46 槍鹿狩り②
実は5日位前にこの話を書き上げたんですが、投稿する前の段階で、内容に酷い矛盾がある部分を見つけてしまい、結局新たに書き直してしまいました。
リーダーを失った事によって、グリーンウルフ達は持ち味である連携を上手く発揮できないようだ。
明らかにバラバラな動きをするようになったグリーンウルフ達を、シルビアが弓矢で、アーティアが魔法で、マシロが鎌鼬と尻尾によって、次々と狩り続ける。
俺も遅れないように、近くの数匹を仕留めにかかる。
それから、数分後、
「これで、最後っ!」
最後にシルビアが、気合いと共に放った矢が見事、残ったグリーンウルフの額を穿った所で、俺達に襲いかかってきたグリーンウルフ達は、片付いたようだ。
「お疲れ様シルビア」
「ありがとアーティア。ジェイド、それにマシロちゃんもお疲れ様」
「数が無駄に多くて大変だったが、なんとか無事に切り抜けられたな」
「とか言って、一人だけ怪我しちゃってるじゃない! 私達が無事でもジェイドが怪我したら意味ないでしょ!」
「面目無い……」
「まぁまぁシルビア。ジェイド君が群れの主を倒してくれたからこそ、こうして残りのグリーンウルフを楽に倒せたんだから。そう怒らないであげなさいよ」
「そりゃそうなんだけどさ……。とりあえず傷見せて? 手当てしてあげるから」
「……悪い。お願いするよ」
グリーンウルフの鋭い爪の一撃によって、俺の身に着けているローブの右肩部分がばっさりと裂けてしまっている。
出血もしてはいるが、傷口はそこまで深くは無いようだ。
これなら魔力を多めに人化に回せば、数時間位で治りそうだな。
それに、今の俺にはLv1だがMP自動回復とHP自動回復のスキルもあるしな。
多少のゴリ押し位なら平気でやれるだろう。
なんか、どんどん人間から離れていくような気がするが、実際便利なスキルだからか、つい頼りきった戦い方をしてしまうな……。
そなに風に自身の傷の状況を確認しつつ思っていると、
「近接戦闘するんだし、やっぱり軽鎧位は装備したほうがいいんじゃないかな?」
シルビアからもっともな指摘が入った。
「鎧なぁ……」
最初は俺も考えた。
金属製は重いし動き難いので、軽めの皮鎧等を装備してみようかと。
たが問題があったのだ。
人化時の俺に合わせた鎧だと、いざスケルトン状態に戻った時に、ズレて動くのに邪魔になるんだよ。
それでは持ち味の俊敏性を活かせないし、そもそも俺の体の強度は、そこらの鎧を遥かに凌ぐ位は固いようで、はっきり言って、鎧なんて邪魔にしかならないのだ。
一々脱ぐのも面倒なので、結局はいつもの人化自に幻影で作られる服と軽めのローブの組み合わせになるんだよな。
まあ、そんな事情を話せる訳もないので、そうした俺の事情を知らないシルビアの意見は、傍から聞いたら最もだと思う。
「鎧をつけると、動き難くなるから嫌なんだよ」
「そのせいで、結局こうして怪我しちゃってるんじゃない?」
「今回は少し油断しただけだよ。それに冒険者続けるならこの程度の傷なんて頻繁に受けるだろうし」
「ふーん? なら、これからも怪我する予定のジェイドには、とっておきの治りが早くなる良い薬を使ってあげよっか? ギルドが作ってる薬で、なんとお値段銅貨15枚。効き目もなかなか。まぁ、少し傷口がしみるのが偶に傷なんだげね」
「ほー……そういう物があるのか? じゃあ、お願いしていいか?」
「じゃ、いいのね?」
「あ、ああ? 頼む」
そう俺が言うと、シルビアがちょっと悪戯っぽく笑って、ポーチから取り出した黄色の液体が入った薬瓶。
回復のポーションかな?
その薬瓶の蓋を開けると、中身を肩の傷へと振り掛けてくれた。
――その瞬間。
「あでででででっ!?」
傷口が一気に熱くなり、それと共に走る鋭い痛み。
なにこれ!? めっちゃ痛い! 想像してた何倍も痛いんだけど!?
