウの店といい勝負な位古い店って感じかな?

 きっと何代もここで商売をしているんだろう。


 外からか来る覗いて、他にお客さんがいる様子も無いので、これ幸いと私はマシロちゃんと共に扉を開き中に入る。


「いらっしゃいませ何をお探しですか? 亜人の御嬢さん」


 入ってきた私達を見て、そう声を掛けてきたのは50代くらいの頭の禿げあがった人間。

 この店の店主だろうか?

 とりあえず、今日ここに来た目的を伝えないと。


「えっと……男物の防具で、なるべく動きを阻害しない物を探してるんだけど、何かそういった物ってある?」

「ふーむ……。そうですね。その方はどんな武器を使われるんですか? それとどういった戦い方をされるお方でしょうか?」

「武器は……。短剣とか……あと直剣も使ってるのを見たかな。他にも何か使うかもしれないけど、短剣が見た所一番多かったと思う。戦い方は近接戦闘が主体」

「ふむ。でしたら皮鎧か……こちらの魔物の素材で作ったローブなんかが、おすすめですね。皮鎧や胸当てはフルプレートや金属鎧に比べて防御力は劣りますが、値段も手ごろで何より動きを阻害しにくいのが特徴です。こちらのローブは見た目は脆そうですが、実際は魔物の素材を編み込みそれを錬金術や薬品による強化で見た目以上の防御力があります。こちらは前衛の方よりも魔術師の方が好むものですが、中には動きやすさを意識して、前衛の方でもこちらをお求めになる方もいらっしゃいます。まぁこちらは少し素材費が高いため、同じ値段を出すくらいならと結局は金属鎧や盾等を買っていかれる方が多いんですけどね」


 皮鎧かローブか……。

 ジェイドっていつも色違いのローブと武器だけの装備なんだよね。

 最初は無難に皮鎧にしようかなって思ったけど、ただの布のロープを使うよりは、こうした防具にも使えるローブをプレゼントした方が、喜ぶかな?


「魔物の素材で作ったローブってどれ位の耐久力があるの?」

「そうですね……。当然種類と値段によって防御性能はかわりますが……。たとえば、こちらのDランクの魔物。ワイルドハウンドの毛皮を鞣して作られた物は、軽くて頑丈で。そうですね。少なくとも、短剣等で傷が付くような軟な物ではありません。そして値段も手頃な為、なかなかの人気の品ですね。多少見た目が地味なのと、魔法による耐性が無いのが偶に傷ですが……」


 そう言って、やや薄い焦げ茶色のローブを手渡してくる。


「ふーん? ……あ。ほんとだ軽い。それに手触りも思ったより、ごわごわしてないんだね」

「ええ。薬品加工による成果ですね。流石に絹の物のような触り心地ではないですが、それでも動きを阻害しない素晴らしい物です。」

「うん。これは……悪くないかも。これだと因みにいくら?」

「そうですね。値段は銀貨で65枚ですね」

「うっ……結構……高いね。Dランクの素材でもこれだけするの?」

「ええ。なにせ手間がかかりますから……。それに元々魔術師用でつくられたものですからね。どうしても値段は高くなりがちなんです。それでも他の物に比べたらかなり安いんですよ? ちなみに予算が厳しいようでしたら、こちらの皮鎧が銀貨45になりますが……どうされます?」


 皮の胸当てか……。

 こっちも値段が少し高いけど、てまだ手頃な値段とも言える。

 あんまり高い物を贈ってもそれはそれでって感じだし。

 そもそも私もあんまり予算があるわけでもないしなー……。


 って……あれ? そういえばマシロちゃんは?


「シャー」

「おや。……この魔物は……?」

「あっ。し、失礼しました。私の連れです。ほらマシロちゃん。ひっぱっちゃダメ!」


 少し目を離した隙に、マシロちゃんは店内を適当に飛び回っていたようで、何やら気になる品を見つけたようだ。

 店の奥の木の人形に着せてある紫のローブを軽く加えて引っ張ってるのを見て慌てて抱きかかえる。


「す、すいません。その、き、傷とかついてませんよね?」

「ああ。心配なさらなくても大丈夫ですよ。これも魔物の素材で作られた品で、頑丈ですから。……しかし、ふむ。そういえばコレがまだ残ってましたな……」


 そう言って、店員はマシロちゃんが引っ張っていた紫のローブを撫でつつ、少し思案したような表情をしている。


「このローブは?」

「これは、イービルパイソンと呼ばれる大蛇の魔物の鱗と皮で作られたローブです。私の前の代。つまり父がこの店を経営していた時代から存在する物で、この店一番の古株です」

