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スケルトンの冒険者 異世界生活記 ~人化の術で冒険者やってます~  作者: 肉巻きおにぎり
3章 スケルトンの冒険者(Dランク)
45/60

43 ギルドマスターと身分制度の話

予定よりかなり遅くなりました……。やっぱりお盆シーズンに執筆するのは厳しかったです。

あと、今回は今まで一番長いです。

途中で区切ろうかなとも思いましたが、結局は1話に纏めました。

「昇格試験って……早くないですか? 俺まだ依頼も1つしか達成してない新人ですけど……」

「確かに依頼達成の数自体は少ないですけど、既にジェイド君がギルドにもたらした利益額はなかなの物ですよ? そもそもポイズンクロウラーだけでもDランクの依頼数回分の価値がありますし、リザードマンをはじめとした単価が高い魔物を多く持ち込んでくれましたからね。これだけ短期間で結果を出している貴方には、昇格試験を受ける資格があると判断されたみたいです」

「前に話してたギルドにとっての利益って奴ですか。てっきりそれは、依頼達成の数も一定回数以上必要なんだと思ってましたけど……」

「はい。基本的には、そうなんですけどね……。中には例外もあるんですよ。今回のジェイド君みたいに、明らかに現在のランクよりも高い実力を持っているとその冒険者が判断された場合、なるべく早くに昇格試験を受けていただいて、より高いランクとして活躍して貰いたいっていうのが、我々ギルドとしての本音なんですよ……。まぁ、それでもジェイド君は、かなり早い方とは思いますけどね……。では、ギルドマスターの執務室までご案内しますから、着いて来てください」


 ルミナはそう言いつつ自身の担当するカウンターを閉めて裏から出てくると、上の階への階段へと向けて歩き出す。

 そう言えば、この建物は3階建てだったなと、今更ながらに思い出す。

 ルミナが迷わず上に向かっている事から考えて、恐らく3階がギルドマスターの執務室になっているのだろう。


 階段を上がった先には、一つの扉とその前に、見張りと思われる剣を腰に差した男が2人立っていた。

 男達は、佇まいから見て、どうやらなかなかの使い手のようだな。

 ギルドマスターの護衛の役目も負っているんだろうから、当然腕利きの者なんだろう。


 しかし、思ったよりもずいぶん狭い空間だな。

 2階のオフィスの半分もないんじゃないか?

 多分この3階にある部屋は、ギルドマスターの執務室だけなのだろう。

 ルミナの姿を確認した見張りの2人は、軽く頷いて、そっと道を開けてくれる。

 ルミナの方も慣れた様子で2人の間を通り、扉の前まで来ると、控えめにその扉を叩きノックする。


 ――コンコン。


「ギルドマスター。ルミナです。件の冒険者をお連れしまた」

「ご苦労。入ってくれ」


 室内から返って来た返事は、女性の声だ。


「失礼します」


 ルミナが返事を確認して扉を開けて室内へ。俺も遅れてその後ろから中へと入る


「……失礼します」


 ギルドマスターの執務室の中は上質な木材で作られてそうな大きめの執務机と革製のソファーとティーテーブル。

 壁際には様々な本や丸められた羊皮紙が収められた棚がいくつか見える。


 そして執務机に座り、上に積まれた書類の束と格闘しているのは、顔に深い皺が刻まれた、初老の女性が1人。

 長い白髪を後ろで結び1本に束ねている。ポニーテールって奴だな。

 そして極めつけは頭から生えている2つのウサ耳。


 獣人。それも兎耳族と呼ばれている一種だな。

 まさかギルドマスターが亜人だったとは、リングラッドの亜人差別を知る俺としては、かなり予想外の事だな。


「やぁ、よく来てくれたね。私がこのライムダールのギルドマスターを務めているウィルター・カルトリッツァだ。よろしく頼むよ」


 ギルドマスターのウィルターさんは、執務机から顔を上げると、人の良さそうな笑みを浮かべて、落ち着いた声で挨拶をしてくる。


「はじめましてギルドマスター。Dランク冒険者のジェイドです。こっちは俺の相棒で、従魔のマシロです」

「シャア……」


 ウィルターさんは俺達の返事に軽く頷くと、視線を俺の隣に佇むルミナへ向ける。


「ルミナ。ご苦労だったね。私はこのジェイド君と内密に話したい事があるんだ。悪いけど、席を外してもらえるかな?」

「……かしこまりました。失礼しますギルドマスター」


 内密の話と聞いて、一瞬俺の方を見て心配そうな表情をしてくるルミナだが、俺も目で大丈夫と合図をすると、伝わったのか、軽く頷き、ウィルターさんへ一礼すると、執務室を後にする。

