45 槍鹿狩り①
俺達は現在、ライムダールを出て北西。名もなき小さな森までやってきている。
なぜ、こんな場所に来てるかと言えば、切っ掛けは、昨日の夜。定宿である白翼亭での事だ。
昇格試験までは、まだ時間があるため、軽めの討伐依頼を受けてお互いの動きを確認しようと、シルビア達と話し合ってた時に、当然の様に話に加わってきた、白翼亭の女将であるカリナが、備蓄している干し肉の在庫がだいぶ減ってるので、魔物を狩りに行くなら、ついでにその補充を頼めないかと、お願いされのだ。
しかも、肉と聞いた瞬間にマシロが、無駄に張り切ってしまい、行く! と念話で連呼してくる始末だ。
まぁ、俺も他に狙いたい魔物が存在してるわけでも無いし、シルビア達も、それでいいとの事なので、結局はカリナのその提案に皆で乗る事になったのだ。
肉を求めて狩るにしても、一体どんな魔物を狙うのか。
それについては、この時期ならスピアディアと呼ばれる魔物が狙い目だと、シルビアが教えてくれた事で解決した。
スピアディアは、北西の森でよく姿が目撃されるという事もあり、この場所まで足を運んだのだ。
2人は昔、この森へ狩りに来た経験があると言う事で、今はシルビアが、俺達を先導する事で、森の奥へと進んでいる。
シルビアは慣れた様子で、地面に落ちている枝や小石をするすると避け、音を立てずに獣道を進む。
そのあまりにも自然な足運びに、流石はエルフだなと感心されられる程だ。
程なくして、彼女が地面についた、何かの足跡を見つけると、屈んで暫しその足跡を調べる。
「うん。スペアディアの蹄の後に間違いないかな。それにまだ新しい……。進んだ先は……こっちだね!」
どうやら、これが目的の魔物の物で間違いないようだ。
シルビアの観察眼を信じ、その足跡を追って更に進む事数分。
「いた。スピアディアだよ」
どうやらシルビアが無事、目的であったスピアディアを発見したようだ。
どんな姿の魔物なのかと様子を伺おうとして、
「ジェイド、もう少し頭下げて。警戒心が強い魔物だから、気付かれちゃうよ!」
「すまん……」
そう注意されると共に、シルビアに頭を押さえつけられてしまった。
改めて注意しつつ、そっと顔を向け、シルビアの視線の先を辿ると、そこには何かの植物を食べている鹿の魔物の姿が数匹。
あれがスピアディアか。
見たところ、大きさは普通の鹿と変わらなそうだが、その頭に生えている2本の琥珀色の角だけは、金属製の武器のような鋭さがあり、もしも、あれで突き刺されたりしたら、皮の鎧などは意味をなさないだろう。
「幸いまだ気付かれてないみたい。此処からだと、木が邪魔でうまく狙えないし、こっそり回り込んじゃおう。そしたら私が弓で仕留めるよ。皆は音を立てないように注意して着いて来てね?」
「分かったわ」
「了解」
俺とアーティアは音を立てないように慎重に、シルビアの後ろをゆっくりと追う。
ちなみにマシロは、飛行スキルを使い、地面すれすれを滑空するように飛ぶ事で音を立てずにシルビアの側を移動している。
最近では、俺に巻き付いて移動するより、ああして飛行する事で移動する事が増えてきたな。
そう自覚した瞬間、なんだろう。少し寂しい気が……。
いや、別に、マシロに嫌われてる事では無いし、飛行を自由自在に使いこなせるほうが、いいんだけどさ……。
なんて、少しくだらない事を考えていたら、スピアディアとの距離がだいぶ近づいてきたようだ。
改めて今回の目的である、このスピアディアなのだが、その名前が表す通りに、頭に槍のように細くも、鋭く尖った琥珀色の角を持っており、草食の魔物だからと油断していると、その強靭な脚力から繰り出される一突きで串刺しにされるという。
