41 死霊迷宮からの帰還
今回の話は朝方に間違って投稿してしまい、慌てて削除してから予約し直しております…。
読者の方々にはこちらの手違いによって混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。
あと、今回の戦闘では少し残酷な描写がありますので、苦手な人はご注意を。
ナイト・スカルリッチに進化した俺は改めて自分の容姿を確認してみた。
骨の騎士って言うから進化後はてっきり鎧でも着てるのかと思ったんだが、そういった事もなく、いつも通りの全身骨格野郎。
でも、所々体を形成している骨が、刺々しいものになってはいる。
そうだな。具体的に言うと、全身の骨がもう鎧みたいな感じになってるんだ。
指の先とか、肩とか、めっちゃ尖ってるもん。
そのまま刺突でも放てば、それだけでも人殺せそうだわ。
多分俺には体術スキルもあるし、実際に出来るんだろうな。
鏡が無いので、頭部の方はどうなってるのか分からないんだが……。触った限りでは角とか生えてる感じはしないな。
うん。よかった。一応まだギリギリで人型だ。
まぁ、そんな姿はともかくとして、ステータスやスキルは共に優秀な魔物に進化出来た。
そこは素直に嬉しい。
因みに、進化後でも人化は問題なく発動してくれた。
進化して顔とか髪の色とかも変化してたら面倒だなって心配もしてたがマシロに確認してみた所、
『んー? 大丈夫だよ。特に変わってないよ』
とのお言葉を貰えて一安心だ。
本当によかった……。
せっかく冒険者登録したのに、別人みたいに姿が変わってしまったら、今までの人間関係も全て無駄になってしまうからな。
そういうのは進化する前に気付けよと、我ながら思うが……。
その事を思いついたのが、それこそ今だったんだし仕方ないだろう。
まぁ、結果オーライ。人化も問題なく、進化によって強くもなれた。
万々歳の結果だよ。
ああ、そうだ。
スキル能力が折角見れるようになったんだ。
ならば、サリエルの加護以外の新スキル詳細もチェックしてみるか。
とりあえず、まずは深淵の知恵から見てみようか。
【深淵の知恵】
対象のステータス能力、スキル能力等を、冥王サリエルより貸し与えられた神代知識を参照し解析する複合スキル。
構築スキル
鑑定 ステータス閲覧 ???
多分スキル詳細が表示されるのはこの鑑定って奴の効果だよな。
で、ステータス閲覧は今まで通りだから問題ない。
問題はこの???だ。
なんだよこれ。
明らかになんか隠されてるぞ……。
念じてみてもこの項目は鑑定も出来ないし、スキル詳細も表示されない。
ロックでもかかってるのか?
恐らくサリエルの仕業だろう……。
しかし、大丈夫なんだよな?
呪いとかじゃないことを願うしかないか……。
後は、冥騎士の武術……だったっか。
凄い名前のスキルだが、これの効果はどういう物だ?
【冥騎士の武術】
該当する武器を扱う時、能力値に補正が入る複合スキル。
強化される能力は複合スキルのLvによって決定。
構成スキル
大剣術 剣術 短剣術 斧術 槍術 棍術 杖術
よかった。こっちはかなり分かり易い。
近接武器系スキルの詰め合わせって感じだ。
うん。シンプルに強いって分かる。
でも武術って言う割には弓術とかは無いのか……。
ちょっと残念だな。
まぁ、俺には遠距離攻撃手段として投擲スキルがあるし、進化で闇魔法も新たに覚えたからそこはいいか。
だが闇魔法の方は、使い方がよく分からないんだけどな。
そもそも魔法ってどうやって使うんだ。エンチャントとは違うっぽいんだが。
んー。
確か立川やローガスは無詠唱で魔法を使ってたが、アーティアは呪文を詠唱してたよな……。
呪文が分からないから詠唱は無理だが、なら無詠唱での発動なら可能か……?