 ルミナが退室したのを確認すると、再び俺達の方を向くウィルターさん。


「遠慮せずにかけてくれていい。別に悪い話ってわけでも無いんだ。楽にしてくれていいんだよ」


 とりあえず勧められたので、革製のソファーに腰を下ろす。

 どうやら、このソファーもかなり上質な素材を使っているようで、体が沈み込むほど柔らかく座り心地がとても良い。

 正直、前世で座ったどの椅子よりも座り心地が良かった……。

 マシロも沈む感触が気に入ったのか、とぐろを巻いて尻尾が揺れているのを見るに、ご機嫌そうだ。


 そんな俺達の様子を微笑ましそうに見ていたウィルターさんは、


「ふふ。獣人である私が、ギルドマスターなんかしてるのを知って、君はさぞ驚いただろう?」


 と返答に困る事を聞いてきた。


「い、いえ、そんな事は……」


 素直に、はい、そうです。……なんて言えないよな。


「なに、隠さなくてもいいよ。皆最初は驚くものだからね。この国では比較的マシとはいえ、リングラッドでは亜人差別が多いものだ。それでも私の様な獣人が、こうした役職に就ける事自体、珍しい事なのを自覚してるからね」


 ウィルターさんは少し、自虐的に微笑む。


「何て事は無い。単に私がこの役職に就けたのは、私の夫との出会いがあったからさ。元々は私も、この街に住む1人の冒険者でね。当時のランクはA。世間では『首狩りウィルター』なんて物騒な名で呼ばれていた位は有名だったよ。もう随分と昔の話だが、この街が魔物の氾濫(スタンピード)の被害にあった事があってね。当時の私も、街を守るために防衛戦に参戦していたんだ。数千匹の魔物が攻めてきたあの光景は今でも覚えている。とても恐ろしく、この世の地獄を見ているようだった。そして、その戦いで、私達のパーティは、氾濫主であるヒュドラの亜種を激闘の末討ち取る事に成功したのさ。まぁ、代償として私は利き腕をやられてしまったがね……」


 氾濫主ってのは魔物の氾濫(スタンピード)を統率している、ダンジョンマスターのような、強い支配力を持つ強力な魔物の事だ。

 数多の魔物を従える支配力を持つ氾濫主は、総じて強力な種族である事が有名であり、その強さも計り知れない。

 そんな相手を討伐したとなると、この目の前に居るギルドマスターもまた、只者ではないという事か。


「私達が氾濫主を倒した事によって、魔物の群れは統率を失って烏合の衆と成り果てた。それからは早かったね。冒険者と街の兵士達が連携し、統率の乱れた魔物の群れを追い払ったんだ。それでも当然かなりの数の犠牲者が出たが、結果として防衛戦は我々の勝利に終わったよ。だが、私のパーティメンバーは氾濫主との戦いによって、全員帰らぬ人となってしまった……。唯一生き残った私も、受けた傷が原因で冒険者を続けるのが難しくなってしまってね……。とはいえ、冒険者を引退したとして、はたして傷物の獣人を雇ってくれる物好きなど、いるものだろうかと途方に暮れたものだよ。ただ、私は運が良かった。冒険者を引退する事をギルドに伝えに行った時に、私に声をかけてくれたのが、当時のギルドマスターで、私の夫となる男のヘグウィッグ・カルトリッツァさ。彼は、冒険者を引退して行く当てが無いならば、今までの経験を活かして、今度はこちら側から冒険者達をサポートしてくれないか? ってギルド職員に誘ってくれたのさ。その一言が、どれだけ嬉しかったか。今でもあの気持ちを覚えているよ。その彼からの誘いのお蔭で、私は冒険者を引退した後も、このギルドで職員として働く事が出来るようになってね。まぁ、当然、私が獣人である事によって周囲とは色々トラブルが絶えず、最初は苦労していたが……。その都度あの人が私を支え続けてくれてね。そんなあの人と、そのまま夫婦になるまでは、大して時間はかからなかった物さ。まぁ……夫婦となったといっても、彼はその数年後に病で亡くなってしまったんだがね……。それでも、誰が何と言おうとも、私達は幸せだったよ。後悔もしてない。彼の死後は、その遺言に従い、私が代わりにこのライムダールのギルドマスターに収まった。死ぬ前に、彼は色々と根回しをしてくれていたんだろうね。私がギルドマスターになるって時も、職員の皆は、すんなりと受け入れてくれたよ。そして数十年経って、今に至るってわけさ」