最も、かなり臆病な性格の魔物らしく、無駄に刺激したりしなければ自ら進んで人間に危害を加えるような魔物でもない。
肉をはじめとした素材も需要が高く、駆けだしの冒険者であっても、罠を駆使したり、装備をしっかり揃えれば、1匹位は狩れる魔物でもある。
まあ、どんな世界でもセコイ奴やケチな奴は居るもので、たまに装備の費用や人員を減らして、実入りを増やそうとする冒険者もいるらしく、そういった取らぬ狸のなんとやらな輩が、そのまま返り討ちに合う事も、よくある事らしい。
要するに、しっかりした準備をすれば、駆けだし冒険者でも一稼ぎ出来る美味しい魔物。
だが、自衛手段もちゃん持っており、ただ狩られるだけの魔物、という訳でも無いという事だ。
シルビアが不意打ちによる矢で、1匹を仕留めたとしても、恐らく何匹かは、群れを逃がす為に俺達に向かって来るはずだ。
その向かってくるスピアディアを、止める相手が俺とマシロになる。
あの角の一撃を、正面から受け止められるかは分からないが、まぁ、いざとなったら魔闘法を使ったゴリ押しで時間を稼ぎ、その間にシルビアやアーティアに仕留めて貰おう。
あくまでも俺の役目は動きを止める事と、2人に被害が出ないようにする事なんだし。
それでも、この時期のスピアディアの肉は、油が乗っていて、とても旨いとの事なので、個人的には是非数匹は仕留めて、その内1匹はそのまま魔法の袋の中でストックしておきたいなとか考えて入るんだがな……。
「……ジェイド、アーティアも。ちょっと止まって」
「どうしたんだ? 突然止まって」
「何かあったの?」
『とーさま。私達の事、囲もうとしてる魔物がいる』
肉を狙って狩りをするのは、当然俺達冒険者だけではない。
野生動物をはじめ、魔物だって日々そうやって生きている。
しかし、どうせ食うなら、旨い肉を狙うのは当然だろう。
まぁ、その魔物にとって旨い肉とは、はたして前方のスピアディアの物なのか、はたまた俺達の物なのかは、その相手の好み次第だろうが……。
時にはそうした理由で、肉を狙う相手を、更に狙う魔物が存在する事もあるだろう。
そして、どうやら今回俺達は、そういった魔物に目をつけられてしまったようで……。
冷静に、索敵範囲をしぼり、生命探知を発動。
すると、俺達の周囲を、取り囲むように広がっている反応。その数はおおよそ20。
そして反応は全て赤。
当然、魔物だ。
俺も、一応、生命探知を使わなくとも、気配を探りながら移動していたつもりだったのが、スキルを発動するまでまったく気付かなかった。
それもこの数の相手に対してだ。
恐らく、俺の忍び足に近い、隠密系スキルを持ってるんだと思われる。
そして、この魔物は、恐らく群れで獲物を捕るタイプの魔物だ。
かなり……厄介だな。
立ち止まり、周囲を警戒してる俺達の姿から、どうやら、存在が気付かれてる事をその魔物達は理解したようで、茂みを掻き分け、ゆっくりと姿を現したのは、緑の体毛をした狼の魔物達。
「「ガルルルァァァッ……!」」
「……緑魔狼か!」
緑魔狼。
中型犬くらいの大きさで、薄緑色の体毛をした狼の魔物だ。
特徴的なのは、その体毛によって、周囲の景色に溶け込み、獲物に気付かれる事なく接近すると、一斉に群れで襲いかかって仕留めるという危険な魔物だ。
最も個々の能力はそこまで大した事は無いらしく、強くても精々がDランク下級程度の魔物なのだが……。
この魔物の厄介な所はその連携の高さに由来している。
群れがまるで一つの生き物のように、連携のとれた攻撃を主体としており、群れとしての脅威度はDランクの魔物といえどかなり高く、群れの規模によってはC、Bランクのパーティでも苦戦する事もあるという。