どれどれ……。
早速闇魔法の使用をイメージして念じてみたのだが……。
流石に念じただけでは、魔法は発動しなかった。
多分何かしらの魔力操作が必要なんだろう。
まぁ、こういうのは専門家に聞くのが一番だろう。
と言うわけで、ライムダールに帰ったら魔術師であるアーティアに聞いてみよう。
可能ならついでに錬金術も教われるといいんだけどな。
しっかし……。
随分派手に暴れたもんだな。
俺がスカルウォーリアーと戦っていたこの部屋の中は、まさに酷い有様だ。
壁や床は所々砕け、爆炎によって焦げ付いた個所も多い。
部屋の中央付近にはスカルウォーカーだった巨骨が大量に散らばっている。
見回してみたが残念ながら宝箱のドロップは無いようだ。
戦利品は魔石だけか。
奴の使ってたメイスは……一応持つ事はできたんだが、正直デカすぎて使いにくい。
なので結局はその場に放置する事にする。
目的であった進化も無事に終わった事だし一度地上に戻るか。
スカルウォーリアーが守っていた大部屋から出て、俺とマシロは来た道を辿るように地上へと進む。
進化したことによって俺の能力は上がった。
なのでその気になれば、恐らくもう少し下の階層へ進んでも戦えるとは思うのだが、まずマップがない。
そして何よりも、マシロが空腹だと訴えている。
マシロの話では、今回の進化でサリエルの干渉があった為に、かなりの時間俺は意識を失っていたようだ。
その間マシロは俺の体を守るためずっと起きて周囲を警戒してくれていたという。
ルームガーダーを倒せば、その部屋は1日は安全になるのだが、マシロは当然そんな事を知らない。
自身も度重なる戦闘で疲れているだろうに、ずっと俺を守っててくれたその行為には、彼女の好物でお礼をしようと思う。
リクエストを聞いたら、真っ先に出てきたのはライムダールの串焼きだった。
肉好きだよねマシロは本当に……。
まぁ、今回は財布が許す限り御馳走してあげるとしよう。
次の通路を曲がるって真っ直ぐ進めば5階層へと続く階段だ。
5階層からは出現する魔物も下級アンデッドばっかりなので、戦闘せず人化状態の全速力で入り口まで駆け上がるつもりだ。
そして、5階層への階段へ続く通路へと差し掛かった瞬間、先の方から僅かに何かの叫び声のような物が聞こえてきた。
「ガァァァ! ヴァァ!」
げっ。この無駄に五月蠅い声は……。
通路を曲がった先には、奇声を上げている者の正体がいた。
それは襤褸切れを纏った人間の姿。
虚ろな目をし土気色の肌をしたその者達は、周囲の壁や床をガリガリと爪で引っ掻いてたり、奇声を上げて蹲っていたりと、そんな奇妙な行動をしている。
当然こんなダンジョンで、こんな狂人みたいな連中が真面な訳がない。
その正体はリビングデッド。
俺の中でゾンビのイメージを盛大にぶっ壊してくれた、アンデッドだ。
数は5体。
まだ俺達には気付いてはいないようだ。
スルーして別の道から帰ってもいいんだが、折角進化したんだしどれくらい強くなったのか確認したい。
数自体も多くは無いし、ここは戦ってみるか。
早速一番近くに居たやつのステータスをチェックだ。
[種族] リビングデッド
[状態] 通常
[ランク] D
[Lv] 12/20
[HP] 85/85
[MP] 17/17
[攻撃] 74
[防御] 42
[魔法攻撃] 5
[魔法防御] 8
[素早さ] 68
[所持スキル]
噛みつきLv3 毒爪Lv2 剛力Lv1 毒無効
夜目 凶暴化Lv1
そういえば当然ステータスがこうして見れるんだから、あいつらのスキル詳細も見ようとしたら見れるんだよな?