 昔を懐かしむような表情をして、語るウィルターさんだが、彼女は獣人である。

 きっと、この地位に至るまでは、相当な苦労をしてきたことだろう。

 それでも、彼女を支え続けていた先代のギルドマスターは、彼女の事を深く愛していたのだろう。

 俺のような別の世界から来た者ではなく、この世界で生まれても、そうした想いを抱いたその人物に俺は深い尊敬の念を抱いた。

 きっと、立派な人だったのだろう。


「ああ、すまないね。こんな話をするために君を呼んだんじゃなかったのに……。歳をとると、ついつい昔話をしたがってしまっていけないね……」

「いえ。大変貴重なお話でした」


 実際聞いていて色々考えさせられる内容だったしな。

 時間を無駄にしたとは思わない。


「そうかい? そう言って貰えると助かるね。さて、面識も無い私から突然の呼び出しを受けた事により君も混乱しているだろう? なので、本題である、こうして君を呼び出したその理由を話そうか」


 コホンとひとつ咳払いをして、ウィルターさんは再び語り出す。


「君の事は、ルミナから聞いたよ。驚くことに、あのタチカワからの紹介で、このライムダールギルドまでやって来たんだってね。その話を聞いて、私は君に大変興味が湧いたんだ。なにせ、あの元Aランクの冒険者。竜殺しのタチカワが寄越した弟子だ。彼にそんな関係の相手がいる事自体、初耳だったしね。ギルドマスターとしては、興味を持たないほうが無理だろう?」

「竜殺し……ですか?」

「ああ、彼のこの街でついた二つ名だよ。タチカワは単独で飛龍種の討伐をこなした男だからね」


 ああ、そうだ。思い出した。

 たしか立川は、ナーシャさんに求婚した時に、断りの意味で進められた飛竜種の討伐依頼を達成させたって話を聞かされたな。


「本来飛龍種の討伐は、Aランク以上のパーティ数人が合同で挑みやっと可能性があるといわれている程の難易度だ。それを1人で達成した時点で彼がどれ程の偉業を達成したかわかるだろう? 当然ギルドとしても、彼をSランクに上げるべきだという声が多く出たんだが……。結局タチカワはその話を断って、ナーシャを連れてライムダールを去ってしまったんだが……。私としても、彼は惜しい人財だった。しかし本来ギルドには、そこまで強く冒険者を拘束する権利は無い。タチカワ本人が辞める事を決め、正規の手続きをしたとなれば、こちらは何も出来ないんだよ。それでも、時々彼はこの街に買い出し等で来ると、そのついでに、私の所に連絡を寄越しては、高難度依頼を数件見繕って片付けていってくれるんだ。本来は、冒険者を辞めた彼にそんな事をさせるのは違反なんだかね……。しかし、他にその依頼を達成できそうな人物の当ても今の所無いので、結局は、その好意に甘えてしまっているのが現状だ。タチカワ本人曰く、こうして依頼を受けるのは、彼の妻となったナーシャが、ライムダールのギルドの事を、今でも気にしているのが、気掛かりらしくてね……。依頼を解決して帰ると彼女が喜んでくれるんだとさ。ふふ。あの娘はいい夫を持ったね。一応、タチカワが今でもそうして依頼を秘密裏に処理してくれてるのを、知ってるのは、現在私だけなんだがね。……おっと、今の話で君も今知ってしまったから、これで2人になったかな? ははは」


 おいっ。ギルドマスターしか知らない秘密をしれっと混ぜて話すのは止めてくれよ。

 これ絶対洩らせない情報じゃないか……。

 もしバレたら、立川にも迷惑が掛かるし、情報源も確実に俺だって分かる。

 ……この秘密は墓場まで持っていこう。

 そう心に誓った後に、ふと気付いたが……。

 なんかこの表現、今の俺からしたら笑えないな……。


 しかし、俺が立川の弟子か。

 確かに、俺は彼から魔闘法を教わりはしたが、一緒に過ごした期間はかなり短い物だ。

 それで本当に弟子と呼べるかは、俺からしたら少し疑問が残るのだが……。

 まぁ、確かに彼からはこの世界について色々教えて貰えたし、目的のなかった俺に冒険者という道を示してくれた恩人だ。

 感謝はしているし、彼がそう思っているのならば、俺は彼の弟子って事でいいだろう。


「私が特に、君に興味を示したの理由は、ルミナが持ってきてくれたコレさ」


 そう言って、ウィルターさんが取り出した物は……。

 あれは、ナーシャさんが俺に持たせてくれた紹介状か?