「あちゃー……。縄張りを広げてたのかな? 私達が前この辺に来た時は、間違いなく、いなかったと思うんだけどね」
「魔物の活動範囲は、結構な頻度で変わるから、こうした事も珍しくは無いわね。数から見て小規模の群れのようね。もしこれが今までの私達だったら、私が炎系の魔法を放って、怯んだ隙に逃げるのが無難だったんだけど……」
そこで一旦言葉を縊り、アーティアがちらりと俺の方へと視線を向ける。
「今は、ジェイドとマシロちゃんがいるからね。うん。この数の群れなら、十分戦えると思うよ? どうするジェイド? 逃げるか、戦うか?」
シルビアがそう聞いてくるが、ほぼ答えは決まっている。
確かに、1人でこの数を相手にするとしたら厳しかったかもしれないが、今の俺達はパーティを組んでいる。
数ではグリーンウルフが上だが、質は俺達が上だろう。
それに、シルビアは森での狩に長けているし、アーティアの魔法の能力もかなり高い方だと思う。俺やマシロも、森での戦いは多少自信がある。
つまり、やってやれない事は無いはずだ。
折角このパーティでの初陣なんだ。
少し派手に暴れるのも悪くないだろう。
それに、この程度の魔物を退けられないようだと、昇格試験なんて受かる訳が無い。
「どうせこいつらは逃がしてくれる気は無いさ。それに、一緒にCランクになるんだろ? なら、当然勝って生き残る! これしか無いだろ?」
「シャア!」
「うん! そうだね!」
「まぁ、仕方ないわよね。精々、皆怪我しないように気をつけましょうか!」
俺達は其々の獲物を構えつつ、前方で唸り声を上げ、威嚇しているグリーンウルフに対峙する。
当然、ステータス閲覧を発動してのスキルと能力のチェックも忘れない。
[種族] 緑魔狼
[状態] 通常
[ランク] D
[Lv] 10/15
[HP] 88/8
[MP] 30/30
[攻撃] 78
[防御] 44
[魔法攻撃] 12
[魔法防御] 20
[素早さ] 77
[所持スキル]
気配遮断Lv1 連携攻撃Lv2 噛みつきLv5 引き裂きLv2
攻撃力と素早さがLvの割には高い。
この数値の魔物が群れで襲ってくるとなると、下手したらCランクの魔物よりもタチが悪いかもしれないな。
そして、Lvは低めだが、気配遮断スキル持ち。
俺達がここまでの接近を許したのは、あの緑の毛皮だけでなく、このスキルが原因だろうな。
だが、一度生命探知で補足さえしてしまえば、スキルを切らない限り俺には居場所が分かる。
シルビアやマシロ達も、何らかの方法でグリーンウルフの位置を探知してるようで、これなら戦闘中に相手を見失う危険は少ないだろう。
そして、グリーンウルフと俺達は、互いの隙を伺うように暫しの間、制止する。
だが、木々の間をそよ風が通り抜けたまさにその時、グリーンウルフと俺が同時に動き、地を蹴った。
それに合わせる様に、シルビア達もまたそれぞれ、お互いの相手に狙いを定めて、各々が動き出す。
グリーンウルフ達もまた、1匹のグリーンウルフが突撃すると同時に、その後に続くように颯爽と其々の個体が、その四肢で地を蹴り上げ、俺達へと四方から一斉に迫りくる。
「マシロ、行くぞ!」
「シャァァ!」
「さぁ、援護は任せて!」
「私も、巻き込まない範囲で魔法で皆を援護するわね」
俺はマシロ共に、前方のグリーンウルフ達へと躍り掛かる。
「ガルァァァ!」
「グルゥァ!」
正面から迫りくる俺達へ、迎撃のためか2匹のグリーンウルフが息の合ったコンビネーションで飛び掛かって来る。
だが、その行動を既に予測していたため、飛び掛かってきた2匹のグリーンウルフの首と額を狙って、それぞれ両手の刃を振るい、突き立て、切り捨てる。
「キャゥア!」
「ガルァ……!」
【経験値を89獲得しました】
経験値が1匹分だけ!?