治す所かむしろ悪化してるんじゃないのかコレ!?
「ほーら。騒がないの。男の子でしょ? 大丈夫。痛いのは最初だけだから。効き目はバッチリだから」
「ちょ、まっ、これ本当にポーションなのかぁ、ぐおぉぉぉぉ!?」
「少ししみるって、私言ったでしょ?」
「これのっ! どこがっ! 少しっ! なんだよぉ!?」
傷口が焼けるように熱い。
さらに傷口を、まるで熱した刃物で抉るような痛み……。
これ、あかんやつや!
「安くて効き目が良いのには、ちゃんと理由があるのよ。ふふ。諦めて我慢してね」
「シルビアも昔は怪我する度に、その薬を使ってはで大騒ぎしてたわね」
「はぁはぁ、なんだ、シルビアもコレの世話になった事あるのか?」
「そ、そりゃ私にもそういう時期があったけどさ……」
「初めて使った時なんか、泣いちゃったものね。懐かしいわ」
「わぁぁぁ!? ちょ、それは秘密にしてって言ったでしょ!?」
どうやら、やたらと詳しいと思ったが、シルビアも昔はこの薬に世話になっていたらしい。
「実際すごく痛みはするけど、それは細胞を無理矢理動かして治癒速度を高めている代償よ。比較的安価な素材で作ってるにしては、治癒効果が凄いのよ? まぁ、副作用で、ある意味傷以上に痛みが強いんだけどね」
「確かにこれは、きついな……」
「ふふ。元々は今のジェイド君みたいに、無茶して無駄に傷を負う新人冒険者なんかに、そうした危険な戦い方を改めるよう教育するための物なのよ。ダンジョン専門店をはじめ多くの店にギルドが卸してる品なんだけどね。銅貨15枚と薬にしては比較的安価で買えるから、今でもこうして非常時に使う物として持ってる冒険者も多いのよ。もっとも使う時になって躊躇しちゃう人も多いんだけどね」
「傷を治療する度にこんな痛み味わうのは嫌でしょ? だから、次からは無駄に怪我をしないように皆慎重になっていくのよ。治療魔法を皆が皆使えるわけでも無いし、こうした手に入れやすい品は、多少リスクがあっても皆からの需要が高いって事だよ」
「成程……文字通り身に染みたよ……」
「はい。というわけで、治療おしまい。これに懲りたら、もうあんまり無茶な事はしないでよね? 今までずっとそうやって戦ってきたんでしょうけど、これからは私とアーティアもいるんだから。もっと頼ってくれていいんだよ?」
最後に丁寧な手つきで包帯を巻いてくれた後、ポンと肩を叩いてシルビアの治療は終わりの様だ。
「……そうだな。もう全部俺1人でやる必要はないんだもんな」
「私達を仲間に誘ってくれた事、感謝してるんだから。もう少し頼ってくれてもいいんだよ」
ついつい全て自分でやろうとするのは、今まで他人と組んで戦った事が無い俺の悪い所だ。
ああ。マシロは例外だ。
そもそもあの子は魔物でありながら、念話のお蔭で俺のやりたい事にいつも合わせてくれる。
そんな芸当をパーティメンバー全てに求めるのは、酷な話だ。
今後は、もっと仲間を信頼する事。そしてお互いをカバーし合う事を意識しないとな。
それと、また無茶な事をして、アレを味わうのは嫌だ。
傷口に塩なんてレベルじゃないぞあれ、ハバネロとか唐辛子塗り込んでるようなもんだぞアレ!