「ナーシャからの紹介状。実は、この中にタチカワからのメッセージが書いてあったんだよ。ご丁寧に私にしか分からないよう、依頼をやり取りする時の暗号を使ってね。まぁ、それを要約すると、君が冒険者として活動する上で、なるべく君の自由を保証してあげて欲しい。って内容だった。私からしたら、あのタチカワが、そこまで他人の為に行動を起こす事自体驚いたものさ。彼は常に1人で行動するタイプの人物だったからね。惚れた女であるナーシャ以外に、私に直接こうした頼みをする程の人物っていうのに、興味が出てしまったのさ。だから、一度こうして顔を合わせて話してみたかったんだよ。だが、理由も無しにギルドマスターが冒険者を名指しで呼び出すのは、なかなか目立つからね。理由が欲しかった。そんな時に、君が、ポイズンクロウラーの討伐依頼を達成した事を昨日知ってね。これ幸いとも昇格試験の許可を出すついでに、ルミナに頼んで、こうして君を呼びつけてしまったのさ。異例の速さで昇格試験を受けれる期待の新人の顔を見てみたいって体でね」


 成程ね。そういう理由だったのか……


「そうだったんですね。てっきり俺、何かやらかしたのかと心配しましたよ……。まぁ、立川とギルドマスターの関係を知った今なら、こうした手順で呼び出されたのも納得しましたけど」


 それに、これについては、俺にデメリットが有る訳でも無い。

 むしろ、こうしてギルドマスターと繋がりが出来ただけでも、相当のプラスだろう。


「では、納得してくれたようだし、本題でもある昇格試験と、その達成後に何が得られるかについて説明しておこうと思う。これは今回、君を呼び出した最大の理由でもある。まず君は、Cランク以上の冒険者に与えられるギルドからの身分保障制度を知っているかな?」


 身分保障制度?

 多分、初めて聞くよな……?


「いえ……。聞いていないと思います」

「ふむ。まぁ、君は見る限りは人族だ。これは本来亜人向けの制度故、ルミナから説明が無かったのも仕方ない事かな。では、まずはこれの説明からしようか」


 そう言い取り出したのは、500円玉位のサイズの、一つの缶バッジのような物。

 中央には、剣を掴む鳥の姿が描かれている。

 ギルドの看板に描かれていたものと同じ物か?


「それは……?」

「これはギルドが発行している冒険者。特に亜人を対象に意識したものでね。この国は比較的まだマシだが、国によっては冒険者といえど亜人に偏見がある所は多い。本来は、そういった場所でも、護衛依頼や討伐依頼に向かう冒険者が、現地で無駄なトラブルに合わないようにと、数代前の冒険者ギルドの人々が考案し、作り出した代物さ。君も不思議に思った事があるだろう? 亜人の冒険者が、亜人の国であるトルマ共和国内以外で、街中を歩いている姿を見る事を。その理由がこのギルドが配給しているバッジさ。これは、ギルドからの信頼の証であり、いかなる種族であっても、これを持つ者はギルドの傘下にあるのだと主張しててね。公的な理由も無しにこの証を持つ者に危害を加えるのは、各国から禁止もされている。だから、この証を持つ亜人冒険者は堂々と街中を歩けるのさ」


 つまり、このバッジを身に着けていれば、種族間での要らぬ争い何かを避けられるって事か。

 しかし、ギルドってのは、確か国から独立した組織だったはずだ。

 それなのに、こういう法的な処置とも言える権限を持ち合わせているものなのだろうか?