どれ。ついでに少しチェックしてみるか。
【噛みつき】
歯、牙による攻撃。
対象部位で攻撃する場合攻撃力にボーナス。
上昇値はスキルLvによって決定。
【毒爪】
爪に毒属性を付与する。
与える毒の威力はスキルLvによって決定。
【剛力】
スキル所持者の攻撃力を常時上昇させる。
強化値はスキルLvによって決定。
【凶暴化】
精神を犠牲に自身の身体能力を上げる。
上昇値、および精神への負荷はスキルLvによって決定。
なーるほどね。
本当に便利だな深淵の知恵。
すげーわ。
流石は冥王様より借りた知識なだけはある。
これで、今後戦闘も楽になるよな。
なにせスキル能力が分かるだけで、その相手がどんな攻撃を得意としてるかとかが予想できるんだし。
そして、あのリビングデッドはスキルで確認した通りやはり近接特化。
まぁ、スカルウォーカー時でも何回か戦ってるからそれは知ってたんだがな。
奴らの戦い方は、目の前の獲物を凶暴化と剛力によって強化された攻撃力で叩き潰す事だけだ。
つまり脳筋だな。
まぁ、あいつらゾンビだからその脳味噌もとっくに腐ってるんだろうけどさ。
さーて。
んじゃ、ステータスのチェックも終わった事だし、ちょっと試してみますか。
ナイト・スカルリッチの力を。
『とーさま。アイツらまだ気付いてないみたいだけど……やっちゃう?』
「んー。そうだな。折角進化したんだしちょっと体を動かして感覚を試してみたい。悪いが俺にやらせてくれ」
『うん。じゃあここで待ってる』
俺の新スキル、冥騎士の武術は近接スキルの複合だ。
なら、今まで使った事のない武器も扱えるはずだ。
折角だし今回試してみようかな。
武器は立川からの選別で大量にあるからな。
手札は大いに越した事は無い。
んー。何を使うか……適当に掴んだのを使ってみるか。とりあえず2つ。
何が出るかなーっと……。
適当に魔法の袋から武器をイメージして取り出したのは鉄製の大斧と槍が1つずつ。
長物が2つか……。
まぁ、両方とも冥騎士の武術での補正があるものだし、多分大丈夫だよな。
とりあえず、取り出した槍を左手に。そして右手に大斧を装備。
軽くそれぞれを、その場で振って感覚を確かめてみる。
不思議な事に、重さを殆ど感じないな。
多分、スキルの補正の中に武器の重量軽減とかがあるんだろう。
うん。行けそうだな。
武器の確認も終えた俺は、来るリビングデッドとの戦闘の為に、魔闘法を使い全身に魔力を巡らせて身体能力を強化。
……ん? 気のせいか魔力が増えたからか巡回する魔力の扱いが前より少し難しいな……。
まぁ、その内慣れるだろう。
何時も通りに蒼のオーラがしっかり発現してるのを確認。
しっかりと足に力を入れ、床を思いっ切り蹴り走る事により、リビングデッド達に凄まじい速度で一気に接近する。
おおっ!?
自分でも予想以上の加速。
かなりの速度だ。
これで全力じゃないんだからこの体のスペックの高さに驚く。
逆に、これだけの力を発揮するんだから、しっかり制御できないと今後色々大変そうだな……。
俺の視線の先。
床に蹲って奇声を上げていた一体が、どうやら俺の接近に気付いたようだ。
「ヴァァァァ! イヴェァァァァ」
そいつが仲間へと、一斉に敵である俺の接近を知らせるためか気味の悪い声を上げる。
俺は構わずそのまま正面の一匹へ。
接近する勢いを利用して、右手の大斧を正面から叩きつける。
――ぐちゃり。
肉を切り裂く感触と共にそんな音を立て、目の前のリビングデッドが血肉を撒き散らして、物言わぬ肉塊へと変わる。
振るった大斧は、正面のリビングデッドを頭から叩き割り、その刃を床へとめり込ませた。
【経験値を76獲得しました】
おおっと。こいつは予想外だ。
確かに頭くらいは、かち割れると思ったんだが……。
まさか体ごと真っ二つにする程の威力があるとは思わなかった……。