どうやら額を貫いた方は致命傷だったようで、短く悲鳴を上げてその場に倒れ、動かなくなったのだが、首を切られた方が、傷口から血を溢れさせつつも俺にその牙を突きつけようと迫ってくる。
致命傷のはずだが、それでも攻撃を止めないか。
予想外のしぶとさに驚き、俺にわずかに生まれた隙。
それを逃さぬかのように、残り少ない命を燃やし尽くす勢いで、負傷したグリーンウルフが速度を上げて迫ってくる。
だが、そこへ、マシロがそうはさせないと、強化した尾を、まるで鞭の様に振るい、勢いよく叩きつける事で、飛び掛かってきたグリーンウルフを見事に迎撃する。
「ガァァ!?」
体格差があるためか、まさか自分の攻撃がマシロに防がれる事になるとは思ってなかったようで、攻撃を受けたグリーンウルフは驚きの声を上げつつ続けてマシロが放った鎌鼬で首を撥ねられ今度こそ、その命を刈り取られる事になった。
『とーさま、危なかった! 大丈夫?』
『すまん! 助かったよ! ありがとなマシロ!』
瞬く間に、2匹の仲間がやられ警戒したのか、俺達に向かって殺到していたグリーンウルフ達が、ぴたりとその場で止まり、威嚇の唸り声をあげる。
しかし、俺とマシロに注意が向いたその直ぐに、シルビアとアーティアの放った攻撃が、制止したグリーンウルフ達に襲いかかる。
「……そこっ!」
「氷柱針!」
これにより再びグリーンウルフ達に混乱が起きる。
俺とマシロ、シルビアとアーティア。
どちらを先に仕留めるかで迷ったのか、グリーンウルフの群れの統率が乱れ数匹がバラバラに襲い掛かってくる。
だが、連携の取れていない攻撃ならば、数が増えたところで俺達の敵じゃない。
シルビアは走りつつ屋筒から更に数本の矢を取り出し、弓を素早く引くと、そのまま続けて三本の矢を放つ。
放たれた矢は、見事近付いて来ていたグリーンウルフの頭に突き刺さり、瞬く間に3匹のグリーンウルフを仕留める。
アーティアの方も、いつの間に詠唱をしていたのか、追加で発動させ氷柱針を新たに周囲に精製しており、それを高速で飛ばして迫りくるグリーンウルフを迎撃する。
暫しその光景に見入っていた俺の方へ視線を向けたシルビアは、唐突に数発の矢を俺のいる方へと素早く放つ。
放たれた矢が俺の顔のすぐ横をすり抜け、俺に近づいて来ていた数匹のグリーンウルフの足に突き刺さり、その動きを止めてみせた。
更に、続けてアーティアの放った氷柱が、動きの止まったリーフウルフの胴体に深々と突き刺さり、次々に仕留めていく。
「ジェイド! ぼーっとしてると危ないよ」
「戦闘はまだ終わってないわよ!」
「悪い二人共! 助かった!」
実に成れた様子で息の合った二人の戦う姿に、頼もしさを覚える。
『シルビアもアーティアも……強いね』
『ああ。正直、予想以上だ』
やはり、この二人、俺の予想通りにDランクに収まる強さでは無かったようだな。
だが、その強さに頼り切りになるようではダメだ。
二人の戦闘する姿に見入っていたとはいえ、確かに今のは、油断し過ぎだ。
横にどうどうと並んでも恥ずかしく無い位には、俺も動かないとな!
シルビア達に、俺とマシロも負けてられないぞと、改めて気合を入れると、俺の背後から大口を開けて噛みついてくるグリーンウルフへと、振り向きと同時にカウンターで殴り飛ばす。
「キャウン!?」
地面を転がったグリーンウルフに、マシロが素早く鎌鼬を放って、その首を切断する。
【経験値を57獲得しました】
首を飛ばしたのを確認したマシロは、更に素早く1匹のグリーンウルフへ、その尻尾を首に巻き付ける事で、締め上げ、その首をへし折っていた。
グリーンウルフ達は、増え続ける予想外の被害に、更に統率が乱れる。
統率が乱れているならば好都合。
このまま一気に殲滅してしまおうと思ったのだが、どうやらそう簡単にはいかなかったようだ。
「オオォォォォォォン!!」
1匹の一際大きな個体のグリーンウルフが、一声遠吠えを発すると、今までバラバラだったグリーンウルフ達に統率が戻ったのか、先程まで慌てていたのが嘘の様に、ぴたりとその動きを止め、再び息の合った動きで俺達の周りを取り囲んで来た。
しかも、いやらしい事に今度は1匹1匹が時間差をつけて飛び掛かってくる事により、それぞれの隙をなくそうとして来ている。
躱して反撃をしかけようとしても、別の角度から飛び掛かってくる個体によって思うように攻撃に出られない。
「ちっ! あいつが指示を出してるのか。数も結構減らしたと思ったんだけど、なっ!」