 そんな俺の疑問をもっともだと言わんばかりに、ウィルターさんは続きを話す。


「君も知ってる通り、本来冒険者ギルドってのは国から独立した組織だ。これはこの世界の皆が知ってる事だね。だが、そんな我々も、各国に支部を持つ故、こうして土地を借り受けている分は、一定の税を国に治めている。それもなかなかの額を、ね。それだけでも並みの貴族よりは、かなり多い物さ。だがギルドが国にもたらす利益はそれだけじゃない。ギルドがあるという事は、そこに登録された冒険者経由で仕入れた魔石や魔物の素材が、国に流れる事を意味する。これは、その国とって更に多大な利益を生み出す。そのもたらす利益額には、各国も無視できない程だ。だが、もし国とギルドとの関係が破綻してしまったら、こうした魔石や魔物素材の流れる量が激減するだろうね。更に関係が悪化して、ギルドがその国から撤退を決めたとしたら? 当然、魔物の討伐や薬草採取、商隊の護衛等をしてくれる冒険者も居なくなる事になるね。多少は領民や兵を使う事で補えはするだろうが、街を総出で開ける訳にもいくまい。冒険者やギルドが離れる事で、国の内政にどれだけの打撃が出るのか……想像に難しくはないだろう? だから国としても、無暗にギルドと揉め事を起こしたいとは思わないのさ。国と完全に独立した組織であり、尚且つ無暗に手が出せない程の影響力がある。そんな冒険者ギルドという大きな組織だからこそ、こうした多少強引な処置も取れるという事さ」


 なんとまぁ、この世界の冒険者ギルドは、俺が思っていた以上に、ずいぶん大きな組織だったんだな……。

 しかし、考えてみれば当然か。

 魔物溢れるこの世界で、命を這って様々な依頼をこなす冒険者達の集まりなんだ。

 騎士や守衛のような兵士達でも魔物の討伐等はできるだろうが、彼らの本当の仕事は治安維持や王族貴族の護衛等だ。長い間街を空ける事なんかもできない。

 それを代わりにやるのが冒険者なんだからな。

 そして、それを纏めている冒険者ギルドという組織に、身分が保証される程の存在としたら……成程。

 確かに各国は、その冒険者が例え亜人だとしても、無下にはできないだろうな。


「私達亜人は、人族よりも容姿が特徴的だ。しかし、その分力が優れたり、聴覚が優れてたりと身体能力の違いや、魔力の質。使用できるスキル等も多彩にわたる。当然様々な魔物戦う冒険者は、同じ種族だけでは成り立たなくてね。ギルドは人種を問わず、優秀な者には是非長く冒険者として活躍してほしいのさ。そして、このバッジこそが、そうした亜人の冒険者達が安心して各国で活動できる為の証さ。ああ、当然亜人だけじゃなくって、普通の人族でも同じ効果はあるから安心してくれ。一応、この身分保障制度は、亜人の冒険者がギルドに登録する際に、必ず説明されているんだ。彼等からしたら、一種の目標にもなるだろうからね。ただ、すごく魅力的な話だが、当然こうした制度を何の試験も無しに受ける事は出来ない。当然ある程度の実力は必要さ。規定でも最低でもCランク以上は必要とされているし、例えランクがCランク以上になったとしても、その人物がギルドにとって信用に値するかどうかも、当然判断材料とされる。冒険者は、誰でもなろうと思えばなれる職業故、こうした選別方法を取るのは仕方ない事なんだ。一定以上の実力と、その人物に対するギルドの評価がどれだけあるか。その2つを認められて初めて、この身分証明制度を受ける事が出来るのさ」


 成程ね。

 だから、冒険者には亜人の割合が比較的多いのか。

 皆、最終的にはこの身分保障制度を求めてるんだろうな。


 もしかして、シルビアもこの身分保障があれば、もうフードを被って生活する必要も無くなるのではないか……?


「タチカワが、私に暗号を使ってまで、君の自由を保障して欲しいと頼んできたんだ。つまり、君も何かしらの特殊な事情があるのだろう? まぁ、私も元冒険者であり、亜人の1人だからね。そういった内容を詳しく聞こうとは思わないさ。ただ、こうした保証があったほうが、今後も冒険者を続けるうえでは何かと都合がいいんじゃないかと思ってね。幸い私はギルドマスターで、この身分証を与える権限を持っている。実力さえ示してくれるならば、私もタチカワを信用して、無事にCランクになった暁にはこの証を進呈しようと思っているんだが……どうだろうか?」


 条件は昇格試験をクリアする事か。

 もちろんこの制度は今後何かと便利そうだし俺としても是非欲しい。

 だが、どうせなら、もう1人。

 この制度を受けられるようにしたい人物がいる。


「あの……ギルドマスター。一ついいですか?」

「ウィルターと気軽に呼んでくれていいよ」

「では……ウィルターさん。試験試験なんですけど、例えば、俺が誰かとパーティを組んでの参加は可能ですか? またその場合成功した時そのメンバーも一緒に昇格する事は可能ですか? 加えてその制度を受ける事は可能でしょうか?」