恐るべしナイト・スカルリッチ。
伊達に全てのステータス100は越えてないな。
「ヴェェァァァ!」
「ガァルルァゥァ!」
「キィィィァァァ!」
「ビア゛ア゛ア゛!!」
奇声を上げながら残りの4体のリビングデッドが俺へと四方から殺到してくる。
人体の限界を超えた力を発揮できる死人達の速度は、かなりのものだ。
このままこの4体の攻撃を食らえば俺もかなりのダメージを受けるだろう。
だが、当然食らってやる道理はないよな。
先ずは一番速度の速い背後の一匹へ振り向きと共に左手の槍で突きを放つ。
最速で放たれた突きは、リビングデッドの頭部を正確に穿つ。
突き刺さったその槍を上へと力任せにひっぱり、リビングデッドの頭部を引き裂きながら槍を抜く。
血と脳味噌を撒き散らしながら、そのリビングデッドは地面へ倒れ動かなくなった。
【経験値を77獲得しました】
経験値獲得のアナウンスを聞き流しつつ、そのまま槍を軽く振るって血糊を飛ばすと、右側から接近しているリビングデッドへと引き抜いた槍を投擲で投げ放つ。
放たれた槍はビングデッドの胸に突き刺さると、そのまま近くの壁まで吹き飛び、その体を磔にする。
流石にアンデッドだけあって、心臓を槍で破壊しても死ぬことはなかったが、これで行動は封じた。
こいつは後で首を撥ねれば、それで終わる話なので残りは2体だな。
視線を戻すと、残りの左と正面から迫ってくるリビングデッド達が、俺のかなり近くまで迫ってきているのが分かった。
やっぱ速いなこいつら……。
これ……間に合うかな?
槍を手放して空いた左手を、地面を大斧に添えると、しっかりと大斧を握り、力を込めて刃を床から引き抜く。
そのまま向かってくリビングデッド達へとフルスイングの要領で思いっ切り大斧を振るう。
――ぶぉぉぉん!
渾身の一撃で薙ぎ払った大斧の刃は、風を切り裂く音を立てながら残り2体のリビングデッドの胴体を綺麗に両断する。
リビングデッド達は傷口から臓物と腐った肉や血を撒き散らしながら、上半身が地面を転がる。
下半身はその場で崩れぴくぴくと痙攣してるがもう襲ってくる気配はない。
残った上半身の方はまだ生きているが、既に機動力は奪った。
尚も必死に体を地面を引きずりながら、俺に向かって来ようとしているその精神には、狂気を感じるが。
どっちにしろこの状況では俺に傷をつける事は不可能だ。
ゆっくりと斧を構え直し、近づいてくるリビングデッド達の頭を順番に破壊して止めを刺す。
【経験値を79獲得しました】
【経験値を81獲得しました】
【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが2に上りました】
4体倒して1Lv上昇か……。
やっぱ必要な経験値はランクが上がるにつれて増えてくるよな……。
これは次の進化までしばらくかかりそうだ。
最後に未だ壁に磔にされて暴れている一体の首を撥ね、戦闘は終了。
その体から槍を引き抜き、大斧と共に魔法の袋へと戻した。
リビングデッドとの戦闘も終わり、そのまま5階層へと戻ると、そこからは早かった。
人化状態で魔闘法を使い、強化した脚力で地上まで走り続けた。
不思議な事に魔物の反応も殆ど無かった。時間的にリスポーンしててもいいと思ったんだが……?
まぁ、無駄な戦闘が発生しないなら、それに越した事は無いか。
そんな感じで特に障害という障害もなかったためか、5階層から僅か1時間足らずで無事に入り口まで戻る事が出来、俺達は死霊迷宮の外へと出たのだった。
周囲を見回し、森の木々の間から木漏れ日がうっすらと漏れているのを見た所、今の時間は昼位かな。
日帰りを予定してたんだが、どうやら死霊迷宮には丸一日籠ってたようだ……。
自分が思った以上に、時間が経っていたらしい。
入り口から出てきた俺達の存在に気付いた門番が慌てて俺達の元に走ってくる。
どうしたんだ?