「さて。ジェイド君の手当ても無事に終わった事だけど……。折角見つけたスピアディアの方は、逃げちゃったみたいね」
俺の治療が一区切りしたのを見計らってたのか、アーティアにそう言われて、俺はこの森に来た、そもそもの目的を思い出す。
慌てて視線を向けるも、スピアディアが食事をしていた場所には、もはや何もななくなっていた。
近くで俺達が戦闘を始めたらから、巻き込まれないように森の奥へと逃げてしまったのだろう。
「追いかけるにしても、このグリーンウルフをどうするかだよな。置いていくか?」
「それはちょっと勿体無いかな。グリーンウルフの牙や爪そして毛皮は、需要が高い方だから、持ち帰れば、ギルドがそこそこの値段で買い取ってくれると思うよ」
「れだけ有れば、解体費用を引いても、なかなかの収入になるかもな。今後もなにかと金は必要になるだろうしな」
「でしょ? お金はいくら合っても困らないし、折角倒したんだもん。ちゃんと回収しようよ。あっ、でも全部持って帰るとしたら、無理だよね。数が多いし。爪と牙だけでも剥いで行こう」
「何を言ってるんだ? 残さず全部回収した方が収入は増えるだろ?」
「でもこれだけの数を全部回収したら荷物がいっぱいになるよ? スピアディアの肉も持てないだろうしそもそも持ち運べないと思うけど……」
「まぁ、見てろって」
シルビアの疑問は最もだが、俺には立川から貰った魔法の袋がある。
数こそ多いが、この数のグリーンウルフなら全部まとめて袋の中に入れる事が可能だろう。
「ほら、こうしたら解体する時間も要らないし、持ち込むのも楽だろ?」
足元にあったグリーンウルフの死体を掴むと、魔法の袋へと放り込む。
俺には見慣れた光景ではあるが、一瞬の出来事だったからかシルビアとアーティアは驚いた表情をしている。
「これはまた……随分凄い事してくれるよね……。そう言えば、ポイズンクロウラーも袋から出してたっけ……」
「私は、てっきりギルドからの貸し出し品だと、思ってたんだけど……」
2人がそう言いつつ、腰に括り付けている魔法の袋へと視線が釘付けになっている。
「おう。これは俺が元々持ってる魔法の袋だ」
なので、とりあえずこれが現在は俺の所有物である事を伝える事にした。
すると、
「そんな当たり前みたいな顔して言わないで!」
「というか、どうやって手に入れたの!?」
何故か物凄く食い付かれた。
「おぉっ!? なんだ、どうしたんだ2人とも!?」
「魔法の袋なんて、普通低級の冒険者が持ってる訳無いでしょ!」
「そもそもダンジョンから発掘される数も少ないし、例え見つけたとしても、買い手がすぐに見つかる位人気の品なのよ? 確かにあると便利ではあるけど、冒険者を続けて稼ぐよりも、その魔法の袋を売り払う人が多いわ。だって最低でも金貨数100枚の価値は軽くするのよ?」
金貨数100枚分も!?
マジかよ……。
いや、そもそも冷静に考えたら……この袋も一種の魔道具だ。
立川が普通に渡してきたから、なんとなく価値観がズレてしまっていたな。
ルミナさんは知ってたみたいだが……ああ。ナーシャさんの紹介状に詳しく書いてたのかもしれないな……。
とにかく、一般的にはこの袋は超高級品だって事だ。
そうとは知らず、いままで普通に腰に括り付けてたが……。冷静に振り返ってみるととんでもない事してるな俺。
もし盗まれでもしたら洒落にならないぞ。
まぁ、俺とマシロの追跡から普通の人間が逃げられるとは到底思えないんだが。
それでも無駄なトラブルを招く危険もあったわけだな。
今後は、この袋が魔法の袋だってことを悟らせるような行動は慎んだ方が良いな。
なんか今日は反省してばっかりだな……。
でも、自分の価値観のズレが原因だし、早く俺もこの世界に馴染まないと、こんな事がこれからも起こりそうだ。
それとなく、シルビアやアーティアとの会話で、もっとこのリングラッドについての常識を学ぶ努力をしよう……。