「ガァァ!」
素早く横から飛び掛かり、その牙を突き立てようと迫りくるグリーンウルフの1匹へ、手にした短剣を突き刺し始末すると、また次のグリーンウルフが飛び掛かって来る。
『とーさま! 後ろから来てる!』
『おう!』
マシロの警告に従い、回し蹴りで背後から飛び掛かってきたグリーンウルフの頭を、蹴りつける。
反撃により怯んだところで、その首に短剣を突き刺す。
シルビア、アーティアの方もそれぞれが数匹のグリーンウルフを仕留めているようで、気付ければグリーンウルフの数もかなり疎らになっている。
その様子に焦ったのか、リーダー各のグリーンウルフは勝負に出たようだ。
森に響き渡るように、大きく雄叫びを上げ、最高速度で一番近くに存在していた俺に狙いを定め、突っ込んでくる。
「グルァァァァ!!」
「ジェイド!」
「任せろ! アイツは俺がやる! シルビアとアーティアは、周りの奴等を頼む!」
シルビアにそう返事をした俺は、迫りくるリーダー格のグリーンウルフを迎え撃つため、今まで手にしていた短剣を地面に投げ捨て、腰に挿した魔造剣を引き抜くと、魔力を込めてその刃を研ぎ澄ます。
俺の魔力を吸い、魔造剣の刀身が淡い蒼の輝きを放つ。
だが、その姿を見ても怯む事無く、グリーンウルフのリーダーは俺へ血走った瞳を向け、その爪牙により俺を仕留めようと、更に速度を上げて飛び掛かってくる。
俺もそれに答える様に、魔闘法で強化した脚力で地を踏み抜き、体を前へ。
「うぉらあぁぁっ!」
「アオォォォォン!」
お互いに雄叫びを上げ、全力の一撃を放ち、相手を仕留めようと前に出る。
そして、俺とグリーンウルフか一瞬の交差した後……。
地面に倒れ込んだグリーンウルフは、地面に血溜まりを作り動かなくなった。
だが、俺も無傷ではなく、避け損ねた爪撃によって、右肩を切り裂かれてしまい、激痛が走る。
「くっ!」
たまらず、右肩を抑え傷の具合を触って確認する。。
幸いな事に、骨は無事のようだ。
皮膚が深めに裂けて、血も出てはいるが、人化時の俺の肉体は、仮初の物。
魔力を多めに回して、少し時間を掛ければ、この傷も塞がるのだ。
それでも痛い物は痛いんだがな。
しかし、これが、ある意味本体とも言える、骨にまで被害が出ていればどうなっていた事やら……。
「ジェイド!」
「ジェイド君!」
『とーさま!』
「だ、大丈夫だ! 少し掠っただけで、俺は無事だ!」
リーダーを倒し、統率する物が居なくなったのか、グリーンウルフ達はかなり慌てているた様子だ。
だが、未だに俺達に敵意を剥いている個体も多く、戦闘はまだ終わっていない事を悟らせる。
「傷はそこまで深くない。リーダーを倒して統率が乱れた今がチャンスだ。このまま一気に残りを殲滅しよう!」
「……わかった! ジェイド! 戦闘終わったらちゃんと傷の治療させてよね!」
「私からも、あんまり無茶な事は、しないでくれると嬉しんだけどね!」
「シャァァ!」
一先ず俺が無事だと分かると、シルビアとアーティア、それにマシロは、一先ずグリーンウルフ達への攻撃を再開した。
俺も、このままじっとしている訳にはいかないので、痛む右肩に鞭打ち、魔造剣を握ると、こちらへ向かって駆けてくるグリーンウルフを切り付け、返り討ちにする。
それにしても、この傷。
避け損ねたというのとは少し違う。
俺は、確かにあの時、振り下ろされる爪を見て、俺は咄嗟に回避の軌道を取ったのだ。
しかし、実際はこの様に、傷を負ってしまった。
だがこれは、スケルトン時の感覚と人化時の肉体の違いからくる、僅かなズレが原因だ。
普段俺は、強敵の相手をする時は全力が出せるスケルトン状態での戦闘が多い。
だが、今回はシルビア達の眼があるため、最初から最後まで人化状態での戦闘だった。
今回その事を無意識で忘れてしまっていたようで、俺はスケルトン状態の時に、ギリギリ躱せるであろう機動で、あのグリーンウルフの攻撃を回避してしまったのだ。
当然、人化した時に、スケルトン時と同じ感覚で回避行動をするとどうなるか。
結果はご覧の様だ。
相手がグリーンウルフだったからよかったが、これがもし、もっと強力な魔物相手だったとしたら、この感覚の違いは間違いなく命取りになっていただろう。
この感覚の違いを今まで自覚出来てなかった事を知る事が出来た。
2人には言えないが、これは俺にとって最大の収穫だろう。
これは間違いなく、今後の課題となるな……。
なるべくは早めに感覚を掴む努力をするとしよう。