「イービルバイソン……ってCランクの魔物の? それなのになんでこんなに目立たない場所に置いてあるの?」

「ええ。少し訳がありまして……。そうですね。お話しましょう。これは、私が生まれる前の話になるんですが、そもそもこのローブは、先代が競売に出されたイービルバイソンの皮を買ってきて、様々な悪戦苦闘の末に、こうしてローブに加工する事に成功した物なのですが……。購入者が次々と不幸な事故によって亡くなる事が相次いでしまい、いつしか呪われた品と呼ばれるようなった曰くつきの物なのです……」

「え? もしかしてこのローブ、何か強力な呪いがかけられてるの!?」


 ど、どうしよう! 私とマシロちゃん触っちゃたけど大丈夫なのかなこれ!?


「ご、ご安心を。私も何度となく触ってはいますが、こうして生きておりますし、そもそも亡くなられた方達は、あまりいい評判を聞かない貴族の跡取り様だったり、悪質な手口で稼いでいた冒険者だったりと、少々周りからの恨みを買うような方達が多かったのが原因のようでして……。私も心配になって商人ギルドを通して見てもらってますが、鑑定の結果呪いや毒のような物は一切なく、いたって普通のロープだと、こうして鑑定証も頂いております」


 よ、よかった……。


「錬金術と薬品の加工によって、しっかりと毒も消えていますし、防御性能もなかなかの物なのです。しかし、イービルバイソンは、戦った相手がその体に纏う毒により確実に死ぬと言われている魔物です。実際にこれを競売に持ち込んだ冒険者のパーティも、森の奥地で死んでいたのを発見したとの事です。争った形跡も無い事から恐らく寿命だろうと判断されたとの事で。それでも周囲に強烈な毒素を撒き散らしており、風魔法を使ってその死体の周りの大気を包み込んで、ヒュドラの皮で作られた特性の手袋を使い、魔法の袋の中に入れる事でなんとか持ち帰る事が出来たようです。その後は更に何人分ものヒュドラの皮手袋を量産する事で、やっと加工までこぎつけられた程で……。正直、物が良くても、ここまで手間と準備が必要なこの魔物を扱うのは、私達商人からしても割に合いません……。なので、例え今このイービルバイソンを仕留められた冒険者が存在したとしても、そもそも買い取り先が見つかるかどうかすら不明な状況です。なので、基本この魔物を見つけても、戦闘はまず避けますし、イービルバイソンも名前の割に、とても臆病な魔物であるので、わざわざ人に危害を加える為出てくる事もありまません。普段は深い森の奥や谷の底等、殆ど人が寄り付かない秘境の様な場所でひっそりと生きているのです。そうした事情が重なり、このロープも価値としてはかなりの貴重な物ではありますが……。実際には誰にも売れない品……という厄介な事になってしまっていまして……」

「そういう事かね。イービルバイソン……。大毒蛇の魔物かぁー……」


 正直縁起のいい物じゃないし、私もこれを自分用に買うかと聞かれると、選ばないと思うなー……。


「私が手に取って見せたり、ギルドからの鑑定証を取り出したとしても、実際に過去に購入者が亡くなっている事実や、イービルバイソンが元々致死性の強力な毒を纏う魔物という事が知られてますから……。気味悪がられて、最終的には誰も買い手が付かない状態なのです……」

「ああ。納得したかも……」


 確かに昔の事とはいえ、実際に購入者が死んでる品。しかも強力な毒を纏う魔物の皮から作られた物を、お金を出してまで身に着けたいって人は少ないと思うし。

 でも、防具の性能としては、かなりいい物みたいなんだよね……これ。


 試に暗い紫色のローブを手にしつつ、これを発見したマシロちゃんに視線を送るとまるでこれがいいと言わんばかりにじっと見返してくる。


 うーん。

 商人ギルド名義の鑑定証もあるし、実際呪いや毒に対する心配はないとみて良いんじゃないかな?