「いや、そもそもこれは、俺が冒険者を志した時に餞別としてある人から貰ったんだよ。冒険者をやるならきっと役に立つからって」
「えっ!? も、貰ったの!?」
「よく受け取ったわね……。後でどんな見返りを要求されるか分かった物じゃないのに……」
「まぁ、俺ももう少し疑う事を覚えるべきだろうが、その人の事はかなり信頼してるかな。俺の門出を祝福したいって気持ちも伝わったから受け取る以外の選択肢が、俺の中では無かったんだよ」
「俄かには信じられないけど、実際目の前に本物の魔法の袋があるしね……。人には色々事情があるものね。貴方にも、その袋を渡してきた人にも……ね。幸い、見た目は普通の皮袋とそう変わらないようだし、人前で大量の物を入れたり出したりしなければ、分からないと思うわよ」
「そうだな。2人の反応から、これがどれ程貴重な物か改めて思い知ったよ。今後は不用意に人前での使用は控えるさ。忠告ありがとう」
「じゃあ、運搬の問題も解決したんだし、とりあえずこのグリーンウルフ達回収しちゃおう? あ、全部入るかな?」
「心配するな。これ位なら余裕だ。ついでにスピアディアの分も余裕がある」
「わぉ! 本当に凄い物もってるんだね! じゃあ張り切って全部集めよう」
そんな話をしつつ、倒したグリーウルフの死体を全て魔法の袋に集め終わった俺達。
しかし、マシロの元気がどことなく、無いようだ。
まさか先ほどの戦闘で俺と同じく怪我でもしたのかと心配し、念話で尋ねてみたのだが、
『鹿……食べ損ねた……。追いかけたいけど、どこに行ったのか私には分からない』
帰ってきた返事を来て安心した。。
実に彼女らしい理由で落ち込んでいただけのようだ。
『マシロは探知能力が高いと思ったんだが、逃げたスピアディアの行方はお前でも分からないのか?』
『ううん。……無理なの。殺気とか敵意を感じるのは得意なんだ。あと血の臭いとかにも敏感だし温度でもある程度探せるんだけど……。でも、あの鹿達はそもそも傷を負ってないし、あんなに逃げ足が速いんじゃ私では追いつけないから……』
『成程な。そりゃ厳しいな……』
「気のせいか、なんかマシロちゃんの元気がないね? まさかマシロちゃんも怪我とかしちゃった?」
そんなやり取りを念話でしていた俺とマシロの姿を見てたのか、シルビアが心配そうに聞いてきた。
確かに、念話の内容が分からないと、元気のないマシロを俺が気付かってるみたいに見えるかもな。
実際は、御馳走を食べ損ねて拗ねているだけなんだが。
さて、どう言った物かな。
シルビアとアーティアとはパーティを組んだからには、今後とも一緒に過ごす時間が増えるだろう。
なるべくなら彼女たちとも普通に念話を使って、コミニケーションを取って欲しいという気持ちはあるのだが……。
マシロの秘密を俺が言うのもな……。
今の所その傾向は見れないが、もし話したいと本人が思ったのなら、その内頃合いを見て、念話を使ってくれる事だろう。
「いや、たぶん、楽しみにしてた鹿肉を食いそびれたから落ち込んでるだけだ」
なので結局は、マシロがいずれ自分からシルビア達と、念話を使うその時まで、この秘密を話すのを待つ事にした。
俺がうまくフォローすればいいだけの話だ。
俺とマシロがある程度の意志の疎通が可能なのは2人にも分かってるようだし、問題ないだろう。
「あはは。それで落ち込んでるなんて、マシロちゃんとジェイドは似てるよね」
「待て。どういう意味だそれは……」
「大丈夫よマシロちゃん」
「シャ?」
「無視かよ……」
「逃げたスピアディアの痕跡は、私が見つけてあげるから。足跡とか草や地面の状態を見れば、追跡でるしちゃんと今夜は鹿肉が食べられるよ」
「追跡……できるのか? 戦闘から結構時間が経ってるが」
「あのね……。エルフって、森で狩りをして生活する一族なんだよ? だから森の中で獲物を追跡する能力は期待してくれていいんだから。それに、カリナに頼まれてるんだし、このまま帰ったら夕飯が茹でた野菜だけ……とかになっちゃうかもしれないよ?」