「ほう……? 君は今の所まだ誰ともパーティを組んではいないと聞いているのだが……?」

「今後もずっと1人で活動するとは限りませんし、依頼内容によっては、誰かと組まざるを得ない事もあるでしょう。なら、今からでもパーティメンバーをある程度決めておくのは、悪い事ではないでしょう?」

「ふむ……。確かにギルド側としても、冒険者には可能な限りのパーティ制を推薦してる。なので、その考えについては、特に文句は無いね。ただ今回は昇格試験も兼ねている。当然君が組める相手は当然Dランク以下の冒険者限定となるだろう。その相手がDランクで、尚且つ試験にて一定以上の実力を示したならば、当然昇格は可能だね。身分制度に関しては、その人物を一度見て見なければ分からないとしか言えないが……」

「つまりチャンスはあるんですね? 今はそれだけ聞ければ十分です。ちょうど思い当たる人物も俺と同じDランクですし、実力も他よりは高い方と思います」

「因みにだが……その思い当たる人物というのは、もしかして、私のような亜人だったりするのかな?」

「……なぜそう思われるんですか?」

「なに。君が真剣な表情でパーティに誘えるかを問うているんだ。さっきのギルドの身分証明処置が必要と思える相手が、君の知り合いにはいるのだろう?」

「そうですね……。話を聞く限り、この制度を持てれば、少なくとも他者から亜人として偏見の目で見られたり、危害を加えられる事が少なくなるようですし。可能ならば、昇格試験をクリアした時は、俺よりもその人にその身分保障を付けてあげてほしいんですよ」


 ウィルターさんは俺の反応から何かを感じたのか、嬉しそうに顔をほころばせる。


「本当は君の為に用意した物だったんだが……。よろしい。もう少し数を用意しておくとしよう」

「ありがとうございます!」

「おっと。お礼はまだ早いよ。まだ決まったわけでは無いんだからね? 当然君も、その誘おうとしている相手も、先ずは昇格試験での実力を示してもらう必要はある。……それにしても君は、この世界では珍しい、亜人に偏見が無い人間みたいだね。ふふ。タチカワの奴もそうだったよ。やっぱり君はアイツの弟子だね」


 まぁ、あの人も俺も元は日本人だからな。

 見た目の違いだけで、どうこうって考えはあまり無いだろう。

 寧ろ、嬉々として亜人とも関わろうとしそうだ……。

 俺もその考え自体は否定しない。

 何せ、エルフとか獣人とか前世では存在しなかった種族が、現実に存在しているのだ。

 それで興味を持つなって方が、無理があるだろう?


「私の立場から言えるのは、君の昇格試験にパーティとして参加できる人数の上限は4人までという事だ。ああ、もちろん1人での参加も可能だよ。昇格試験は3日後を予定しているからパーティを組むなら早めに声をかけてあげなさい。試験内容は当日にルミナから説明させるよ。さて、長くなったが、私からの話は以上さ」


「もう、よろしいんですか?」


 なんだか、説明ばかりで、話という話も余りしてないと思ったのだが、良いのだろうか?

「少なくとも、君がどういった人間なのかは理解できたと思う。こんな仕事をずっと続けて来たからね。人を見る目には自信があるのさ。君の今後の活躍に期待させて貰おう」

「ご期待に添えるよう頑張ります。本人は、色々とありがとうございました」

「ああ。昇格試験、頑張りたまえよ」


 ウィルターさんからの話も終わり、俺は最後に一礼してその場を後にする。

 ようやく俺も、誰かとパーティを組む目途がたったな。

 問題はシルビア達が承諾してくれるかどうかだが……。

 俺が、どうこうするのは、余計なお世話な気もするが、最悪断られたとしても、俺にデメリットは無い。

 何れ誰かとパーティを組む事になるならば、俺はあの明るいエルフの少女とが良い。

 まだ出会って数日の短い付き合いだが、なんだかんだで彼女の事を気に入ってしまった自分がいる。

 まぁ、断られたらその時はいつも通りに、マシロと2人で冒険者家業を続けるだけだしな。

 

 なので、白羽亭に帰ったらシルビア達にこの話をしてみる事にしよう。

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