 もしこれが偽造の物なら、それが発覚した瞬間この店は商人ギルドによって潰されるのは間違いないと思うし。


 でも、感謝の贈り物で、こんな縁起悪い物を選ぶのはちょっと……。


「因みにこれの値段は?」

「そうですね……正直売れる見込みがまったく無いのが現状でして……。このままでは私の次の代でも店内でずっと埃を被っている状況も考えられますので……正直もう処分してしまいたいのです。その……銀貨30枚でどうでしょうか?」


 銀貨30枚っ!?

 この性能でこの値段はかなりお買い得だ。


 いやでも、例えやすくても、こんな曰くつきの品を貰ったら嫌だと思うんだけど……うーん……。


「シャーシャー」


 マシロちゃんは、どうやらこの品が凄く気に入ってるようで、私が別のを手に取ろうとしたら軽く手を尻尾ではたいて拒否の意味を伝えてくる。

 こ、これを本当に買えって事?

 でも、毒蛇だし……。

 って、あ。そもそもマシロちゃんも考えたらある意味毒蛇の魔物じゃない。

 というか、ジェイドってどうやったのかは知らないけど、毒魔物の楽園で有名なあのオキシア湿原から単身生きて戻ってきた人だ。

 本人も平然としてたし、今更毒蛇の皮位で、気味悪がるなんて事はなんいじゃないかな……?

 寧ろ喜んだりして……?


 最後にちらりとマシロちゃんに視線を向けると小さくこくこくと頷いてその選択が正しいと言ってるみたい。

 ……よし。ここはジェイドとずっと一緒にいたであろうマシロちゃんの選択を信じてみよう!


「決めました。これにします」

「お、おおっ! 買っていただけますか!? ありがとうございます! いやはや、正直ずっと売れる事を諦めていた品なので私としても大変助かりますよ!」


 と、物凄い笑顔で言われてしまった。

 よっぽどこの品を処分したかったんだろうな……。

 まぁ、呪われた品、なんて物がいつまでも店に有るのは嫌だろうし、先代の作品で商人ギルドに鑑定まで頼んだ品を捨てる事なんてできなかったんだろうなぁ……。


「その……一応贈り物なんで包んでもらっても」

「ああ。そういう話でしたね。では少々お待ちを。本来なら包装にも費用をいただきますが、今回はサービスさせていただきます」

「本当ですか? ありがとうございます」


 その後、手慣れた様子でイービルバイソンのローブを包装してくれた店員さんは、満面の笑顔で手渡してきた。


「では、またのお越しをお待ちしております。もし、送られた相手が、サイズに違和感を覚えられたら来てください。格安で仕立て直しますので」

「はい。その時はよろしくお願いします」

「またのご来店をお待ちしております」


「ジェイド……気に入ってくれるかな?」

「シャー」


 私の独り言に、大丈夫と言わんばかりに一声鳴いて返事をしてくるマシロちゃん。

 そうだね。買っちゃったものは仕方ない。

 それにこういうのは気持ちが大事だって言うし。


「ふふ。ありがとねマシロちゃん。後押ししてくれなかったら、多分決めきれなかったと思うし。少なくともマシロちゃんと一緒にいる時点で、ジェイドは蛇が嫌いじゃないと見た」

「シャシャ」

「ふふ。だよね? あ、もうこんな時間か……。マシロちゃん。付き合ってくれたお礼にお昼食べてこっか? 屋台でいい? たしか串焼き肉好きなんでしょ?」

「シャーシャー!」


 嬉しそうに鳴きつつ、小さな頭をこくこくと振る姿は、本当に魔物なのかと疑いたくなるくらい利口だ。

 正直、意思の疎通がこうしてできる時点で普通の魔物とは違うだろうなとは思うけど。

 ジェイドはどこでマシロちゃんと出会ったんだろう?

 本当に謎が多い人だよね。


「むー……困りましたね。どちらにしましょうか……」


 お昼を過ぎた時間帯だったから人も少ないと思ったけど、どうやら先客がいたらしい。

 それだけなら珍し事でもないんだけど、問題は、その人物が一番会いたくないタイプの人間が……。

 屋台の前で何やら悩んでいるのは1人のシスター。

 綺麗な青い髪をした少女。

 首に銀のロザリオと純白の礼服を着ていて、更に蒼の薔薇と十字架がその礼服に刻まれてるのが最悪だ。

 あれが意味するもの……それは。


「オルニア教会……」


 オルシミア神聖国の国教で、私達亜人弾圧を強めた存在。

 少し私の心の中で黒い感情が出そうになるけど、直ぐにそれを思い直して無視を決め込む。

 それにしても、なんでこんな場所にオルニア教会の聖職者が串焼きなんか買ってるのよ?