「そいつは困るな……。動き回って腹も減ってるし、できれば夕飯は野菜だけじゃく肉も食いたい」
「でしょ? 私も同感。なので、まぁ任せておいてよ」
「じゃあ、今日の夕飯のためにも、お願いするよシルビア。マシロもそれでいいか?」
「シャア!」
そうシルビアが胸を張っている姿に俺は微笑みつつ、俺達はシルビアの先導に従い、逃げたスピアディアの追跡開始した。
「……すげーな。本当にいたわ……」
「どう? ちゃんと見つけられたでしょ?」
シルビアに案内されて獣道を進む俺達が見つけたのは、やや開けた広場で草を食べているスピアディアの群れ。
道中では、よく似た別の魔物の足跡などもあったのだが、シルビアは迷うことなく、この場所までたどり着いて見せた。
どうやら森の中でエルフから逃げるのは不可能に近いらしい。
「正直、半信半疑だった。……凄いなシルビア」
「ふふ。分かればよろしい♪」
「それで、どうやって仕留めるの?」
「んー……。当初の予定通りで。私が矢で手前のを仕留めるから、アーティアは魔法で他のスピアディアの足止めを狙って欲しいかな。ジェイドとマシロちゃんは、向かって来たスピアディアをお願い」
「任せろ。今度は上手くやってみせるさ」
「シャシャ!」
「じゃ、いくよ!」
返事と共にシルビアが、素早く抜き放った矢が小さな風切り音を立てると、真っ直ぐにスピアディアの首に突き刺さりる。
矢が刺さったスピアディアは悲鳴を上げる間もなく、倒れ、動かなくなった。
一瞬の出来事に他の個体も何が起きたのか理解できてないようだ。
その隙を逃さずにアーティアの魔法。土槍により2頭の足を地面から生えた細い石槍が貫き、その動きを止める。
すかさず追撃でシルビアが矢を放ち、俺も手にしてた短剣を投擲で放つ。
それぞれが頭と首に深々と突き刺さり、奇襲により3頭のスピアディアを仕留める事に成功した。
正体不明ながらも攻撃をされていることを本能で理解したのか、多くのスピアディアは既に逃亡に移っている者が多く、残ったのは角が立派な一頭だけだ。
恐らく残りの仲間を逃がす為に残った個体だろう。
どうやら俺達の位置をおおよそ掴んだのか、まっすぐこちらに向かって大地を蹴り上げ、凄まじい速度で突進してきた。
「あいつで最後だ。仕留めるぞマシロ!」
「シャア!」
捨て身の一撃なのか、最大速度で突撃してきたスピアディアを俺とマシロが飛び出し、迎え撃つ。
俺達の姿をはっきりと認識し、怒りを込めた瞳で睨みつつ、更に速度を上げて迫りくるその一撃を、素早く横に跳んで躱すと、スピアディアの前足へむけ手にした短剣を投擲によって投げ放つ。
狙い通りにダガーが前足に突き刺さり、痛みによって、スピアディアはバランスを崩し、地面に倒れる。
急ぎ起き上がろうしているようだが、そこへマシロが飛び掛かり、その牙で首の動脈を噛み千切る事で、止めを刺した。
【経験値を74獲得しました】
「突進中のスピアディアに正面から挑んで、こうもあっさり仕留めちゃうのね。しかも投擲まで使えるなんて……」
「2人の手際に比べたらまだまださ」
「それでも、十分凄い芸当だと思うけどね……」
「何にしても今度は怪我も無く、無事に仕留められてよかったじゃないか」
色々ありつつも、こうして目的も達成した事だし、後はさっさと帰りたい所なのだが……。
問題が一つある。魔法の袋の中は時間が止まるので、先に血抜き処理だけはしておいた方が良い事だ。
ただ、ここは数多の魔物が生活する森の中。
血の臭いを嗅ぎつけた魔物が押し寄せて来そうだな……。
「持って帰る前に、血抜きをしておこうと思うんだが……」
「ああ。待って待って。それだけだと、血の臭いに誘われて魔物が寄ってきちゃうから、内臓も取り出さないと」
前もって準備していた解体用のナイフを魔法の袋から取り出しながらそう言うと、シルビアから待ったがかかる。
「……内蔵? 食べるのか?」