走ってきた門番は、俺達の無事を確認すると何故かめちゃくちゃ心配されていた。
話を聞いた所、どうやら俺達の帰りが遅かったので、ダンジョン中で死んでいるのでは……という話になってたのだと言う。
とりあえず、無駄に心配をかけたお詫びを言いその場を後にした俺達は、今はそのままライムダールへと向かっているんだが……。
『とーさま。また人間。今度は3人』
「……またか。なんか今日は冒険者にやたらと遭遇するな……」
ライムダールへ向けて帰路を進む俺達だが、その行く先々で何故か、暗魔の森へと向かう冒険者パーティとよく遭遇していた。
別にこの先の死霊迷宮は、新人冒険者達が修行に使っているので、それ自体は大した事が無いように思えるんだが……。
だが、それはあくまでも新人冒険者ならばだ。俺達がさっきからすれ違ってるパーティは皆明らかにベテランの風格が漂っている冒険者達ばかりなのだ。
こうも頻繁に装具すると、流石に少し気になってくる。
なぜこうもベテラン冒険者達が集まっているのかと。
結局答えが出ないまま進んでいると、またしても前方から人間が接近しているとマシロが教えてくれた。
前方へと視線を向けると、確かにこちらに向かって歩いてくる3人組みの姿が映った。
いや……。待て。
本当に冒険者かあれ……?
そう疑問に思ったのも無理はないだろう。
前方から歩いてくるのは3人組の男達。
その容姿は正に異様の一言だったからだ。
まず全員の髪型がモヒカン。更にその防具はむき出しの上半身に棘付きの肩パット。
もう完全に世紀末じゃねーか! どこのレイダーだよお前ら……。
そんなかなりインパクトのある格好をしている彼等だが、その眼孔は鋭く、纏う雰囲気も歴戦の強者のような風格があり、正直威圧感がパンパではない。
それぞれの武器も物凄く使い込まれてた形跡があり、顔や上半身に幾つもの古傷がある。きっと上級冒険者なんだろう。
しかし、なぜ世紀末スタイルなのか……。それがまったく分からなかった。
「おい。ちょっと待てや。そこの兄ちゃんよぉ?」
明らかに見た目がヤバそうな方達なので、なるべく目を合わせないようにしつつ早足で通り過ぎたんだが……。
そんな俺の態度が気に食わなかったのだろうか?
モヒカンブラザーズの中の一人が、険しい顔をしながら、振り向いて俺に声をかけてきた。
「え? あ、はい? 俺ですか?」
やだなぁ……。
まさか俺が1人で歩いてるからカツアゲでもする気か?
もしそうだとしたら、魔闘法使ってさっさと逃げよう……。
ずかずかと大股で歩いてきたモヒカンAは、俺の前までくると突然腰に差してある短剣に手にした。
すると……。
――ひゅっと小さな風を切る音が聞こえた。
気付いたら俺の右肩の部分に、モヒカンAの手に握られた短剣の刃が当てられている。
……え?
マジかよ……。
見えなかったぞ……今。
モヒカンの放った一撃。
その余りの速さに俺は内心で戦慄する。
マシロも反応ができてなかったようで、大きくその紅い瞳を見開いている。
というか、何でこんな状況になってるの?
すれ違っただけで武器突きつけてくるとか、見た目通りに完全に頭のネジ飛んじゃってる系の人?
しかし不味いぞ……。
今の一撃を見るにこのモヒカン……相当の手練れで間違いない。
もしこのまま戦闘になったら、はたして俺は無事に逃げ切れるのか……?
いや、そもそもこいつらの目的は?