 一応ライムダールにも教会はあるけど、それは北の裕福な人間達が住んでいる地区にあったはずだ……。

 でも、普通こんな所までわざわざ出て来たりなんかしないし、正直そのシスターの姿は、かなり目立ってる。


「んー……。決めました。叔父様。こちらのワイルドボアの串焼きというものを1つください」

「あいよ! 素敵なシスターさん。どうぞこちらを。銅貨5枚ですぜ。熱いんで気をつけてくだせぇ」

「これが串焼きという物ですか……。噂には聞いていますがとても個性的な見た目ですね。そして食欲をそそるこの香がなんとも……。主よ。このお恵みに感謝いたします」


 それに気付いてるのか気付いてないのか。注目の的の本人は、祈りの言葉を呟いてから、幸せそうな顔をして串焼きを頬張っている。

 こうして見ると、普通の少女にしか見えない。


 ふと、マシロちゃんが小さく鳴いたので、見てみると、ある一点をじっと観察しているようだ。

 一体なんだろうと思い、私もそちらに視線を向けると、フードを深々と被った亜人と思われる人達が、ちらちらと例のシスターの様子を窺ってるしてるようだ。

 雰囲気からして味方。というわけではないみたい。

 となると、何かしら良からぬことを企んでる者だろう。


「……まぁ私には関係ないか」

「シャシャ」

「えっと……? もしかして、マシロちゃんもあれ食べたいの?」


 こくこくと頷きつつ、口から涎を垂らして今にも飛び出さんとしている様子に思わず苦笑い。


「ま、いいか。悔しいけど、私もあの人見てたら少し食べたくなったし……」


 というわけで、私も今も幸せそうに串焼きを食べているシスターの横に立ち、マシロちゃんのリクエストである、ワイルドボアの串焼きを注文する。


「すいません。私にもワイルドボアの串焼きを2つ。はい銅貨10枚ね」

「毎度。すぐに……って、お?」


 銅貨を受け取ってすぐに串焼きを焼こうとしたおじさんが急に私の顔達をじっと見つめてくる。

 え? 何? まさかエルフだってバレた? フードから耳がはみ出さないように、しっかり確認してたはずだけど……。

 と少し心配してたが、どうやら注目してた理由は私ではなく……。


「シャ!」

「なんだ。やっぱりマシロちゃんじゃねーか。今日はその嬢ちゃんと一緒なのか?」


 どうやら私の横に浮いているマシロちゃんだったらしい。

 しかも雰囲気からして顔馴染。

 多分、ジェイドがよく利用してる串焼きの店がこの屋台なんだろう。


「シャシャ」

「おうおう。待ってな待ってな。今焼いてやるからなー。ついでに1本おまけしておいてやる。いつも利用してくれてありがとよ。兄ちゃんの方にもよろしく言っておいてくれ」

「マシロちゃん。既に常連だったのね……」

「おう。この子がいつも旨そうに家の肉を食ってくれるからさ。それを見てた周りの人も釣られて買ってくれることが多くてね。いやー。本当ありがたいよマシロちゃんは」


 まぁ、マシロちゃんは魔物だけど、特別邪悪って見た目じゃないからね。

 普通に美味しそうに物を食べてる姿とかけっこう可愛いし。


「あの……。すいません」

「……何?」


 串焼きが焼き上がるのを眺めて待ってた私達に突然声を掛けてきたのは、横でさっきまで幸せそうに串焼きを食べていたオルニア教会のシスター。


「附かぬことをお伺いしますが、そちらの蛇の魔物は……」

「……私の仲間の従魔。賢い子だから人に危害を加えるような事はしないわ」

「その……。よろしければ……」

「なによ?」


 もしかして、私だけじゃなくマシロちゃんまで邪悪な者なんて騒ぐんじゃないでしょうね……?

 もしそうだったら、この子はそんな悪い子じゃないって一言くらい文句いってやるんだから。


「よろしければ……少しだけ触らせていただいても……」


 そんな警戒をしてたからか、この一言がかなり予想外だった。


「……は?」


 ……思わず間抜けな声が出してしまう位。

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