「違う違う。食べるのは私達じゃなくって、血の臭いで寄って来る魔物よ」
「どういうことだ?」
「単純な話。寄ってきた魔物の気配を探って、おおよその場所に内蔵を投げるのよ。すると、魔物はその内臓を巡って争い始めるから、その間に私達は森を抜けるの」
そう言い、俺から解体用のナイフを奪うと慣れた手つきでスピアディアの動脈を切り、腹を捌いて内臓を取り出し始める。
「見事な手並みだな……。
「ありがと。一応、これでも森の狩人の一人なんだし、これ位は出来ないとね?」
そう照れくさそうに微笑む彼女の顔は、そのままだと見とれそうなほどに可愛いのだが、実際は頬にべったりついた返り血や手に握られた臓物によって、なかなかに猟奇的な光景だったりする。
ちなみに、マシロがシルビアの手にした内臓へ視線が釘付けになってたりもする。
「……ところで、シルビア。良ければその内臓を一つマシロに食べさせやってくれ」
「ん? ああ、マシロちゃんはお腹減ってるんだったね。じゃあ内蔵と一緒にお肉も数きれあげる」
「折角だし、直接食べさせてやってくれよ」
「え? い、いいの? 実は少しやってみたかったんだよね。じゃ、じゃあ……はい。マシロちゃん。あーんして」
「シャー……」
大口を開けて待つマシロにシルビアが恐る恐る切り取った内臓を差し出すと、マシロはぱくりと口に含んで咀嚼し味わう。
シルビアは興味深そうにマシロと内蔵を差し出した手を暫し交互に見ていたが、マシロが食べている姿を見て優しげに微笑んでいる。
『むぐむぐ……うん。確かにおいしい。でも私は焼いた肉の方が好きかな?』
『マシロはすっかり人の作る味にハマってるな……』
『うん。とーさまと一緒にいると色々美味しいものが食べれて私は幸せ』
「えっと、喜んでくれた……のかな?」
「ああ。満足してくれてるみたいだ。ありがとなシルビア。さて、それじゃさっさと作業を終えて、帰り支度をしてしまおうか。夜を森で明かしたくはないしな」
「そうだね」
「はい。矢の回収しといたわよ」
「ありがとアーティア。もうすぐ終わるから皆は周囲の警戒をよろしくね」
それからシルビアは残りのスピアディアの血抜き作業に取り掛かる。
俺もこっそり生命探知を使い魔物の気配を探る。
どうやら、鼻のいい者は既に血の臭いを嗅ぎつけたようで、小型の反応がいくつも俺達のいる方へと向かってきている。
マシロもそれを察したのか、周囲を飛び回って警戒をしている。
「うー……返り血でベトベト……早く帰って体洗いたいなぁ~……」
「我慢しなさい。水魔法を使ってもいいけど、帰るまでに風邪ひいちゃうわよ?」
「着替えも必要になるしね……。よし終わり。早く帰ろう」
「だな。血の臭いにつられて森の魔物達も騒がしくなってきたようだし。またグリーンウルフみたいな乱入者が来られても困る。ここは少し急ぎ足で帰ろう」
「了解。それじゃ皆。ついてきて! 走るよー!」
そして、シルビアが内臓をいくつか、別々の方向へと投げる。
内臓が落ちた茂みがすぐに騒がしくなり、獣同士が争う音が聞こえだす。
どうやら、目の前に突然降ってきた餌を求めて上手く争いに発展したらしい。
その騒ぎに乗じて、血抜き処理を終えたスピアディアを素早く魔法の袋に入れるた俺達は、シルビアの先導で暗くなりつつある森を駆け抜ける。
一応、警戒はしてたのだが、うまく回避して進んでいるのか、不思議と魔物との戦闘も発生せずに、1時間もしないうちに森を抜ける事が出来た。
そのまま夕方にはライムダールへと戻り、白羽亭に着いた頃にはすっかり夜だ。
カリナには、あらかじめ切っておいた大き目の肉塊を渡した。
どうやら、予想以上の大きさだったらしく、彼女も大変喜んでおり、少し余裕があったのでと夕飯の肉の量が増えたので大変ありがたかった。
ちなみにスピアディアの肉は脂がほどよく乗っていて、柔らかく臭みも無い良い肉だった。
魔法の袋には加工した肉塊がまだあるので、今後も食べたくなったら焼いて楽しむ事にしよう。