もしこれが金銭目的とかだったら、その時はさっさと財布を渡してしまおう。
下手に戦闘になると正直勝てるか分からない……。
進化した俺でもそれ程の強さをこのモヒカン達からは感じる……。
と言うか、本当に何でこの人たちはこんな恰好してんだろう……。
未だ険しい顔をしてナイフを突きつけているモヒカンAに、俺は油断なく視線を向ける。
だが、視線が合うったその瞬間。
モヒカンAは険しかった表情をふっと緩めると、
「ああ、いや。すまねぇな。驚かせちまって。でもほら。こいつが兄ちゃんの肩に付いてたのが見えてよ」
そう言って先程俺に突きつけていた短剣の刃を見せてきた。
するとその刃の先端には1匹のサソリみたいな虫が突き刺さっていた。
「こいつはポイズンコルピスっていう小型の毒虫だ。毒虫って言っても命に係わる位の物じゃねーんだが……。先端の毒針に刺されると高熱に魘されて3日は寝込む事になっちまう。暗魔の森から帰ってくる新人冒険者がよくやられるんだよ」
「おい。ベルク! お前がいきなり刃物なんか突き付けるから、この兄ちゃん完全にビビってるじゃねーか! えぇ? ちったぇ言葉ぐらいかけてやれや!」
「あぁん!? もたもたしてたらこの兄ちゃんが刺されてたかもしれねーだろうがぁ!?」
「へっへっへ。お前はいつも言葉が足りねぇ。いいか? 人との円滑な関係に大事なのは先ず会話だろうが。そこん所忘れるんじゃねぇぜベルクゥ!」
その会話内容で大体わかった。
つまりそう言う事ね。
俺のローブに暗魔の森に生息してた毒虫が一匹張り付いてたのに、この人はさっきの一瞬すれ違った時点で気付き、尚且つそれを取ってくれたと……。
すげーなー。すれ違ったのって一瞬だったはずなんだけどどんな観察眼してるんだこの人。
そして毒かー……。
俺状態異常無効持ってるからどっちにしろ刺されても問題なかったよな。
いや。この人はそんな事分かる訳無いし、普通の人間が刺されたら3日寝込む位は危険な毒持ってる虫みたいだから、善意によっての行動だったんだろうけどさ……。
いやいやいや……。
それでもこの行動はおかしいと思うよ俺は?
突然世紀末モヒカンが目にも止まらぬ速度で、短剣突きつけてきたら、相手からしたら何事かと思うだろうが!
普通の人間なら泣くわこんなの!
俺だって内心めちゃくちゃビビったよ!
「い、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」
色々と思う事はあるが、バカ正直に文句を言うわけにも行かず、元日本人らしく若干引き攣りつつも、曖昧な苦笑でお礼を言う事にした。
「なぁに。良いって事よぉ。俺らも新人の頃に、死霊迷宮帰りには俺らもやられちまった事があるからな。まぁ今回のは先輩からの忠告って奴だと思ってくれや」
「んじゃ、俺等は行くからよ」
「騒がせちまってすまねーな兄ちゃんよぉ。へっへっへ。気をつけて帰んな」
俺の一言を受けたモヒカンブラザーズ達は、そんな事を言いながら思いっ切り悪人な笑顔浮かべつつ、手を振りながら去って行った……。
見た目は完全に悪役なのに、話してみるとめっちゃ普通に良い人達だったよ……。
若干行動力あり過ぎて怖いけど。
人間は見た目じゃないって言うけど、あの人たちは絶対見かけで損するタイプだと思うわ。
しかし、あのモヒカンブラザーズもそうだが、暗魔の森からの帰りにすれ違った冒険者達は、皆明らかに新人冒険者という感じではないよな。
どのパーティも装備の使い込み具合や、纏っている雰囲気が明らかに新人とはかけ離れていたからな。
あんな強そうな冒険者が、何故今更暗魔の森に向かってるのかは分からないんだが。
もしかして、何かとんでもない魔物でも出たのかもしれないな……。
帰ったらギルドで何かあったのか聞いてみよう。
ちなみに今回出てきたモヒカンブラザーズは、ライムダール在籍の数少ないAランクパーティ【地獄の戦士達】さん達です。メンバー全員がLv50超えの猛者であり、その容姿と言葉使いから大変恐れられておりますが、話してみると3人ともすごく良い人でそのギャップに誰もが驚くとの事。
無駄に濃い人達ですが、今後再登場するかは未定です。




